一斉に助けるのは無理や
見習い迷宮騎士は5人3パーティの15人。
準備されている溶解液吸い取るくんは4つ。
ジャイアントスライムに刺さっているのは2本だから1パーティ2本ずつ受け取ってここまで来たのだと予想する。
なぜそれでいけると考えたのかわからないけれど、今はとりあえず加勢するべきだろう。
どう見ても苦戦中の見習いでは倒すことはできないはずだ。
「なんで止めるん?」
「これも経験。もう少し様子を見るべき」
「むぅ……」
駆け出そうとしたらアンリが正面に回って通せんぼしてきた。
体を掴まなかったのは、ウチにとって邪魔だと判断すると弾かれるからだろう。
ウチのことを研究したいと言っていたアンリだからこそ、固有魔法の影響しない行動が取れている。
「危なくなったらエルを投げる」
「約束やで!」
そう言った後は見習い迷宮騎士の戦い方を見る。
ジャイアントスライムは分裂前で、溶解液吸い取るくんが2本刺さっていた。
その2本を触手から守っているのが2人ずつで4人。
本体に攻撃しているのが5人。
残りの6人は溶解液吸い取るくんの準備と、攻撃役の交代要員だろうか。
攻撃役が繰り出す斬撃は魔力こそ込められているものの、本職の迷宮騎士とは比べるまでもなく弱々しい。
切り口も小さく、少し溶解液を流すだけで塞がってしまい、迫り来る触手から慌てて大きく下がっている。
「無理ちゃうこれ?」
「それも経験」
「死んだら元も子もないで?」
「その前に助ける。万が一死んでも自己責任」
「助けられるのに目の前で死ぬのは嫌や!」
「それでも、経験させる」
アンリの強い眼差しにウチは負けた。
それだけ見習いがしでかしたことが許せないようだ。
相手の実力を計り、自分との差を感じるのも大事な能力で、自分たちの実力以上の魔物に挑み、大した苦戦もなく助けられたら経験にならない。
心を鬼にしてでも実力差や自分たちの無謀さを味合わせるつもりらしい。
「あの子の動きはいい」
「どれどれ?」
「今切った子」
アンリの言った子の斬撃は、他の子が切った倍近く切り裂いている。
それでも以前一緒に潜った迷宮騎士の半分を少し超えた程度だ。
さらに迫る触手を大きく下がらずその場で避けたり、剣を横から当てて軌道をずらしたりと、いい動きで対応できている。
他の見習い迷宮騎士は剣でずらすぐらいならなんとかできるけれど、複数の触手は下がって避けるしかない。
身軽で剣の腕もある見習いだ。
「あの子もいい」
「どれー?」
「大きな盾の子」
「おぉ。あの子は1番デカいから覚えとるわ」
次に話題に上がったのは、子どもばかりの見習いの中で大人と変わらない身長の子だ。
模擬戦で大楯を構えて、ハリセンの一撃を耐えた覚えがある。
その子は盾で触手を防ぐだけじゃなく、殴って軌道を変えたり、他の子を狙う軌道に割り込んだりしている。
溶解液吸い取るくんを追加で差し込む時は、率先して防御に当たっている。
「あかんわ。吸い取るくん足りん」
「そこまでダメージを与えられてない。誰かが撤退を指示するべき」
後ろから見ていればわかる戦況も、当事者では判断する人がいないと難しいのだろう。
全員が戦うことしか考えていないせいで、どんどん消耗していく。
前で戦っている人たちは自分のことに必死で、後ろの人たちは魔道具を使うタイミングばかり気にしている。
そうしていると徐々に動きが悪くなってきた後衛が1人、触手で殴られて吹っ飛ばされる。
それに慌てたもう1人の後衛は、濡れた床で滑ってバランスを崩す。
大楯の子が防御に入るも、守れるのは1人だけだ。
「まずない?!」
「エル準備」
後ろが崩れた動揺で前衛の攻撃も緩み、触手が前衛を無視して後衛へと殺到する。
前に出た大楯の子が触手を弾き、それによって別の触手にぶつけることで軌道を逸らしているけれど、1人では徐々に押されてしまう。
前衛が援護のために後ろに移動すると、後衛を狙っていた触手が起動を変えて降ってくる。
それによって足を止めれば四方八方から触手が迫ってきて、剣と盾では全て防ぎきれずに溶解液に飲まれてしまった。
「あかん!投げて!」
「どっちに?」
「どっちて……あぁ!スライムか見習いにってことか!見習いに!命が優先や!」
「わかった!」
ジャイアントスライムに投げて倒せても、それまでに死んでしまったら意味がない。
幸い溶解液に呑まれたのは1人だけなので、その人を助けた後は順番に撤退すればなんとかなるだろう。
大楯の子がいれば耐えるだけならなんとかなりそうだし。
「ぐあぁぁぁ?!」
「2人目?!あ!そこの足元!」
「うわああああああ!!」
投げられる瞬間2人目が呑まれた。
そして飛んでる間に別の見習いの足元に触手が伸びているのが見えた。
アンリの狙い通り溶解液に呑まれた1人目にウチが着弾したけれど、同時に2人を助けることはできない。
今からでもジャイアントスライムを倒すべきかと目を向けたら、たくさんの触手が伸びてくるところだった。
「あかーん!!!」
せめて1人だけでもと、目の前にいる1人目を掴んでぎゅっと体に力を入れたところで、目の前が暗くなった。




