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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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139/305

魔力が見えるのは凄いこと

 

 前日のうちに準備を終えたウチとアンリは、集合時間前に迷宮入り口に来ている。

 前回は1番最後だったけれど、今回は1番最初に来れた。

 つまりウチの勝ちである。

 そしてスティングやチェリッシュたちも集合時間前にやって来て、アンリは無事無料で連れて行かれることになった。

 やはり護衛代などの経費は少しでも安い方がいいらしい。


「アンリ凄いよ!ボクの部下になって一緒に魔物を研究しない?」

「エルを研究してるから無理」

「エルちゃんは魔物なの?」

「ちゃうわ!」

「わかってるよ。冗談冗談。確かにエルちゃんは不思議な固有魔法だから研究しがいはあるね〜」


 チェリッシュはアンリの魔力を見る力がとても魅力的だったようで、話を聞き実践した結果即座に勧誘し始めた。

 断り文句でウチを使ったのはどうかと思うけど、ひとまず勧誘は失敗に終わったようでほっとした。

 アンリにはお世話になっているから急な別れは嫌だ。


「あ。ちょうどホーンボアがいるよ。アンリ、さっき言ったことを意識して見てくれる?」

「わかった」


 地下5階まで進むとホーンボアが復活して、待機していた人たちが挑むところだった。

 道中の魔物は倒しても同じ道を通る見習いに任せたり、ウチがハリセンで叩いて気絶させるだけだったから、アンリはチェリッシュたちと色々話していた。

 その中で魔物研究家にも1人魔力を見ることができる人がいて、魔物が何かするときに魔力が集まることを報告し、その次に魔力の薄いところ濃いところを報告したそうだ。

 その結果、魔力を見れずとも感じ取れる人たちが効率的に魔物を狩れるようになり、支援の増加に繋がる。

 チェリッシュはそれを期待してる節もあるけれど、アンリは魔物への興味がそれほどなかったから、今回初めて注視することになっている。


「突進する時に角へ魔力が流れてる。蹴り足は走り始めだけで後は薄くなる。お腹はほとんど魔力を纏ってなかった」

「ふむふむ。攻撃する部位に魔力を集中しているわけだね。蹴り足は最初だけ込めれば初速が出るし、後は普通に走るだけ。足が短くてお腹に攻撃を受けづらいから守りを捨ててるのかな」

