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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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129/305

組合内で新メニュー開発

 

 組合長のベルデローナに相談した結果、グレープスライム液をウアームの街にいるポコナ宛に送って良いと許可をもらった。

 ただし、同封する手紙の内容について問題ないかベルデローナが確認するという条件が付いている。

 文章の内容に加えて危険性についてしっかり書けているか、文字が綺麗かなど色々なところをチェックすることになっている。


 ・・・組合長はウチをどうしたいんや。まぁ、できないよりできる方がええし、字も綺麗な方が読みやすいやろうけど。


 そして料理のレシピについては、組合の食事処を使うことに決まった。

 常に大人がいて調理の手際がよく、何かあったとしても他の組合員がいれば対処しやすいという考えからだ。

 完成したレシピは組合で買い取ってもらうことでウチにお金が支払われるが、使用した素材と料理人の時間をもらうためお金を支払うことになる。

 つまり、ウチからの依頼ということだ。


「俺はポール。見習い料理人だ」

「ウチはエル!請負人やで!」

「ミミはミミだよ!」

「……」

「どうしたん?」

「あー……いや、別になんでもねぇよ」


 そういうポールの顔は眉間に皺が寄っていて、とてもなんでもない状態ではない。

 12歳らしくウチやミミより体が大きく、真面目に仕事をしているのだろう体つきもがっしりしていて、料理人の服は綺麗ながらも使い込まれていた。

 ウチとミミを見てこの表情になったことから、何か思うことがあるのだろう。

 聞かなくても依頼だから手伝ってくれるとは思う。

 しかし、不満な状態でやられるのはウチとしても嫌だし、ミミが半獣だからといって不当な目に合うのも嫌だ。

 少なくともウチの見てるところでは。


「何でもないって顔ちゃうし!嫌なら断ってくれてええねんで!」

「……見習い卒業の条件が子供と半獣の手伝いってことに不満があるんだよ。仕事はきっちりやるから早く終わらせるぞ」


 言い放ったポールは厨房の片隅に用意されたところへ向かう。

 他の料理人の邪魔にならないように奥まったところで研究するのだ。


「すまないなエル。カツの件も伝えたんだが、この仕事が不満らしい」

「料理長は悪ないやろ。ポールさんがちゃんとやってくれるなら別にええねんけど、ミミに変なこと言ったらウチの手が出るで」

「構わん。俺が許すから好きに叩け」

「おおきに」


 カツやドレッシングのおかげで仲良くなった料理長の許可も得たので、ウチのやりたいようにやらせてもらう。

 許せないことをした時はグーじゃなくてハリセンで叩いて気絶させればいい。

 そんなことを考えながらミミと一緒に奥へ向かうと、すでに鍋やフライパン、包丁にまな板などの必要な道具は全て揃えてあった。

 事前に申請していた通り2人分。


「それで、俺は何をすればいいんだ?」

「まずはウチの言う通り作ってもらう。その後、これを使わずに同じようなものを作ってもらう」

「これは?」

「トマトスライム液」

「はぁ?!」

「トマトスライム液」

「聞こえなかったんじゃねぇよ!これを料理人使うのか?!」

「せやで。その後は普通のトマトで同じようなものを作ってもらうつもりやけど」

「あー……スライム液を使わないレシピを作りたいってことか?」

「せやで。あれ?依頼には書いてなかった?」

「新メニューの考案手伝いとしか聞いてねぇよ……」


 項垂れるポール。

 どうやら新メニューの考案ということでウキウキしていたら、来たのがウチとミミだったことで遊びの依頼と勘違いしていたそうだ。


「じゃあミミもポールさんと一緒に作ってな」

「わかったんだよ」

「半獣にもスライム液を使わせるのか?」

「それがなんなん?別にミミが作ったもの食べたら半獣になるわけでもないやろ」

「だが、スライム液は高価で」

「素材の値段は関係ないやん。盗むと思ってるん?ミミが?ウチのものを?半獣ってだけで?」

「いや、すまん。そういうつもりじゃないだ」

「エルちゃんもう良いんだよ。ミミは気にしてないんだよ」

「せやけど……」

「いつものことなんだよ」


 少し怒ったウチをミミが肩を掴んで止めた。

 徐々にポールに近いていたのだけど、掴まれた時点で前に進めなくなった。

 そのことで落ち着くことができ、ひとまず深呼吸してイライラが治るのを待つ。


「本当にすまない」

「もうええよ。ただし、これ以上言ったらまた怒るで」

「あぁ。わかってる」

「じゃあ始めよか」


 ポールとミミが調理台に並び、ウチが後ろから指示を出すやり方になる。

 さぁ指示を出そうというところで、ウチらを見ていた料理長と目が合い、頷いたあと自分の仕事に戻った。

 恐らくさっきのやり取りを見ていたのだろう。

 喧嘩になることなく終わって良かった。


「美味い……なんだこれ……」

「美味しいんだよ〜!!!」


 ウチの言う通り作られた名も無き料理を食べて興奮する2人。

 昨日と違うのは肉がリトルボアの肉になったのと、ピーマンとナスが追加されている。

 野菜は豊作で余っているから消費して欲しいそうだ。


「ほう。これは美味いな。ポールはもう少し塩を入れて後味の甘みを引き立たせると良いだろう。ミミといったか。ミミは香草で風味をつけ、塩を増やすと良い。野菜の種類が多くなっている分味がぼやけているからな。あと、2人ともだが野菜の入れる量を考えた方がいい。別に刻んだ全てを入れる必要はなく、なんならサラダに回すなり焼き野菜にして別添えするのも手だぞ」


