中迷宮都市ウルダー
中迷宮都市ウルダーは、街の中央に中迷宮への入り口があり、そこには中迷宮に挑む人たち用の施設が一通り揃っている。
請負人組合に武具屋、雑貨屋に食事処などだ。
その中迷宮広場を囲むように石壁が築かれていて、その周囲も請負人向けの施設が続く。
宿屋や酒場などは迷宮広場にはなく、広場を出たところに広がっている。
そこから少し離れると平民の住居や店舗、憩いの広場が設けられていて、街の北側には領主や貴族向けの住居や牧場などの施設があって、いざという時に退避するための開かずの北門もある。
西、東、南門が交通のために開けられていて、ウチらは西門から入る。
北門以外は入ってすぐに請負人組合があって、外の依頼を受けた場合、すぐに精算できるようになっていて、そうなると周囲が請負人を狙った宿屋や食事処に酒場などがひしめき合っていた。
中央に迷宮があるせいで、平民は請負人に挟まれて生活することになっているけれど、街が広いため窮屈さはなく、請負人が迷宮や周囲で狩った物で盛り上がっている。
「街の感じはライテと変わらんな。門が2つ増えとるけど」
「北と南」
「北には鉱山に向かう道が、南には砂漠方面へと向かう道が伸びてるのよ。まぁ、北は基本閉まっているらしいけど」
「へー」
馬車でゆっくり進みながら街並みを観察する。
石造りの家に木造りで増築しているのはライテと変わらず、通りに店があるのも同じなのでパッと見た感じでは到着したという気がしなかった。
それも中迷宮のある広場に着くまでで、いざ迷宮前の広場に着くと違う場所だというのがはっきりとわかる。
ライテは木の壁と木の門で迷宮を囲っていたけれど、ウルダーは石を積んで迷宮を囲っている。
しかも、石の壁の周りは堀があって街との間には横幅のある木の大きな橋までかかっている。
門も2つ作られていて、仮に迷宮から魔物が溢れても時間を稼ぐことはできそうだ。
そしてそんな壁を囲むように広がる広場にはたくさんの請負人が歩いていて、迷宮に向かう者もいれば、外の依頼を受けにいく者もいるし、装備を見てもらう人もいれば、休日なのか日暮前にも関わらず飲んで騒いでいる集団もある。
馬車はそんな喧騒を横目に中迷宮のある広場に入らず、入口の向かいにどんと建っている請負人組合へと向かった。
「依頼の完了報告をしてくる。宿の情報も聞いてくる」
「俺も行こう!」
「じゃあ私たちは馬車にいるわ。混んできたら動かすから、その時はアンリを向かわせる」
「任せた」
「ウチは組合長の保証書とかあるけど」
「それは落ち着いてからでいいのよ。仕事を受ける時ね」
「はーい」
ガドルフとベアロを見送って、馬車の中から周囲を観察する。
宿屋、食事処、酒場、武器屋、防具屋、雑貨屋に魔道具屋、少し裏に入れば鍛冶屋や木工工房など色々なお店がある。
さらに東、西、南方面へと進めば市場がいくつも開かれている。
北側には肉屋や野菜屋などの専門の店が並び、主にお金を持った人たちに対して販売しているそうだ。
そういったお店は仕入れに独自のルートを持っていて、市場に並ぶものよりも品質が良かったり、確実に数を仕入れるこちができるように契約を結んでいる。
そんな風に武具を身につけた請負人がうろちょろしている広場を眺めていたら、ガドルフが戻ってきた。
ベアロはまだ中で何かしているようだ。
「完了報告は問題なく終わった。宿なんだが、この辺りで宿を取るか、少し中に入ったところにある請負人向けの家を借りるかになるそうだ」
「へぇ、家を借りれるのね。その方が良さそうな気がするわ。このパーティちぐはぐだし」
キュークスの言う通り獣人3人に人族2人、半獣1人という種族の入り乱れたパーティだ。
道中の宿は女性4人と男性2人に分けて泊まれたけれど、街でも同じように泊まれるかはわからない。
部屋が2人部屋だけならまだいい方で、空き具合によっては宿を分ける必要があるかもしれない。
獣人を差別している店ならガドルフたちは泊まれず、ミミに至っては馬小屋を指定される可能性もある。
それに比べて家を借りる場合、食事や掃除は自分たちでする必要があるけれど、種族に関してとやかく言われることはない。
ライテで過ごした実績もあるから、同じように過ごせるだろう。
料理はミミ、掃除はウチ、その他をみんなにお願いすれば何とかなりそうだ。
「ウチは家がええな」
「家」
「家の方が気にせず過ごせるんだよ」
「わかった。じゃあ家にするか。だとしても家を決めるまでの数日は宿になるからな。そのあたりを調整してくる」
言ってガドルフは組合へと戻っていった。
残った女性組はどんな家がいいかそれぞれ話し始め、途端に盛り上がる。
ウチはお風呂、ミミは広い調理場を欲し、キュークスは日向ぼっこできるスペースを、アンリは魔道具を作る作業場所を求めた。
アンリに関してはライテ小迷宮や調理に使う魔道具によって、その利便性に目覚めたらしく、ウチよりも手先が器用なので簡単な魔道具は作れるようになったらしい。
しかも、動作している魔道具の魔力の流れを見れば、ある程度再現できるというずるい能力もある。
さすがに溶解液吸い取るくんのような大きなものは作れないけれど、手のひらに乗るぐらいなら魔石を組み合わせて色々作れそうだった。
ベアロは酒が飲めれば良くて、ガドルフは剣の練習ができる場所があると喜びそうだ。
そうなると風呂付きで調理場が広く、部屋数の多い屋上に出られる物件が理想となる。
そうして家への希望があらかた出揃ってしばらくすると、ガドルフとベアロが戻ってきた。
「俺たちでも泊まれる宿の場所を聞いてきた。ここから少し南に行って路地をいくつか通ったところにある」
「奥まったところということは、品質はそこそこあればいい方ね」
「酒場が近いぞ!」
「それで喜ぶのはベアロだけやん!」
「違いねぇ!」
そうして向かった宿だけど、見た目は綺麗で中もきっちり掃除されていた。
よくある1階が食事処になっていて、2階以上が部屋になっている4階建て。
食事も野菜の旨みが滲み出たスープが美味しく、部屋もとても整っている。
獣人や半獣に忌避感なく、快く受け入れてくれたおかみさんは、恰幅も良いおばちゃんだった。
3日分まとめて払い、明日から家を探すことになる。
そんな宿屋の1階は、夜になると食事とお酒で盛り上がった。
それを見送って4階にある大部屋でウチとミミは早めの就寝。
アンリとキュークスは武具のメンテナンスをしてから寝るそうだ。
家がパパッと決まれば良いと思いつつ、ウチは意識を手放した。