「そんな感じ」


 チェリッシュは過去の調査で報告された内容を思い出しながら、アンリが見た結果を確認しているらしい。

 意外にもチェリッシュは記憶力が良く、好奇心だけで動いているわけではなかった。

 そんな暴走しがちなチェリッシュを支えるように色々と手筈を整えるのがジーンの役割だと、本人から苦笑と共に聞いた。

 ただ、ジーン自身は食料を管理したり旅の道程を計画したりといったことが性に合っているようで、全く苦じゃないと言う。

 いいコンビだと1人納得した。


「これ美味いな!」

「せやろ。迷宮の食事はお肉が変わるぐらいしかないから味変や」

「あじへん?」

「味を変更するねん」

「ほー。味変……いいじゃねぇか。他にも何か思いついたら教えてくれ。遠出した時の野営が干し肉ばっかで楽しくねぇんだわ」

「ええけど、レシピは有料やで。タダで渡したら怒られるねん」

「金はあるから大丈夫だ。誰かに無料で教えたら、他にも教えないといけなくなるから怒られるんだろうな。労働やエルの欲しいものと交換とかなら有りかもな」


 魔力を見ながら進むため、前よりゆっくり進んだ結果、今日は地下10階の階層主前で寝ることになった。

 そして夕食でハチミツ漬けを出し、パンに塗って食べているとスティングが興味を示したからお裾分けした。

 基本的にパンはスープにつけてふやかして食べる物なので、味はスープの塩っけになる。

 初日だから野菜の味も効いているけれど、甘いものが欲しくなる時もある。

 というか、今から毎日同じ味ばかりは嫌だ。

 そのための味変、そのためにパンを串に刺して炙る。

 ハチミツは民にも手が届く甘味だけど、生活に余裕がなければ買わない。

 請負人なら必要な食料を優先するから、嗜好品は家や宿で楽しみ、迷宮や遠征にはほとんど持ち込まないそうだ。


「よし!じゃあ見張りは俺とアンリでやるから、ちびっ子は寝ろよ〜」

「おおきに。じゃあこの木の実も食べて感想聞かしてなー」


 食事ではハチミツしか使っていないから木の実は丸々残っている。

 摘みながら見張りをしてもらい、感想があればそれを次に活かすつもりだ。

 翌朝聞いた感想は、2人とも「美味しかった。だけだったけど。

 何か他にも思いつきたいと思いつつも、きっかけがわからないからウチのタイミングでレシピを増やせないのが今の悩みだ。

 パッと思いつくものだと、トマトソースが保存できるなら持ち込みたい程度だ。

 ちなみにドレッシングは野菜が保たないから持ち込んでいない。


「これを投げた時にどう吸収するのか見てほしいんだ!」

「わかった」


 数日かけてスライム階層まで問題なくやってきた。

 途中で他の階層主も復活していたけれど、それを狙って待ってる人たちがいたからウチらは部屋前から観戦するだけで終わった。

 それでもチェリッシュたちにとっては新鮮で、さらにアンリの見る魔力の動きのおかげで新しい発見もあったそうだ。

 それについて話し合っているうちにスライム階層まで辿り着き、道中で得た魔石をスライムに与えてみることになった。

 前回はスライムの魔石しか投げていないから。


「他の魔物の魔石でもスライムが分裂するんだねぇ」

「魔石に魔物差はないというこでしょうか?」

「たぶんね。魔力量と属性しかパターンがないから確かめる方法がないけど」

「魔力の動きはどうだった?」

「少し吸って、切り離す感じ」

「へぇ。少し吸うんだ。それで違う属性だと判断してるのかな?」

「そこまではわからない」

「ボクたちはスライムじゃないからね!」


 ケラケラと笑うチェリッシュ。

 ジーンとアンリを含む3人は、遭遇するスライムに対して様々な魔石を投げて観察していた。

 その結果、同じ属性であれば魔石の元となった魔物に関係なく吸収され、別の属性であれば分裂した。

 ただ、魔石の魔力量が少ないせいなのか、分裂したスライムは取り込んだ魔石の大きさによって変わっていた。

 地下5階までの魔石であれば、外のスライムよりも小さいぐらいで、16階ぐらいからようやく外のスライムぐらいになる。

 ビッグスライムは外のスライム20体分ぐらいの大きさだけど、魔石は2周りほど大きいだけなので、魔力量と魔石の大きさについてはよくわからない。

 大きければ強いということぐらいはわかっているけど。


「なにか変わった魔石で試したいなー。アンリは何か思いつく?」

「階層主?」

「階層主が複数の属性を持ってたら有りだったかなー。スライム以外は単属性なんだよ。後は僻地に行かないといないから手持ちにはないし……」

「なら、変質したスライムの魔石」

「あれはまだ調査が終わってないからダメだよ。もしも吸収されてなくなったら目も当てられないことになるよ。ボクが」


 ・・・チェリッシュがかい!ウチと話してるときならツッコめるけど、会話に割って入るほどの内容でもない。ただ、アンリにリアクションを期待するのは間違ってる。今もコクリと頷くだけやし、チェリッシュはそれを想定してたのか1人で笑ってるし、ジーンはなぜか視線を逸れしている。なんやこれ。どういう状況やねん。


「ジャイアントスライムの魔石も調査が済んでないし、ビッグスライムに与えることで階層主が出てきたら困るからダメかな〜」

「調査が済んでいたとしても品質的に実験に使わせてもらえないです」

「ウチがなんぼでも取ってくるで?ジャイアントスライムが復活するペースでしかできへんけど」

「いやー。素材を無駄にしたら上に怒られちゃうからねぇ〜。自分たちで手に入れた素材なら気兼ねなく使えるんだけど……」

「ふーん、面倒やな。せやったらウチを背負ったジーンがジャイアントスライム倒す?ウチが倒して渡してもええけど怒られへん?」

「うーん。まだ値段がついてないものだから、こっちの力で手に入れたいところだけど……」

「僕が拘束できる相手だと思いますか?」

「ジャイアントいうだけあって壁を埋め尽くすほどのスライムやで。いけそう?」

「無理ですね。諦めて助力を得ましょう」


 チェリッシュにチラリと見られたジーンだったが、ウチからジャイアントスライムの情報を聞くと首を振って諦めた。

 さすがにそのサイズの魔法生物を拘束する自信はないようだ。

 無理なことはすっぱりと諦め、ウチを使うことで目標を達成しようとするのは嫌いではない。

 むしろハッキリしていて好きな部類だ。


「じゃあウチを背負ったジーンが突っ込んでいくということで。大丈夫大丈夫。ウチの保護者も同じことして無傷で魔石取れたから」


 ・・・1回目はダメだったけど。今が行けるなら問題なしや!


