スライムに石を突き刺した
「土に草に石ころ。エルちゃんの顔より大きい岩に棒状の岩と木。あと毒物を少々準備してきたよ!」
「ウチの顔より大きいって、チェリッシュさんも一緒ぐらいやん」
「童顔って言ったな!」
「童顔とは言ってないやん!」
「気にしてるんだぞー!このこのー!」
「効かへんで〜」
「ずるいぞー!」
チェリッシュに追いかけられたから逃げたけど、すぐに追いつかれ、顔をもみくちゃにしようと手を伸ばしてきた。
しかし、チェリッシュの反撃は固有魔法に阻まれてしまい、見えない壁をこねて終わってしまう。
本気で怒っているわけではないから笑顔でじゃれあい、落ち着いたら迷宮へと入った。
「よし!まずは石や土を乗せるところから!エルちゃんお願いね!」
「任せときぃ!行ってくるわ!」
チェリッシュから土と石を受け取り、普通のビッグスライムへと近づく。
伸ばしてくる触手は固有魔法に阻まれるため、気にせず手が触れる距離まで近づき、振りかぶって土を投げつける。
ピシピシと当たった土は、ほとんどが表面にくっ付き、やがて取り込まれた。
量が少ないために一瞬で溶け、地面に落ちた土も移動して一瞬で取り込み、すぐに溶かす。
石も投げたけれど、受け止められた後に取り込まれて溶かされる結果となった。
「じゃあ次は置いて試してね」
「はーい」
今度は投げるのではなく、進路上に置く。
チェリッシュの予想では取り込まないはずらしく、結果はその通りになった。
ウチを追いかけながら土や石の上を通ったけれど、多少動きはするものの残ったままだ。
それが干し肉に変わると何故か取り込まれてしまったから、ウチには何がなんだかわからなくなった。
考えるのはチェリッシュとジーンに任せて、置くことと投げつけることに専念する。
「やっぱり生態は外と変わらないね」
「干し肉は吸収されましたし、草も抜いたものは吸収されてます。次は土から草が生えているものを置いてもらいましょうか」
「それもありだね。他には加工して日数がたったものや、アンリさんに見てもらって魔力のない物とかも」
「ですね。魔力の有無はポイントになるかもしれません。吸収されない物を投げると吸収するのはどう説明しましょう。前回と同じでしょうか」
「同じでいいんじゃないかな。今回のパターンは少ないけど、前と一緒だし」
過去の記録とも照らし合わせて2人で話しているところを、ウチとスティングが護衛している間に、アンリがスライムを凍らせて皮を集める。
氷の魔石はライテ小迷宮伯から組合に渡されているもので、皮の納品を行うなら出してもらえる。
その代わり、一定量を収めない場合は失敗とみなされ、依頼失敗に対する保証金意外にも罰金が発生する上に、魔石を持ち逃げしていないか荷物検査もされる。
氷の魔石を売るだけで儲けが出ることから、そういった対策が決まっていた。
「スライムに意思があるのか、本能なのかはわからないけど、土や石が置かれている場合吸収しないのは、そういうものと認識しているからだろうね。じゃないと移動できなくなるよ」
「足場やから食べへんってこと?」
「そう。干し肉は置いてても吸収したよね。これは足場として見てないから。途中で試した草の生えた土の塊も、土と繋がっているから吸収しない。でも、草単体だったら吸収する。木も土と繋がっているかが判断基準かな。これは外の普通のスライムも一緒」
「へー」
「土や石でも投げられたら落ちても取り込んでたが、あれはどうなんだ?」
「スティングさんも気になるんだね。あれは外敵に対する反射行動だと考えているよ。目の前に何かが飛んできたら目を瞑ったり、手を動かしたりするでしょ。そういう本能的な行動だね」
「なるほどねぇ。防衛本能とかそういうやつか」
「そうそう。そんな感じだよ」
なんとなくでしかわからなかったけれど、とりあえず置いてある土と石は食べられないことは理解した。
何か投げればそれも取り込むことも。
つまり、木でも石でもスライムに突き刺した時点で溶かす対象になるということだ。
これでは魔道具を作ってもすぐに溶かされるだろう。
そう考えているウチやスティングと違って、魔物研究家のチェリッシュたちは、更に溶かされにくい素材を探したり、魔力を流すことでどのように変わるかも検証し始めた。
「草より木、木より石、石より岩という順で溶かすのに時間がかかったよ。大きさを変えてみても溶かす時間は伸びた。さらに魔力を込めるともっと伸びるから、素材はできれば石で魔石を嵌め込んで魔力が流れている状態にすればいいかもね〜」
「はー。そうなんかー」
「エルちゃんあんまりわかってないよね?」
