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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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159/305

見習い迷宮騎士をペチペチ

 

 数日屋台をしているとセーラを筆頭にゾロゾロと迷宮から出てきた。

 帰還魔法陣ではなく迷宮からだ。

 わざわざ道を戻ったのだろうけど、訓練とは恐ろしいものだ。

 あの1段1段が大きな階段を登るなんて考えられない。

 大人でも降りる時にバランスを崩しそうな階段は誰向けなんだろうか。

 誰に聞いても最初からそう作られていたとしか返ってこなかった。

 そういうものらしい。


「おかえり〜」

「おぅ!後で注文内容をまとめたものを持って行かせるから!」

「は〜い!」


 セーラたちを見送ると、天幕で着替えを済ませたお兄さんが羊皮紙の切れ端を持って戻ってきた。

 帰りに何を食べるか聞いていて、それをメモしていたそうだ。

 有能。

 この一言に尽きる。


「セーラさんから話のあった見習いとの訓練なのですが、明日は問題ないでしょうか?」

「ウチはええけど、そっちはええの?疲れてへん?」

「このぐらいで疲れていては騎士は務まりません。仮に疲れていたとしても、その状態で戦えるように、せめて逃げられるようにならなければなりません」

「確かになぁ。じゃあ明日で」

「場所は請負人組合の訓練場でお願いします。2の鐘です」

「はーい」


 受付ではなく直接指名依頼がきた。

 そもそも組合には魔石を売りに行く時ぐらいでしか行ってないから、とても助かった。

 依頼者側の手続きはよく知らないけど、受けたことが報告されてから日程調整だろうか。

 護衛依頼だと集合日付やかかる日数も指定されていたから、そっちのパターンかもしれない。

 そうして屋台を済ませた後に組合へ顔を出し、指名依頼を受けて翌日となった。


「おはよー」

「おぅ!今日はよろしくな!」

「よろしゅー……セーラさん縮んだ?」

「あぁん?お前の方が小せぇだろうが!組み手の誘いか?乗ってやるぞボケが!」

「うわっびっくりした!いきなりキレるやん」


 凄い顔で睨まれたし、眉間に刻まれた皺の数を数えられそうなほど近い。

 ウチとセーラだともちろんセーラの方が高いけど、訓練相手の見習いの中には同じぐらいの背の子がいるぐらいだ。

 むしろ1人には差を空けられて抜かされている。

 ウチはいつも屋台越しに見ていたから、踏み台を使っていた。

 今日は初めて踏み台なしでセーラを見たから、余計に小さく見えたんだと思う。


 ・・・あの1人だけ大楯持ってる子ホンマに大きいなー。見習いかどうか怪しいぐらいや。表情は穏やかで落ち着いとるなぁ。


「ちっ。あたしの背をバカにしてきたやつはぶっ飛ばしてんだよ。2度目はないから気をつけろ」

「はーい」

「本当にわかってんのか?たくっ……次はねぇぞ。じゃあ始めんぞ!見習いは班ごとに集合!1班は模擬戦の準備!相手は固有魔法持ちだ!心してかかれよ!」

「はい!」

「ほら、行け」

「はーい」


 セーラの指示で5人の見習い騎士が訓練場の広いところへ移動した。

 それに対するようにウチも移動する。

 5人はそれぞれ木製の剣と丸盾を持ち、鎧やヘルムは自前のものを装着している。

 前に3人、後ろに2人。

 後ろの2人は剣を抜かずに弓を持っている。

 ウチはボーラと棒を腰から下げて、久しく使っていないハンマーで戦うつもりだ。

 最後はハリセンで叩くけど。

 そんなウチを見て驚くかと思いきや、すでにセーラや副官のお兄さんと話しているところを見られていたからか、しっかりとウチを見据えて構えていた。

 見た目に油断するようなことはないようで、そこは請負人とは違うのだと思う。


「では、始め!」


 お兄さんの合図で模擬戦が始まる。

 後ろの2人が弓を引き、放つ。

 前の3人の間を抜けた矢尻まで木で作られた訓練用の矢は、ウチにガッと当たると折れながら上に跳ね返る。

 これに動揺するかと思いきやそんなことはなく、次の矢を番ている間に3人が駆けてくる。

 矢が通じるかは関係なく、こういう戦法を教え込まれているようで、先頭の1人は折れた矢を不思議そうに見つつ走ってきていた。


「せいっ!」

「大ぶりだな!」


 ハンマーを縦に振る。

 担いで振り下ろしているから、相手から見ると簡単に避けられるだろう。

 思った通り振り下ろしたハンマーは地面を叩き、目の前には勢いを殺して足を止めた見習いが1人。

 その左右からウチを囲むように2人が迫り、間からまた矢が飛んできた。

 弾かれた矢はまた折れたけど、ウチの動きを邪魔する位置に飛んでくるせいで体が一瞬固まる。

 その隙を狙い、左右の2人が木剣を振り下ろしてきたけれど、ガンッと音とともに弾かれて木剣を取り落とす。

 1人は痺れた手をもう片手で掴むほどだ。


「隙ありや!」

「ぐっ!」


 動きが止まった1人に向けてハンマーを突き込むと、息を吐き出しながら後ろに大きく転倒した。

 正面の見習い騎士が逸らそうとハンマーを横から叩いたけれど、それは弾かれて逆に手に衝撃を受けている。

 隙だらけだから続けて横に振ったけれど、気づいて避けられた。

 その間に体勢を立て直されて、また3人に囲まれる。


「う〜ん。やっぱこれやな」

「なんだそれ?!」