 ジャイアントスライムの対処法が決まったから、後は黙々と、いや少し騒がしくしながらも以前進んだスライム階層の2階目まで進んだ。

 ここからは変異種を探すため、まだウチの地図に書かれていない場所を目指して彷徨いながら、ある程度すれば下に降りることになっている。

 ついでに何か宝箱が出れば嬉しいなと思っているけれど、組合に出入りしてもそういった話を耳にしないから、そうそう見つかるものではないのだろう。

 あるいは盛り上がるほどではない物が出たか、公表していないだけかもしれないけど。

 ウチも少し切れ味のいいナイフと魔法薬は公表してないし。


「お。なんかあるで」

「見てくる」


 地図に書き足しながらうろうろしていると、小部屋の奥にキラリと光る物があった。

 それを報告するとアンリが駆けて行ったけれど、罠とかあるかもしれないからウチが行った方が良かったのではと思い首を傾げる。


 ・・・そういえば罠に遭遇してへんな。地下6階からは出てくるはずやねんけど……。


「どうしたエル」

「罠が全然ないやん?確か地下6階から出てくるって聞いたはずやねんけど」

「あー、罠か。確かライテ小迷宮の罠は魔物関連だけだったはずだ」

「どういうこと?魔物やと思ったら爆発した!みたいな?」

「それは酷い罠だ……。そうじゃなくて、たとえば行き止まりに着いて振り返ったら上から魔物が出てきたとか、壁に空いた穴から魔物が延々出てくるといったものだ。スライム階層の場合警戒していたのに急にスライムが降ってきたらしいぞ」

