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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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141/305

ジャイアントスライムの本気

 

 結局ウチを先頭に全員が座って、自称魔導士見習いたちの戦闘を見始めた。

 ウチが先頭なのは万が一何かが飛んできたとしても、ウチが壁になるからだ。


 ・・・小さいから止められるか怪しいところやけど。まぁ、みんな身体強化できるから飛び退けるやろ。


 気にせず戦闘に目を向けると、状況は対して変わっていなかった。

 剣で切り、槍を突き刺し、魔法を当てる。

 触手は避けるか盾で逸らして隙を作り、また攻撃する。

 漏れ出した溶解液は、少しすると消えてなくなるけれど、それまでに踏むと靴が溶けてしまうため、同じ場所を続けて攻撃することができない。

 その結果、前衛の移動量が増えるし、武器の交換を言われてミミや他の人たちもたくさん動いている。

 魔力が切れたら身体強化ができないし、スライムの攻撃を耐えることもできなくなる。

 ミミの動きに注意しないといけない。


「一応声かけしとくか。……おい魔導士見習い!助けはいるか?」

「ふっ!愚問だね!この僕に助けはいらないさ!」

「だとよ」

「アホやな」

「エルから見たらこの戦い方はそうなんだろうな」


 ハリセンで一回叩くだけで倒せるウチと比べるなということだろう。

 そういう意味で言ったわけではないけれど、スティングに指摘されるとそう考えていた部分もある気がした。

 ただ単に時間をかけるくらいなら、素材以外を報酬に加勢してもらえばいいのにと思っただけなのだけど。

 何度も奴隷を買えるほどお金を持っているのだから、それを使えばいいのに。


 ・・・いくらになるかは知らんけど。


「同じことの繰り返しだな」

「魔導士見習いさんが色んな魔法使ってるぐらいやな〜」

「魔石を道中で拾ってるから、属性の種類は豊富なんだろ。売らずに使うあたり本気でジャイアントスライムの魔石が欲しいんだろうな」


 しばらく見ていても大きな動きはなかった。

 前衛が武器を柄の長いものに変えて大きく切り裂くようになったのと、魔導士見習いが直接魔法をぶつけるのではなく、ジャイアントスライムの近くで炸裂させたりとバリエーションを持たせたぐらいだ。

