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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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トラウトカツ

 

 ライテに戻り、お土産を配った。

 リーゼ経由で渡したライテ小迷宮伯と、請負人組合にある食事処の料理長には大変喜ばれ、組合長には呆れられた。

 ただの外出で遭遇するなんてと言われたけれど、ウチが何かしたわけじゃない。

 ポールにも分けたことで、残りは20尾ほど。

 それを半分は塩漬けに回してさらに半分近くを乾物を取り扱うお店に預けた。

 どちらも料金代わりに売り物として渡した分は2尾ずつだ。

 それでも1尾あたりとても大きいから、塩漬け壺数十個分にはなる。


「じゃあ早速作ろうか」

「わかったんだよ!」

「あぁ。料理は任せろ」


 配り終わってウチらが借りている家の台所。

 ウチとミミとポールでトラウトカツを作る。

 魚の処理方法をポールが説明しながら見せて、ミミがそれを実践する。

 初めて捌くので多少の無駄が出るのは仕方がない。

 むしろ無駄が出ても十分な大きさだから、しっかり挑戦してほしい。


「難しいんだよ〜」

「包丁の長さが足りない……。そろそろ色々な包丁を作ってもらうのもありかもな」

「料理長さんもたくさん持ってたんだよ!」

「硬い野菜用、柔らかい野菜用、肉用、魚用もあったな。今度聞いておく。値段も含めてな」

「ありがとうだよ!」


 苦戦する2人はどんな包丁があったか話していた。

 請負人ですら相手に有効な攻撃手段をいくつも持っているのだから、料理をする2人もしっかりと専用の道具が必要だろう。

 ポールは自分で用意するはずだから、ウチはミミの分を作って貰えばいい。

 お金ならある。

 ついでにウチ用の分も作ってもらっておこう。

 量は作れないけど、たまに料理するし。


「しかし、卵が少し安くなって出回り出したのはいいことだな」

「エルちゃんさすがなんだよ」


 ビッグトラウトの身を溶き卵に潜らせながら話しているのは、余ったスライムの皮を使って卵を運搬した結果だ。

 小さな木箱に皮の切れ端を敷き詰め、卵を入れた後間にも切れ端を入れる。

 さらに蓋や側面との間にも切れ端を入れることで、卵の周囲全部をスライムの皮で覆い、この状態で馬車で運んでも割れないことが証明されている。

 そうなると卵の生産が商売となり、スライムの皮がさらに求められることになった。

 供給が追いついていない分は、属性スライムの皮でも魔力を込めなければ同じように使えるため、全体の買取料金が上がり、魔道具付き特別依頼の報酬額も上がった。

 ライテの街にはスライム特需が発生しているのだ。


「パン粉は多めの方がいいな。身の水分で油が跳ねる」

「ガードするんだよ!」


 鍋蓋を盾のように構えるミミ。

 家で揚げ物をする時は常にこの状態になる。

 以前ピンと立っている犬耳に油が跳ねて、しばらく悶えた経験からこうなっている。

 それでもボアカツが好きなので、率先して揚げ物を作ってくれているけど。


「これでいいんだよな?」

「たぶんな!」

「とりあえず味見するぞ」


 完成品を示しながら聞かれても、初めて作る物だから自信を持って答えられるはずがない。

 結局、3等分して味見することになった。


「熱っ!美味(うま)っ!ん〜!ホクホクや!それでいて身が持っている塩っけとじんわり出てくる脂!サクサクの衣とは違った食感がええなこれ!レモンかけたらもっと美味(うま)なるで!」

「美味しいんだよ〜!でも、獣人さんたちには歯応えが物足りないかもしれないんだよ」

「美味い!歯応えは量でカバーだな。まぁ、滅多に手に入る物じゃないし、味を楽しんでもらえたらいいだろう。あとこれレモン」

「おおきに!ん〜!さっぱりした酸味が脂と混じっていい感じや!魚の濃い味が衣を噛むことで優しくなるな!」


 テンションが上がったウチの声に、リビングから早く食わしてくれとベアロの声が届いた。

 ポールとミミに頼んで、せっせと揚げてもらう。

 ウチは皿の準備と、サラダを担当する。

 千切った葉物に切った野菜を乗せて、ドレッシングを回しかけるだけのシンプルな物だ。

 スープは片手間でポールが作ってくれているから、これで夕食の準備は完了。


「待ってたぜ!酒だけじゃ物足りないんだよ!」

「もう飲んでるんか!」

「おう!休日だからな!」

「休日やったらしゃーないか」

「仕方ないのか?」


 ポールは首を傾げているけれど、休日なら仕方ないだろう。

 何をするにしても休んでいる人の自由だ。

 他の人に迷惑をかけなければ問題ない。


「スープはこれで良いんですよね?味見はしましたが、僕は好きです」

「ミミは苦手だよ……」

「あ〜、人によって好き嫌いがはっきりするやつだからな。ミミは何が嫌なんだ?」

「鼻から抜けていく香りが嫌なんだよ〜。変な匂いがするんだよ〜」

「あぁ。香りがダメなやつは多いな。諦めて避けとけ避けとけ」

「そうするんだよ〜」


 ミミはスープに浮かんでいるビッグトラウトの卵をベアロの器にせっせと移し始めた。

 このスープはビッグトラウトを狩ったことがあるベアロの提案でポールが作ったもので、ビッグトラウトの卵……イクラの使い道に困っていたポールは喜んでいた。

 クセのある味だと分かった時点で全員が味見をした結果、ミミだけ噛んだ時に広がる匂いがダメみたいで、他の人たちはウチ含めて変わった味だけど塩気がスープに合うと好評だ。

 一瞬何か閃きそうだったのに、何かが足りないのか何も閃かずに終わってきもち悪いモヤモヤがあったけれど、美味しい物を食べたらどうでも良くなった。

 むしろもっと別のものを閃きたいと思うほどだ。


「これは美味い。干した物でも作れるのか?」

「どうなんポール」

「水に晒して塩抜きすればおそらくは……。詳しくは料理長に確認します」

「分かった。よろしく頼む」


 トラウトカツを美味しそうに食べるガドルフから声をかけられたけど、ウチは作り方を伝えているだけで料理は得意じゃない。

 回答はポールに任せて食べるのに集中した。

 トラウトカツは全員に好評で、料理長にも伝えて味わってもらった。

 その代わりとしてガドルフの質問に答えてもらったところ、やったことはないけれどおそらく可能とのこと。

 近々干し肉を戻して揚げてみるとまで言ってくれた。

 結果は、戻した直後だと水分が多すぎて油跳ねが酷くなり、水分を少し出した状態で作れば味は落ちるけど作れなくはなかった。

 味をどうにかできないかと相談されても何も思いつかなかったけど。


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