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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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186/305

ウルダー組合長からの呼び出し

 

「はい、これで依頼完了です。それで、エルさんにお話があります」

「ん?ウチ何もしてないで」

「はい。悪い話しではなありませんよ。組合長が帰ってきましたので、明日の朝に来ていただければお会いできると伝言を受けております。いかがいたしますか?」

「わかった。明日の朝に来るわ」

「お待ちしております」


 拠点を移し、簡単な掃除の依頼を受けていたら組合長が帰ってきた。

 これで問題が無ければ迷宮に潜ることができる。

 何か騒ぎになったら困るからと、組合長に会うまでは止められている。

 ライテで散々ベルデローナのお世話になったウチなので、何も言い返せず同意するしかなかった。

 別に悪いことはしていないはずだけど、周りに影響することもあったから仕方がない。

 そのとばっちりを受けてガドルフたちも迷宮に入っていないけれど、情報収集するいい機会だと笑っていた。

 大物だ。

 ウチだけお預けだったら我慢できずに飛び込んでいたかもしれないので、正解の動きだろう。

 そして翌日。


「おはようさん」

「君がベルデローナさんから保証書を貰っているエルですか。受付から聞いていた通り小さいですね」

「子供やしな!」


 組合でウチを待っていたのは、スラッとした仕事のできそうなお兄さんだった。

 白をベースに淡い色を差し色に使い、肩や裾に刺繍で飾りをつけた白いローブが似合っている。

 茶色の髪を肩ほどまで伸ばしており、少し鋭い目は真面目そうな印象を受ける。

 そんなお兄さんに連れられて、3階の中央にある組合長の部屋へと連れて行かれた。


「改めて、ウルダー請負人組合で組合長をしているセイル・ローシュです」

「ウチはエル!」

「よろしくお願いします」

「よろしゅう!」


 組合長の部屋にある応接用の椅子に座り、改めて挨拶した。

 次にベルデローナから受け取った保証書を取り出して、セイルに渡す。

 受け取った羊皮紙を読み始めると、顎に手を当てて何度か頷いている。

 かと思ったら、その指で空中で何かを弾くような動作をして考え出し始めた。

 真面目そうな外見とは裏腹に、身振り手振りで何かするタイプらしい。

 ウチと一緒だ。


「なるほど。エルの能力に関する説明と注意点。さらに結果的に起きてしまった魔力のない素材納入について書かれています。他にも色々書かれていますが、まだ小さいのによく色々できますね」

「それほどでも」

「将来有望でいいですね。それでは、まずは簡単なところから。屋台についてですが、申請していただければ開くことができます。場所はその時に空いている場所を指定する形です」

「ふむふむ」

「前回は組合との共同出資のようですが、今回はエル個人で出してもらいます」

「ウチが出して大丈夫なん?」

「エルが出す分には問題ありません。気になる点とすれば店員が半獣の奴隷というところです。たくさんの人が集まる関係で、様々な思想の方が入り乱れています。中には半獣だからという理由だけで毛嫌いする人もいるぐらいです」

「あー……面倒な人やな」


 ミミの仕事として屋台を出す気でいたけれど、最初は注意した方がいいだろう。

 あと、手伝いの人員を探すべきだけど、半獣を嫌う人に当たったら面倒なので、組合に依頼として出すか悩む。

 そのことをセイルに相談したら、簡単に答えてくれた。


「奴隷を増やすか、孤児院の子どもを雇えばいいのです」

「奴隷はわかるけど、孤児院の子どもは何で?」

「孤児院は教会運営のもの以外に、大店(おおだな)が印象アップのために人を雇って運営しているところもあります。そこでは各運営に沿った教育がされているので、屋台を出すなら快く人を出してくれるでしょう。実地で経験が積めますからね」


