表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

156/305

スライムフィーバー

 

「いや、なんでやねん」


 目の前にはスライム階層へと続く階層主部屋の前にある広場。

 その片隅には机と木箱に請負人組合の職員。

 その奥には『溶解液吸い取るくん』と『雪払い』の魔道具を改良して作られた魔道具がたくさん並んでいる。

 机の前には貸し出される魔道具を受け取る請負人が並び、その横には街の魔道具屋が修理・組立担当として控えている。

 そこには新品の箱と筒がたくさん並び、布を掛けられた大きな箱もある。

 作業台にはぼろぼろになった箱や半分以上溶けた筒があって、ある程度見たら廃棄用の大きな箱に投げ入れていた。

 ウチが試すことなく実践投入されてしまった結果だった。


「残念だったな魔石狩り。せっかくの儲けるチャンスが俺たちにまで流れちまって」

「いや、それは別にええねんけど、何でこうなったん?ウチ何も聞いてへんで?」

「そりゃあれだよ。迷宮伯の圧力ってやつさ。どうやらスライムクッションの要望が抑えきれなくなったらしいぞ。だから、とりあえず皮が取れるなら改良は後回しってことで、素材集めを急いでやることになったんだ。お前さんはずっと屋台に居たから依頼が出たことを知らないんだろう」

「そんなことになってたんかー」


 ウチはジャイアントスライムの復活時期になったから潜っただけで、魔道具についての話は聞いていなかった。

 掃除の依頼もなかったから、ずっと屋台で手伝いをしていたせいだ。

 何かあれば声がかかるだろうと考えていたウチより、ライテ迷宮伯にかかるプレッシャーは大きかったようで、とりあえず皮が取れるとわかった時点で実践投入を決めている。

 雪払いの魔道具を改良したものの効果は実戦で確かめるようで、魔道具貸し出しの際に説明されているのを横で聞いた。

 ちなみにここでは、外の組合で受けたスライムの皮採取(魔道具貸し出し有り)を受けた人に、魔道具を貸し出してスライムの皮を回収していた。

 ノルマは1台につき3ビッグスライム分。

 4体から吸い出せば問題なく取れる量で、雪払いの魔道具を改良した物を使えば、ほぼ丸々1体分取れるそうだ。


「じゃあウチはスライム倒さんと進んだ方がええんかな?魔道具使われへんし」

「今のところ通常のビッグスライムのみが狙われているため、スライム階層の2層目からは請負人の数が一気に減ります。そこからは倒しながら進んでいただいて問題ないでしょう」

