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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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184/305

人が多けりゃ掃除も増える

 

 宿で朝食を済ませたウチらは二手に分かれることになった。

 ガドルフ、キュークスの2人が家を探しにお店へ。

 ベアロ、アンリ、ウチ、ミミで請負人組合へ向かう。

 ウチは保証書の提示と依頼の確認、ベアロとアンリも依頼の確認が主でウチとミミの護衛。

 ミミは組合の後市場に向かうので連れて行く。

 つまり、ベアロが荒事担当として護衛につくことになっている。


「昨日も思ったけどでっかいなー」

「大きいんだよー」

「チビどもさっさと入るぞ。そこは邪魔だ」

「おぉ!せやな!」


 ミミと2人、入り口前で見上げた建物は、ライテの2倍ほど横に大きい。

 東、南、西にある組合は出張所として存在して、依頼の受注と完了報告、素材の売買が主な業務になる。

 対してここは申請された依頼を各出張所に割り振ったり、食事処や事務仕事、各種打ち合わせやパーティ募集、訓練場の運営など出張所ではしない色々なことを行う場所となる。

 請負人からすると地区ごとの依頼は出張所で受け、それ以外のことは迷宮広場前の本部で行うという分業だ。

 もちろん本部にも依頼は張り出されているけれど、それは中迷宮に関することと、常に張り出されている常設依頼が中心だ。

 出張所にも張り出されている依頼については、その旨も記載されている。

 ここで出張所にも張り出されている依頼を受ける場合、道中出張所に寄って行き、そこにある同じ依頼書を剥がす必要がある。

 もしもすでに剥がされていた場合、依頼の処理を出張所で受けることができない。

 つまり早い者勝ちというわけだ。


「雑事多いなー」

「人が多いからなんだよ」

「せやな。やっぱみんな中迷宮に行ったり、討伐する依頼受けるんやろなー」


 アンリがウチのために混雑している列に並んでいる間、ミミと並んで掲示板を確認する。

 後はベアロが守ってくれている。

 ライテの街と同様に、依頼の種類ごとに分けられた掲示板だけど、討伐と雑事が圧倒的に多い。

 むしろ雑事は掲示板の裏面まで貼られていて、両面の上には注意書きまであった。

 そこには『期限が近づいた依頼を組合内にいる請負人へ強制する場合があります。適度な依頼消化をお願いします。』と書いてある。

 つまり、掲示板の裏表に貼られている雑事の依頼は、強制されない程度には期限が残っているということだ

 中には受注者がいなければキャンセルという注意書きが書かれているものもある。

 むしろ討伐と違って雑事は大半がそれだった。


「お、エル。そろそろ順番だぞ」

「ほんま?行くわ」


 掲示板の裏側から列が見える場所に移動すると、アンリの前には2人しか並んでいなかった。

 それぞれ依頼書を手に持っているから、受注処理をすればすぐに離れるだろう。

 ミミをベアロに預けてアンリの横に並び、軽量袋からベルデローナに貰った保証書を取り出す。

 組合で出せとは言われたけれど、出したからといってどうなるのかは知らない。

 少なくとも固有魔法を使って階層主を倒せることと、掃除に使えばとても綺麗になることから何か依頼されるかもとは思いつくけれど。


「次の方どうぞ」

「よろしく!」

「あら?貴女が用事ですか。よろしくお願いします」


 足場を用意して登り、受付に顔を出す。

 にこりと笑いながら答えてくれた受付員は、可愛いというより綺麗な人だった。


「これ(もろ)てんけど、ここに出せばええん?」

「お預かりしますね。……これは組合長宛になりますが、本日外出しておりまして……。数日戻らない予定となっております。お預かりして組合長の確認後にお返しするということでもよろしいでしょうか?」

「ウチはそれでええけど」

「ありがとうございます。では、本人確認のため請負人証を見せてください」

「ほい」

「はい。エルさん本人の確認が取れました」

「めっちゃ簡単な確認やったけど、同じ名前やったらどうするん?」

「この保証書には固有魔法について書かれていますから、それを見せていただく形になります。今回はそこまで疑いのない状態と言いますか、わたしでは判断しかねる部分が多いため、組合長に全てお任せします」