「へー。宝箱の中にスライムとかもあるんかな?」

「そういうのもありそうだな。聞いたことはないが」


 スティングいわくそういうあからさまな罠は今のところ見つかっていないらしい。

 言われた内容をよくよく考えると、いくつか思い当たることがあった。

 行き止まりまで進み、来た道を戻ろうとしたらすでに魔物がいたり、壁から魔物が生えてきたりしたこともある。

 どうやら罠だと思っていないだけで遭遇していたようだ。


「宝じゃなかった」

「剣やな」

「数打ちのそこまで高くないやつだ。魔力を通してスライムを切る分には問題ない程度だが、それが5本もあったのか?」

「そう」


 戻ってきたアンリは鞘に収まっていない5本の剣を持っていた。

 どれも汚れておらず、スティングいわく組合の訓練で使うぐらいの品質で、地下4階までならなんとか使える程度だった。

 そんな品質でもスライムに対しては十分で、魔力を通して2、3体倒すことができれば儲けは確保できるはず。

 そんなこの階層用の武器がまとめて小部屋に置かれていた理由は分からずじまいで終わる。

 室内にはスライムもおらず、ただ単に普通のしょぼい剣だけだったからだ。


「それどうする?持って帰るん?ウチ別に欲しくないで」

「とりあえず元の場所に戻しとくか」

「確か、迷宮に放置した武具とかは、運が良ければ取り込まれて魔道具になるんだよね?」

「そう言われてるけど、あの程度の武器に魔法が付与されたところでたかが知れてるぞ」

「あー……確かに」


 チェリッシュのテンションが一瞬上がったけれど、スティングの言葉ですぐに戻った。

 むしろ下がり切って大人しくなっているほどだ。

 品質が大して良くないものは魔力を込められる量も小さい。

 そのため付与される魔法もしょんぼりしたものになってしまうだろう。

 付与してもらう武具をこちらから指定できないので、付与させないためには持ち帰るべきではあるが、正直場所をとって邪魔になる。

 ウチはスティングと一緒に小部屋に入り、部屋の中心で刃の先がくっ付くように5本を等間隔に置いた。


「何をしてるんだ?」

「理由はない!なんとなくや!」

「そうか……」


 開いた花のように見えなくもないそれを見て、1人頷くウチにスティングの困惑した声が降ってきた。

 返事をしたらすぐに呆れた声に変わったけれど。


「ん?あのスライムなんかおかしない?テカってるで?」

「黄色だから雷?でも、エルちゃんの言うとおりテカテカしてて、ライトスティックの光を反射してるね」


 剣を置いてしばらく進み、スライム階層の3層目に入ってさらに地図に書いていない場所まで来たら、通路の真ん中に黄色いスライムがいた。

 雷属性の透き通った薄い黄色とは違い、かろうじて向こう側が見えるぐらいに濃い。

 しかも、なぜかテカテカなのである。

 大工たちが働いている時に鍛えられた筋肉を彩るかのような汗で光っているわけではなく、掃除の指名依頼をしてきた中でミミをバカにしてきた成金商人のハゲ散らかした頭や顔のようだ。

