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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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森の調査依頼

 

「暇や」


 市場の近くにある荷下ろし用の空き地で、空箱に座りながら空を見上げる。

 流れる雲はゆっくりで、のんびりとしたい人にはもってこいだろう。

 屋台の手伝いは5日で飽きた。

 スライムは請負人と迷宮騎士が相手をしている。

 市場を巡ってもピンとくる食材はなく、興味が出るような変な物もなかった。

 掃除の依頼は今はなく、収穫が終わって後処理まで済んでから一気に来ると、受付の人に予想されている。

 つまり、今ウチにやることがないのだ。


「あ〜〜〜〜〜」


 何となしに声を出しても何も起きない。

 迷宮に入っても素材を集めるだけでも、軽量袋に入れるのに一苦労するし、解体もできない。

 外に狩りに行くのも同じ理由で却下だ。

 追いかけても逃げられるから、向かってくる相手しか倒せないし、そういった生き物は肉食だからあまり美味しくない。

 つまり、やることがないのだ。


「なぁなぁ、ウチ暇やねんけど」

「えっと……依頼は、エルさんには厳しいですよねぇ……」


 暇すぎて組合の受付に来た。

 依頼が張り出される時間は当に過ぎていて、今はほとんど人がいない。

 依頼完了報告待っている受付の人には事務仕事があるだろうけど、請負人の相談に乗るのも仕事のうちだ。

 踏み台に乗って顔を突き合わせている受付は困った表情をしている。

 しかし、ウチも困っているのだ。

 身体強化ができないことは組合に知れ渡っているから、力仕事や探索した上で魔物を倒す討伐依頼は勧めてこない。

 できるかもしれないのは調査依頼だけど、僻地であれば移動に難があり、近場であればウチじゃない人の方が色々できて良い。

 固有魔法が必要じゃなければこんなものだ。

 しょんぼりしていると、受付の後ろで何か書いていた人が立ち上がり、羊皮紙を運びながらこっちに近づいてきた。


「あら?エルさんへの依頼に悩んでるのね。だったらこれはどうかしら?この後張り出す予定なの」

「森の調査ですか。深い場所は危険ですが、これは木こり小屋近くだから問題ないですね。良いと思います。どうぞエルさん」

「えーっと……」


 羊皮紙を受け取り、書かれている内容を読む。

 森の中で不審なものを見かけたから調査してほしいという内容で、場所はライテからほど近い森の中にある木こりの休憩所があるところ。

 街道から森まで一直線に伐採して、少し入ったところで周囲を伐採するための拠点にしているそうだ。

 つまり、森の中深くの調査ではなく、人が活動する範囲内だ。

 そこで木こりが見かけたものの正体を判明させ、危険があれば排除するのが依頼だった。

 報酬も情報の貴重さで変動し、排除できれば追加報酬が払われるというものだ。


「え〜。これウチできる?森の中の歩き方すら微妙やで。迷子になりそうやわ」

「それは自分で何とかしなさいな。依頼の内容だけならエルさんで十分対処できるはずよ。恐らく獣か魔物の死骸がアンデッドになっているだけだもの」

「アンデッド?おばけ?」

「おばけ……。まぁ、お話に出てくるおばけはほとんどがアンデッドね。えっとね、生き物の中に魔石が残った状態で放置すると、普通なら魔石の魔力が抜けていって無くなるの。だけど、周囲の魔力が濃かったり、同時にたくさん死んでいたら抜けるより早く魔力が集まってアンデッド化しちゃうのよ」

「へー。じゃあ何のおばけか確かめるのが依頼の内容ってことか」

「恐らくだけどね。もしかしたら全く別の要因かもしれないけど、遠くの方で赤く光る何かが見えたというのは、少なくとも魔物の目だと想像できるわ。そして、階層主の攻撃を受けないエルちゃんなら、人が活動するところに出てくる魔物やアンデッドに負けることはないでしょ」

「あー。階層主より強いのが街の近くの森に出たらえらい騒ぎになるもんな」

「そういうことよ」


 アンデッドがどんな生き物かいまいちわからないけれど、魔物の一種だとしたら問題はない。

 見つけても追いつけるかどうかという問題はある。

 しかし、倒すのではなく正体を暴く依頼だから、ウチが受けても問題ないだろう。

 ガドルフたちが普段行ってる森なのかも含めて、みんなに色々話を聞こう。

 木こりが活動している森だと伝えればわかってくれるだろう。

 話しを聞いてアンリが付いてきてくれれば、倒すのも目的にしてもいいかもしれない。

 運んでもらえるのなら追いつけるはずだし。


「受けてみよかな」

「エルちゃんは掃除の依頼しか受けてないから、今後はもっと色々受けてくれると評価しやすくなるから助かるわ」

「おー。魔石はいっぱい取ってきてても難しいん?」

「もちろんそれも評価には含めるけど、基本的にはこなした依頼によって評価するのよ。依頼者から指摘が入ることもあるからね」

「ふ〜ん。他の人の評価も大事ってことかー」

「そうよ。エルちゃんの場合掃除に関してだけ高評価。後は特殊条件下での討伐が可能ってぐらいね」

「何とも言えん評価やな」


 特殊条件下というのは、身体強化がなくても相対でき、固有魔法の効果が発揮できる場合ということだ。

 ウチのハリセンが確実に当てられる相手とも解釈できる。

 その条件であれば討伐は可能となる。


「そういうわけだから色々受けてくれると助かるのよ。難しい依頼じゃないから勧めやすいのもあるわ」

「わかった。受けるわ」

「ありがとう!じゃあ受理よろしくね!」


 お姉さんは受付に依頼書を渡して去っていった。

 事務処理担当の人とは話したことがないけど、なかなかパワフルで口が回る人だった。

 あの喜びようからこの依頼は、あまり人気がなさそうな感じがしたけれど、時間はあるからいいだろう。

 暇が潰せればいい。

 その結果誰かが助かるなら、良いことだろう。

 そうして受理された依頼書を持って家に帰る。

 今日はアンリが魔力の調査依頼から帰ってくる日だ。


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