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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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175/305

見習い探し

 

 収穫の季節から休息の季節に移り変わり始めた今日この頃。

 北風が冷たくなって厚着が増え、小麦畑が寂しくなったけれど、ウチは相変わらず暇だ。

 時折入る掃除の指名依頼をしっかりこなし、アンリの調査依頼について行く以外では、屋台で過ごす日々だった。

 そうそう新しい料理は思いつかないけれど、そこは熟練の料理人によって色々なバリエーションが生まれて、味の違いで盛り上がっている。

 お好み焼きの屋台も4つに増え、それぞれで野菜の量などを変えて違いを出している。

 まんまる焼きは特注の鉄板を用意しないといけない都合で増えていないけれど、甘いまんまる焼きことハニー丸の人気は衰えない。

 最近は街を出る前に購入して、移動時に食べるというのが女性たちの間で流行っている。


「よぉ。元気が有り余ってそうだな」

「んぉ?あ、セーラさん。まいど、ハニー丸買いに来たん?」

「いや、俺は甘いのそんなに得意じゃねぇんだ。んで、話ってのはちょっと迷宮に行ってほしいんだわ」

「迷宮に?ええけど何するん?」

「見習いたちが自主的に迷宮へ潜って行ったんだが、嫌な予感がするんだよ。何かやらかしそうな雰囲気がある」

「監督騎士おるんちゃうん?危なそうなら止めるやろ?」

「あー、それがしばらく休暇なんだわ。監督騎士は集まって迷宮に挑んでる。それで暇になった見習いどもの一部も迷宮にって感じだ」

「ほうほう。ほんでその一部の見習いに嫌な予感がするんやな」

「そういうことだ。俺が行ければいいんだが、ライテ小迷宮伯に呼ばれていてな。いざという時に何とかなるエルにお願いしに来たわけだ。固有魔法があればなんとかなるだろ?」

