魔石狩りの実力
-ダン-
「さて、俺たちも休憩するか」
「そうだな」
エルが寝付いてから食事を取り、各々で休憩する。
そうしながら思い出すのは今回のことだ。
堅実に素材を持ち帰るパーティとして知られている俺たちに『果物系のスライムから採れる液を小樽3つ以上採取する』という指名依頼が発行された。
俺たち現役の請負人でも変質したスライムのことは知らなかったが、素材を買い付けたのかもしれない。
そして俺、ゲイン、ケネスの農村3人組は、過去に味わったことのあるスライムで濃縮された果汁を思い出し、即座に受けることにした。
そして地下30階まで無事に進めたが、ジャイアントロックスネークが復活していることで足を止めた。
3人で倒せないこともないが、硬くて大きいヘビは面倒だから悩んだ。
そうしている間にロビスのパーティがやってきたが同じ理由で悩み、壁役がいればと嘆いているとエルが降りてきたんだ。
最初はわけがわからなかった。
噂では聞いていたが、本当にあんな小さな子供が迷宮に潜っているとは思っていなかったからだ。
降りてきたのは小さな子供で、服装こそ請負人見習いが着るような防御力のない軽くて動きやすい軽装だったが、地下30階まで来たにしては汚れがない。
金色に輝く髪に宝石のような碧の瞳、背負うタイプの軽量袋を背負っている姿は迷宮より街中で見かけるべきだろう。
剣や斧のような見てわかる武器は持っていないところから魔法で戦うのだと判断したが、後々いい意味で裏切られた。
まさか剣のような物を作り出して攻撃するとは想像できない。
ジャイアントロックスネーク戦では、事前に聞いていたとしても叫ばずにはいられなかった。
俺たちでも防げない岩を使った叩き潰しを受けて平然とし、当たりが良くても吹っ飛ぶはずの薙ぎ払いは受け止めたように見える。
実際にはただぶつかっただけらしいが、遠目で見たら同じようなものだった。
そしてジャイアントロックスネークが痛みで暴れるという予想外のことが起きつつも、エルは無傷のまま倒すことができた。
ここだけ見ると理想の壁役だが、相手の攻撃を受け止めれるわけじゃないから扱いに困るだろう。
エルを起点に軌道が変わる攻撃なんて避けられないかもしれない。
新階層のスライムに対しては、気の毒としか思えないような光景だったな。
呑み込みにきたスライムから逆に魔石を抜き取られるなんてスライムも思っていないだろう。
ハリセンとやらで体をぶち撒けられてるやつを見た時には、思わず同情しそうになったほどだ。
身体強化ができないと申告された上に体も小さいため進行速度は非常に遅い。
背負って進むことも考えたが、採取用の荷物もあるためそれはしなかった。
請負人だから自分の足で歩かないと強くなれないのもある。
そんなエルがいたおかげで3種類のスライム液を手に入れることができたが、正直パーティに誘うほどではない。
壁として中途半端、怪我しないのは自分だけ、攻撃力はなく身体強化もできないから刃物を突き立てるだけでも一苦労。
ハリセンで叩けばナイフが刺さるようになるが、素材としての価値は一気に下がる。
体の小ささは将来に期待するとしても、普段から行動するには特異すぎる。
こっちが合わせないといけない以上、他の仲間に負担がかかるだろう。
こういった変わった素材集めの時に組んでくれると助かるが、居なかったらそれはそれでやり方を変えればスライム液ぐらいなら採れる。
俺のパーティだけじゃあ無理だが……。
「おい。飲まないのか?」
ぼんやりと振り返っていると仲間のゲインが小樽とコップを持ってやってきた。
スライムから採った液の中で今の俺たちが飲みたいのは確実に蜂蜜酒だ。
「まだ迷宮内だぞ」
「ここは階層主以外魔物はいないだろ」
「それでもだ。それに、分配したわけじゃないのに消費するのは良くない」
「そこはあれよ。ほら、倒して中身が半分以上無くなったやつで軽くさ。な?」
「飲みたい気持ちはわかるが……」
「1人1杯ぐらいだし、迷宮内で捕った素材を食うこともあるだろ。それと一緒だって」
「そうは言うが酒だぞ。それに飲んでも問題ないかがわかってない」
「果物や野菜と同じようなもんだろ。ちょっとだけだからさ。な!いいだろ?」
ゲインは親指と人差し指で小さな隙間を作り、どうしても飲みたいとアピールしてくる。
これは許可を出さないとうるさそうだ。
ゲインの後ろを見ると他にも飲みたがっている。
「わかった。ただし、俺は飲まないし、お前らもコップ1杯までだ」
「やりぃ!1杯だな!」
「俺は飲まないぞ」
「俺もだ」
飲まないことを宣言したら、向こうのパーティからロビスも宣言した。
これでお互いのパーティから1人ずつ飲まない奴が出てきたから、警戒は問題ないだろう。
「じゃあ早速……俺たちの出会いと予想外の素材にかんぱ〜い!」
「「「乾杯」」」
楽しそうなゲイン達が小樽から酒を汲み、軽くコップをぶつけて勢いよく口にした。
「ぶーっ!!」
「ごほっ!ごほっ!」
「かぁ〜!きっつ!」
「うぁ〜……」
吹き出し、咽せ、目を思いっきり見開き、顔を顰めて口を開けっぱなしにする4人。
どうやら飲まなくて正解だったようだ。
「濃すぎる……なんだこれ……」
「薄めないと飲めないぞ……」
「これ売れないんじゃないか?」
「美味くできるやつがいれば売れるだろうけどよ……」
飲む前の楽しそうな様子から一転、コップを見ながらボソボソと話しだす。
果物や野菜でさえ濃くなるのだから酒も濃くなると考えなかったのか。
それよりも飲みたい欲求が勝ったのだろうが。
「とりあえず交代で見張るか」
「だな」
どうにかして飲めないかとちびちび舐め始めた仲間を見ながら見張りについて話す。
さすがに寝てるエルから水をもらうわけにはいかないから、どうしても薄めたいならそれぞれの水を使わせるだけだ。
そうして階層主前で焼いたヘビ肉を齧りながらのんびりと過ごした。




