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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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138/305

売れたのはいいこと

 

 護衛対象依頼は問題なく終わった。

 1頭の馬が引く荷車に乗ったウチとアンリを、6人の請負人が囲んで森で2泊3日を過ごした。

 剣や槍と盾を持った3人の男の子と1人の女の子、弓と短剣を持った2人の女の子の6人組で、思わず3組の男女ができると思ったけど、そう上手くいかないのが現実だとアンリが呟いていた。

 護衛をしてもらっている間、ウチは市場で買ってきたたくさんの小さな瓶にこれまた市場で買った木の実をいれて、そこに木の実が浸るまでハニービーのハチミツを注いでコルクで栓をした『木の実のハチミツ漬け』を量産。

 アンリは木の実のハチミツ付けを味見しつつ、護衛に立ち位置や見る方向などアドバイスをしていた。

 ほぼ単語でだけど。

 その結果、的確なアドバイスをするアンリに男の子たちは尊敬の目を向け、女の子たちは木の実のハチミツ付けに欲望の目を向けた。

 そして物欲しそうな視線に負けた結果、ハチミツ漬けを1瓶プレゼントして先ほど解散したところだ。


 ・・・ウチのわがままで護衛やのに採取の補助させまくったからな。1瓶で喜んでくれるなら安いもんやろ。たぶん。


「報告」

「せやな」


 ハチミツ漬けを手にこちらへ手を振る請負人たちを背に、ウチとアンリは護衛対象依頼の完了報告のために請負人組合へ向かう。

 護衛の請負人たちは反省会という名の飲み会をするのだろう。

 仕事を終わらせてから飲んだ方が美味しいのにと思いつつ組合の中へ入ると、報告待ちの請負人で賑わっていた。


「お疲れさ〜ん」

「お疲れさまです。報告ですか?」

「せやで。はいこれ」

「はい。確かに受領しました。エルさんにチェリッシュさんから伝言があります。問題がなければ次の迷宮挑戦は明日からにしたいそうです。スティングさんは了承済みのため、エルさんの了承をいただければ、組合から関係者に連絡します。いかがでしょうか?」

「ええで〜。護衛対象の依頼はただの休暇みたいなもんやったし、食べ物とかはこのあと買いに行くわ」

「ありがとうございます。それでは護衛依頼の処理を進めておきます」

「あ、護衛依頼にアンリさん追加できる?」


 護衛対象依頼中に最近あったことを話した。

 アンリは魔物研究家に興味を示し、できれば参加してみたいと言ったので確認した。

 魔物研究家というよりスライムが増えたり大きくなったりする時の魔力の流れが気になるようだけど。


「人員の追加は……合わせて確認しておきますが、依頼人の費用が加算されるため難しいかと思われます」

「確かに1人分の報酬出さなあかんもんなー。じゃあ勝手についてくるのは?」

「それでしたら依頼人に危害を加えない限り問題ありません。危害を加えた場合護衛側の失敗になる上にアンリさんは罪を犯したことになるため捕らえられますが」

「まぁ、そんなことせんし大丈夫やろ」

「問題ない」

「じゃあ無報酬で付いてくるっちゅうことで」

「わかりました。伝えますが、拒否された場合は

 諦めてください」

「了解や」


 チェリッシュへの伝言は任せて組合を出た。

 返答は明日の集合時点でいいと伝えているから、ダメだった場合アンリは引き返すことになる。

 恐らく無料であれば問題なく参加できるはずだけど、有料の場合はチェリッシュたちの懐次第となるためどうなるかはわからない。

 研究費が給料とは別に支援されていれば、護衛代はある程度出せるはずだ。

 ただ、ウチとスティングだけで問題がなかったのに、護衛側からもう1人増やしたいと言われてもお金を出す人は稀だろう。

 少なくともウチが依頼人なら断るし、アンリも同じ意見だった。


「とりあえず市場やなー。なんか食べながらいるもん買お」

「わかった」


 とは言っても消費したのは食料ぐらいだ。

 むしろ採取した分荷物は増えている。

 香草や薬草、毒草にキノコ、木の実に保存に使うクリアの葉など色々取ってきていた。

 そのほとんどは市場で仲良くなったおばさんに頼まれたもので、請負人組合を通さない依頼だ。

 仮にこのやり取りで騙されたとしても、組合を挟んでいないから衛兵を頼ることになる。


 ・・・ウチとおばちゃんの仲やからな。というか少しだけ携帯食料買ったらどこ行くか聞かれて、じゃあ行くついでに良かったら取ってきてって程度の世間話やし。おばちゃんもそこまで期待して言ってはないはずや。ほんまに欲しいならちゃんと依頼だすやろうしな。


「おばちゃーん!暇な時間に色々取ってきたでー!」

「あれまぁ!そんな大きい袋を背負ってまぁまぁまぁ!どれどれ、おばちゃんが見てあげるからここに出すといいわ」

「おおきに!」


 市場へ行き、雑貨屋のおばちゃんに話しかけると、店の横にスペースを作ってくれた。

 そこに軽量袋を置いて、アンリに手伝ってもらいながら種類別に分けた皮袋を取り出す。

 このおばちゃんのお店は生活用品から携帯食料まで広く浅く販売しているお店で、しっかりした作りの物や手軽に手に入らない物、あるいは簡単に手に入るけれど量が欲しい時は専門の露店かお店に行かなければならない。