 作った料理を味見していると、料理長が近づいてきてそれぞれを口にした。

 そして出てくる助言の数々。

 自然な動作から繰り出される味見にツッコむ隙はなく、気を取り直して口を開こうとしたところに降ってくる大量の助言。

 結果、何も言えずに去っていった。

 せめて声をかけてから味見するべきではと思ってるウチとは違って、2人は言われたことを真剣に考えているだけだったけど。


「じゃあ次はスライム液を使わずにやけど、材料は大丈夫なん?」

「トマトも豊作だから問題ない」

「わかった。後はトマトをいい感じにするところやけど……切り方やどこまで潰すかは任せるわ」

「わかった」

「はいだよ!」


 2人がトマトの切り方や潰し方を考えている間、用意された材料を物色する。

 色々な香草や野菜がある中から塩と小麦粉を少し取り分けて、それに水を加えて()ねる。

 ウチでも問題なく()ねることができる量にしたおかげか、少し腕が痛くなる程度でまとまった。

 塊を手で平らにしていると、それを見たポールが伸ばすための真ん中が太くなっている棒を出してくれた。

 薄いパンを焼く時に使う棒で、名前をローリングピンというそうだ。

 今日は野菜と肉を使うと伝えていたので、事前準備に含まれていなかった。

 2人がトマトを炒めている横で、ローリングピンを使って薄く広がるように何度も押しつぶす。

 何度か重ねて薄く伸ばすことを繰り返してから、ペラペラになるまで伸ばしたら完成だ。

 いや、ここから切る必要があるのでまだ未完成だった。


「そんなに薄くしてどうするんだよ。フライパンで焼くのか?それにしては大きすぎるから入らないぞ」

「これはこうするねん。で、ミミこれをこのぐらいの幅で切って」

「綺麗に揃えるのはミミの腕でだと無理だよ?」

「大体でええよ。実験やし」

「わかったんだよ」


 ペラペラにした生地を4回たたんで、それをミミに細く切ってもらう。

 宣言通り太さにばらつきがあるけれど、お試しだから問題ない。

 むしろ太さで変わる何かがわかるかもしれない。


「紐になったんだよ」

「小麦粉で紐作ってどないすんねん」

「パンに貼り付けて焼く?」

「あー、模様とか付けれるかもな。でも、今回はそれじゃなくて茹でるねん」

「この紐をか?」

「紐ちゃうけどそうやで」


 作ったのは頭に浮かんできたパスタで、これから茹でてトマトに絡めて完成になる。

 薄らと浮かんできた内容からすると、乾燥させてないから生パスタになる……らしい。


 ・・・この食べ物の作り方が何と無く浮かんでくるのも固有魔法なんか?それなら食べ物出てくる魔法が良かったわ。浮かんでくるのも勝手にやし、扱いが難しいねんなー。


 ポールに用意してもらった鍋でお湯を沸かしてもらい、塩を入れてから生パスタを茹でる。

 少し待ってから生地をたたんだ際の切れ端部分を取り出して、冷ましてからちゅるりと食べる。

 もちもちしているけれど、何も味付けしていないから小麦っぽい風味と薄ら塩の味がするだけだ。

 食感は好き。


「美味いのか?」

「まだやで。これをミミが作ってくれたトマトソースに絡めて少し炒めるねん」

「これがソース?スープよりはねっとりしているけど、ソースにしては水っぽいぞ」

「まだ完成ちゃうねんからそんなもんやろ」


 ウチとポールが話している間にミミがトマトソースでパスタを炒める。

 すでに茹でているから軽く絡めるだけで済み、ソースごと少し深みのあるお皿に入れてもらった。


「美味い!このナスがとろとろなのもええな!」

「美味しいんだよー!!この紐もちもちしてるんだよー!!」

「くっ、俺も早く食べたい!」


 ウチの可愛い小さな手で作ったので量が少なかった。

 その結果、食べれたのはウチと仕上げをしてくれたミミで、ポールは横で必死に小麦粉を()ねている。

 その奥では料理長も同じように小麦粉を用意し始め、更には他の人たちも続いた。

 離れたところにいる人たちだけが肉や野菜を焼いたり、酒を注いで食事処へと運んでいる。

 ウチらの方をチラチラと見ながら。


 ・・・なんかごめんやで。


 しばらくするとポールや料理長が仕上げを行い食べ始める。

 そして盛り上がる厨房。

 騒ぎを聞いて覗きにくる組合の職員や請負人。

 そうなると気付かれるいつもとは違う料理の香りに、それを囲んで何かを食べている料理人。

 請負人や職員から注文できないのかと問い合わせが殺到するのは自然なことだった。


「ミミ、逃げるで」

「え?はいだよ」


 面倒なことが起きる前に身を屈めて厨房から逃げ出すことに成功する。

 ウチらが組合を出ることには料理人たちが役割分担して作り始めていたから、逃げていなければ邪魔になるか手伝わされていたと思う。

 そうして予定外に時間が空いたので市場を巡りつつミミを送り届け、のんびりとお風呂を楽しんで1日を過ごした。


 ・・・奴隷商さんのところ結構売れたみたいでだいぶ人減ってたな。しかも子供の方が売れてる感じやった。ミミは良い人に買われるやろか……。


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[良い点] ミミちゃんかわいいなぁ
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