 思い出しただけで背中が震えてしまう。


「アンリは何かわかる?」

「全体的に魔力が流れているのは他と同じ。ただ、通った跡にも魔力がある」

「へぇ〜。他の属性付きだと属性を表す現象に魔力があったし、床に残ってるなら水系か土系かなぁ」

「とりあえずウチが近づく?」

「うーん。エルちゃんだとそのまま簡単に倒せちゃうから情報が得られないかもしれないんだよね。スティングさんにお願いしようかな」

「俺は何をすりゃいいんだ?」

「えっとね……まず最初に軽く攻撃してもらって、その後はスライムの攻撃手段を見るために回避に専念してほしいんだ。できそう?」

「問題ないな。攻撃は殴っていいのか?刃物の方が?」

「せっかくだからどっちも!」

「わかった。まかせとけ」


 ウチでは攻撃を弾くせいで、軽く触れて効果を見ることができない。

 しかも、ウチからの攻撃は防がれることなく通るから、これまた正確な防御力や耐性がわからなくなる。

 それを嫌った研究家としてのチェリッシュは、1番動きの素早いスティングに頼んでいる。

 アンリも身軽な方だけど、身体強化を使い慣れているスティングの方が早さも硬さも上だから、万が一のことを考えると適任だった。

 最悪怪我をしたとしても、ウチは魔法薬を常に持っているから何とかなる。


「じゃあ行ってくるわ」


 後腰に付けたナイフを抜きながらテカテカビッグスライムに向かうスティング。

 まだまだ距離があるところを強化した脚力で一気に詰め寄り、逆手に持ったナイフを思いっきり突き立てた。

 普通ならぶすりと刺さり、抜き取ることでスライムの液が溢れてくるはずだったけど、何故かスティングはバランスを崩して背中から床に叩きつけられていた。


「えぇ?!」

「なんでやねん!!」


 わけもわからず叫ぶしかできなかったこちらとは違い、スティングはすぐさま飛び起きて距離を取る。

 そして今度は慎重に近づき、何度かナイフを振るうも首を傾げる。

 そしてスライムが触手を伸ばしてくるところをナイフで払いながら後ろに下がった。


「おかしない?ナイフで触手切れてへんで」

「そうだね。ぐにって伸びてるだけで傷ついてないように見えるね」

「それだけ柔らかいのでしょうか」

「魔力はどうかな?」

「スライム本体だけじゃなく、表面にも魔力が流れているように見える」

「何か出してるんやろか?」


 後ろに下がったスティングは、ナイフを何度か空中で振るうと鞘に戻した。

 そして拳を構えて再度突撃する。

 勢いを利用したパンチはウチには見えない速度でスライムへと放たれる。

 今までのスライムであればパンッと鳴ったと同時に一部が弾け飛んでいた。

 しかし、今回は音もなければ弾け飛んでもいない。

 更には踏み込んだスティングの前足が前に滑ったのか、またバランスを崩していた。


「当たる瞬間魔力が集まった」

「防御に使ったの?」

「恐らく」


 アンリに見えたのは魔力の動きだけで、その結果何が起きたのかはわからない。

 さすが変質したスライム。

 一筋縄ではいかないと感心していると、スティングが手をぷらぷらしながら戻ってくる。

 テカテカスライムはある程度追ってきていたけれど、今はのんびりと蠢いているだけだった。

 スティングがスライムに背中を向けてるのもそれを確認したからだと思われる。

 もしくは絶対的な自信か。

 攻撃は通じていないけど。


「油だった」

「ん?油?一応持ってるで?」

「ちがう。あのスライムだ。あいつは油を取り込んで変質したスライムだった」

「ほー」


 果物、野菜、酒ときて、次は油だった。

 言われてから見ると、揚げ物に使う植物油のようにも見える色合いだ。

 体内だけでなく体表にも纏うことでナイフや拳を滑らせているのだろう。

 通った場所に魔力が残っているのは、油自体を魔力で操作することで効果を上げていると予想された。

 ちなみにウチが油を持っている理由は、どうしてもカツが食べたくなった時用で、肉は現地調達、ちゃんとパン粉とすりおろし器も持っている。


「オイルスライム……」

「ん?どうしたん?」

「オイルスライムと名付けるよ!ついにボクも名付けがっ!!」

「なぁなぁジーンさん。チェリッシュさんどうしたん?めっちゃ嬉しそうに拳突き上げてるで」

「えっとですね。新種の魔物に名前をつける場合は発見者に権利があるんです。ただ、わかりにくかった場合情報を回す前に再考させられますけど。今回は僕たち全員で話し合って決めるのが普通ですが、請負人の方々は名付けに興味がない方が多くて、分かれば良いと研究家に丸投げされるのでこうなりました。もちろん皆さんが別の名前をつけたいのであれば、話し合いになります」

「ウチはわかればええで!」

「わたしも」

「俺もだ」

「じゃあビッグオイルスライムに決定だね!」


 突き上げた両手をプルプルさせていたチェリッシュが、ビシッと名前が決まったばかりのビッグオイルスライムに指差す。

 トマトスライムや蜂蜜酒(ミード)スライムは、一緒にいた請負人たちも名付けに興味がないらしく、ウチが名付けたことになっているそうだ。

 わかれば良いので異論はないけれど、ウチでいいんだろうか。


「よし!早速スライム液を搾り取るよ!」


 チェリッシュが小さな樽や突き刺す棒を取り出した。

 ただ、今回は人数が少ないので全てを回収するのではなく、半分ぐらい取るつもりで挑むことになっている。

 具体的にはウチとジーンで動きを止めて、チェリッシュが液を取り、周囲をスティングが警戒。

 アンリが増えた分回収の補助ができるけれど、スライムを持ち上げて採取はできない。

 チェリッシュがいい感じのところを切って液を取り出すだけだ。

 それぞれのやることを再確認してビッグオイルスライムに向かい、ウチを背負ったジーンが拘束を使ったら採取開始だ。


「ようやく終わったよ〜……」

「みんなべたべたテカテカやな〜」


 話し合っていた通りに動くことができ、目の前には萎んだオイルスライムの皮とたくさんの小樽、そしてぶちまけられたオイルが広がっている。

 補助にアンリが付いたとしても、最初はうまくできなかった。

 その時にたくさんのスライム液が周囲に流れている。

 溶解しないだけありがたいという惨状になりつつも、途中でアンリと交代しながら2人はスライム液を集めることができた。

 ジーンの拘束も最初は表面が波打つように動かれていたけれど、スライム液が減ると同時に徐々にゆっくりになり、半分近くなったら完全に動きを止めることができていた。

 この事から体が大きい分魔力を蓄積しているという事象もわかった。


「とりあえずお湯出すからいい感じに使って」

「助かる」

「ありがとう!」


 2人は何度か滑りながらも近くの小部屋に移動できた。

 そこに小樽を取り出して、ウチ用のお湯を出す魔道具から出したお湯で、体や服についた油を流していく。

 ウチが触って弾いても良いけれど、それだと時間がかかるからそれぞれにしてもらった。


「エルちゃんのおかげで大助かりだよー!」


 普段は水で流すか、川を探さないといけない。

 水生みに使う魔石にも限界があるからだ。

 幸い迷宮だから水属性の魔物を倒せば水属性の魔石が手に入る。

 それは川がない分迷宮では水生みが必須というきとだった。


 ・・・調査って大変やなぁ。やっぱウチ研究家は嫌やわ。面倒やし。


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