アンデッドの生態
2023/12/12〜 文章の見直しを開始しました。投稿済も随時修正します。
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夕食を終えて、割り振られた部屋でのんびりしながら、アンデッドについての勉強が始まった。
もちろん先生はアンリで、生徒はウチ。
さっきまで正体がわかったか確認しに来た、木こりにしてはヒョロヒョロの兄さんがいたけれど、まだ分かってないと伝えたら肩を落として出ていった。
「あんな体で木こりできるんやな」
「身体強化が得意なら」
「おー。強化任せなんや。見習い迷宮騎士より体細かったのになぁ……」
最初は部屋の掃除を担当している人かと思ったぐらいで、木こりを名乗ったことで驚いた。
兄さんもそんな反応には慣れているらしく、頼りない腕に力を込めて、しっかりアピールしてきた。
・・・逆効果やと思うで。
「それじゃあ始める」
「よろしゅう!」
アンリにアンデッドの生まれ方や特性について教えてもらった。
生き物が死ぬと体内に魔石ができる。
その状態でしばらく放置すると、周囲の魔力を吸ってアンデッドとして蘇る。
それまでの時間は死んだ場所の魔力の濃さで変わり、複数の死体があるとお互いの魔石が反応して早くなるため、大規模な魔物の討伐や戦争などは注意が必要となる。
アンデッドになった直後は生前のことを覚えており、獣なら群れに合流。
人なら街や村へと戻ろうとする。
そのうちに正気を無くし、同胞を殺して魔石を得て強くなったり、殺した仲間を放置してアンデッドを増やしたりする。
これが人間や獣人なら、自らがアンデッドになったことに気づく者もいて、どうにかしようと足掻くこともあるそうだ。
「森の奥で死んだ獣とかアンデッドになりまくるんとちゃうん?」
「その場合もある。ほとんどはアンデッドになる前に土に還る」
「ふ〜ん。じゃあ森の奥とか人が行かん場所は危ないんか」
「魔物を喰らって強くなった魔物もいる」
「へー。それはあれ?倒した魔物を食べて強なったみたいな?」
「魔石を食べていると言われている」
「ほうほう。じゃあ、ウチらも魔石食べたら強なるん?」
「無理。人は消化できない。溶かした物を飲んでも魔物になる」
「えぇ……。それはあかんな……」
魔石を食べて強くなれるなら、人でもできるかと思ったけれど、既に誰かが試したようだ。
魔物になってまで強くなりたいわけじゃないから、ウチは絶対に口にしないと心に決めた。
肉や野菜も魔力が極端に込められている場合は、人が食べたら魔力酔いというふらふらする症状が出る。
それが危険信号だから、発症したら即座に吐き出すようにと言われた。
ちなみに、釣ったばかりの魚の魔物を焼いて食べてもならないぐらいには稀なことらしい。
少なくとも街や村の近くで取れる肉や野菜では起きないので安心だ。
「今回の魔物は何で人を襲わんのやろな」
「アンデッドになりたてだから」
「なりたてってことは……記憶があるから襲わんの?」
「そう」
「あれ?でも、同族のところに入ってくるんちゃうん?仲間増やすんやろ?」
「恐らく、自分がアンデッドになってると気づいている。」
「え?なんで?」
「気づいているからこそ襲わないために戻っていると予想している」
「そういうことかー」
どうやって自分がアンデッドになっていることに気づいたのかはわからない。
死ぬ瞬間を覚えていたからか、どう見ても助からない怪我を負っているのに動けているからか。
ウチでは想像できないけれど、アンデッドになったと気づけたのなら、休憩所に近づかない気持ちはわかる。
できることなら知り合いに会ってトドメを刺してほしいと思うだろう。
ウチなら思う。
意識がないのかもしれないけれど休憩所へと向かい、意識を取り戻したから森へと戻る。
それを何度も繰り返した結果が、あの足跡だと予想しているそうだ。
「それじゃあ明日からどうするん?森の中の探索?」
「そう。エルに歩き方や道の覚え方。迷った時の戻り方を説明する」
「はーい」
返事と共にベッドに入り、翌日に備えてスッと寝た。
起きたら朝食を取り、準備を整えたら目撃情報のある北側に移動する。
そして、アンリに教えられる通り木の特徴を覚えたり、傷をつけたり、端切れを枝に巻いて目標を作る。
できるなら伐採のことを考えて、木よりも地面に跡をつけてほしいそうだけど、ウチの届く範囲であれば誤差だろう。
アンリも意図的に低い場所に傷をつけているから、切り落とせば問題ない。
そもそもすごく伸びた木の根元付近だから、切り倒される時に一緒に無くなりそうだ。
「エル。ここを見て」
「なにこれ?肉片?うわっ糸引いてる……汚な」
アンリに示された物は、藪に引っかかった布の切れ端のようなものだった。
それを拾った枝で突くと、切れ端と枝の間に白い糸が伸びる。
ウチが汚いと認識したからか、あるいは枝に魔力が通り切ったからか、糸はすぐに弾かれて消えてしまったけれど、切れ端側は垂れたものが残っている。
汚い。
「これアンデッドの?」
「そう。この辺りを通った時に付いた。周りに足跡や痕跡があるはず」
「それを探すんやな」
アンリの言う通り、近くには何度も通った痕跡があった。
何度も踏まれて戻らなくなった草、何かを引っ掛けた傷、不自然に凹んだ藪などだ。
「エル。帰り道はわかる?」
「え?あー……うーん、こっち、のはず……。合ってる?」
「合ってる」
「良かったぁ。あ!もしかしてこのために注意を痕跡探しに向けたりした?」
「偶然」
地面や木を見ている間に来た道がわからなくなったけど、言われていた通り付けていた傷のおかげでなんとかなった。
試験の意味も込めて、わざと道をわからなくさせたと思ったけれど、それはウチの考えすぎだった。
「今日はまだ時間がある。先に進む」
「はーい」
痕跡を探しながらゆっくりと進んでいく。
木に傷をつけることも忘れず、邪魔な枝や草をナイフで切っていく。
すると、急に開けた場所に出た。
痕跡もその場所に向かっているから、ウチらもその場に足を踏み入れる。
ウチ先頭で。
仮に罠があったとしても固有魔法でどうにかできるはずなので。
「焚き火の跡?ここで休憩してたんやろか。休憩所からそんな離れてないけど」
「この先に狙った獲物が来るなら待機する場所にする可能性もある」
「おー。待ち伏せみたいなもんか」
燃え尽きた枝を踏んだ痕跡を見ながらアンリが解説してくれた。
広い縄張りのある獣や魔物を追う時に、縄張りの近くで待機して通るのを待つことがある。
罠を仕掛けられるなら、様子がわかる位置で見張りを用意することもあるそうだ。
・・・待つだけなのは退屈そうやな。お喋りしてたらあかんやろうし、あんまやりたくない仕事やわ。
「ん?木の裏になんかある?」
「拠点に荷物を隠すこともある」
「長い間待つんやったら食料いるもんな」
しかし、木の裏にあったのは、荒らされた皮袋だけだった。
水を入れる皮袋や食べ物を包んでいたクリアの葉もボロボロになっている。
金属製の物や血痕がないことから、ここに居て襲われたわけではないようだとアンリが判断した。
「もう少し先に行く」
「ほーい」
先に進んでしばらくすると、引きちぎられたロープが何本もあるところに出た。
木にロープが巻かれていたことから、何か罠を仕掛けていたのだと予想する。
そんな風に森を探索し、アンデッドを見つけたのは調査開始から4日目のことだった。




