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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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スライム緩衝材

 

 新しいレシピはパンケーキの熱が落ち着いた頃に着手することにして、まずは氷の魔石を使ったスライムの皮採取に挑戦だ。

 ちなみに、熱が落ち着くのは物理的な熱ではなく、盛り上がりのことである。


 ・・・新商品で盛り上がりすぎやねん。味も増えてたし。パンケーキで焼いた肉挟むとか反則やろ。塩と糖のバランスが絶妙やったわ。肉を別焼きにして皿に添えるのも凄い発想やった。肉が好きで体をめっちゃ動かす請負人には最適や。


「さぁ!スライムの皮を取りに行くよ!」

「チェリッシュさんウチより元気やな」

「ビッグスライムの皮がどうなってるのか知れるチャンスだよ!それに、属性付きのスライムの皮なんて手に入れたこともないし!気になるよね?」

「ウチに聞かれても……。皮が取れたらなんでもええよ」


 興奮気味のチェリッシュとジーンを連れて、アンリとスティングと迷宮へと潜る。

 スライムの皮採取をするなら呼ばないといけないとアンリの言われ、そうすると護衛としてスティングもついてきた結果だ。

 アンリを連れてパッと行って、皮を取ったらパッと帰ろうと思っていたけれど、調査もするならお試しじゃなくて数を取ることにした。


「それじゃあやる」


 スライム階層まで問題なく進むことができた。

 ウチはジーンに背負われて速度重視で。

 そして、属性のない普通のスライムに相対したアンリは、氷の魔石を放り投げて、そこに魔力を流し込む。

 魔石から押し出された魔力は、とても冷たい冷気となって、ビッグスライムに降りかかる。

 ウチにはわからないことだけど、魔力の流し方で効果が変わるため、凍らせるだけというのは難しいそうだ。

 普通に魔力を流すと氷が作られて、それをぶつけてダメージを与えるのが一般的な使い方となる。


 ・・・魔力が見えるから上手いこと調整できるんやな。さすがアンリさんや。スライム凍らせたいねんってだけでパッとできるの凄いわ。


「凍った……はず」

「確かに見た目は凍ってるな。中は……ようわからんな……」

「中が凍ってなくても表面が取れるなら問題ないよ。ただ、空いた部分から溶解液を吹き出してきたり、触手を伸ばしてくるけど」


 ナイフの柄でコンコンと叩きながら教えてくれたチェリッシュ。

 ウチらの目の前には、凍りついて表面が白くなり、動かなくなったビッグスライムがいる。

 その凍った表面にナイフで切り込みを入れ、金槌で柄を叩く。

 できるだけ皮だけを剥がしたいから、慎重に作業を進める。

 もちろんウチは見ているだけだ。


「難しい」

「どこまで皮か分かりづらいな。いっそのこと中身まで完全に凍らせたら気兼ねなく刺せるかもしれへんな」

「それ採用」


 どこまで凍ってるかわからないなら、芯まで凍らせてしまえと一旦離れて再度魔法を放つことになった。

 表面からナイフを突き刺しても、どこまでが皮かわからず、剥がしても表面の氷だけだったり、皮と思われる部分が半分に分かれてしまう。

 突き刺しすぎた部分はちょろりと溶解液が流れ出し、しゅうしゅうと煙を立てながら氷を溶かし始めたからお手上げだった。


「これで完全に固まった……と思う」

「さっきより中まで白いし、大丈夫やろ」

「むしろ割って魔石を回収した方がいいんじゃないかな。そして、何か枠の上に溶解液が下になるように置けば、自然と皮だけ残りそう」

「あー、確かに。でも、道具がないし、材料もないなー」

「リトルボアの骨と、スパイダー種の糸ならありますよ。壁に骨を貼り付けて引っかけたりならできます」

「それだよジーン!早速作ろう!」


 道中に拾った素材を使い、割ったスライムを逆さまに固定する道具を作ることになった。

