増えるスライム、減るスライム
もしかすると最近減っていた奴隷の購入者がさっきの人たちではないかと頭に浮かんだ。
何人購入したのかわからないけれど、結構な数が減っていたから違うかもしれないが。
「よし!じゃあ早速スライムを増やすよ!」
少し移動したら水属性のスライムが1体だけ通路でぽよぽよしていた。
こちらには気づいていないから、今のうちに魔石を投げて増える現象を見ることになった。
チェリッシュは期待で胸を躍らせているため落ち着きがなく、物理的にも胸が躍っている。
ウチはまだ成長していないから、いつかを夢見てじっと観察する。
・・・大きすぎるとハリセン振り回すのに邪魔そうやな。
「じゃあ投げるね」
チェリッシュが魔石を入れた袋から緑の魔石を取り出し、投げた。
風属性の魔石だった。
放物線を描きながら飛んでいく緑の魔石は、ライトスティックの光を受けてキラリと輝き、コツンと音を立てて数回跳ねた後、コロコロと通路に転がった。
その音に反応したのか、あるいは魔石の魔力に反応したのかはわからないけど、水属性のビッグスライムは魔石の方へと移動を始める。
ある程度近づくと一本の触手を魔石に伸ばしたことから、魔力を感知しているのだとわかる。
むしろそうでなければ目がないのに向かってきたり攻撃できることに説明がつかない。
「めっちゃ震えてるけど……」
「そうだね!プルプルというよりブルブルだ!」
「小さければよさそうですが、あのサイズだと気持ち悪いですね……」
スティングに後ろの警戒を任せて魔石を取り込んだスライムを見る。
伸ばした触手が戻ったら体内に風の魔石がふわふわと漂い、元からあった水の魔石付近まで近づいた。
するとビッグスライムがゆらゆらと揺れ始め、その感覚が短くなり、ゆらゆらふるふるぷるぷるぶるぶるぶぶぶぶとなっていった。
今は輪郭がブレているように見える。
「あ」
「2つに分かれたね」
「大きさは半分ですね。これは外のスライムがコアを二つに分けて分裂する時と同じです。あれほど震えはしませんでしたが」
「そうなん?」
「そうなの。ふるふるふるふる……ぽんって感じ」
「なるほどな」
「エルさんは先輩の説明でわかるんですね」
逆にジーンはわからないのだろうか。
ウチの脳内ではとてもわかりやすくスライムが震えて2つに分かれた。
それはさっき目にしたビッグスライムの分裂よりも可愛らしいもので、外に出たらぜひ見てみたいと思う。
「お。今度は膨れ出したで。あっという間に元の大きさやん。すっげー」
「その代わり魔石が少し小さくなったね。魔石の魔力を使って溶解液を生み出したり膜を広げたのかな」
「外だとゆっくりと大きくなってました。確か3日ほどかけてです」
「外のスライムは魔石も半分にして分裂したから、残った魔力の量が違うからだろうね」
「ほーん」
つまり、外のスライムは体や魔石の何もかもを使って2つになり、ビッグスライムは減った分をそれぞれの魔石で補充できるということだ。
そうなるとトマトスライムや蜂蜜酒スライムの魔石を与えたらもう一度取れるこではないだろうか。
「その可能性は大いにあるね!」
「味の変化なども調べてみたいところです」
2人も変質したスライムの魔石を取り込んだらどうなるか気になるみたいなので、やるのは2人の都合がつく日になった。
増えたスライムと元になったスライムをハリセンで倒し、魔石をチェリッシュに渡す。
次は同じ属性の魔石を投げた場合を観察して、その次は相性の悪い魔石を投げる調査をする。
火に対して水をかけると消えるように、魔法にも属性の相性が存在する。
もちろん屋敷全体が燃えるほどの業火に桶に入った水をかける程度では効果がないように、魔法に込められた魔力量で相性を気にせず放つこともできる。
今回はほぼ同じ大きさの魔石だから、魔力量で圧倒するようなことは起きないだろうとチェリッシュは考えているそうだ。
・・・相性が悪い場合魔法が負けるけど、スライムの中でそれが起きたらどうなるんやろ。爆発するんかな?それとも溶けたりして?