「よっぽどのことじゃない限り何とかなると思うけど……」


 話しながら隣でハニー丸を焼いていたミミに視線を向ける。

 同じように聞いていて、ところどころ頷いていたミミだけど、話には入ってこず黙々と焼いてはお客さんに渡していた。


「エルちゃんが行くべきだよ!屋台はミミ1人でもできるんだよ!」

「せやな。ミミはもう立派なまんまる焼き職人や。じゃあセーラさんウチ行くわ」

「お。助かる!かかった経費とかは俺に請求してくれ!」

「わかった。たぶん食費ぐらいやと思うけど」


 武器を新調したり、道具を買い込む必要はない。

 日持ちのする黒パンと干し肉を買う程度だ。

 余裕があれば道中の魔物をハリセンで叩き、上手いこと肉を取れればいいけれど、ウチだけだと解体できない。

 できて一部を切り取るぐらいだけど、(すじ)や骨などわからないから、ズタズタになるだろう。

 どうしても食べるものがない時以外は挑戦したくない。


「別に指名依頼にしてもいいんだぞ?」

「そんな大層なもんちゃうしええやろ。模擬戦した相手の様子を見に行くだけやし」

「そうか。じゃあ頼んだ!」


 追加で見習いの情報を話した後、急いでいるのかセーラが走り去っていった。

 領主を待たせるわけにはいかないからだろうか。

 ミミと2人でセーラを見送った後、屋台の仕事を再開する。

 ミミが焼き、ウチが手渡して代金を受け取る。

 ついでに味のバリエーションは増えないのかと相談されることもあったので、近々干し果物を生地に入れてみようと考えていると伝えたら喜ばれた。

 値段は上がるけれど絶対に買うと言われた。


「迷宮に行かないんだよ?」

「行くとしても明日やな。今日は準備に充てるべきやし」

「急いで行くと危ないから仕方ないんだよ」


 見習いが迷宮に挑んだのも昨日らしいので、普通なら急いで追いかければ間に合う。

 しかし、それはウチの場合だと難しくなるから、急がずに忘れ物がないようしっかり確認しなければ。

 あと、保護者にも伝える必要がある。

 その結果……。


「よろしくアンリさん」

「任せて」


 翌日、ウチはアンリに背負われた状態で小迷宮へと入った。

 軽量袋は魔石を嵌め込んで効果を発動している。

 昨日家にいた全員にセーラからのお願いを話したところ、キュークスたちは指名依頼にすればよかったのにと苦笑して、アンリは何か起きそうなら行きたいと目を輝かせた。

 すっかりウチが行動すると何かが起きると思われてしまっている。

 そんなことはないはずだ。

 平穏で暇な日々も過ごしているし。


「いやー、アンリさんが運んでくれるなら移動は楽やわ〜。それに新鮮なお肉も手に入るし」

「固有魔法のおかげで躊躇なく攻撃できる」


 アンリは壁を蹴って魔物へ強襲したり、攻撃が弾かれるのを狙って懐に入ったりとやりたい放題だった。

 その背に縛られているウチは、固有魔法のおかげで急な方向転換や勢いのある動きでも問題なく、むしろ移り変わる景色や動きを楽しめた。

 できれば正面から見たいところだけど、流石にそれは動きが阻害されるからできない。

 もっと体が大きな人ならできるかもしれないので、今度ベアロに相談してみよう。

 目の前で振られる大ぶりな斧で吹っ飛ぶ魔物は見てみたい。


「おらへんなぁ」

「もっと先に進んだのかも」

「せやな。連携したら階層主以外倒せるかもしれへんしな」

「見習いでも騎士を名乗るならそのぐらいしてほしい」

「立場に見合った成果をっちゅうやつやな」

「そう」


 貴族や騎士などの立場ある者は、自分たちに与えられている権限を主張するだけでなく、成果も上げなくてはいけない。

 これが商会長や料理長だと、自身の仕事に真摯に向き合うことに加えて、後輩の指導などが含まれる。

 もしも蔑ろにしてしまうと、個人の力が強いせいもあって、簡単に反撃されたり場合によっては殺されてしまう。

 過去には圧政を敷いた領地持ちの貴族が、一致団結した民に殺されたこともあるそうだ。

 いかに騎士といえども、同じように身体強化できる者が一度に何人も襲いかかってきたら対応できず、数の勢いで押し切った。

 貴族にも民にも相当な被害が出たことを教訓に、立場に見合った成果を出すことがしっかりと求められるようになっている。

 そうそう下剋上などは起きないけれど、喧嘩した次の日に勝敗が逆転するなどは平民あるあるらしい。

 今回の場合は見習いでも騎士を名乗るなら、階層主とは言わないまでも、ビッグスネークなどの徘徊している魔物ぐらいは倒してほしいということだ。


「見習いに倒せ言うのも厳しい気がするけどなぁ」

「戦闘に関する訓練をしてきているならできて当然」

「なんかアンリさん厳しない?」

「別に。わたしも言われ続けてたから」


 アンリは父親のサージェに、魔法を放てる希少さを渾々(こんこん)と言い聞かされているそうだ。

 魔法の暴発を招いた結果、左目を失った後はもっと口うるさくなり、魔力が見えるようになった時は羨ましがられたらしい。

 そんなアンリだからこそ、迷宮騎士見習いにある程度の実力を求めているのだろう。

 迷宮騎士を名乗って偉そうにしているのに、そこら辺の請負人に負けるようじゃ信用できないのはわかる。


「結局スライム階層まで会わんかったなぁ」

「スライムを狙っているのかも」

「今は魔道具のおかげで稼ぎ時やもんな。ウチに固有魔法がなくても来れるなら稼ぎに来るわ」


 スライム階層に続く階層主部屋まで来たけれど、道中見習い迷宮騎士には遭遇しなかった。

 ウチらが通った場所とは違う道を進んでいるのかもしれないけれど、とりあえずジャイアントスライムのところまで進むことにした。

 請負人だけでジャイアントスライムを倒せるようになっているから、自分たちもなんて考えている可能性もある。

 それに、もしも別の道を通られていたとしたら見つけられるわけがないので、開き直ったとも言える。

 そして色々考えているうちにジャイアントスライムの階へと到着した。

 道中のスライムはアンリが大きく跳ぶことで避けた。


「いや、なんでやねん」


 階層主前の広間を抜けてジャイアントスライムの様子を見たら戦っている最中だった。

 しかも見習い迷宮騎士たちが戦っていた。

 明らかに少ない溶解液吸い取るくんを準備して。


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