「あー、丸投げやな」

「そうなりますね」


 受付の人は保証書と請負人証の名前が一致しているから、後の判断は組合長に任せるということだ。

 むしろ受付の一存でウチの行動を決めて良いわけがない。

 期限間近の依頼を除いて。


「じゃあお願いします。あ。組合長が戻ってくるまでに依頼を受けるのはええの?」

「問題ありませんよ。掃除の依頼を受けていただけるとこちらも助かります」

「めっちゃあるもんな掃除」

「はい。今は移動する請負人が出ていった家も多いので、管理する人たちも大変なんです」

「暖かくなったもんなー」


 休息の季節が終わり芽吹きの季節になったことで暖かくなり、ウチらも移動したぐらいだ。

 他の請負人や商人たちの動きも活発になり、休息の季節の間に溜め込んだストレスや商品を発散していることだろう。

 その結果、貸出用の家がたくさん空き、管理する人たちも次の貸出までに掃除をしなければならない。

 ウチらは借りる側だから空きが多くなっているのは嬉しいことだけど。


「じゃあまた来るわ〜」

「よろしくお願いします」


 受付に手を振って別れる。

 振り返してくれたから、あのお姉さんはきっと良い人だと思う。

 今日は依頼を受けないため、ミミとベアロと合流したら組合を出て市場に向かう。

 あらかじめ宿で聞いていた道を、通りに面した店を眺めながら進む。


 ・・・ウチとミミの服増やしても良いかもしれへんな。なんかライテよりもヒラヒラしたやつ多い気がするし。あとなんか小物も多いな。なんで袖にピンで花つけてんねん。振ったら飛んでいきそうや。胸元に付けるのは良い気がするな。あ、魚の形したネックレスや。魚食べたいなぁ……塩で。


 そんなことを考えているうちに着いた市場はとても大きく、ライテよりも屋台形式の屋根付きが多い気がする。

 扱っている商品ごとに大まかに分けられているのは変わらないようで、下見のつもりで一通り眺めて終わった。

 ミミを半獣だからと言って連れ歩くなとは言われなかったけれど、中には睨みつけるかのような鋭い視線を向けてくるおじさんもいた。

 しばらく買い物は1人で行かせない方が良さそうだ。


「お。もう戻ってきたのか!」

「あぁ。希望を纏めていてくれたおかげだ」


 昼食を屋台で済ませ、疲れたので宿に戻ったらガドルフとキュークスも戻ってきていた。

 お昼のピークを過ぎたからか、宿の食事スペースは空いていて、宿泊客であれば自由に使えるようだ。

 外部の人は何か頼まないと使えないのは当然だけど、頼まなくても使えるのにベアロは酒を注文する。

 今日の予定は終わったからうるさく言うつもりはないけれど、せめてガドルフたちの話が終わるまで待てなかったのだろうか。

 呆れた目を向けても肩をすくめて返されるだけだった。


「家は決まったん?」

「あぁ、決まったぞ。迷宮から北側に少し行って、ちょっと奥まったところにある家だ。風呂付きでリビング以外に部屋が6つ。屋根裏部屋はないが屋上に出られる天井が高い2階建てだ」

「1階より2階の方が狭くなっていて、その分のスペースがベランダになっているの。そこにハシゴをかければ広い2階の上に広がる屋上も使えるわ」

「お風呂は?」

「魔石式のお風呂がついていたわね。水を溜め込んだあと温めるタイプだから、魔道具からは水しか出ないけれど」

「ええやん!」

「時間がないときはお湯の魔道具でさっさと入れるのも手よ。あと、キッチンはリビングの広さに合ったスペースだったわ。部屋は1階に2部屋、2階に4部屋ね」

「物置に1部屋使いたい。1階にミミ、2階にそれぞれ1部屋ずつで、エルはアンリと同室でいいか?」

「ウチはミミと一緒でもええで?」

「そのあたりは実物を見てから調整してもいい。部屋の広さでいうと2階の方が広いしな」

「わかった」


 ウチとミミは子供だから、それほど広くない部屋でも2人寝れたら十分だ。

 ミミが1階の理由は料理のしやすさだろう。

 ウチらよりも早く起きて仕込みをする必要があるから、2階でごそごそされるよりもすぐに活動できる方がいい。

 奴隷だから階を分けるという考えも一瞬よぎったけれど、ガドルフはそんなことを気にする人じゃない。

 なんなら奴隷解放して使用人として雇えばいいと提案もされたぐらいだ。

 奴隷じゃない半獣を放っていたら攫われるかもというキュークスの意見で解放はしなかったけれど、ミミも今の処遇に納得してくれている。


「作業場所は?」

「地下室がある。物置を地下にしてもいいが、集中するなら地下の方が静かだったぞ」

「見て決める」

「そうしてくれ。俺にはどういった環境が必要なのかわからん」


 そもそもガドルフは出来上がった魔道具こそ触るけれど、ウチが頻繁に出入りしていた魔道具工房には行ったことがない。

 今のアンリならば机一つで十分だということも、恐らく知らないと思う。

 地下室は薄暗いイメージがあるから、1階を作業場所にしてほしいというウチの思いは口にせず、明日その物件を全員で見学するということになった。

 他にも候補の家はあるけれど、庭付きの無駄に広い北側の家や、南側にある広さはあるけど1階建ての少しボロい長屋、路地深くにある5階建の縦に長い少し住みづらそうな家などしか、条件に合って直ぐに入れる家はなかった。

 掃除依頼をこなせば選択できる家も増えるかもしれないなと思いつつ、ウチらの話しもガドルフたちに聞かせた。


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