護衛対象依頼
チェリッシュたちを護衛?した翌日、これからの予定を聞くために請負人組合に向かった。
そこにはジーンとスティングしか来ておらず、次の迷宮は6日後と伝えたら即座にジーンは帰って行った。
チェリッシュはずっと調査内容をまとめていて、ジーンは手に入れた魔石を他の魔物研究家に送る手続きをしたら、同じく調査結果をまとめる作業に追われる。
迷宮に潜ったら組合に手に入れた物を渡して終わりのウチらと違って忙しそうなので、絶対になりたくない職業が増えてしまった。
「エルに鬼婆から伝言だ。依頼があるから受付で名乗れだとよ」
「おおきに。スティングさんは何するん?」
「俺は次まで休暇だ。新しい課題も迷宮に関することだったし、久々に酒でも飲んでゆっくりするぜ。じゃあまたな」
スティングはひらひらと後手を振って組合を出て行った。
どうやら早く来てベルデローナに課題が終わったことを報告していたようだ。
その際にウチへの伝言を受け取ったとのことなので、受付へと向かう。
まだ朝早く、今から依頼を受ける人たちの後ろに並んでしばらく、順番が回ってきたから足場を用意して話しかける。
「おはようさん」
「おはようございます」
「エルやけど、組合長から受付に行くように言われてんねん。何すればええん?」
「はい。エルさんには依頼を受けていただきたいのです。指名依頼ではないのですが、護衛対象になってもらう依頼です」
「ん?護衛じゃなくて護衛対象?守られるってこと?」
「その通りです。護衛実習があるのですが、上手く護衛対象が集まらなかったのです」
「なるほど?最近忙しそうやもんな」
後ろには結構な列。
他の受付も同様だ。
並んでいる人のパーティメンバーだろう人たちが食事処で朝食を取っていたり、壁際に並んで待っている。
中には外で待っている人たちもいる。
組合の職員は依頼の手続きや管理で忙しそうに動き回り、解体場所も朝一の持ち込みを捌くのに必死。
道具の販売所はこれから出ていく人たちで賑わっていて、落ち着くのは昼過ぎと夕方、後は深夜ぐらい。
「新階層のおかげでどこの迷宮都市も盛況ですよ。それで依頼ですが護衛対象を守りながら2泊3日するという実習となります。
「護衛実習するのは見習いなん?ウチも似たようなことしたで」
やったのは採取実習と迷宮実習だけど。
「いえ、見習いを卒業して少し経った請負人ですね。今度遠くへの街に行く護衛依頼を受けるのですが、念のため予行演習をしたいと申し出がありました。組合の補助の一つで様々な実習を用意できるのでそれを利用した形です。ただ、通常では護衛対象は組合から数名出すことになっているのですが、今は忙しくて手を空けられない状況なんです」
困ったように笑う受付のお姉さん。
確かに今の忙しい中2泊3日いなくなるのは考えものだろう。
「ほんで組合長がウチに依頼しよう言うたんやな。万が一があっても問題ない護衛対象みたいなこと言うて」
「その通りです。固有魔法があるので護衛に失敗しても傷一つ付かないと仰られてました」
「なるほどな〜。じゃあ断るのもなんかアレやな。じゃあ受けるわ」
「よろしいのですか?断られた場合は弟子を向かわせるとのことですが……」
「その弟子ってスティングさんやろ?せっかく休みになったのにまた行かせるの可哀想やん。ウチでええよ」
さすがにまた叩き起こされるのは避けてあげたい。
迷宮ではほとんどの魔物を相手にしてくれたから、動いた分休息が必要なはずだ。
「わかりました。ありがとうございます。それでは1名か2名護衛対象を増やしてもらえないでしょうか」
「固有魔法的には1人やな〜」
「では、それで問題ありません」
「奴隷で半獣でもいい?」
「組合としては問題ありませんが、依頼の請負人からどう思われるかは判断できません」
「せやな〜。でも、ウチ誘える人他におらんしな〜」
ガドルフのパーティを除けば、ミミ以外で面識のある人は限られる。
食事処で食事をご馳走してくれるおじさんや、屋台のおじさんおばさん、市場の人たちに奴隷商。
後は迷宮の中でたまたま一緒に行動することになった人たちだ。
その中から護衛対象になってくれそうな人はいない。
「では、こちらから依頼人に伝えておきます。護衛対象によって態度を変えるのは良くないことも併せて注意しておきますので、この依頼期間中はなんとかなると思います。一緒に行くのはいつものミミさんでよろしいでしょうか」
「せやで」
「では、こちらの依頼を受理しておきます。明日から2泊3日です」
集合場所が組合前、集合時間は店が開く2の鐘になった。
それを了承して向かうのはミミのいる奴隷商だ。
市場に入りおばちゃんたちと軽く話しながら奥へと進む。
見えてきた大きな天幕の前には商品である奴隷が並んでいるけれど、その数は少ない。
能力のある売れる人を並べているはずだから、少ないということは売れてしまったか借りられているのだろう。
大人の奴隷には用事はないため、通り過ぎてさっさと天幕の前に行く。
「おっちゃーん!ミミ貸してー!」
天幕の中に入るのはやめた方がいいと言われているから、入り口で声をかける。
すると少ししていつものおじさんが出てきてくれたけど、困った顔をしている。
「ようお嬢ちゃん。申し訳ないんだがミミは貸せないんだ」
「え?!なんで?!売れたん?!」
「いや、ミミは売れてない。だが、ここ最近子供の奴隷が売れ続けていてなぁ。ほとんど残っていないんだ。ミミもいつ売れるかわからないから貸し出しには出せないんだよ」
「そうなんか……。大人の奴隷も売れてるん?」
「売れてるねぇ。大人はもっぱら戦闘できるやつが売れてるさ。子供は特に条件なく安さだなぁ」
大人はもれなく何かしらできるはずだから、子供の10倍以上するそうだ。
ミミは子供に加えて半獣だから安くなっていて金貨2枚。
他の子供は5枚や10枚だから、大人は50〜100枚がスタートラインらしい。
「ミミ無理やったしどうするか〜。組合で誰か探して、見つからんかったらスティングさんにお願いしよ。組合長に言えば呼んでくれるやろ。休日に申し訳ないけども」
奴隷商を後にして組合へと向かう。
ダメだった時のことを考えながら中に入ったけれど、幸いにも目についたのはキュークスとアンリだった。
どうやら依頼の終了報告をするようだ。
「キュークス、アンリさんお疲れー」
「エルちゃん。お疲れ様。依頼の帰り?」
「ううん。今日は準備で人探しやねん」
キュークスとアンリに護衛対象依頼のことと、ミミについて説明した。
その結果、アンリが付いてきてくれることになった。
キュークスたち獣人組は、溜まって疲れを癒すのと、酷使した武具の整備で数日かかる。
アンリはサポートに徹していたためそこまで疲れておらず、消耗も少ないため来てくれることになった。
「アンリさんありがとう〜」
「いい。わたしにものんびりとした休憩になる」
「護衛される側やもんな」
お互いの話をしながら食事処で野菜たっぷりスープパスタを食べ、帰ってお風呂に入った。
明日は護衛担当になるので、時間を潰すための何かを考えないといけない。




