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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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149/305

甘味パーティ

 

「しゃー!作るで!」

「おー!だよ!」

「ポール。明日の仕込みは大丈夫なのですか?」

「問題ありません料理長。煮込むだけですから後でやります」


 翌日、ポールと料理長がやる気満々で組合の厨房に立っている。

 屋台の手伝い中に新しい料理の試作をするとポールに伝えたら、迷宮帰りの請負人を捕まえて料理長に伝言を頼んでいた。

 何かを作る時は声をかけるように言明されているそうだ。

 あえて何も言わずに家で試作したらどうなるか、ちょっと興味がある。


「エルちゃーん!期待してるよー!」

「はーい!おおきにー!」


 食事処に繋がるところから、ウチに甘いものを作れないか相談しにきたエイミだ。

 彼女たちは外の依頼をこなしたあと、少し遅めの昼食としてお好み焼きを食べに来たから、試作するから試食をお願いしたんだけど、即答だった。

 他にはアンリとキュークスも試食担当として、のんびり座って待っている。

 受付担当や書類仕事をしている人たちも、例に漏れず期待しているはずだけど、それは料理長が練習としてたくさん作るのを回してもらおう。

 どうせ食べきれないほど焼くことになり、お好み焼きと同じように、食事処に来た人へ日替わりとして出すことになる。


「じゃあまずは小麦粉に卵を割り入れ……割り……割り入れ……」

「俺が変わろう」

「おおきに……」


 木製のボウルに小麦粉を目分量で入れ、卵を割ろうとしたけど上手くヒビが入らない。

 勢いが足りないのかと、卵を掴んでいる手を高く上げたら、ポールに止められた。

 そして卵を受け取り、片手で簡単に割り入れた。

 悔しくなんてない。

 それぐらいミミもでき……昨日ミミは両手で割っていた。

 卵を扱った経験の差だろう。


「あ。卵は黄身の部分だけ入れるねん。白身は別のところに移しといて。殻を使えばできるやろ」

「こうか?」

「そうそう。これは別で使うで」

「わかった」

「ほんで、黄身だけを小麦粉に入れて、牛乳も入れて、ドロドロになるまで混ぜる」

「混ぜる……ヘラでいいか?」

「それしかないんか。じゃあ今度泡立てる道具作らんとな」


 ポールが木べらでひっくり返すように混ぜ始める。

 専用の道具ではないから時間がかかるだろう。

 それを見て思い浮かんだ道具は、コテを作ってもらった工房に依頼することにした。


「ダマにならんよう満遍なく混ぜてな。ちょっとシャバシャバしてるから小麦粉足そう」

「わかったんだよ」


 ミミに小麦粉を入れてもらう。

 さらに卵も追加して、牛乳も少し入れて、また小麦粉を入れて混ぜたところで、ようやくいい感じのドロドロになった。

 意図せず分量が難しいということが全員に伝わってしまった。


「あとはこれを油引いたフライパンで両面焼くだけ。焼いたらハチミツや果物ソースかけて食べんねん。できれば生地作ってる時に砂糖入れたいけど」

「砂糖の代わりにハチミツでもいいのか?」

「ええんちゃうかな。入れすぎ注意やけど」


 話しながらもポールはフライパンに油を引き、木製のお玉で生地を落とす。

 いい音と共に香ばしい匂いが漂い、屋台終わりのお腹を刺激する。

 その横では料理長が作り置きの果物ソースを並べながら、同じように生地を作っている。

 料理長は先にハチミツを入れることにしたようで、ヘラで混ぜながら生地の状態を確認しつつ垂らして入れていた。


「エルちゃん。この白身はどうするんだよ?」

「それも混ぜる……うーん、泡立てるのが正しいねんけど、道具がなぁ〜。フォークを紐で縛って混ぜてみよか」

「よくわからないけど、わかったんだよ」


 ミミはフォークを紐で束ねて、かちゃかちゃとボウルに入った白身を混ぜる。

 足の身体強化をする都合で腕も少し強化されているから、思った以上に腕の動きが速い。

 その結果、少し疲れを見せたものの、ポールと料理長が全ての生地を焼ききったぐらいに、角が立つほど泡立てることができた。

 そこにハチミツを入れてさらに混ぜてもらうと、白から薄い黄色になった。

 それをオーブン用の鉄板にスプーンで垂らし、料理長に焼いてもらう。

 カリッと焼けたら取り出して、固まってたら完成だ。

 見極めはプロに任せることにした。


「この混ぜたやつを生地に混ぜると出来上がりが少しふわっとするかもしれん。もちっとかな?なんかそんな感じ」

「ハチミツは?」

「入れる前で」

「わかった。そっちも試してみる」


 ポールは自分で卵白を泡立てて、次の生地に入れて焼きはじめる。

 やはり身体強化していれば早く腕を回すことができて、それによって泡立てるのも早くなるようだ。


「よし、焼けましたよ。これはどうするものですか?」

「そのまま食べるねん。ふーっ……ふーっ……。うん!美味い!ほろほろ崩れていくのがええな!ハチミツ入れたから程よい甘さとハチミツの香りや!ミミ、ミミ、あーん」

「あー……。美味しいんだよ!溶けて無くなったんだよ!」

「これはお茶請けにいいですね」

「卵白泡立てて焼いたらこんなものができるのか……美味い」


