護衛……なのか?
迷宮内を進むのはウチがミミと進む時よりはるかに速い。
正面から出てきた魔物はスティングが殴り飛ばして魔石を回収、後ろや横から来る魔物はウチが見つけてスティングが殴って魔石を回収。
チェリッシュとジーンが危険な目に遭うことなく地下5階まで進むことができた。
「このまま進むぞー」
「休憩はええの?」
「依頼人の2人は問題ないか?」
「ボクは大丈夫!これでもフィールドワークが仕事だからね!」
「僕も問題ありません」
「じゃあ地下10階目指して進むか!」
ミミと潜った時はここで長めの休憩を取り、食事を済ませるのだけど、もっと深い階層を目指す場合は素通りが基本となる。
お腹が空いたら移動しながら食べ、お手洗いは随時申告して行く。
ジーンが行く時はスティングが護衛、チェリッシュが行く時はウチが護衛という組み合わせとなる。
迷宮内で話していると声に気づいた魔物が寄ってくることがあるから、基本的には無言で歩く。
黙々と歩くことしばらく、ようやく地下10階に到着した。
「ウチは座ってるだけやったけど、ジーンさん大丈夫?」
「問題ありませんよ。これでも固有魔法を使えるので、魔力量は他の方より多いんです」
「え?固有魔法って魔力量関係あるん?」
「はっきりとはわかっていませんが、発現している人たちは魔力が多いので恐らくという感じですね」
「なるほどなー。それでも、座ってるだけなのが申し訳ないわー」
「子供は黙って背負われとけ。固有魔法で守ってる分仕事はしてるさ。それに、お前の短い足に合わせて歩いた方が負担になるぜ」
「レディに向かって失礼やで!」
「はんっ!もっと大きくなってから言うんだな」
ウチの頭をポンポンと叩いたスティングは、背中越しに手をひらひらと振って離れていった。
夕食の準備をするため、道中で手に入れた肉と入る前に買った野菜を切るためだ。
ウチとジーンは鍋の準備を進め、チェリッシュはパンや干し肉を取り出した後、今日寝る場所の確保をしている。
階層主以外の魔物が出ない階なので目に見える範囲にいる間は護衛は不要となり、睡眠中の護衛はともかく食事の準備は依頼外だから協力して行う。
依頼によっては食事や荷物運びなども請け負うこともあるそうだけど、その分依頼料が割高になるからほとんど発生しない。
逆に食事を提供するから依頼料を安くする場合もある。
今回は4人で同じ金額を出し合い、必要な分の野菜や塩を購入している。
肉は現地調達だ。
「いやー、それにしてもエルさんのお水は良いですね。美味しいです」
「せやろ?人気やねんで。組合長とか一緒に潜った請負人とかウチのパーティメンバーとか」
「?パーティ組んでるんですか?なのに1人で迷宮に潜ってるんですか?」
「せやで。ウチ1人で潜れるし、スライム倒せるからな〜。無駄に戦力を固めるよりも色々なところに派遣した方が助かる人もおるからしゃーないわ」
せっかくのパーティだけどほとんど一緒に行動していない。
全員で迷宮に潜る必要がなく、獣人組は戦力を、アンリは魔力を見る能力を買われて依頼が来ているからだ。
ウチがスライム魔石を集めるように。
ライテの外から来た人たちは、ほとんどの場合迷宮目的だけど、迷宮の素材ばかりが集まっても仕方がない。
周囲の防衛や街道付近に出てくる魔物の間引きなどやることは沢山あり、街住みの請負人よりも外から来た請負人の方がそういった依頼には慣れているから、職員から斡旋されることがある。
あまりにも人気がない場合は報酬に対して組合から色がつけられることもあるそうだ。
ちなみにガドルフたちにはウチに着いて行かない分暇だろうということで、優先して人気のない依頼を割り当てているとベルデローナが言っていた。
主に移動に時間がかかるものばかりらしい。
「寂しくないですか?」
「うーん……あんまないなぁ。1人は暇やけど慣れたし」
「しかし、エルさんほど幼い子供が迷宮の深部へ1人で行くのは肉体と精神両方への負担がすごいはず。僕でも嫌です」
「魔物見ても固有魔法のおかげで大丈夫って感じるからなー。疲れて寝ても攻撃受けへんし。とは言っても休憩は階層主前の部屋でとってるけど」
ジーンと話しながらウチから水を出して鍋を満たす。
ウチのお風呂魔道具を持ってきているのですぐに必要な量が溜まり、火にかけて沸騰するのを待つ。
ジーンの言うこともわかるのだけど、今のところ先に進むのも嫌になるようなことは起きていない。
迷宮に潜らない時は自由にできているし、ランディに魔道具の話を聞くのも楽しい。
それに、遊びたければミミを誘えばいい。
「ほーら肉と野菜だ。エルは好き嫌いせず食えよ」
