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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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157/305

迷宮騎士見習い訓練

 

 やってきた30人くらいの兵士は、食事スペースの横にある広場に整列した。

 5人が6列並び、その正面には向かい合うように6人が立つ。

 その6人の後ろには2人が追加で並んだ。

 全部で38人。


 ・・・40人ぐらいおったんか。何しにきたんやこの人ら。何も揉め事とか起きてへんで。


 ビシッと並んでいる5人6列の30人はみんな子どもで、体格のいい悪いで凸凹しているものの、一際大きい1人以外は大体請負人見習いを卒業したぐらいだ。

 大きい1人は大人とほとんど変わらないぐらいで、他の子が丸い盾を持っているのに、その子だけ縦長の大きな盾を持っているけれど、防具の鎧は請負人と同じような丸みのある上半身鎧に、ヘルム。

 小手と膝当てにブーツにと全員がそれなりの装備で統一されている。

 そんな6列の前に並んでいる6人は大人で、子どもたちと比べると作りのしっかりした鎧を着ていて、所々に装飾が入っている。

 その6人の後ろにはガッチリした体型の男の人が1人と、アンリよりも体の小さい一見子どもと間違えそうな背丈の、赤い髪を肩で切り揃えている女の人が立っていた。

 立ち位置を見る限り、赤い髪の女の人が1番偉いようだ。


「おい、足場」

「はっ!」


 ガッチリした人が手に持っていた足場を、女の人の前に置く。

 そこに登ることで女の人はガッチリした人と同じ高さになった。


「てめぇら!これで行きの移動訓練は終了だ!この後は班ごとに天幕を立てて就寝準備!食事は屋台!明日は休みで明後日から小迷宮訓練を開始する!いいか!あたしの管理下で死ぬことは許さねぇ!死ぬならてめぇらの責任で死ねっ!わかったな!」

