ウルダーでの拠点
朝食を済ませたら、キュークスの案内で拠点候補の家に向かう。
ガドルフだけ家を管理している店に行き、パーティ全員で見学する旨を伝えに行き、現地で集合する。
「おぉー。迷宮広場に行く門やっぱりでっかいなー」
「迷宮から魔物が出てきても耐えれるように作られているのよ」
「出てくることあるん?」
「最近は起きてないようだけど、討伐せずに放置していると溢れてくると言われているわ。あと、帰還魔法陣を使う瞬間に魔物が入ってきたら一緒に移動するそうよ」
「えぇー、そんなん起きたらせっかく逃げれたのにすぐやられるやん!」
「そうよ。だから帰還の魔法陣を使うときは注意が必要よ。まぁ、エルの場合はハリセンで昏倒させてから使えばいいのだけれど」
「たしかに」
迷宮を囲む石壁に沿って大きくぐるりと周り、北側へと向かう。
北側に広がる道は他の3方向と比べると広く、通りに面した建物も1つ1つが大きい。
石造り、煉瓦造りばかりで、2階より上も木で増築されている場所はない。
歩いている人もどこかお上品に見えるし、請負人のように帯剣している人に守られている人もいる。
さらにはどこかの使用人が買い物に来ているらしく、支払いは屋敷でと何かを提示していて、店主側も笑顔でいつもありがとうございますと返していた。
しかし、ひとたび路地に入ると他の通りと同じような建物も増えてきた。
どうやら他の道で通りに面している建物が、北側の裏通りになるようだ。
貧富の差が1段あるという認識をしていた方がいいだろう。
目的の建物は、木造りでフロアが増設された建物が増え始めた中にあった。
煉瓦造りの建物で、家の前には馬車を2台ぐらい停めるスペースがあるけれど、庭ではなく石畳となっている。
「ここ?」
「ここよ」
「へー。空も開けてるし日向ぼっこできそうやな」
「そうね。もう少し奥へ行けば増築された家が増えて若干暗くなってくるみたいよ」
「この辺は高くて4階建てやなー」
周囲は石造りの2階建が多く、そこに木で3階以上を作っていた。
一部の建物は外から3階に出入りできるようにしていることから、石造りの建物とは別の家族が住めるようにしているのだろう。
ウチらが見学する建物は木による増築は行われていない、周囲の3階くらいまで高さのある2階建。
正面から見ると四角の家が右上だけ削られたような形になっているので、右上部分がベランダなのだろう。
洗った洗濯物を干す棒と支えがいくつか見える。
「待たせたな。鍵を借りてきたから中を見れるぞ」
「おー!探検やー!」
「備え付けの家具ぐらいしかないぞ」
「楽しかったらええねん!」
ガドルフが鍵を開けて中に入る。
入ってすぐにリビングがあり、大きな四角いテーブルが横向きに置かれていた。
そのテーブルの長い方に椅子が3つずつ、短い方に1つずつの合計8つだけれど、どれもがっしりとした頑丈そうな作りだ。
それ以外に暖炉と、扉が3つに階段が一つ、地下室への跳ね上げ式扉が一つある。
扉のうち1つは厨房へ繋がっていて、釜戸が3つと調理台が1つ、食器を入れておく店に、食材保管用の地下室へと続く扉があった。
逆側にはトイレの扉と部屋のある廊下へと続く扉があった。
廊下に出ると3つの扉があり、途中の2つは同じ大きさの部屋で、その広さは宿の1人部屋より少し大きいくらい。
ウチとミミなら問題なく過ごせる。
残りの1つは風呂場への扉で、中には洗い場と大人が1人入れるぐらいの浴槽が置いてあった。
「おー。樽よりええな」
「違いない!」
何が面白かったのか、ベアロは大きな声で笑っていた。
樽に入ったガドルフでも思い出したんだと思う。
ベアロやキュークスも含めて獣人が樽風呂に入っていると、顔だけひょっこり出てるのは可愛く見えてしまう。
特にお湯を味わって目を瞑っている時など尚更だ。
ガサツなベアロですら可愛く見えたのだから、お互いを知っていれば笑ってしまうのも無理はない。
「地下は作業場所に向いてない」
「入り口せっま!階段も急やし、ウチは近付かんといたほうがええな。食糧庫の方も同じやったらミミ大変かもしれへんけど」
