スライム対策魔道具会議
スライムクッションが作られてから10日経った。
試作されたスライムクッションは、ベルデローナの確認の後、全てライテ小迷宮伯に献上された。
そう、全てである。
結果、ウチの元に残ったのはベッドに使うジャイアントスライムの皮と、サイズが小さくて使えなかったスライム皮の切れ端だけだ。
献上されたクッションは全て、更に上の貴族や王家に献上することになっていて、ライテ小迷宮伯もクッションを楽しめないということで納得してくれと、クッションが奪われた時にベルデローナに言われている。
その代わり、献上先にはしっかりと「氷魔石がないと素材が手に入らない」と伝えることで、今後の素材収集を行いやすくする。
暑い時期に氷の魔石をたくさん購入している貴族たちから使う魔石を譲ってもらうために、まだ数が少ないクッションを惜しみなく出すことで、物欲を刺激する戦法だった。
「暑い中よく集まってくれたね。まずは飲み物でも飲んで、一息入れな」
そんな説明をしてくれたのは、もちろんベルデローナで、今も目の前にいる。
場所は請負人組合の小会議室。
10人が座れる円卓に、ウチと保護者としてアンリ。
チェリッシュとジーンの魔物研究家コンビ。
魔道具技師のドレアスと、その息子のマリアス親子。
さらには魔導士見習いのジュナス・アルトランもいる。
他には会議の内容を記録する組合の事務員がいる。
「説明した通り、ビッグスライムの皮に価値が生まれた。その結果、ライテ小迷宮伯が素材集めにせっつかれ始めた。しっかり根回しをせず動いた結果がこれだ。あんた達も根回しはしっかりするんだよ」
・・・そういう話なん?もっとこう……なんか、いい感じの話やないん?
「幸い氷の魔石をある程度分取ってきたようだから、組合から魔法使いに直接依頼を出すことになった。アンリとジュナスは受けられるから、気が向いたら受けな。目標はもちろんビッグスライムの皮だね」
「はい」
「わかりました」
「それじゃあ、集まってもらった本題といこうじゃないか」
ベルデローナは飲み物を一口飲んでから、円卓に付いている全員を見回す。
ドレアス親子が呼ばれていることから、魔道具関係ということはわかる。
そして、ウチも呼ばれたということはスライム関係だろう。
「簡潔に言うと、スライムを倒す魔道具についてだ。まずはドレアス、進捗はどうだい?」
「まだ構想段階だな。移住のばたつきは収まりましたが、まだまだ注文が多くてあまり手がかけられないのが現状だ。そもそも対象のスライムすらまだ見てない。だから、問題点も何もわかってないな」
「ほとんど手がつけられてないということかい」
「そうとも言うな。はっはっは!」
「まぁ、ゆっくりやれば良いと伝えていたのは領主側だからね。まさか数ヶ月でここまで需要が高まることが起こるとは……予想外だよ。本当にいつもいつも……」
半目になってこめかみを押さえるベルデローナ。
どうやら色々続いてお疲れ気味のようだ。
今度作る予定の甘いものでも差し入れようと決めた。
「チェリッシュたちに聞きたいのは、凍らせる以外でスライムの皮を手に入れる方法はないかと、実際にビッグスライムやジャイアントスライムを見た結果、効率的な狩り方がないかを聞きたい」
「効率的な狩りならエルちゃんですね」
「エル以外だと?」
「圧倒的な火力で魔石を一撃!ぐらいしかないと思います。あるいはスライムの体内に何かを突っ込んで、魔石だけを抜き取る武器を作るとかですね」
「ふむ。そういう手もありか。皮を手に入れる方法については?」
「普通サイズのスライムなら、持ち上げて真ん中に穴を開ければ溶解液が流れ出るから、ほとんど無くなった時点で上の方を切れば、ある程度皮を取れるかもしれないですね。あ、魔石が出ない程度の大きさしか開けられないので、結構時間がかかりますよ。ただ、この方法でもビッグスライムを相手にするだけで相当力が必要です。ジャイアントスライムは持ち上げられるわけないですし……」
