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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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170/305

木こりの作業場

 

 家に帰ってお風呂に入った後、ハチミツ水を作ってのんびりする。

 気づけば昼寝をしていたけれど、アンリが帰ってきた音で起きた。

 そしてウチの受けた依頼について話したら、なんのためらいもなく一緒に行くと言ってくれた。

 ウチが受けなかった場合、恐らく次に声がかかるのはアンリだから、一緒に行って解決するのが良いとのことだった。

 そして翌日。


「よし!お嬢ちゃんたち乗ったな?」

「乗ったで!」

「じゃあ出発だ!」


 切った木を運んできて帰るところだった荷馬車に乗せてもらうことになった。

 運んだついでに依頼がどうなったか確認したところ受けてもらえたことがわかり、ウチのことを知っていた木こりは、街から出ようとするウチに声をかけてくれたのだ。

 ウチも有名になったものである。


「魔石狩りの嬢ちゃんが来てくれるなら安心だな。魔物の攻撃を一切受け付けないんだろ?倒せなくても確実に情報を持ち帰れるじゃねぇか」

「せやな!ウチに任せとき!」

「おう!俺にそんな力があったら木を好きなだけ切れるのによぉ……。そうそう、最近増えた屋台の件で聞きたいことが……」


 木こりのおじさんと話しながら、街を出て北側へと向かう。

 街の周囲は草原で、その中を進むように土が踏み固められた道が伸びている。

 その道を進んでいくと、遠くに見える森がどんどん近づいてきて、なんとなく空気が変わった気もする。

 荷馬車は森の手前で一度止まり、車輪に問題がないか確認した後、森の中に続く道を進む。

 普段から使っているおかげで、根っこに乗り上げてがたがたすることもなく、快適なまま木こりの休憩所へと進むことができた。

 左右を木に囲まれた道を進んだ先には、数世帯なら問題なく暮らせるほどに開かれた広場があり、中央には山のように積まれた丸太がある。

 休憩するための小屋は全部で4つ建てられているけれど、どれも立派な作りだ。

 道具置き場は別で作ってあり、家は休む場所として仕事と切り離しているように見える。


「ほぁ〜……すごいなここ」

「だろ?1人は街よりこっちが良いってずっと住んでるぐらいだ。ほら、あそこの家のやつだ」

「あの1番大きい家?めっちゃ増築してるやん」

「それが奴の趣味だからな。他の小屋も全部そいつが建てたんだぞ」

「どんだけここ好きやねん」


 おじさんが指差した先には、4軒のうちで1番大きな小屋……家だ。

 一つの小屋を建てて、そこに部屋や2階、バルコニーを追加した後、更に全体を覆う屋根を追加したような大きな建築物。

 庭部分には作りかけの家具や木製の食器など、いろいろな物が至る所に転がっている。

 作るのは好きだけど片付けは苦手な人と見た。


「ちなみに依頼の赤い光を最初に見つけたのもその家の人だ。まぁ、その話しを聞いて他のきこりも見たから、今となっちゃ誰に聞いても同じことだけどな。だから、特に話しを聞きにいく必要はないぞ。邪魔しないのが1番だ」

「邪魔って……もしかして気難しい人なん?」

「う〜ん。まぁ、そうだな。作品作りの邪魔をしたらトンカチやノコが飛んでくる。ミスした原因になったら追いかけ回されるだけじゃ済まないな」

「うわこわ。ウチからは近付かんとくわ」

「それが良い」

「そうなると誰に聞くかやけど、おっちゃんも見たん?」

「おう!見てるぞ!なんなら普段ここで作業している木こりは全員見てるな!」


 誰に聞いても良かったらしい。

 誰が気難しいかわからないから、この人と一緒に来れてとても助かっている。

 そんなおじさんに連れられて広場を横切り、いくつか伸びている脇道の一つに案内される。

 そこでは切った木の枝を払う枝打ちという作業をしている人たちがいた。

 その人たちに手をあげて挨拶をしたら、さらに奥へと進む。

 だんだん道が細くなり、最後には藪を切り拓いただけの道になった。

 今はこの付近で木を切っているそうだ。


「ここから北の方……山の方に現れるのを見た。他の伐採場所では聞いてないから、1番北側のここから見えるところに出るってことは、ここより北で活動しているんだろ。たぶん」