 おばちゃんの露店が占める面積は広く、目立つ位置にあるため客も来やすい。

 自分の店に置いてないものは紹介するという方法で他のお店とも連携しているから、恨まれることもないやり手のおばさんだ。


「これはうちで取り扱ってるけど、これはアンガスさんのところだね。これはピーチュに薬にしてもらって……毒系は全部ピーチュに任せるか。キノコは乾燥させるとして……」


 すごい勢いで皮袋の中を細かく仕分けしていくおばさん。

 自分の店で取り扱えるもの、他店のもの、露店では取り扱えないものなどきっちり分けていく。

 その顔には楽しそうな笑顔が浮かんでいた。


「おや?これは……ハチミツ?中に木の実が入っているね。使ってる瓶はこの間売ったやつかい?」

「せやで。木の実のハチミツ漬けを作ってん」


 おばさんが掴んだのは、素材の入った皮袋を取り出す際に溢れ出た木の実のハチミツ漬けだった。

 他の皮袋の下まで転がっていたようで、分類が終わって皮袋を畳んだことで見つけたらしい。


「へぇ。ハチミツに木の実をねぇ……。香草なら多少香りがつくだろうけど、意味はあるのかい?」

「日持ちするようになるねん。もっと大きい瓶があったらレモンも漬けたいねんけど」

「大きい瓶は……カイウスのところに行けばあるね。それよりも保存ができる方が重要だろうに。どれくらい持つんだい?」


 問われて浮かんでくる保存期間。

 数日前の作ったばかりなのにそれがわかるのは、作り方を知った時に一緒に覚えたんだろう。

 いつ知ったのかはわからないけど、急に浮かんでくるぐらいなので、開拓村で生活している小さい時だと思う。

 今も小さいけど。


「寒くないところで季節2つ分ぐらいのはず?寒かったらもうちょっといけるかも。初めて作ったから知らんけど。

「随分持つじゃないか。ただ、これはレシピにするには簡単すぎるから買い取れないね」

「まぁ、ただハチミツに漬けるだけやしな。しゃーないしゃーない」

「ふむ。何を漬けたらいいかという知識に関してはお金を出せるよ。木の実、レモンときたら……野菜は……微妙か……。青臭くて甘い変な食べ物ができそうだ……」

「うわぁ……。それは食べたくないなぁ……。う〜ん。木の実とレモン以外やと、甘かったり甘酸っぱかったりする果物かな〜。でも、今回作ったのは木の実だけやねん。果物高いし持っていくの難しかったから」

「森で作るものではないから仕方ないか。じゃああたしのところでレモンと果物を作って渡すから、これ売ってもいいかい?」

「ええでー。どうせ見たら他の人でも作れるし」

「そうだけど、日持ちすることは知らないだろ?それに瓶に木の実や果物、さらにハチミツときた。ある程度稼いでないと手が出しづらいものさ」

「あー、確かになぁ」


 ウチもレシピの販売代金やスライム魔石の買取、指名依頼でお金を得て、使うのは食費ぐらいで家賃は無料。

 こんな状況でもなければ瓶や木の実をたくさん買ったりできなかっただろう。

 貯まる一方のお金を使うことを考えながら市場を彷徨っていた時に、いつものように急に浮かんだものを作っただけだ。

 ドレッシングしかり、すりおろし器しかり。


「これが買取の代金だよ。教えてもらったものは試作をしてから売るようになるから、完成したらあたしから声をかけるからね」

「はーい!ちゃんと水洗いした後は水気取らなあかんで」

「ハチミツが薄まるからかい?確かにその通りだろうね」


 腕を組みながらうんうんと頷くおばさんの店を後にして、干し肉や塩などの迷宮で使うものを買う。

 他にも綺麗目な古布やスープに入れる粉末にされた香草に、深い階層で使うための乾燥野菜などなど。

 必要なものを買い込んだので、最後に奴隷商のところへ向かう。

 ミミにハチミツ漬けを渡すつもりだ。


「おっちゃんミミおる?」

「お嬢ちゃんか。残念ながらミミは売れたよ」

「えぇ?!?!ミミ売れたん?!?!」

「そうだ。お嬢ちゃんにとっては残念なことかもしれないが、ここにいるよりはしっかりと食べられるし、売値が加算されることを気にしなくて済むからなぁ。本人にとっても良いことだと思うぞ」

「そっかぁ……。本人におめでとう言いたかったなぁ……」

「どこかで会えば言ってやってくれ」

「わかった。これまでおおきに」

「こちらこそ。しばらくは仕入れに行くから店は閉まるが、また何かあればよろしくな」


 そう言って奴隷商のおじさんは天幕に戻って行った。

 チラリと見えた中は人がほとんど居ない。

 さらに外に出て客引きをする奴隷も今日は居なかった。

 ほとんど売れたからこその仕入れなんだと思う。


「ミミ売れたんか〜」

「残念?」

「ん〜。一緒に依頼できへんのは寂しいけど、買われたら食事とか住む場所が良くなるんやろ。ならええかなって」

「衣食住は主人の義務」

「後は無茶して怪我したりせんことを祈るだけやわ」


 ・・・ウチの目の前で無茶したら絶対助けるけどな!


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