 ハンマーを手放して、ハリセンを出した。

 金色に輝くハリセンを見て驚いたのは、相対している見習い騎士だけでなく、セーラや訓練場にいた他の請負人たちもだった。

 それを正面の見習い騎士に向けて振る。

 咄嗟に木剣で防いだけれど、流していた魔力が叩かれたことで散り、体の調子が一気に崩れたことに合わせて体勢も傾く。

 そこに1発ハリセンを当てると、正面の見習い騎士は気を失った。


「1人!」

「はぁ?!」

「おい!どうした!」


 隣と後ろの方から驚いた声が上がる。

 スパンという痛いけど痛くなさそうな音を立てたと思ったら、そのまま崩れ落ちたのだから当然だろう。

 驚いていない人への攻撃は避けられるはずだから、驚いている方へとハリセンを振る。


「くっ!……な?!なんだこれ?!うっ!」

「2人や!」

「くそ!」


 流石に驚いていたとはいえ、自分に向けてハリセンが迫ると丸盾で受けられた。

 しかし、その後の魔力が散ることには耐えられず、がくりと体勢を崩したところにハリセンを一閃。

 乾いた音を響かせると、ぐらりと倒れていった。


「おりゃー!」

「うっ!しまった!」

「ほい3人目ー」


 ハリセンが危険なものだと認識されたことで避けられ続けたけど、咄嗟に盾で受けてしまう。

 バランスを崩せばウチのもの。

 力の入らない丸盾を持っている方から頭を叩けば、がくりと地面に倒れて終わりだ。


「残りは2人やな〜」

「放て!近づかれたら剣だ!」

「あぁ!」


 ニヤリと笑いながら遠くの2人を見ると、慌てて矢を放ってきた。

 しっかりと狙えてないことが、ウチに当たらないことでわかってしまう。

 今のうちにと走って距離を詰めるも、相手も距離を空けながら矢を放ってくる。

 結局、手持ちの矢が無くなるまで放たれてしまったけれど、固有魔法のおかげで何本か直撃したものは折れるだけで終わった。


「そこまで!」

「え?途中で終わるん?」

「手の内全てを一度に見せる必要はないでしょう?」

「あー……そういうもんなん?」

「その方がこちらの訓練にもなりますので」

「わかった。ちょっと休憩ちょうだい」

「はい。どうぞ」


 このまま後衛の2人を気絶させなければと思ったけれど、副官のお兄さんに止められた。

 手の内を見せないのもそうだけど、ウチの場合離れていく2人を追いかけるだけで一苦労だし、残りの模擬戦に響くだろう。

 提案に感謝して水を飲みながら休憩しよう。

 その間に気絶した3人に、水をかけたり頬を叩いたりして起こすようだ。

 この後の模擬戦を見学させて学ばせるらしい。


「では、始め!」


 2戦目を行った。

 結果は1戦目とほとんど同じで、構成も一緒だった。

 3戦目は前衛が2人、後衛が3人となり、ウチより先にボーラを投げて動きを封じようとしてきたけれど、もちろん弾かれる。

 逆にウチが投げようとしたボーラは、投げる前の振り回しは止めることができなくて、止めようとした剣ごと腕に絡みつく結果となった。

 後はハリセンで叩いて終わり。

 4戦目は前衛1人に後衛4人編成で、前衛は盾と槍。

 後衛が矢やボーラ、投げ槍などで遠距離攻撃を仕掛けてきたけど全部弾く。

 無理やり近づいて2人を気絶させたところで終わった。

 5戦目は全員遠距離になり、ウチが追いつけなくなって終了。

 誰もが消化不良という感じだった。

 ウチ含めて見学者も。

 そして最後となる6戦目は、体が一際大きい子がいる班で、当然のように大楯を構えて先頭に立っている。

 他の4人も接近戦をするために剣と丸盾を構えて、いつでも始められる。


「始め!」


 大きな体の子は剣を持たず、大楯を両手で持ってウチの前へと走ってくる。

 他の子と比べて足が長いのもあり、すぐに間を詰められた。


「おりゃ!」

「ぐぅ!耐えたぞ!」

「おぉ!やるやん!」


 迫ってきた大きな子に向けてハリセンを叩きつけると大楯で受けられると、流していた魔力が弾かれて体がそれに釣られる。

 さらに流していた魔力が無くなることで違和感もあるはずだけど、この子は大きくのけぞるも耐えた。

 その間に他の子がウチを囲み、左右や後ろから木剣を叩き込んでくる。

 小さな女の子であるウチを囲んで木剣を叩き込むなんてと思いつつも、固有魔法で弾かれた隙を狙ってハリセンを振る。


「ぐっ!」

「え?なんで?」


 当てたと思ったら大きな子だった。

 正面から移動してきて割って入ってきたらしい。

 しかも、体に当てたのにまだ耐える。

 驚いているうちに体勢を立て直されたけど、その後も他の子たちを守るように立ち回られた。

 結果としては、途中で頭を叩くことができて気絶し、その後残りの4人も気絶したけれど。

 頭以外を叩いても体の魔力が散るので気絶する。

 それを数回とはいえ耐えたのは凄いと思う。


「ありがとな!これで依頼は終了だ!」

「めっちゃ疲れたわ……。6回も模擬戦するのがこんなにしんどいとは思ってなかった……」

「あ〜、もっと体力つけたほうがいいぞ。まぁ、無理しない程度にな。そんじゃ、お疲れさん」

「今日はありがとうございました。これが依頼書です」

「おおきに〜……」


 返事するのがやっとな状態で訓練場を後にして、依頼の完了報告をしたらゆったりとした足取りで帰る。

 うつらうつらと寝そうになりながら昼食とお風呂を済ませたら、部屋に戻って寝る。

 さすがに屋台を手伝い体力は残ってなかった。


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