 アンリは魔法の使い方を見て、眼帯に覆われていない右目をキラキラと光らせていて、チェリッシュとジーンは板と羊皮紙を取り出して色々書きつけている。

 ウチはちみちみ干し肉を齧り、スティングはもう2本目に突入していた。


 ・・・お腹減ってるんやな。


「ふむ。範囲攻撃を行う!合図をしたら下がれ!」


 魔導士見習いが一言言った後、ジャイアントスライムの近くに何かをいくつか投げた。

 遠くからではわからないけれど、落ちた場所に向けて触手が伸びている。

 魔法に関係することからすると、恐らく魔石だと思う。


「半獣のところまで下がれ!」

「名前で呼べっちゅうねん……」


 命を預け合う迷宮探索なのに半獣と呼んでいるのを聞いてイラッとした。

 そんなうちに気づかず、魔導士見習いは長い杖をジャイアントスライムとの間に向ける。

 すると魔導士見習いの少し先からジャイアントスライムに向かって勢いよく炎の壁が生えた。

 手前はそこまで高くないけれど、奥に進むにつれて炎の高さが増し、それがジャイアントスライムへと迫っていく。

 炎の壁はジャイアントスライムの体を燃やし、溶解液を蒸発させていく。

 その蒸気もすぐに炎にさらされて消えてしまい、後にはジュウジュウと熱したフライパンに水を垂らした時のような音が鳴り響いている。


「めっちゃすごいやん!あれならいけるやろ!」

「最初から使わなかったのは隙を窺っていたのか?」

「魔石を投げても吸収されない距離を探っていたのかもね!ボクはそれよりもあの蒸気に当たったらどうなるかが気になるよ!」


 アンリは変わらず夢中で魔法を見続け、チェリッシュたちは攻撃を受ける側を気にしていた。

 魔法を使うためウチの勉強にはならず、見た目が派手なこととスティングの解説を楽しみながら木の実のハチミツ漬けに手を出す。

 そこにそっと差し出される黒パンはスティングの物だった。


 ・・・まだ食うんか。めっちゃ腹減ってるやん。


 差し出された黒パンにハチミツだけでなく、木の実もいくつか埋め込んで返したら、ニヤリと笑ってくれる。

 人相が良くないから子供が見たら泣くかもしれない笑みだけど。

 そして視線を戦闘に戻すと、状況が変わるところだった。

 出てくる蒸気の量が一気に増えて、ジャイアントスライムの姿が見えなくなったのだ。


「炎効いてないように見えるねんけど」

「そうだな。ジャイアントスライムが何かしたんだろが、ここからじゃ遠くてわからねぇ」

「魔力を放ってた。恐らく水」

「火事を消してるんか」

「あの炎を消すとなると相当な水を出しているんだろうな」


 何かが蒸発するすごい音がしばらく響くと、炎の壁が徐々に小さくなっていくことに気づいた。

 赤く照らされていた天井や床が元の色に戻り、蒸気の向こうにはジャイアントスライムの影が見える。

 その蒸気を突き破るように水が飛び出し、小さくなった炎の壁を追い立てる。

 また蒸気が発生したけれど、今度はなぜか風が吹いて蒸気を払う。

 その結果見えるようになったジャイアントスライムは、体内の魔石を薄っすらと青と緑に光らせている。


「水に風か?たしか、ジャイアントスライムの魔石には複数の色が混ざってるんだったか」

「せやで。属性スライムで出てくるやつは含まれてるらしい。ウチには色んな色で輝く綺麗な石にしか見えへんけど。なぁアンリさん」

「そう。属性は火、水、風、土、雷、無しの6つ。魔石の中で6つに分かれるような亀裂?が入っている。今は水と風の魔法が出ていて、魔石の一部だけが光っていた」

「あの魔石は綺麗だったね!」

「宝商品としても価値がありました」


 チェリッシュとジーンの感想は、魔物研究家としてどうなのかと思ったが、綺麗なことに違いはないので頷いておく。

 見えるようになったジャイアントスライムは水で炎の壁に対処して、蒸気を風で吹き飛ばす。

 そして表面が燃える触手を伸ばして、魔導士見習いや前衛を攻撃し始めた。

 そうなるとまだ消えていない炎の壁は前衛の邪魔になるからか、即座に消されて直線を描いて飛ぶ魔法に切り替わる。

 さっきと同じような展開だけど、燃えている触手は近づき辛そうだった。

 幸い部屋が広いから水は足元に広がる程度で、動きの邪魔にはなっていない。

 1番小さいミミですら、ぱちゃぱちゃと音を立てながら走り回れている。


「次は土か!質量があるからできるだけ避けろ!」

「ガキどもは下がってろ!」


 茶色く光ったジャイアントスライムから土の塊が飛んでくる。

 ウチぐらいある塊は、直撃したら吹っ飛ぶこと間違いなしだ。

 先が尖っていたりしていないから痛いだけで済むかもしれないけれど、打ちどころが悪ければ骨折してしまうだろう。

 そんな土の塊はしっかりと狙っていないのか、誰もいないところに落ちることもある。

 なぜかジャイアントスライムの目の前には土の壁ができていて、さながら街を守る防壁のようになっている。

 下の方を狙う魔法なら一度くらい防げるかもしれないけれど、むしろ足場のように使えてしまえそうなので、なぜ壁を作ったのかわからない。

 それはスティングたちや戦っている人たちも同じようで、次に何か起きるかもしれないと警戒している。


「強化を強めろ!」

「え?!アンリさん?!」


 一緒に座って見ていたアンリさんが、突然大声を出した。

 戦っている人たちがその声に反応できたのかはわからないけれど、ジャイアントスライムは待ってくれない。

 体から何本もの触手を伸ばし、それを水の張った地面へと叩きつけた。


「ぐおおおおお!!」

「があああああ!!」

「うばばばばば!!」

「あびびびびび!!」

「うひゃ!」


 触手が水に触れた瞬間強烈な光が部屋を照らし、ビクビクと震えながら変な声を上げる前衛や荷物持ち。

 驚いたウチも声を出してしまった。

 魔導士見習いは声こそ上げなかったものの、杖を支えに膝をついて地面に座り込んでいて、その体を水を伝った雷が襲うたびにビクンと跳ねる。

 バリバリばちばちと音を出しながら光る雷は、伸ばされた触手から水を伝って広範囲に広がっていく。

 前衛や荷物持ちたちも床に倒れ、辛うじて横を向いたことで呼吸はできているものの、雷を出されている間は体勢を立て直すことは難しいだろう。

 スティングやアンリ、チェリッシュたちも光にやられて目が見えなくなっているようだ。


 ・・・ウチが行くしかないな!早よ倒さんと危ないわ!ミミも倒れとるし、助けんと!


 水を一気に飲み、齧っていた干し肉を軽量袋の上に置く。

 そして立ち上がった瞬間、新しく複数の触手が伸ばされた。


「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ミミー!!!」


 触手は倒れた人を狙って伸びる。

 前衛の請負人は雷で痺れながらも大きく跳び退き、荷物持ちは転がることでギリギリ回避できていた。

 だけど、ミミは動けなかったみたいで、足から触手に呑まれてしまった。

 すぐに溶解液に溶かされ始めたところから、身体強化できていないのだと思う。

 もしかしたら魔力が尽きたのかもしれない。


 ・・・距離があってこのままじゃ間に合わんで!!


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― 新着の感想 ―
[一言] さらばミミ…。 安全マージンの取れない主人に買われたのが不運だったね…。 まあ元々デコイ目的の購入だろうけど。
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