「へー。なんかあるんかな?」

「明るいうちに軽く調査した時は木しかなかったな」

「そうなんや」

「まぁ、俺たちも魔物がこえーから、そこまで深くは探してないしな」

「えー。めっちゃ強そうな体しとんのに?」


 おっちゃんの腕はムキムキだ。

 ぎゅっと丸くなることができなさそうなぐらい。

 毛のないクマというほどではないけれど、街中を歩いていたら体を使う職業の方ですねと声をかけることができそうだ。

 もちろん腕だけでなく胸板や背筋も凄く、それを支える下半身もどっしりと筋肉で覆われている。

 弱い魔物なら素手で殴り殺せそうである。

 そんな木こりたちが集まって魔物に怯えているのかと思うと、どこか不思議に感じる。


「あー、嬢ちゃんよ。俺たちが魔物と戦えばいいじゃないかとか思ってるな?」

「え?顔に出てた?」

「おう。なんでそんなに戦えそうなのに自分たちで調査しないんだろうって顔だったぞ」

「うへー」


 そんなウチの疑問にはおじさんがしっかりと答えてくれた。

 まず、どれだけ鍛えていても戦闘訓練をしていなければ、魔物と対するだけで恐怖が勝つそうだ。

 おじさんたちは木こりとして、木を切り倒す練習はしていても、魔物や盗賊を相手にする訓練はしていない。

 普通の獣ならば手にした斧で倒すこともできるけれど、魔物になると魔力で強化されているため簡単にはいかない。

 こちらも身体強化に加えて武具の強化を行わないと危険だ。

 しかし、木を伐採したり運んだりする時に使う程度の身体強化では、武具まで強化できない。

 そこまでできることが一種の才能で、請負人の中でもできない人はいる。

 そういった人は武器を魔道具化して魔力を流しやすくするといった工夫をしているそうだ。


「つまり、おっちゃんたちにとって戦いは専門外やから依頼したってこと?」

「おう。簡単にまとめるとそうだ。俺たちは木の専門家であって戦いはからっきしだ!まぁ、酔った勢いで殴り合いはあるかもしれねぇけど、それはなんというか……まぁ、アレだ。うん。魔物は請負人や兵士なんかの専門家に任せるに限るってことよ」

「アレじゃあ仕方ないな」

「だろ?」

「エル、アレって?」

「え?なんかそう言う雰囲気やったから。ウチもわからん」

「そう」


 アンリは若干呆れていたけれど、ウチが後先考えずノリで話すのはいつものことだと、気にしないでいてくれた。

 アレはアレだから仕方がない。


「アンリさんは何か見える?」

「魔力が道中より濃い」

「ほー。じゃあちょっと強い魔物とかおる感じ?」

「可能性はある。でも、そこまで強くはないはず」

「あんまり深くないもんな」


 人が活動すると魔力の動きも活発になる。

 魔道具や畜産で消費するからだ。

 そうなると魔力は薄くなり、強力な魔物ほど近寄らなくなる。

 生きるのに水が必要な生き物にとって水が少なくなるような感じらしい。

 つまり、木こりが活動しているこの辺りは、森の中でも魔力が薄い場所となり、北側はなぜか少し濃いということがわかった。

 恐らく赤い光の魔物が活動することで濃くなったのんだろうとアンリは推測していた。


「なんにせよ、しばらく調査やな」

「小屋の中に客人用の部屋がいくつかある。そこを使ってくれ」

「おおきに」


 森の調査や、魔物を大規模に間引く際に使用する宿泊部屋を借りることになっている。

 食事は自分たちで用意する必要はあるけれど。

 とりあえず調査は明日にして、周辺を歩いて広場の地理を覚える。

 景色がほとんど変わらないせいで苦労した。


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