「はい!」


 女の人の問いかけに、子どもたちが揃って返事をする。

 どうやら訓練で来たようだけど、言い方がなかなかに酷い。

 もう少し優しく説明してあげてもいいだろうと思っていたら、傍に控えていたガッチリした人が前に出る。


「隊長の指示通り、まずは天幕の組み立てをしてください。道中と同じです。監督騎士はその後の指示もお願いします」


 その言葉が終わると、子どもたちは馬車に積まれている天幕の部品を取り出し、広場に組み立て出した。

 それを6人の監督騎士と呼ばれた人たちが見ている。

 そんな光景を商品を渡したり、注文を受けながら見ていると、女の人とガッチリした人がこっちに歩いてきた。


「いい匂いさせてんなぁおい!ここは何を出してるんだ?」

「へいらっしゃい!お好み焼きやで!メニューはこれ!」


 ウチは屋台の前に垂れ下がっているメニューを指さした。

『野菜スペシャル』『肉スペシャル』『トマトスペシャル』『キャベツ焼き』の4つがある。

 さらに今焼いているポールの手元を指して商品の説明もした。


「あたしは肉スペシャルを……3枚だ!やっぱ肉だろ!」

「自分はトマトスペシャルと野菜スペシャルを1枚ずつお願いします」

「はいよぉ!肉スペ3!トマスペ1!やさスペ1!」

「はいだよ!」

「威勢がいいじゃねぇか!やっぱ勢いがなきゃな!それよりお前も肉食えよ!移動中は干し肉ばっかだっただろ!」

「だからこその野菜です。それに、自分が頼んだものにも肉は入ってますよ」

「かーっ!ほんとああ言えばこう言うな!」

「ありがとうございます」

「褒めてねぇよ!たくっ」


 女の人はやれやれと首を振ると、食事スペースへと移動した。

 出来上がった物は男の人に持って来させるようだ。

 どっかりと椅子に座り、右足を左足の上に乗せる。

 さらにはテーブルに肘をついて、手の上に(あご)を乗せて天幕が建てられていく様子を見ている姿は、騎士というよりチンピラだ。

 ガラの悪い請負人よりも見た目は整っている分迫力があり、切れ長の鋭い目は、周囲を睨みつけているようにも見える。


「なぁなぁおじさん」

「おじさん……」

「お兄さんの方が良かった?でも、なんか落ち着いてるし、苦労もしてそうな顔やもん」

「苦労……まぁ、してないとは言えないですね」


 チラリと赤い髪の女の人を見て言った。

 さっきのやりとりを見ても、あの人を支えていくのは面倒そうだ。

 それでも上になるほどの何かがあるのだろうけど、それは見てるだけではわからない。

 ウチからすると、どう考えてもこの人の方が強そうに感じる。


「それで、何か聞きたいことがあるんですか?」

「そうそう。お……兄さんたちは何する人なん?兵士?」

「おや?ここで働いていて迷宮騎士を知らないのですか?ライテ小迷宮伯も何人か任命しているはずですが」

「え?ここにもおるん?あんま気にしてないから見落としてたんかなぁ」

「いや、迷宮騎士は貴族の近くを守っているので、普段は見かけないはずです。もしかしてライテには外から来たのですか?」

「せやで」

「なるほど。この街に住んで短いのですね。では、せっかくなので料理ができるまでお教えしましょう」

「おおきに!」


 お兄さんが迷宮騎士や街を守る兵士などについて教えてくれた。

 まず、兵士は巡回と門番が主な仕事で、領主が平民を雇っている。

 街で喧嘩などが起きると兵士が呼ばれて処理にあたる。

 そして騎士は準貴族扱いの貴族に任命された仕官のことで、仕事内容で武官や文官などに分かれる。

 騎士として武勲を立てることで、貴族になる可能性もある職業だ。

 迷宮騎士の場合は同じ騎士の中でも迷宮に関する仕事をしていて、その任命は迷宮伯にしかできない。

 主な仕事は迷宮都市の貴族街に対する治安維持と、迷宮内の秩序を保つことで、パーティ単位で活動する。

 子どもたちが5人1組になっている理由がそれだった。


「へー。あ!準騎士ってことは偉いんやんな。ウチの言葉遣いまずない?」

「準なので平民と一緒なので大丈夫ですよ。あなたは子どもですし。それに、貴族と平民の間に挟まれている橋渡しのような存在なのです」

「はー。大変そうやな」


 平民の要望や貴族の指示に挟まれそうな立場だ。

 それに見合った報酬はあるのだろうけど、ウチはなりたいとは思わない。

 請負人として自由に過ごせればいい。


「そんな迷宮騎士の人たちはこれから訓練するん?」

「はい。迷宮騎士の家や、迷宮都市に住む武官の貴族の子からなる見習いを、迷宮の中に連れて行って実地訓練です。小迷宮を使うのが決まりなんですよ」

「おー。ん?もしかして別の迷宮都市から来たん?」

「えぇ。自分たちは……」

「肉スペ3つにトマスペとやさスペです!」

「おっと。また機会があればお話ししましょう。待たせると怒られるので」


 お兄さんの話をポールのお好み焼きがぶった切った。

 お好み焼きの木皿が乗った2つのトレイを持って、頬杖をついてあくび混じりに作業を見ている女の人のところへ持っていく。

 ナイフとフォークも付いているので、置かれたと同時に手に取り食べ始めた。

 水は自前の水生みのコップを使うようだ。


「お!うめぇじゃねぇか!匂い通りだな!肉もリトルボアだし、キャベツも歯応えがあってうめぇ!何より味がしっかりしてて酒が欲しくなるぜ!」

「まだ任務中です」

「わぁってるよ!何度も言われたからな!」


 お兄さんに言い返しながらパクパクと食べ続ける女の人。

 言い方や座り方は乱暴だけど、食べ方はとても綺麗で、綺麗に切って落とさず食べている。

 請負人の中にも食べ方が汚く、色々落とす人たちがいる。

 そういった人は言葉遣いも荒いから、女の人もそうだと思ってしまったけれど、そうではなかった。

 座り方はワイルドなのに、ナイフとフォークは美しく動く。

 そんな不思議な光景をチラチラ見ながら店番をしていると、天幕を建て終わったようだ。

 訓練だと言っていたので、その手際は慣れたものだった。


「それじゃああたしは小迷宮伯様に挨拶してくるかな〜。準備は整いましたってな」

「普通は最初に連絡をするものですよ」

「今回は見習いがいたんだからしゃーねーだろ。全員部下だけならあたしもそうしたよ」


 よっこらしょっとと立ち上がり、トレイに乗った皿を屋台の横にある返却ボックスに入れる。

 そして小迷宮伯のところへ向かうのかと思いきや、ウチのところにやってきた。


「うまかったぜ!」

「おおきに!」

「でだ。頼みがあるんだ」

「頼み?」

「あぁ。あいつらが注文したらツケにしてくれないか?明日払うからさ」

「ポール。ツケってやってるん?」

「大量注文の場合はやってるから、受けても問題ないぞ。ただ、お互い注文した数を間違えないようにメモする必要があるけど」

「らしいけど、ツケ使う?」

「あぁ。両方に記録を残すのは当然だな。じゃあそれで頼む」


 お互いに小さく切られた羊皮紙を用意して、繋ぎ合わさる部分に絵を描く。

 合わせたら一つの絵になり、偽造防止になる。

 本来は貴族が紋章の印を押すことだけど、ウチらには紋章なんてものはないから絵で対応している。

 これは小さな商店でも行われているやり方だ。

 そうして羊皮紙の片割れを受け取った女の人は、天幕を建て終わった集団に屋台のことを告げると、お兄さんを連れて迷宮の外へと続く道へと進んでいった。

 そして、それを見送った見習い騎士やその監督騎士は、屋台の列にサッと並ぶ。

 どうやら上司の奢りで食事を楽しむようで、全員ソワソワしている。


 ・・・しばらく休憩は取れそうにないな。しゃーない。店番頑張るで!


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