 幸い中までしっかり凍っていたから、真っ二つにしたあと、中心にあった魔石をほじり出す。

 そして、スパイダーの糸を使って壁にリトルボアの骨の根本を貼り付け、先端が通路側に出るようにしたものに引っ掛ける。

 そのままだと断面が壁に張り付くから、上からも引っ張るように骨と糸を追加した。

 2本の骨から伸びる糸で、吊るされた割れたスライムを無理やり上向かせている。

 後は中身をどうにかするだけなんだけど、氷はどうすれば良いのだろう。

 ナイフで削るか、火を近づけて溶かすぐらいしか思いつかない。

 首を捻って考えていると、アンリが風の魔石を持って近づいてきた。


「任せて」


 そう言った直後、スライムの断面が徐々に削られ始めた。

 球形にくり抜くように風を丸めているようで、削られた氷の破片で形がわかった。

 細かい破片となった溶解液部分の氷は、床に落ちるとすぐに溶けて無くなってしまう。

 下手に火で炙ると溶解成分が毒となるらしく、それもあって風で削るようにしたそうだ。

 その知識の出どころはもちろんチェリッシュで、魔力を見ることができる能力を買われて研究協力した結果だった。


「削れるなら立てかけるだけでもええんちゃうん?」

「その場合削れた溶解液で怪我する」

「マジで?!」


 易々と削っているように見えるアンリに否定され、さらに怪我をするかもということに驚いた。

 この魔法は制御が難しく、少し気を抜いたら弾けてしまう。

 そのため、立て掛けた状態だと削られた破片が自分にかかり、体温で溶けた溶解液で自分も溶けてしまうことになる。

 そんなことはさせられないから、多少準備に時間がかかるとしても今の方法で行くことになった。


「おぉ〜。皮取れたな」

「ぶにぶにしてるでしょ。触りご心地はいいし、へたってきても魔力を流せばある程度戻るの。これはスライムが皮を動かすときの特性だね」

「せやな。ぷにぷにというより、しっかり力を受け止めてくれるぶにぶにや。魔力を流せば再利用できるのもポイント高いな」


 話しながら解凍されたスライムの皮を摘んだり引っ張ったりするウチとチェリッシュ。

 ビッグスライムの皮は普通のスライムより分厚く、よく伸びているらしい。

 アンリは武具の滑り止めに、スティングは防具の内側に貼れば衝撃を和らげれるんじゃないかと話していた。

 ジーンは早速槍やカバンの持ち手に撒き、感触を確かめていた。


「すごい便利そうやけど、なんで誰もスライムの皮集めへんの?」

「エルちゃん。よく考えて。エルちゃんがこのスライム階層で皮を集めることはできる?」

「できへんな」

「アンリさんが使った氷の魔石をこの迷宮で調達できる?」

「それは難しいな。もしかしたらどこかにおるかも知れへんけど」

「さらにここぐらいに大きなスライムなんて滅多にいないんだよ。見つけても倒すのに精一杯で皮を取ろうなんて思うわけないよ。研究家以外は」

「なるほどなー。じゃあ、スライムの皮も特産になるんやな」

「そうだね。まぁ、氷の魔石を使わない方法があればだけど」


 中まで凍らせて中身を削り、残った皮を解凍してようやく手に入れられる。

 そのためには氷の魔石と風の魔石。

 さらにある程度自由に魔力を動かすことができる魔法使いが必要になる。

 アンリが知っている範囲になるけど、ライテの街には10人ほどできそうな人がいるそうだ。

 魔力を放つことができる人自体がすくないから、その中でこれができることで絞り込むとさらに少なくなってしまう。

 できれば、魔道具で何とかできるようにしたい。


「とりあえず他の属性も集めてみる?」

「そうだね!氷の魔石は有限だから、できるだけ種類を多くしたいよ!」

「これはチェリッシュさんの研究目的ちゃうで?ウチの……ウチの……なんか、仕事的なアレや!」

「えぇ〜!ちょっとだけでも頂戴!端っこだけでも良いから!」

「まぁ、全部持っていかれへんならええけども。半分だけやで半分」

「十分!むしろ多すぎるかも!」


 今回はウチの目的のために潜るのだから、チェリッシュたちを呼ぶ必要はなかった。