 教会運営以外の孤児院では、孤児の世話以外にも忙しい人の子どもを預かったりもしているらしい。

 光るものがある子は、年齢が上がったらそのまま店に雇い入れることもあり、それを見越して計算や接客の教育を施しているとか。

 教会では教えや掃除など、貴族の孤児院では将来兵士になることを見越しての訓練、商会では接客や計算、職人系では手仕事やお手伝いをさせているそうだ。

 そう考えるとウチが雇うべきなのは商会系だろう。


「なるほど〜。じゃあ今度行ってみるわ」

「保護者付きで行ってくださいね。流石にエルだけでは厳しいです」

「わかった」


 キュークスを連れて行こう。

 アンリでもいいと思うけれど、説明を求められた時に困りそうだし。

 ウチに話しかけてくれればいいけど、大人と子どもがいて真っ先に子どもに話しかける商人は少ないはずだ。

 いたらちょっと警戒するし。


「次に掃除に関してです。これは好きにしていいというか、むしろこちらからお願いしたいですね。拘束時間は長いのに報酬が少ないせいであまり受ける人がいないのです。指名が入るようになるかはわかりませんけどね」

「ウチに任せとき。全部綺麗にしたるわ!」


 ウチが拭けばすぐにピカピカになる。

 最近だと細長くしたハリセンで表面をなぞるだけでも良くなったから、壁なども綺麗にしやすくなっている。

 さすがに天井までするには足場か持ち上げてくれる人が必要だけど。


「魔力を失った素材については、買取所と迷宮前の出張所に掲示しておけばいいですね。できればあまり放置しないでほしいですが、エルの探索方法を縛りたいわけではないので、頭の片隅にでも留めておいてください」

「わかった。ウチ1人で迷宮に行かへんかったら大丈夫やで。ライテが特殊やねんきっと」

「ウルダー中迷宮にもエルの固有魔法が活躍する場所はあるかも知れませんよ。すぐに思いつくのは状態異常が多い森エリアですね」

「状態異常かー。平気やったとしても倒すのとはちゃうで?」

「むしろその方がいいのかもしれません。状態異常を回復する薬を作るためには、それを引き起こした物が必要になります。麻痺治しには麻痺茸のように。しかも、同じ麻痺でもキノコなどの毒物からなのか、魔物からの攻撃による毒なのかで必要となる薬が変わる場合もあります。エルには魔物を気絶させた状態で持ち帰ってもらい、新鮮な毒を取得するのを手伝ってもらうかもしれないというわけです」

「はー。なるほど。でも、その時は運ぶ人必要やで」

「はい。それはこちらで用意できるでしょう。むしろ依頼としてお願いするかもしれません」


 保証書にはウチが身体強化できないことも書かれているはずで、キノコ類や草類ならともかく、魔物を気絶させて運ぶのは無理だ。

 セイルが何人用意するのかはわからないけど、狙う魔物によってはすごい数になるかもしれない。

 わざわざウチを使うのだから、普段はあまり手に入らない素材を狙うからだ。


「確認するのはこれでお終いですね」

「よかった〜。これでウチも迷宮に入れるわ〜」

「別に制限はしていませんが?」

「あー、こっちのパーティ事情やねん。ウチのこと説明してから入ろうってことになってるねん」

「こちらのことを考慮していただいたんですね。ありがとうございます。固有魔法持ちは何かと話題になるので一報頂けてると心構えができて助かります」

「ウチ以外にもおるん?」

「えぇ。何人かがここに挑んでますよ」

「おー」


 どんな固有魔法なのか気になってきた。

 草原の迷宮ということでどれだけ広いのかわからないけれど、会えたらいいな。

 その人たちも何かやらかしてそうな話し方だったけど、会ってから聞いた方が楽しそうなので、この場では聞かないことにした。

 ウチよりやらかしてくれていることを祈っておこう。


「それでは気をつけて頑張ってください。それと、何か面倒が起きたら迷わず組合に報告してくださいね。絶対ですよ」

「わ、わかった。今日はおおきに」


 笑顔に妙な迫力のあるセイル。

 その表情に気圧されながらも何とか頷くと、威圧感がなくなって普通の笑顔になった。


 ・・・他の人ら何したんや……。ウチは迷惑かけへんようにせんと。


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