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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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147/305

甘いもの食べたい


「ねぇエルちゃん」

「まいどお姉さん!いつもおおきに!ご注文は?」

「あ、えと、トマトスペシャルを1つと、野菜スペシャルを3つください」

「トマスペ1つー!やさスペ3つー!」

「はーい!だよ!」


今日はウチへの指名依頼もなく、ジャイアントスライムも倒したばかりなので屋台に出た。

すると、良くお好み焼きを買ってくれる女性だけの4人パーティの人から声がかかった。

料理はミミとポールに任せているので、出来上がるまでウチが話しても問題ない。

幸いにもお姉さんたちで一区切りのようだし。


「で、どないしたん?」

「このお好み焼きってエルちゃんが考えたんだよね?他にもトマトパスタとかイノカツとかも」

「せやで。お気に入りの感想言いに来てくれたん?」

「それも良いんだけどね。今日はお願いがあってきたんだ」

「お願い?ウチに?……掃除?」


ウチへのお願いといえば基本的に掃除依頼になる。

グッと力を込めるだけで頑固な汚れが落ちるのだから、おばさんたちからウチの一部が欲しいと言われることもある。

もちろん冗談とわかっているか「大金貨やで!」と冗談を返して笑い合う。

最近では組合の片付けに駆り出されて、物をどかした後をウチが掃除するというお願いもあった。

お願いなので報酬は食事や野菜などの現物支給だけど、短時間で終わるものばかりなので暇つぶしに丁度いい。

1日作業であれば依頼にしてと突き返すよう、組合長のベルデローナにも言われている。


「掃除は自分たちでできるから大丈夫」

「そっかそっか。ほんなら何かあったん?ウチが解決できそう?」

「たぶんエルちゃんにならできると思う……。あれだけの料理を考えたんだから」

「と言うことは料理関係かー。できるかなー?」


閃きがないと何もできないから、お願いが聞けるかわからない。

材料を見たら何か思いつくかもしれないので、「これを美味しくできないかな?」みたいなお願いだったらチャンスはありそうだ。


「実は……甘いものが食べたくて……」

「甘いもの」

「そう。甘いもの」

「ハチミツ漬けはどう?最近色んな乾燥果物漬け込んだやつ出てるやん。あれを軽く炙ったパンの上に乗せて食べたら美味しかったで」

「アレにはお世話になってるよ。迷宮や森の中で安全な甘いものは癒しになるからね〜。そういえばあのハチミツ漬けもエルちゃんだよね?」

「まぁ、せやな。ハチミツに漬けると腐りにくくなる効果もあるし。あと、ハニービーのハチミツは濃すぎるねん」

「そう!そこが問題なの!果物やハニービーじゃない甘い物が食べたいの!エルちゃん何とかして〜」

「なんとか言うてもなぁ……」

「はいだよ!トマスペ1つにやさスペ3つ!」


話している間に焼き上がったお好み焼き。

それをミミがお盆に乗せてお姉さんへと差し出している。

お代の銅貨20枚を受け取り、屋台の内側にある木造りのケースに収納すると、ミミは洗い物に向かった。

お客さんの少ないうちに焼き貯めるのはポールの仕事のようだ。


「あー……ウチもキャベツ焼き買って向かうわ。先行っといて」

「ごめんね。よろしく」


お姉さんたちは、いつも同じ机を使って食事をとっている。

もちろん空いてなければ別の場所に座るけれど、基本1番奥にある静かなところを選んでいるから、ほぼ空いている。

そこは屋台のスペースはあるものの、奥まっているから借りてはおらず、今のところ飲食スペースになっている迷宮を囲む壁際だ。

ウチは屋台が出てから追加された新メニューの『キャベツ焼き』を買って、そのお皿を持って机へと向かう。

『キャベツ焼き』はキャベツ以外の野菜がなく、肉も入っていないシンプルなもの。

運動する請負人向けなので大きさこそそれなりだけど、値段は銅貨3枚と安め。

スペシャルは全て銅貨5枚で、比べると2枚も安く、見習いやポーターから評判がいい。

ちなみにウチの店とはいえ、商品にはお金を払っている。

ミミとポールが食べる分は経費だけど、ウチは従業員じゃないので。


「せっかくきてもらったからこれを」

「おー。スープおおきに」


机のところまで行くと、普段4脚しかない椅子が5脚に増えていて、空いた1つにはスープが置かれていた。

ウチの好きなゴロゴロ野菜スープだ。

以前どこのスープがおすすめか会話したから、それを覚えていてくれたのだろう。


「ほんで、ハチミツ漬け以外の甘いものやっけ?」

「そうそうそうそう!ハチミツ漬けが悪いとは言わないわ!あんなに簡単なのに今まで無かったことが不思議なくらいよ!でも、たまには違うものも食べたいのよ!」

「砂糖は高価だから貴族や豪商しか口にしてないし、そもそも市場に出回ることすら稀。流れてきても高級だから買えない」

「と言うわけで、何か思いつけばいいなと思って声をかけたの」


女性のパーティメンバーが口々に話しかけてきた。

屋台を手伝っている時にたまに話す程度なので名前すら知らず、装備からどんなパーティなのか想像するぐらいだ。

なので、自己紹介をした。

向こうはウチのことを知っているけれど。

屋台で話しかけてきたのはパーティリーダーの剣士で、剣と盾を使って堅実な戦い方をするエイミ。

