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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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182/305

焼き物の村ニーノ

 

 中迷宮のあるウルダーに向かう道中は、魔物に襲われることもなく順調に進んだ。

 街と村、村と村は1日馬車を走らせれば問題なく着くぐらいの距離があり、朝に出れば夕方前には到着する。

 これが徒歩になると道中で1泊野営することになるため、行商人は護衛が必須となるし、野菜などを売って稼ぐ必要がある村では荷馬車を共有していたりする。

 今は2つの村を越えて3つ目の村に差し掛かったところだ。


「ここでは2泊する」

「ん?食料の買い出しとか?」

「いや、ここは焼き物が有名なんだ。運ぶ依頼をいくつか受けるのと、使う分をゆっくり選ぶためだ」

「買い物するために朝早く出発できなかったら、夜の村に入れないかもしれないのよ。村でも簡単な門があるでしょ。あれが閉まるのよ」

「なるほどなー。焼き物ってことは肉?野菜?キノコの焼き物?近くに山も森もないし肉かな?」

「残念ながら食べ物じゃないぞ。少し離れたところにある川で取れる土を固めて焼いた皿や器だ」

「へー。お皿とかかぁ。自分だけのお皿ってええな。ウチも買おう!ミミの分もや!」

「見るときに割るなよ」

「気をつけるわ」


 ガドルフに注意を受けてからミミとどんな皿があるのか話し合う。

 アンリを含めてガドルフたちは、ライテの討伐依頼で来たこともあるらしく、ウチとミミのやりとりを聞いて笑ったりしている。

 流石に焼き物の風呂は売ってないそうだ。

 特注するにしても運んでいる最中に割れるだろうからやめておけと言われた。


 ・・・ウチがずっと入ってたら割れへんから運べなくはないんやけどな。


「着いたぞ。焼き物の村『ニーノ』だ。今日は宿に泊まって、明日依頼の荷物を届ける」

「おー。なんかここまでの村とあんま変わらんな。ちょっと煙突がある家が多いくらいか」

「村はどこもこんなもんだぞ!その分安心できるがな!」


 陽が落ちる前に付いた村は、良くも悪くも通ってきた村とほとんど同じだった。

 ベアロなら手を伸ばせば登れそうな木の柵を張り巡らせ、柵の中で畑や牧場を作る。

 街道に沿った入口と出口に見張り台を兼ねた手動の木の門があるだけで、出入りに確認はない。

 少し進むと家が増えてきて、集会所や請負人組合、鍛冶屋や雑貨屋などの商店に宿屋などの旅人向け施設が出てくる。

 焼き物を作るために頑丈そうな煙突が多く見えるぐらいで、どこか落ち着く空気が漂っていた。


「おぉ!あなたが魔石狩り!そしてスライムの皮を緩衝材にしてくれた方ですか!いやはやお若いのに素晴らしい!」


 翌日、依頼品をそれぞれの店舗や家屋に届けていると、1人の老人がやってきて声を上げた。

 しっかりウチを見ていることから、噂話などで調べられていたんだと思う。

 ベアロが頬を掻きながら明後日の方向を見ているので、酒場で盛り上がった可能性もある。

 それにしても緩衝材は卵を運ぶために思いついたのに、ここにも影響があったのだろうか。

 不思議そうな顔をしていたのに気づいた老人が、続けて口を開く。


「あぁ、すみません。つい興奮してしまいました。魔石狩りのお嬢さんがスライムの皮を緩衝材に使うと言い出したと聞きましてね。一言お礼を言わなければと思っておったのですよ」

「緩衝材?卵運ぶのに使うっちゅうやつやな」

「そうです、それです。この村でも卵の運搬に使ったのですが、ふと焼き物を運ぶのにも使えるのではという話しになりましてな。試してみたところこれが抜群で!今までは運んだ中のいくつかがぶつかったり運んでいる衝撃で割れたりしたものですが、スライムの皮で包んだら全く割れずに運ぶことができたのですよ!おかげで焼き物の売り上げが上がりました!まぁ、スライムの皮の供給が足りないので、使いまわしてなんとかしているというところなんですがね」

「そ、そうなんやな。それは良かった」

「えぇ!今回運んでいただいたものの中にもスライムの皮があるぐらい画期的ですとも!」


 老人の勢いに思わず後ずさってしまった。

 とても嬉しそうなお爺さんは、言いたいことだけ言って、最後にお礼の言葉を口にすると離れていった。

 それを見ていた周りにいる人たちも、ウチを見て話し始めたけれど、聞こえてくるのはどれも好意的なものだった。

 若干居心地が悪くなったから、みんなを急かして焼き物を売っている店へと向かう。

 どうやら村で作っている焼き物は一つの店でまとめて売られているようで、大きな建物の中に所狭しに置かれていた。


「ミミ。料理すんのに必要なお皿とか多めに買うで。盛り付けやすいやつとか、見た目にいい感じのとか選ぼ」

「わかったんだよ!パスタ用に少し深めなお皿とか、サラダを盛り付ける大きめなお皿が欲しいんだよ!」

「まんまる焼きとかお好み焼きは?」

「そっちは今のお皿でも十分なんだよ〜」

「そうなんか。じゃあ目についたやつ買ってこかー」


 ミミと、ついでにアンリも連れて店内を見て回る。

 基本的には茶色だけど、焼く時に何か混ぜているのか、一部が緑だったり青くなっている焼き物もある。

 それを使って絵を描いてあるものは高級品のようで、店主の後や普通なら手の届かない高い位置に飾られていた。

 そんな高級品には目もくれず、ミミは必要なお皿のサイズを調べたり、重さを確かめるのに夢中になっている。

 ウチとアンリはその間に自分たちで使うコップを、予備兼来客用としていくつか多めに選んでいく。

 焼く時に自然に模様ができたものはそこまで高くないから、ピンとくるものを多めに購入する。

 キュークスとガドルフは置物を眺めていて、ベアロは大きなコップを購入していた。

 飲みすぎた翌日は1杯しか飲ませないウチ対策で、大きなコップで1杯とか言うつもりだろう。

 お酒好きには困ったものだ。


「ありがとうございました!」


 たくさん購入したからか、店主自ら送り出してくれた。

 木箱2つ分も買ったけれど、馬車の荷物は村に寄るたびに減るから収納的には問題ない。

 スライムの皮で焼き物も包まれているから、横転しない限り問題はないだろうと店主に言われている。

 そんな木箱を馬車に積み込んだら、明日の道中に食べる野菜や肉を購入して、やることはなくなる。

 ガドルフたちとアンリは日帰りで済ませられる依頼を受けに組合へ。

 ウチとミミは宿でのんびり過ごすことにした。

 流石に半日で掃除は難しく、厨房に入れてもらうのも図々しい。

 変わった料理もないから、スープの匂いを嗅ぎながらぼーっと外を眺めて過ごした。


「買い忘れはないな?特にエルとミミ」

「ないで!」

「お皿はバッチリなんだよ!」

「よし、じゃあ出発だ」


 翌日、朝早く村を出た。

 その後も順調で残りの村2つを問題なく経由して、中迷宮のあるウルダーには問題なく着いた。

 さすがに中迷宮があるだけに石壁は大きく、遠くから見ても先が見えないぐらい広がっている。

 キュークスいわくライテの4倍近い広さがあるらしい。

 ここでしばらく過ごすのかと呆然としながらも、馬車は入場待ちの列に並ぶ。

 列はゆっくり進むので、中に入るまでまだまだ時間がかかりそうだ。


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