「籠を背負って降りるから大丈夫なんだよ!」
「おー。そっちの地下も確認したんや」
リビングに戻るとアンリが地下を確認していた。
四角い出入り口を閉めると床と一体化し、壁側にある取手を掴んで引っ張ると扉が持ち上がる。
開けると急角度で斜めになっている梯子のような階段があり、慣れた大人であれば手を使わずに上り下りできるかもしれない。
厨房の方の地下はまっすぐ下に下ろした木の梯子で、作りは頑丈だけど物を持って上り下りするには不向きだった。
ミミの言うとおり籠を使って食料の移動をする必要があるだろう。
入れる時は上と下で分かれていれば、早く収納できそうだ。
広さはそれぞれの上のフロアと同じで、厨房の下は厨房と同じぐらい。
リビングの下はリビングと同じぐらいの広さで、高さはどちらも普通の大人なら立って歩けるほどだった。
「リビングの高さと比べてようやく普通の高さになるとか、建てた人何考えてたんやろな」
「あー、それは前に住んでいたのが背の高い獣人一家だったからだ。その人たちにとっては地下が少し屈んで動くぐらいだったんだろう」
「へー。何の獣人やったん?熊の獣人のベアロよりも大きいんやろ?」
「あぁ。確か象の獣人だったはずだ」
「おー。通りで机や椅子が頑丈そうなんやな」
象の獣人はライテで見たことがある。
横幅もガッチリしていて、長い鼻をぶらぶらさせていた。
その鼻は攻撃にも使えるし、近くの物を引き寄せることにも使えるそうで、腕が3本あるようだと周りの人たちが話していた。
他には耳も大きくて特注の兜を着けていたり、身長はベアロよりも高く体重も重い。
組合の椅子を2つ並べて座っていた気がする。
見かけただけだからよく覚えてないけど。
「2階はどうなっていますかーっと……普通やな。ちょっと扉が大きいぐらいか」
「俺にはちょうどいいな!」
「高さは負けてるけどな!」
「戦えば負けねぇ!」
「何の宣言やねん」
ジトっとした目を向けても、ベアロは筋肉を誇張したままこっちを見てニヤリと笑っている。
強ければいいというシンプルな考え方が、たまに羨ましくなる時がある。
「部屋はどれも同じ大きさだな!」
「象の獣人は請負人として活動していたそうだ。つまりパーティハウスだな」
「へぇ!俺たちと同じじゃねぇか!使い勝手は良さそうだな!」
2階は廊下に沿って部屋が4つあり、どれも宿の2人部屋ぐらいだった。
とはいっても、宿は簡単な収納とベッドが2つずつ入る広さで、請負人としていつでも移動できるようにしているから十分な広さだろう。
むしろこの部屋を個人で使うには広すぎて持て余すかもしれない。
やっぱりウチはミミと一緒でいい。
「ここでいいか?」
「俺はいいぞ!」
「わたしもここでいいわ」
「いい」
「ええんちゃう。他の場所見るのも面倒やし、見たら見たで細かいこと気になりそう……」
ここはさっきの家がいいけど、ここはこっちの家の方がいいなんて言い出したらキリがない。
一から建てるならともかく、全員の要望を満たしているのだからさっさと決めた方が楽だろう。
ウチの考えが伝わったのか、ガドルフは少し考えた後、この家を拠点にすると決めた。
「俺は手続きに向かう。ベアロとキュークスで家具の手配。アンリはエルたちと料理道具や食器を買いに行ってくれ。精算は後でパーティ資金から出す。もちろん月々の家賃もだ。じゃあ解散」
ガドルフの指示でそれぞれ外に出る準備をする。
パーティ資金は毎月決まった額をガドルフに預けて、食費や宿泊費などのパーティ活動に関係することに対して使う資金のことで、ウチはミミの分も出している。
これが奴隷を持つという責任だと言われた。
買い出しについては、ベアロとキュークスからはほしい家具について、ウチらからは用意する食器や雑貨について話し合い、それぞれ市場や家具屋へと向かう。
契約は今日済ませるので、買ったものは家に置くことができる。
そのためにガドルフは急いで契約しに向かったけれど、買い物はそんなに早く終わらない。
予想通り1番時間がかかったのはウチらで、家具は運搬が明日になるため今日は宿に泊まることになった。




