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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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迷宮騎士vsジャイアントスライム

 

 見習い騎士に料理を教える件は順調に進み、今ではウチらの隣でお好み焼きの屋台を出すほどになっていた。

 教えるのは小隊ごとではなく一気に全員で、作ったものが夕食になるということから気合いが違い、すぐに食べられるものが作られたのが大きい。

 屋台は見習いの中で特に料理ができる2人と、会計役で1人の3人体制で、残りのメンバーは他の小隊に割り当てられている。


「ほな行こか」

「おう!迷宮騎士の戦いを見ながら一杯飲むぞ!」

「それはベアロだけや!」


 ウチの周りにはガドルフたちとアンリ。

 荷物はビッグトラウトの塩漬けとお酒、パンが入った軽量袋。

 道中でヘビ肉を確保して食べる予定。

 これから迷宮に入り、スライム階層で行われる迷宮騎士のジャイアントスライム討伐戦を見に行くのだ。

 ミミは屋台があるので留守番だけど、あんまり興味がなさそうだったので問題ない。

 むしろ新しい料理は思いつかないかと料理長のようなことを言ってきたぐらいだ。

 早く何か思いつかないと面倒なことになりそうだと思いつつ、小迷宮へ足を踏み入れた。


「よし!じゃあエルは俺の背中だな!」

「軽量袋はアンリ頼む。魔物は俺とキュークスで蹴散らして進む。速度重視で素材は請負人見習いに渡すつもりぐらいでな」

「うん」

「わかったわ」

「よし、行くぞ」


 ガドルフの号令で出発した。

 ベアロの背中に括り付けられているおかげで、楽に移動できて初心者層の魔物は全て無視。

 ウチは後ろを向いているから手を振る余裕すらある。

 そんな風に惜しくもない別れを惜しみながらどんどん進んでいき、時たま戦闘はあるもののガドルフとキュークスが蹴散らす。

 ヘビ階層では夕食の肉のために、ウチを囮にして状態のいい肉を確保した。

 巻きつけないのに周囲をぐるぐる巻きにされたから、ガドルフが頭を落とすだけの簡単な内容だった。


「おぉ!賑わってるな!」

「話に聞いた通りすごいな」

「いや、なんか屋台増えてるねんけど。ウチ知らんで」


 スライム階層へと続く階層主部屋の前には、スープの屋台とヘビ肉焼きの屋台が増えていた。

 どうやらまだまだスライムフィーバーは続くらしい。

 通常であれば通るか休むだけの空間だから、店を出してもそこまで数は出ないはず。

 しかし、スライムの皮需要が続いている今、現時点の最下層にも関わらずたくさんの人がいる。

 その人たちを狙った屋台であれば元は取れるだろう。

 迷宮に潜る時にお金を持ち込んでいない人も多いため、木札に内容を書いて迷宮外で精算する方法で販売しているなどの違いはあるけれど、迷宮の中で暖かい食事を手早く取れるのは、請負人にとっても良いことだ。