テンションが高い人は没落した商人の娘で、大きな剣と大きな盾を軽々振り回す前衛として、パーティの壁役を担っているカレリーナ。

砂糖の情報を教えてくれたのは、パーティ1の甘いもの好きな弓と短剣に罠と多彩なモリー。

最後に話したのはおっとりお姉さんで、片手で扱える盾とメイスで殴る戦い方をするパトネ。

ちなみ皮鎧を着ていてもわかるほど胸が大きい。

他の3人はどっこいどっこいだった。

髪はカレリーナだけがくすんだ金色で、他は濃い薄いはあれど茶色系。

目の色はみんな明るい茶色っぽく見える。


「砂糖があればなんでも甘くなるけど、そういうのとちゃうんやんな?」

「そうだね。できればもう少しお手軽なやつがいいかな」

「銅貨ではなくてもいいのです!大銅貨1枚でも、甘いものなら手に入れる価値があります!」

「激しく同意!それを食べるためにお金を稼いでもいい!」

「あらあら。わたしも食べれるなら食べてみたいわ」

「うーん……」


市場を回って見たことはあるけれど、砂糖を見かけたことはない。

甘味といえばハチミツで、それ以外だと果物になる。

果物は街で食べる分にはお手頃だけど、迷宮や遠出する依頼には向かない。

甘味を欲して帰ってきても、それしかないからテンションも上がらないようだ。


「むー。せめて牛乳があればなー」

「牛乳?」

「そう。牛の乳」

「それはわかるよ。牛乳は保存が難しいから厳しいね」

「後は卵もほしいなー。市場にもない時の方が多いし」


卵は屋根裏部屋や庭で鶏を飼っている家があるおかげか、少数ながらも市場に出回る。

それ以外だと畜産を主にしている村から馬車で運ぶことになり、どうしても揺れるため大量に出回ることがない。

木箱の中に(わら)や草を敷き詰めても、街道を進んでいる時や、積荷の上げ下ろしで割れてしまう。

牛乳は産地が離れていることもあり、壺に入れて運んでも街に着くころには痛んでしまう。

村から村を徒歩で1日、馬車で半日程度空けている弊害だろう。

かといって密集させると食料の管理や、魔物への対処が難しくなる。

ウアームで卵がある程度取り扱われていたのは、迷宮がない村なので、付近の畜産を主にしている村と交流があったのも大きい。

基本迷宮のある街の近くは麦を育てている村で囲まれている。

畜産は魔物になる可能性もあるから離れた場所で育てる決まりなのと、魔力が濃い方が色々美味しくなるので、主要街道から離れたところで行うそうだ。


「卵も量が欲しいなら、卵に合わせた専用の箱作れば運べそうやけど……」

「卵専用の箱?どういう形?卵の形に凹んだ型を用意するの?」

「それもありやな。ウチが思いついたのは箱の中に凹みと隆起した部分があって、それで卵を包み込む感じや。素材は……外は硬くてもいいけど、中が柔らかいほうがええな」


凹に卵を入れて、逆さまにした凹で蓋をする。

それを繋げて作れば卵をセットできるはずと、地面に枝で絵を描いて見せた。


「柔らかいものか……皮とか?でも、加工したら硬くなるよね」

「うーん。スライムの皮は柔らかかったけど、変異したやつしか皮とれへんねんなぁ」


ビッグスライムですら普通の種類だと属性付きでも溶解液で、それが漏れ出さないよう薄い膜しかない。

上手くやれば取れるかもしれないけれど、体から切り離した時点で、付着した溶解液で溶けてしまうのが現状だ。

変質したスライムの場合、容器液ではなくなった液が重くなるからか、漏れ出させないように皮が分厚くなる。

さらに切り離しても溶解液ではないから溶けることはないのだ。


「スライムは凍らせると皮も取れると聞いたことがあるわ」

「へー。どうやって凍らせればええん?」

「魔法かしら。むしろ魔法以外ないわね」

「せやんな。水の魔石で凍らせられへんかな〜」

「水は水よ。氷の魔物がいれば氷の魔石が手に入るかもしれないわ。だけど、ライテ小迷宮では極々稀な属性ね」

「他のところならおるん?」

「北にある塔の小迷宮と、山の中迷宮には氷属性の魔物が出るよ。あと大迷宮にも」

「ふーん。なら、その魔石手に入れることはできへんの?」

「氷属性かー。今は暑いから高いんだよねー」

「部屋を冷やす魔道具に必須だから。貴族か豪商に言えばもしかしたら売ってもらえるかもしれないけど、普通のお店にはまず並ばないね」

「そういうもんかー」


とりあえずリーゼにお願いして、ライテ小迷宮伯に氷の魔石を譲ってもらえないか聞いてもらおう。

スライムを簡単に倒せるか実験したいと言えばいいだろう。

ついでに魔道具を作りたいので複数個あると嬉しいとも伝えておこう。

作りたいのは牛乳を冷やしたまま持ち運べるようにする何かだけど。

ちゃんと説明すれば大丈夫だろう。


「じゃあウチ氷の魔石相談してくるわ!」

「え?あぁ、うん。頑張って?」


立ち上がり、食べ終えた食器を重ねて持つ。

それぞれの屋台に食器を返したら家へと向かう。

今日はリーゼが掃除にくる日だから、上手くいけば早く伝わるかもしれない。

机から離れる時に「相談って組合長かな?」「エルちゃん変なツテありそうだし商人かも?」「あえて領主様とか」「ありえそうですわね」などと話している内容が聞こえ。

聞かれてもそのまま答えるつもりだけど、ウチからライテ小迷宮伯に聞くというのも違う気がする。

そもそもウチが話すのはリーゼだから説明が面倒だ。

結果がわかればいいと思う。


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