「お。また水属性やな」
「このあたりの属性に偏りがあるのかな?」
「この辺が水の魔力に満ちてるってこと?」
「そうそう。水場とか地下水脈がある場所とかなんだけど、迷宮だからね〜」
そう言いながらチェリッシュが取り出したのは水属性の魔石。
ビッグスライムからしたら同じ属性の仲間の魔石だから、親戚みたいなものだろうか。
どうでもいいことを考えているうちに投げられる魔石。
今度もビッグスライムの近くに落ちて、触手で取り込まれた。
「うわっ。でっかくなった」
「魔石も大きくなってるね」
「同属性だと吸収されるのですね」
ビッグスライムの中に入った投げられた魔石は、少し漂った後元の魔石に吸い寄せられるように動き、当たったかと思いきやずるりと吸収されて2回りほど大きな魔石になった。
そして元から大きかったスライムの体も倍とまでは言わないけれど、通路を塞ぎそうなぐらい大きくなっている。
これを何度も繰り返せば大きな魔石が手に入るのではと思い、水属性の魔石を追加で投げてみたけれど、今度は分裂しただけだった。
何度繰り返しても結果は分裂で、チェリッシュは制御できる魔力量を超えそうになったら分裂するのだろうとひとまず結論付けた。
詳しくは後日調査するそうだ。
「じゃあ次は相性の悪い魔石だね」
「火は水やろ。土は?」
「風ね。建物とか放置してると風化してボロボロになるでしょ?」
「おー。じゃあ水は?」
「水は雷ね。落雷があった場所は水が減って蒸気が出たりするの」
「ふーん」
チェリッシュに相性を聞きながら迷宮を歩く。
風は火に弱く、雷は土に弱い。
他にも色々な属性があるけれど大体火水風土のどれかで対応できるらしい。
光や闇、金属といった変わった属性もあり、魔物化した野菜や果物、スライムのせいでできた酒なんかも含めるとよくわからなくなる。
魔物研究家も属性の分け方には困っているとこぼす程だった。
・・・酒属性の魔物ってなんやねん。酒に呑まれたら誰もが魔物になるってことか?やかましいわ。
「お。ビッグスライムおったで。赤いし火属性やな」
「また水属性の魔石ね」
「大活躍ですね」
ジーンの言う通り水属性の魔石が大活躍している。
まだスライム階層の2層目なので、あまり水属性の魔石に余裕はない。
さっきの同じ属性だとどうなるか調べる時に、別の魔物の魔石でも属性が同じなら大きくなったので、重要なのはどの魔物から取れたかよりも属性だろうということになった。
それでも水生みで1番使うから、ある程度の予備は残しておきたいのが全員の気持ちだ。
「じゃあ投げるよ」
放物線を描いた魔石は、床に落ちることなくビッグスライムの体にポトリと落ちる。
何度も投げたことでチェリッシュの狙いが正確になったからだ。
ちなみにウチが投げた場合飛距離が足りず、さらに狙ったところから大きくズレたので1回だけ挑戦して終わり。
ボーラはある程度の近づいて投げれたけれど、スライムの魔石は気づかれないよう遠くからなので、ウチには難しかった。
「うわっ!破裂したで!」
「水蒸気もすごいね。水を炎で熱したみたいに見えるよ」
「水溜まりに火球を落としたような感じですね。その結果水分が膨張してスライムの体を破壊したと……。面白い結果です」
水の魔石を取り込んだ火属性のビッグスライムは、体内でぽこぽこと泡が発生したかと思ったら一気に膨らんで水蒸気を吐き出しながら弾け飛んだ。
ウチがハリセンで叩いた時とは違う弾け方に少しびっくりしてしまった。
そして残ったのは外と同じかそれ以下まで小さくなった火属性のスライム。
動きもゆっくりで、元の大きさに戻るための魔力もないようでうごうごしているだけだ。
可哀想に思えたので魔石を取り出す。
やはり外のスライムぐらいまで魔石も小さくなっていた。
「他の魔物に魔石食べさせてもこんなことなるん?」
「うーん。強くなるのは確実なんだけど、ここまで影響は出ないと思うよ」
「たくさんの魔物を食べたことで体が大きくなったり、知能をつけるようになることは報告されてますが、分裂したり肥大化するのはスライムの種族的なものも影響してると思います」
「魔法生物だからね〜」
魔力で生きているから吸収した魔力に敏感なのだろう。
魔物同士が争って、片方が食べられても僅かに強くなる程度らしく、長年生きることでたくさんの魔力を得て強力な魔物へと到達する。
迷宮にいる階層主は、そういった長期に渡り捕食し続けた結果成長した存在なのだろうと、研究家たちは考えているそうだ。
ホーンボアが山奥で見つかった結果そう判断されている。
「この後は?」
「無属性を試して、今回は終わるつもりだよ。書くことが多すぎるから、ここらで一旦帰ろうかな」
「それでいいと思います」
「わかった。帰るなら戻るほうがいいな」
まだスライム階層の2層目だから、進むより戻るほうが楽だ。
帰りに試した結果、無属性の魔石を属性付きに与えると、ほんのり属性を帯びたほぼ無属性のビッグスライムが分裂で生まれた。
無属性のビッグスライムに与えた場合大きくなるのは同じだったから、属性を少しだけ帯びる部分が無属性のスライムに関する研究になる。
じゃらじゃらと嬉しそうに魔石を鳴らすチェリッシュたちと別れて、1回目の調査は無事終了した。
ちなみに、ベルデローナからスティングに与えられていた課題は、ギリギリ52体倒したことでクリアできている。