 そのうち宿屋までできるんじゃ無いかと思ってしまう。


「まぁ、ウチらはここに用ないねんけどな」

「飯ぐらいいいんじゃねぇか?」

「あー。せやな。作らんでええし食べよか。ガドルフもそれでええ?」

「あぁ。ちょうど良い休憩だ」


 屋台でスープとヘビ肉焼きを買い、持ってきたパンと一緒に食べる。

 もちろん水はウチ産で、酒はまだ本番じゃ無いから飲ませていない。

 ウチのガードは硬いのである。


「腹も膨れたし、腹ごなしに運動するか!」


 ここからはウチを背負ったベアロがビッグスライムを倒しながら進む。

 余裕があればアンリが氷の魔石を使って凍らせるつもりだけど、それは帰りに階層を戻ってからでも良い。

 まずは遅れないようにジャイアントスライムのところまで行かなければ。


「よし到着だ。やっぱエルを装備すると一方的に攻撃できていいな!緊張感がなくなるけどよぉ」

「装備言うな!」

「悪ぃ悪ぃ!」

「別に怒ってへんからええけど」


 実際背中に装備されているようなものだし、仕方ない。

 装備じゃなければ子守になる。

 それよりはマシだ。


「迷宮騎士はすでに揃っているな」

「挨拶してくるわ」

「そうだな。俺たちは見学だから、依頼を受けたエルが行くべきだ」


 ベアロの背中から降りて、迷宮騎士に近づく。

 その中で若い迷宮騎士に指示を出している人がいたので、話しかける相手をその人に決めた。


「こんにちは!」

「こんにちは。もしや魔石狩りのエルちゃんかい?」

「せやで!到着の報告に来たんやけど、どうすればいい?」

「作戦開始まで休んでいてくれて構わない。何かあれば助けてもらえるだけで良いし、その時はこちらから声をかける」

「勝手に助けに入るなってことやな」

「そうだ。これは訓練でもあるからね。ギリギリまで戦うのも迷宮騎士の仕事だ。もちろん最悪の事態は避けるように行動する」

「わかった。じゃあウチは向こうにおるな」

「よろしく」


 迷宮騎士のおじさんと話してからしばらく待機そていると、別の人が作戦を伝えに来た。

 溶解液吸いとるくんを20個使ってジャイアントスライムを弱らせ、どうにかして魔石を取り出すという魔道具頼りの作戦だった。

 分裂した場合、1体を集中的に狙うことも決まっているそうだ。

 雷の魔法を警戒して、できるだけ濡れないようにするのも忘れない。

 くることがわかっていれば、魔力で強化して耐えることができると予想されているらしい。


「行くぞ!」


 ウチに説明してくれた迷宮騎士の号令で、6人1小隊で3小隊18人がジャイアントスライムのいる部屋に入っていく。

 指揮担当と記録担当は入らず、階層主前の部屋と階層主部屋を繋ぐ通路に立つ。

 ウチらも同じように通路に待機して、迷宮騎士の戦いを見学する。

 いざという時は、ウチをガドルフが放り投げる予定だ。


「まずは触手の排除だ!魔道具はその後盾の後ろから刺して後退!」


 指揮担当の声でそれぞれ3人ずつ前に出る。

 9人が伸びてくる触手の相手をしている間に、盾を構えた人を先頭に魔道具を2本ずつ持った迷宮騎士が2名続く。

 盾1人魔道具2人が3小隊分出来上がると、触手の合間を縫って進んでいく。

 合わせて触手を切り払っている人たちも前進し、徐々にジャイアントスライムとの距離が縮まっていく。

 しかし、ある程度近づくと触手を正面左右だけでなく、大きく回らせて背面から伸ばしてくるようになった。

 さすがに全方位から狙われると厳しいらしく、少し後退してそこから一気に突っ込むことにしたようだ。


「3、2、1、今!」


 それぞれの盾役がタイミングを測り、3人同時に駆け出す。

 その3人に向けて伸ばされる触手を、残りの3人が切ることで被害なく近づくことができた。

 そして魔道具を突き刺して、下がりながら触手を切り飛ばす。

 なぜかジャイアントスライムは自身に刺さった魔道具を叩き落としたりせず、迷宮騎士を狙い続けている。

 その間もバシャバシャと勢いよく溶解液は放出され続けている。

 ただし、元々の大きさのせいで目に見える変化はない。


「時間かかりそうやな」

「魔道具20個じゃ足りなかったんじゃねぇか?」

「追加で攻撃も加えます。そこからさらに体積を減らせるでしょう」


 ウチとベアロが食べながら話していると、指揮担当の迷宮騎士から返事があった。

 攻撃を加えれば魔道具だけで倒すよりも早くなるはずで、迷宮騎士たちの堅実な戦い方だと安心して見てられる。