「ウチ嫌いな野菜ないで。全部美味しい」
「ピーマンもか?」
「いけるで!もしかしてスティングはピーマン無理なん?大人やのに?」
「バカいえ。野菜ぐらい食えるぜ。鬼婆に山へ放り込まれたらその辺の草とか食わなきゃダメだしな。野菜はどれも美味い上に安心して食える」
「そんな事してるんや……」
ウチなら食べられないものは弾けるだろうけど、確実に迷子になるだろう。
魔物はハリセンで気絶させればなんとか倒せる。
しかし、解体ができないから野草やキノコを食べる生活になりそうだ。
そんな風に理由がない限りやりたくない生活に微妙な感想を抱いていると、スープが完成したのでそれぞれパンを浸しながら食べる。
「他にも請負人たちがいるからお前らは奥で寝てくれ。手前は俺が使う。近づかれた時用の仕掛けを作って対応する」
「よろしく!」
「よろしくお願いします」
「ウチも見張りするで?」
「人数が少ないんだ。寝れる時に寝とけ」
「はーい」
護衛の数が多ければ交代して見張りをすることもある。
むしろ外ならば必須だ。
だけど、ここは階層主部屋前の安全地帯で、複数のパーティがいるため互いの目がある。
請負人の中に悪事を働く人がいないわけではないが、寝床の周囲に糸を張り巡らせて、それをスティングの手に結びつける事で揺れを感知する道具だけで十分問題ないらしい。
寝てても誰かが動けば目を覚ますスティングのおかげだった。
・・・話を聞けば聞くほどスティングが組合長からしごかれてるとわかるねんけど、魔物と戦うのが仕事みたいなところあるし、仕方ないんやろな。いろんな経験しとけばいざという時に生き残れる可能性も上がるから、ウチもいつかは経験せんとな〜。
今日は一日中背負子に座っていただけにも関わらず、話した内容を思い出しているウチに眠りについた。
気が付けば全員が起きていて、スープを温め直しているところだった。
そして食事をとって片付けをしてから運ばれて進むウチ。
出てくる魔物はスティングが倒し、たまにチェリッシュとジーンが解体しながら色々話し合う。
どうやら魔物研究家として外の魔物との違いを報告する仕事があるようだ。
新階層ではないためすでに何度も報告されているけれど、以前と違いはないか確認することも大事らしい。
「よし!次からスライム階層だ!エルは背負子から降りて先頭。俺が後ろを警戒する」
「了解や!」
問題なくスライム階層の手前まで来ることができ、次からの陣形を改めて確認する。
チェリッシュとジーンのためにスライムと戦っているところを見せ、必要に応じてジーンの拘束を使って動きを封じる。
そして色々調べることになっている。
あわよくば変異種も見たいけれど、今回は体液収集用の道具を持ってきていないから、ほとんど無駄にすることになる。
それでも少なからず持ち帰れるようにチェリッシュが準備しているので、出てきた時にはウチとスティングで対応するつもりだ。
「いやー!ついに大きなスライムを見れるんだねー!」
「嬉しそうやな」
「もちろん!スライムは他の魔物と比べてわからないことが多いからね!上手く利用する方法を考えたいんだ!」
チェリッシュは寝床を準備しつつも階層主部屋がある方を見ながら話す。
興奮を隠せないようでソワソワと行きたそうにしている。
ウチらの他に誰もいないから、スティングの隙をつけば行けるかもしれない。
流石に子供じゃないのでそんなことはしないはずだ。
・・・ウチでもせんと思う。どうしても欲しいものが先にあるならわからんけど。
「明日は軽くスライム倒して、できるだけ早く進むでええんやんな?」
「そうだよ。普通のスライムだったら少し調査するだけだからね。属性付きや変異種の調査を中心にする予定だね」
「ふむふむ。ほんで、何回かに一回は階層主も調査したいんやったっけ?」
「そうだね。エルちゃんを背負えば階層主の攻撃を受けないんだから、色々試すチャンスだよ!」
むっふー!と鼻息荒くキラキラした目で語るチェリッシュ。
道中で聞いた話によると外で属性付きスライムを見つけるために20日探し回ったこともあるらしく、地下に向かうだけで簡単に出会えるならば行くしかないとなったそうだ。
火の属性が強い火山地帯に行っても、スライムよりも強い魔物がたくさんいるため探索が思うようにできない。
他の魔物も同じ属性のスライムなら餌として食べることができるから、発生しても見つける前に食べられてしまう。
変質したスライムに関しては変質の実験をしている程度で、まだ上手くできていないとこぼしていた。
・・・実際に変質した素材と同じものを与えてもあかんとかよくわからんな。環境とかも影響するんやろか。