 アンリから言われたのと、スライムのことについて詳しいから、せっかくなので呼んでいる。

 そのおかげでスライムにまつわる話しや、どうすれば皮だけ手に入るかを相談しながら、着々とスライムの皮を集めることができた。


「おぉ〜。水はしっとり、火はほんのり温かくなったから、風はどうなるのかと思ってたけど、サラサラと風が流れてるよ」

「じゃあ土は埃でもでるんかな?雷はちょっと痺れる?危なないそれ?」

「調べるためにも早く手に入れよう!」


 ひとまず手に入れた水、火、風の皮に、休憩の時間を利用して軽く魔力を流したチェリッシュ。

 水属性のスライムは両面がしっとりする皮になり、火属性のスライムは温かくなった。

 風属性は表面ギリギリに風が吹いていて少しくすぐったい気もする。

 これが土なら手が汚れ、雷ならばビリっとするのだろうと予想して、残り2つの属性を探す。

 いつもは道中出てこられても倒すだけなので、遭遇したスライムの属性は気にしないけれど、出会いたいと思ってウロつくと全然出てこない。

 一度に複数出てくるもっと下の会へ行くべきかも知れない。


「せっかくだからエルちゃんも魔力流してみようよ。背中に当てたら流れるんだよね?」

「せやで。じゃあ、風にしよかな」

「水だと濡れるし、火だと暑くなりすぎちゃうかもしれないもんね」


 歩きながら皮をいじくり回していたチェリッシュから提案されたから、ジーンの背中から降りて背を向けた。

 ウチ愛用の軽量袋は、修行の一環としてスティングが背負っている。

 背中に魔力を流しつつも身体強化するという、よくわからない修行だけど結構効果があるそうだ。

 自分の意思で流すけれど、一度起動すると勝手に魔力を吸うから制御が難しいとかなんとか、ウチにはよくわからない説明をされた。

 ウチは垂れ流しなので。


「じゃあ付けるよ〜」

「よろしゅ〜」

「ぶあっ」

「うわっ!なんかめっちゃ風出たで!」


 マントを被せるようにスライムの皮を乗せたチェリッシュだったけど、ウチの背中に触れたところから強い風が吹き出して、ぶわりと(ひるがえ)った。

 それを顔面で受けたチェリッシュだけど、幸いにもスライムの皮なので、顔にぶにっとしただけで済んでいる。

 ちょっと良いなと思ったので、帰ったらウチもやると決めた。


「あれ?風が出たところの色が……」

「無くなってるな。ほんで、他のところから色が流れてきとるけど、その分全体が薄なっとる」

「属性は有限ってところは魔石と同じね」

「じゃあ魔石の代わりになるん?」

「魔物素材に魔力を流せばその魔物の特性が使えたりするけど……魔石の代わりにはならないかな。例えば、魔力を流すと土の棘が飛び出る甲羅だったら、盾にしても魔力を流すと棘が生える盾になるだけだね。だから、スライムの皮に場合は伸縮が元に戻るになるだけになるんだ。属性はあくまでおまけ」

「あー、流した魔力に反応して決まった動きをする感じか。だから、魔力をそのまま通したりできんくて、魔石の代わりにはできへんと」

「そういうことだよ。やっぱりエルちゃんは賢いね!」

「せやろせやろ!もっと褒めてええんやで!」


 チェリッシュに頭を撫でられた。

 あまり背が高くないから、大人に褒められているというより、お姉さんに褒められているように見えるだろう。


 ・・・ウチに姉ちゃんはおらんけど。


 素材のことは何となくわかったから、後は他の属性の皮を集めて、変質したスライムを探した後に、ジャイアントスライムを倒すだけだ。

 そうして探すことしばらく、雷属性と土属性の皮も手に入れることができた。

 土属性は魔力を流すと、表面を土で覆って固くなった。

 雷属性はピリピリとして魔力を流している間手にくっつく効果があった。

 どちらも使い所が難しそうだけど、流す魔力を増やせば武器として使えるかも知れない。

 火属性も一瞬だけ強い火が出せたから。

 皮に含まれている魔力が抜けると無属性のスライムの皮になるため、使い捨てになるだろうけど。



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