「せやな。その辺は作る人が気にすればええねん。せやから、調べるにはチェリッシュさんの仕事や」
「そうだけど……気にならない?」
「あんまり」
「そっかぁ……」
チェリッシュはしょんぼりしながら羊皮紙に色々なことを書き込んでいく。
それをジーンが見やすいようにまとめていた。
「素材はなんとかなるとして、どうやって溶解液取り出すんやろか」
「それはジュナスさんが魔導国の師匠に問い合わせた結果次第だね。溶解液を効率良く出すとしたら……大きな穴を開けるとか、中に入れてから膨らませて押し出すとかかな〜」
「おー。たしかに大きな穴開ければ溶解液いっぱい出るもんなー」
調査の中で、切り取った大きさごとに塞がるまでの時間を計測するというものがあった。
もちろん大きく切れば切るほど塞がるまで時間がかかるけど、切り取った部分はすぐに魔力が抜けて、流れてきた溶解液で溶かされる。
つまり、皮という素材が無駄になってしまう。
魔道具を作るとしたら、できるだけ小さな穴で大量の溶解液を取り出す必要があるけれど、言うだけでなら簡単でもどうすればいいかさっぱりわからない。
「とりあえずジャイアントスライム倒して帰ろか〜」
「よろしくね」
流石にジャイアントスライムでは細かい調査を行うことはなく、置いたり投げたりといった簡単なことだけ済ました。
結果はビッグスライムと同じだったから、特性は変わらないと判断された。
そうして迷宮から帰った翌日のんびり過ごしていると、ジュナスから資料が届いたと関係者の元へと組合職員が報せに来た。
魔道具を作るのならウチは関係ないと思っていたのだけど、テストをするのはウチかアンリになるはずということで参加する。
・・・試作品が爆発しても無傷になる可能性が高いウチと、魔力の流れを見れるアンリは適任なんやな。面白い物やったらええんやけどな〜。あと大きさはウチでも持てるやつがいい。デカすぎると運ばれへんし。
「僕が出した手紙の返事が来た。それを魔道具技師に公開しようと思う」
「ありがとうございます」
「簡単にまとめると、雪払いの魔道具を改造すれば溶解液はどうにかできそうだ」
「雪払いってなんなん?」
「おや?そういえばこちらはあまり雪が積もらないのだったね。いいだろう。君にはこの僕が教えてあげよう」
魔道具の話ということで口を開いたドレアスを手で制したジュナスは、返事の羊皮紙をドレアスに渡すとウチへと向いた。
迷宮の中ではないので少し偉そうで、ちょっと頭が悪そうなあのジュナスだ。
「雪払いの魔道具はね、降り積もった雪を風を使って吹き飛ばすものなのさ。街中で火を使うのは火事の恐れがあるから、雪を風で吹き飛ばして道を確保するのさ」
「へー。でも、吹き飛ばした先に雪増えるだけちゃうん?」
「そうだね。でも、その先が空き地なら火を使えるから、そこで溶かして終わりというわけだ」
「なるほどー」
そしてその魔道具を改造すると、吹き飛ばすのではなく吸い込む魔道具が出来上がると、魔導国から返事が来ているそうだ。
ドレアスは羊皮紙に書かれている内容を読みながらぶつぶつと呟き、顔を上げた。
「素材のことを考えなければ数日の試作で吸い込む魔道具は作れます。ひとまず普通の素材で作り、その後にビッグスライム用に作るのはいかがでしょう」
「それでいいんじゃないか。僕も報告書で読んだだけだから吸い込む方の実物は見たことがないんだ」
そんなやりとりを経て、翌日には吸い込む方が完成した。
雪払いの魔道具の中身を変えるだけで完成するため、元の魔道具を作ったことがあるドレアスなら簡単に作れたようだ。
そして、関係者が街の中にある空き地に集まると、ドレアスが作った魔道具が運ばれてくる。
それは、座ったウチぐらいの箱から金属の筒が伸びている物だった。
筒は大人の頭が入りそうなほど大きな穴が空いていて、本来であればそこから風を出すことになる。
今回のものは逆に吸い込むけれど。
「それじゃあ動かします!近づかないでください!」
ドレアスは言いながら、箱の横についている風の魔石を押し込んだ。
すると、ごぉぉぉぉという音と共に箱が見てわかるぐらい振動して、周りの砂や石を吸い込み始めた。
カンコン、ジャラジャラと石や砂がぶつかる音も鳴り、空き地にある軽いものがどんどん吸い込まれていく。
アンリが徐々に近づいて行くと、まだ距離があるにも関わらず、服の裾が旗めいてバタバタと騒がしくなる。
なかなかの勢いがあることが見てわかるけど、ウチが近づくと固有魔法のおかげで、少しの風を感じる程度にしかならない。
それはどれだけ近づいても変わらず、ウチがビッグスライムに向けて試作品を使うことが決定した。
・・・なんとなく近づいただけやねんけどなぁ。