「お。分裂したな」

「隙だらけだからって攻撃しすぎだろ!」

「そのおかげかはわからないが、1体はとても小さくなってるな」

「それに魔道具外れたわね」

「残り8本」


 伸ばす触手ほとんどを切り離され、さらには本体にまで切り付けられているからか、触手に魔法を纏わせるよりも分裂することを選んだようだ。

 その際に刺さっていた魔道具が抜け落ち、分裂して距離を取ったスライムに踏まれて溶かされ始める。

 しかも、5体に分かれたうちの1体だけビッグスライム程度の大きさになっていて、それはすぐに討伐されてしまう。

 恐らくダメージを1体に集中させた結果で、残り4体は以前見た大きさと同じく、ビッグスライムよりも4倍ほど大きい。

 迷宮騎士側は6人で2本ずつ刺した魔道具がなくなり、残り8本。

 1体につき2本ずつ刺すことができるけれど、倒し切れるだろうか。


「予定通り1体を集中!雷から狙え!」


 先頭に出ていた雷属性の分裂スライムを狙うようだ。

 1番攻撃されたくない相手だから、早めに倒せるに越したことはない。

 ちなみに倒されたのは火属性の分裂スライムだった。

 火は危ないので、これも運が良い方だろう。


「雷撃備え!」


 雷属性の分裂スライムが、体表にビリビリと電気を走らせた。

 それが触手を伝って迷宮騎士の元へと向かうと、指揮担当が声を上げる。

 それに反応してか、攻撃をやめてそれぞれ体に力を入れて耐える用意をしていた。

 恐らく全身に魔力を流して強化もしているだろう。

 走り回ったことに加えて足元も濡れているため、直撃しなくてもダメージを受けそうだ。


「ぐおっ!」

「かー!効くなあ!」


 バリバリと迸った雷だけど、誰も行動不能にはなっていなかった。

 それでも電気を流した職種に近かった人ほどダメージや痺れがあるのか、一部の迷宮騎士は動きが鈍くなっている。

 しかし、今の状態では助けはいらないと判断されたようで、ウチに声はかからなかった。

 その後魔道具を2つ消費して雷属性の分裂スライムを倒すことに成功。

 属性がはっきりと分かれたからか、表面をその属性が覆うことで魔道具が弾かれたり、壊れたりすることもわかった。


「先に水を倒せ!土と風は魔道具を抜く分時間がかかる!」

「はい!」


 今度の指示は水属性の分裂スライムを狙うようにというものだった。

 土属性は土を出して魔道具を抜き取り、風属性は風で吹っ飛ばして抜き取る。

 その際に風属性側の1本が壊れてしまうほどだった。

 水属性も水を放って抜き出そうとするけれど、迷宮騎士が逆から押さえ込むことができる程度の威力しかない。

 どうやら表面から出す能力はそこまで高くないようだ。

 その分触手を通して出す魔法は威力があり、土や風は迷宮騎士が軽々と吹っ飛ばされている。

 すぐに起き上がることから、わざと大きく吹っ飛んでいる可能性もあるけど。


「残り2!わたしも参戦する!被弾が多ければ下がれ!」

「交代お願いします!」

「しばらく休んでいろ!」


 水属性の分裂スライムを倒したら、指揮担当の迷宮騎士が中に突っ込んで行った。

 代わりに盾役の1人が下がって来る。

 雷を至近距離で受けた後、風で何度も吹き飛ばされた人だ。

 他の盾役はどっしり構える待ちタイプだったけど、この人は積極的に動いて盾で弾くタイプだから消耗も激しいのだろう。

 ウチは迷宮騎士が持ってきた水生みの魔道具を借りて、水を渡して休憩させてあげた。


「ぷはっ!ありがとうございます!お、もう終わるみたいですね!」

「おー。大きいとはいえ2体だけやったらあっという間やな」

「途中で戦った属性スライムの大きくなった個体ですからね。皮採取で何度も戦いましたし」


 休憩している迷宮騎士と話している間に、土属性の分裂スライムが倒され、残りは風属性の分裂スライムだけになった。

 こうなると気をつけながら切るだけなので、魔道具を使わずに全員が攻撃に参加する。

 図体が大きいせいでズバズバ切られる分裂スライムが、少しかわいそうに見えるくらいだった。

 そして、程なくして倒すことに成功する。

 魔石は分裂したけれど、ウチ以外の初討伐である。


 ・・・そういえば、誰も吸いとる君って言わへんな。せっかくウチが考えたのに。


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