 調理した3人と指示したウチで味見をした。

 我慢できなかったから。

 たくさん焼いた小麦粉と牛乳の方は、試食に来た人たちと一緒に食べるつもりだ。

 こっちの味見はポールと料理長がしていて、食べたらしばらく動かなかったから大丈夫だろう。

 ウチとミミが卵白を泡立てている間、無言で1枚ペロリと平らげていたから。


「おまちどーさん」

「わぁ〜……なにこれ?お好み焼きの具なし?でも、香ばしくていい匂い……」

「白いこれは石?河原に落ちてるのに似てる」

「お好み焼きちゃうで。パンケーキや。ほんで、白いのはメレンゲクッキー」

「へー」

「ホットケーキにはハチミツか、料理長が作ったフルーツソースかけても美味しいで」


 ミミとポールに協力してもらって、試食組のテーブルへ、パンケーキとメレンゲクッキーが乗った皿を運ぶ。

 ウチは1度に1枚、ミミは両手で1枚ずつの2枚だけど、ポールは手だけじゃなくて腕にも乗せて4枚運んでいる。

 自分たちの分も運び終わったら早速食べ始める。


「うっま!柔らかくてめっちゃ食べやすいし、料理長のソースヤバいわ!これはあれか、塩入れてるんか。あと、なんか香り付けしてるな。わからんわ」

「美味しい!相談して1日でこれってどういうこと?」

「恐らく固有魔法か食いしん坊」

「どっちも有りそうね」

「本当に美味しいわ。これならお茶会でも出せるかもしれないわね。見栄えを良くする必要はあるけど」


 エイミたちは、食べながら好き好きに話していた。

 パンケーキはとても好評で、これなら定期的に食べたいと言ってくれた。

 ちなみに、ウチにとって食いしん坊は褒め言葉である。


 ・・・美味しいものと可愛いものは正義やねん。間違いないねん。だから仕方ないねん。


「エル。これは家でも作れるの?」

「できるで。作るのはミミになるけど」

「そう。ミミ、また今度作ってくれる?」

「はいだよ!キュークスさんは気に入ったんだよ?」

「そうね。これはとても良いものよ」

「わたしはこっちが好き。探索する時に持っていきたい」

「残念ながら日持ちせえへんねん。時間経ったら萎んでパサパサになる」

「そう……」


 アンリはパンケーキも気に入ったけど、メレンゲクッキーの方が好きだった。

 しかし、メレンゲクッキーは保存に向いていないから、依頼を受けた際の長期間持ち歩けない。

 残念そうなアンリを見て、保存できる甘いものも思いついたけれど、それを作るのは今度にした。

 なぜなら、今ウチらが食べているのを見た他の請負人が、厨房に向けて食べたいと告げ始めたからだ。

 これによってトマトパスタの時と同じように、新しいもの好きな請負人がこぞって注文し始める。

 料理長はこれを見越していたのか生地の準備を済ませていて、1皿5枚のパンケーキで大銅貨2枚という、実にパン200個分の値段で売り出した。

 それでも問題なく売れるのだから、料理長の腕は凄い。

 ちなみに、卵と牛乳が原因で値段が高くなっている。


「ウチは3枚でいいわ」

「これが夕食なんだよ」


 ウチは2枚で限界だったけど、ミミはなんとか5枚全部食べることができた。

 だけど、これでお腹いっぱいになったから、夕食は食べられない。

 残した分はアンリとキュークスが食べてくれたけれど、2人は夕食を食べるそうだ。

 塩っけがほしいらしい。


「エルさん。また何かあれば是非!組合とポールによろしくお願いします!」

「なんかあったらな〜!」


 混んできたから試食組と共に組合を出た。

 今回のレシピに対して金貨2枚を貰い、さらにはライテ小迷宮伯の料理長へと伝える許可もほしいと言われたから、喜んで許可しておいた。

 卵や牛乳がこんなに早く手に入ったのは料理長の判断だから、これがお礼になれば良いと思う。

 ちなみに組合も畜産区画に出資しているらしく、いつもは職員の賄い分しか受け取らず、残りは放出していたものを、今後は様子を見ながら量を調整することに決まっていた。

 街を挟んだ壁の外側に牧場などを作れたら少しは流通するようになるけれど、迷宮伯は街だけが領地となるため、壁の外を開墾するには他の貴族に許可を取らなければならない。

 さらに、せっかく開墾しても迷宮伯領とは認められないから、行うことはないそうだ。

 そのための畜産区画だった。


「お願いを聞いてくれてありがとう!」

「パンケーキは屋台で出さないんですよね?」

「あれは作るの面倒やからなー。組合に任せるわ」

「仕事終わりに甘いものが食べられるようになるのね。それなら面倒な仕事でも頑張れるわ」

「大銅貨2枚でも安い。それぐらい街の仕事でも稼げる」

「稼いだお金が全部甘いものになるわよそれじゃ」


 同じく組合を出たエイミたちにお礼を言われたり、今後のパンケーキの予定を話してから別れた。

 思ったより盛り上がってしまったけれど、家に帰れば夕食前のガドルフとベアロが温い水を浴びた後だった。

 そしてお腹いっぱいなのにパンケーキを焼くことになったミミ。

 ウチは別のレシピを書き出して過ごす。

 ガドルフとベアロはパンケーキに驚いてくれたけど、味付けは甘くするよりも塩っけを欲しがった。

 結果、溶かしたチーズをかけたり、炙った干し肉を添えることになった。

 これもキュークスとアンリには好評で、食べ過ぎを心配したけれど、翌日は問題なく動けていた。


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