「液を取り出す方法はエルが変質したスライムに対して行った方法と同じだね。人手があれば何とかなりそうなのは助かるよ」
トマトスライムたちを相手にした経験がここに活かされた。
あの時も騒ぎになったなぁとのんびり考えていたら、表情から把握されたのか、ジロリとベルデローナに見られた。
しかし、今のところウチに要望はないから、気を引き締めることはできず、ぼーっと話を聞く。
ウチにできることもないから、そのまま寝てしまうかもしれない。
「ジュナス。あんたには魔道具の知識を出してもらいたい。スライムの溶解液を取り出す魔道具はないかい?」
「う〜ん。血抜き用の魔道具を研究しているところはあったけれど、まだ実用化されてないね。それに、スライムに使うとしたら溶解対策が必要になるから難しいだろう。溶かされない素材があれば良いのだけど、そういった物は自然と高くなる」
ジュナスが言った溶かされない素材というのは、元から魔力を多く含んだ素材のことだ。
例えば階層主の体の一部だったり、魔力を帯びた鉱石になる。
魔物の素材ならば攻撃や防御に使う大事な部位は硬かったり、すぐに再生したりする。
そういった部分は素材になっても良く魔力に反応し、壊れにくくなったり、再生する効果が付くこともある。
特別な素材ゆえに出回っておらず、たとえ階層主を倒してもそこまで強い素材かどうかは手に入れるまでわからない。
そんな素材を使って作るのがスライムを倒すための武具だとしたら、事情を知らない人から笑われることになる。
そもそもその素材を得ることすらできないし、出たとしても高額すぎて買えないけれど。
「貴重な素材以外でスライムが溶かしにくい素材ないん?」
「魔力で強化しながら突き立てる武器ぐらいだね。それも溶解液を付けたまま魔力を切れば溶けていくよ」
「ふ〜ん。じゃあ、スライムが食べへんもんないん?」
「スライムが食べないもの?草やゴミ、鉄なんかも溶かすから……岩?あと地面を這ってるからから土かな?」
「木は?」
「倒木を溶かしているスライムを見たことがあるよ。生きてる木に取り付いて溶かしているのは見たことないけど、木に成っている果実や葉っぱを取り込んでいるのはいたかなぁ」
「へー。じゃあ土と岩で魔道具作ればええんかな?」
「検証が必要だけどね。石や土を上に落とした時に溶かしたこともあるから」
ウチの質問に答えてくれたのはスライムに詳しいチェリッシュだった。
今までの調査で出会ったスライムの情報や、何を与えてみたかなども話してくれた。
その結果、普段は這うだけの地面や岩でも、場合によっては溶かしていることがわかり、まずはどういった条件で溶かしているのかを調べることとなった。
それは自分の仕事だと目をキラキラさせているチェリッシュを、ジーンが固有魔法で押さえる一幕がありつつも、話は何とかまとまった。
木や岩を使った魔道具についても製作経験があるらしく、ドレアスは素材が決まれば教えてくれと笑っている。
どんな魔道具があるのか気になるけど、それは今度お邪魔した時に聞くことにした。
「あとは溶解液を取り除く方法かー。いっそのことスライムが一気にバシャって出してくれたらええのに。あるいはこっちから吸い出すとか」
「吸い出す……」
「ん?ジュナスさんなんか思いついたん?」
「いや、引っかかりがあるだけさ。僕から師匠に案がないか手紙を出してみるよ」
「おー。おおきに」
思案顔で視線を逸らすジュナスが何に引っかかっているのかわからないけれど、良い案が出れば良いと思う。
心の中でジュナスの師匠を応援しておく。
そこからは各自の持つ情報交換のようなことが行われたけれど、スライム用の魔道具に繋がることはなかった。
途中からただ迷宮について話すだけになったし。
・・・とりあえずチェリッシュと調査やな。それにアンリさんが付いてきてスライムの皮を集めると。ジュナスさんも皮集めするらしいし、早くクッション欲しいわ。あれ?ウチいつも通りやん。