「わかった。おおきに」


 人が途切れたタイミングで、貸し出し受付をしていた組合の女性に聞いた。

 どうやら属性付きは、その属性の攻撃をしてくるため普通のより危険で、魔道具で手が塞がっているとうまく動けないこともあり、素材採取の対象外になっている。

 魔力を流すとその属性が発生することからも、扱いづらいと認識されているのもある。

 クッションに使って、張りを戻そうと魔力を流しすぎて火が出るなど洒落にならないからだ。


「今日はウチ1人やし、サクッと魔石集めてくるわ〜」

「風の魔石は買取額が上がっているのでおすすめです。今後のこともあるので、多めに集めていただけると助かります」

「ほーい。出会ったら優先して叩くわー。じゃ!」


 受付のお姉さんに手を振って階層主部屋へと向かう。

 まだ復活していないから素通りしてスライム階層へと大きな階段を降りて進む。

 いつもの道を通っていくと、何組かのパーティが溶解液を吸い取っていたり、皮を切り取っているところに遭遇した。

 中には風を送り込んで、溶解液がほとんど無くなったビッグスライムを、ぷっくりと膨らませているパーティもあった。

 膨らんでいるところに剣を刺すと中の空気が抜けるから、一気に切り裂く必要はあるけれど、膨らむことに抵抗するのに必死で、皮に手を触れても取り込まれないようだ。

 その隙に一周切れば、後に残るのは迷宮の外にいる普通のスライムよりも小さくなったビッグスライムで、魔石をうまく取り出せば終わり。

 底に残った溶解液でわずかに残った皮が溶けて消える。

 この方法で手に入れた皮が1体分になる。


 ・・・膨らますの楽しそうやな。膨らんだ状態でクッションにしたいぐらいや。なんというか、ぶにっとしつつも体を包み込んでくれるような気がするわ。


 結局スライム階層の地下31階では、一度も戦うことなく地下32まで来ることができた。

 それだけ多くの請負人がビッグスライムの皮を取る依頼を受けているからだけど、ドレアスたちは同じ魔道具作りで忙しくなってそうだ。

 ウチなら嫌になる仕事で、せめて繰り返すにしてもある程度体は動かしたい。

 そう考えるとジャイアントスライムを倒すのは、なんとか続けられている。

 風景は変わり映えしないし、1人だと寂しくなるのは変わらないけど。


「危ない!」

「ん?」


 地図を見ながら歩いていると、横の道から声が聞こえた。

 続けて視界の端で何かが弾ける。

 青白い光だったから、恐らく雷の魔法だと思う。


「だ、大丈夫か?!」

「問題ないで!バッチリや!」


 声がした方向からすごい勢いでいかついおじさんが走ってきた。

 おじさんはウチの前に膝をついて、頭をジロジロ見てくる。

 せっかくポーズを決めたのに、全然信じてもらえていない。


「いやいや!頭に直撃していたぞ!」

「ちゃうねんちゃうねん。固有魔法で傷ついてへんねん。落ち着いてや」

「へ?は?ほ、本当に?」

「ホンマやで。綺麗な髪やろ?さらさらやで」


 雷が当たったとしたら、少なくとも焦げたり縮れたりしているはずの髪を、ふわっとする。

 綺麗な金髪がさらさらと流れるところを見て、ようやく無事だと納得してくれたおじさんは、ほっと表情を和らげていた。

 ちなみにウチ状態を確認するために手を伸ばしていたけど、迷宮で汚れた手で触られるのは嫌だと思ったから、固有魔法で弾かれている。


 ・・・なんかごめんな。


「安心したぞ……。それで、どうしてこんなところを1人で歩いてたんだ?仲間はどうした」

「今日は1人やで。ジャイアントスライム倒しにいくねん」

「は?まだ子どもだ……もしかして魔石狩りか?」

「そう呼ばれとるな」

「そうか。なら大丈夫か。気をつけろよ」

「おおきに。おじさんは何でここにおるん?属性付きより普通のスライムの皮求められてるんやろ?」


 このまま別れてもいいけど、属性なしのビッグスライムではなく、属性ありを狙っている理由が気になった。

 今も道の先では、魔道具を突き刺して膨らませることで、黄色い大玉になったスライムを切ろうとしているおじさんのパーティメンバーが見える。


「あー。普通のやつは他の請負人が取ってるからな。取り合いになるんだ。だから、俺たちは今使い道がなくても、この先何か使えるかもしれない素材を集めてることにした」

「なるほどなー。でも、依頼を受けたらその分取らんと怒られるんちゃうん?」

「依頼を受けてたらな。俺たちは魔道具を購入してスライム狩りをしてるんだ。魔石と道中の素材を売れば赤字にはならないし、属性スライムの皮が売れるようになれば一気に金が手に入る」

「それを狙ってるんか。いい使い道ができるとええな」

「そうだな」


 おじさんと別れて迷宮を進む。

 今度は攻撃を受けないとはいえ、気を抜かずに曲がり角の様子を確認しながらだ。

 どうせ少ししたらいつも通りの歩みになるだろうけど、あんなことがあった後だから気合いを入れる。

 そうして出会うビッグスライムをハリセンで叩きつつ、いつも通りジャイアントスライムまで辿り着いた。

 そこでもいつも通り近づき、振りかぶったハリセンを一閃。

 後は魔石を回収して帰るだけだ。


「ふぁ〜。まだお昼前か……。ミミと昼食とろかな。お?あれはスライムの皮か。えらい量やな〜」


 陽の光を浴びながら帰還の魔法陣から出ると、その近くで請負人組合の職員が荷車を押していた。

 引っ張る人も押す人も身体強化しているはずなのに、その移動はゆっくりだった。

 荷車にこれでもかと乗せられたビッグスライムの皮。

 山のようにというか、ウチからすると山に見えるぐらい高く積まれている。

 2回に分けた方が絶対に効率が良いはずだけど、強化すればいけると思ったのかもしれない。

 ゆっくりでも進んでいるから、近い場所にある組合までなら何とかなりそう。

 荷車の限界が先っぽいけど。


「儲かりまっか〜?」

「今日も売れてるぞ!」

「そりゃ良かったわ」

「その割には嬉しそうじゃないけど、どうしたんだ?」

「いや、なんでもないで」


 屋台『エミール』に向かうと、今日もお好み焼きを焼いているポールが返事をしてくれた。

 しっくりこないことにもにょもにょしたけど、ポールが悪いわけじゃない。

 ウチが期待しすぎただけだ。

 教えてもいないし。


「落ち着いたらミミと昼食行ってええ?」

「いいぞ。もう少しかかるだろうけどな」

「じゃあ、ウチも手伝うわ」

「エルが入ると客が増えるんだけどな……。呼び込みのせいで」


『エミール』は下拵えのミミ、焼きのポール、呼び込みと受け渡しのウチで作業が分かれている。

 ウチがいない時はミミが受け渡しをして、呼び込みはポールがする。

 今からウチが呼び込みをすると、さらに客が増えて仕事が落ち着くまでの時間が増えると指摘された。

 大人しく受け渡しだけすることにする。


「へいお待ち!」

「ありがとうだよ!

「トマトスペシャルで」

「トマスペ1ー!」

「相変わらず元気だな……」

「元気は客商売の基本やろ!……お?なんやなんや?」


 ミミとポールに挟まれて商品を渡したり、注文を受けたりしていると、揃いの鎧を着た一団がやってきた。

 ウチらの屋台は奥まったところにあり、周囲が空いているため机や椅子を用意して食事スペースを作れるぐらい空いている。

 そんな場所に30人ぐらいの兵士らしき人たちがやってきたら、少し驚いてしまう。


 ・・・ウチ何もしてへんで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