川遊びの塩梅
釣りは諦めた。
ウチには向いてない。
スライム倒すことに専念するべきや。
ミミはまだまだ釣りをするらしく、岩場に置いてきたから、アンリと合流して川遊びをすることにした。
「アンリさん何してるん?」
「これ」
「おぉ!沢蟹やん!」
「いっぱいいる」
「ウチも捕まえる!……あぁ〜冷たくて気持ちええなぁ〜……」
アンリの横に置いてあった木桶の中には、小さな沢蟹がちまちま歩いてた。
ウチを見て爪を伸ばそうとしているのもいる。
可愛いやつめ。
アンリと一緒に川辺の水草や石を退けると、慌ててどこかへ行く虫や小魚がいる。
うねうねと蠢くみみずなんて可愛いく、アリやダンゴムシもたくさんだ。
そんな風に探索しつつ川に手を突っ込むと、ひんやりとして気持ちよかった。
「お。小魚なら捕まえられるわ」
「わたしもできる」
ウチは手のひらを閉じて逃げられない状態にしただけだが、アンリは身体強化をして高速で掴んでいるだけだ。
加減を間違えれば握り潰しそうだと思ってしまい、素直に感心することができなかった。
この後も川辺で沢蟹を取り、木桶がいっぱいになったから別の遊びをすることにした。
「川にはいる?」
「うんにゃ。先に水切りやろう」
「水切り?ナイフでは厳しい。ベアロの斧が有利すぎる」
「何を想像してるん?」
「水を真っ二つにする」
「ちゃうちゃう。石投げて水面を跳ねさせる遊びや。水を真っ二つにしてどないすんねん」
「逃げ遅れた魚が獲れる。あと、水の攻撃を受けた時に役立つ」
「そんな魚の獲り方あるんか……。水の攻撃は……まぁ、できるに越したことはないやろうけども……」
そんな会話をしつつも、手頃な平べったい石をいくつか拾い、その一つをアンリに渡す。
受け取った石をしげしげと眺めているアンリを横に、川に向かって横回転するように石を投げた。
勢いの少ない石は、2回跳ねたことがギリギリわかる挙動で水の中に沈んでいく。
ある意味想定通りなことだったけれど、跳ねたから満足である。
「やることはわかった」
そう言って石を投げたアンリの手は、ウチには見えないほど早く振られていた。
気づいたら投げ終わっていたぐらいの力で投げられた石は、川面をピシシシシと小さな水飛沫と、跳ねた後の波紋を描き、最後に大きく跳ねて沈んだ。
川の半分とは言えないけれど、ウチと比べるまでもなく遠くまで投げられた。
比べる対象が悪いかもしれないけれど。
「身体強化したん?」
「もちろん」
「もちろんなんや」
「物を投げるなら強化するべき」
「遊びやねんけどな。ウチに合わせてくれてもええんやで?」
「わかった。しないで投げる」
新しい平べったい石を受け取ったアンリがもう一度投げる。
今度はウチにも見えた。
投げられた石はピシピシと跳ね、最後には連続した波紋を残して沈んでいった。
身体強化をして投げた半分ぐらいの距離だけど、やっぱりウチと比べる必要もないぐらい飛んでいる。
この後は、水切りを見ていたミミとキュークスも参加して楽しんだ。
結果はもちろんウチが最下位で、ミミが3位。
身体強化をすればアンリが一位だけど、しなければキュークスが一位という、言葉にしづらい順位だった。
身体強化の有無で結果が変わるのは実践に近くて良いとキュークスは呟いていたけれど。
「うぉぉぉぉ!釣りは合わん!おらぁ!」
川辺でミミの足の具合を見たりして過ごしていると、突然ベアロの大声が響き渡った。
釣りをしていた人たちも含めて周囲の人たちはベアロに視線を向ける。
当のベアロは服を岩場に脱ぎ散らかして、下着だけになると川へダイブした。
身体強化をして飛び込んだベアロは、腹から川に落ちて大きな水飛沫を上げる。
それに巻き込まれた魚が岩場に数匹打ち上げられて、ついでに釣り人が濡れる。
飛び込む場所は釣りをしている人の下流にするという、気を使ったのか使ってないのかわからない所だったけれど、結局濡らすという迷惑はかけてしまっていた。
それに対して謝るガドルフに、周囲の釣り人は大笑いだった。
暑い中少し水がかかった程度なら問題ないからだろう。
「そこだぁ!うぉぉぉぉ!」
そんな状況を生み出したベアロは、腰まで浸かった状態で水中を睨み、魚に向けて自慢の腕を振るう。
腕の先にいた魚は宙を舞い、上流にある釣り人が集まる岩場に飛んでくる。
魚に向けてガドルフが跳び、空中で捕まえると木桶に入れる。
そんなコンビネーションの思わず拍手する釣り人とウチ。
キュークスから話を聞くと、遠征中の川辺でも同じように魚を獲って食べるらしい。
食料を現地で取る能力は、請負人に必須だ。
ウチにはできないけども。
「ウチもやってみたけど無理やろなぁ」
「エルは水に流される?」
「どうやろ。濡れたくないと思えばお風呂のお湯も避けられるしなぁ……。やってみよか」
「ミミも川で遊べば良いわ。いざとなればわたしとアンリが助けられるし、下流にはベアロもいるから大丈夫よ」
「わかった。ミミ行こ」
「はいだよ!」
いそいそとブーツと服を脱いで上半身裸、下半身は薄手のドロワーズになると、川へと向かう。
まずは川辺で水に足を突っ込み、冷たさを味わう。
手で触った時と同じようにひんやりと気持ちよく、指先の間を流れる砂でくすぐったい。
ここで濡れたくないと思うと、水がウチの足を避けるように流れ、冷たさが一気に減った。
お風呂と同じ現象だけど、ウチを避けて流れる水は見ていて気持ちが悪い。
ミミも足元を覗き込んで首を傾げつつ眉間に皺を寄せるくらいだった。
「あぁ〜。いい温度や〜」
「お風呂じゃないんだよ〜」
首まで浸かり、髪を周囲に広げるウチと違い、ミミは器用に手足を小刻みに動かして浮いている。
なんというか、可愛らしい動きだ。
これも泳いでるうちに入るのだろうけど、大人が勢いよく泳いでる姿と比べると、溺れかけにも見えてしまう。
顔はひょっこり出ているから、強い波が来ない限りは大丈夫だろう。
「ウチも泳いでみよかな。ミミどうやってるん?」
「え?うーん、首に力を入れて水より上に出しつつ、手足をバタバタさせてるだけだよ。あ、手で浮こうとして、足で進もうとしている感じだよ」
「ふんふん。やってみるわ」
ミミに教えてもらったことを意識して顔を水につける。
途端に顔を覆う不快感。
顔を上げれば息ができるのはわかっていても、顔を水で覆われることがとても嫌だった。
そして、ウチが嫌だと思った時点で固有魔法は発動している。
結果、ウチは川底にうつ伏せになってしまった。
「エルちゃん?!」
「大丈夫や……。想定外やけどな……」
ウチの周りに水はなく、ウチの背中から水面に向けて空気が通る道ができている以外は水に覆われている。
正しくは水中ではないけれど、水中から見る川はキラキラ輝いていて綺麗なものだ。
・・・つまり、ウチが泳ぐためにはもうちょい気を強く持たんとあかんいう訳やな。




