臨時合同パーティ
数日ミミと一緒に掃除依頼を受け、地下5階までで肉をたくさん取って別れた。
ミミの代金は帰ってから払うことで合意してもらっているのは、ひとえにウチが毎回しっかりと返しているのと、支払いを遅らせることもなく肉を多めに渡しているからだと勝手に思っている。
逆にウチとしてはミミがいないと掃除依頼で大きな物を動かせないから、そろそろ本格的に買取を検討するべきだと考えている。
ウチが迷宮のスライム階層に行ってる間でも、迷宮の外や見習い階層でミミにできることがないとキュークスたちに買うことを宣言できないのだ。
・・・なんか料理をさせることができればええかもしれんな。そのためには鉄板がほしいわ。それも火力調整がしやすい魔道具がいい。問題は半獣の料理を買ってくれるかやけど、食事処で手伝いとして借りられることもあるみたいやし大丈夫やろ。知らんけど。
いつも通る道を進みながら考えるも結論は出ず、襲いかかってくる魔物をハリセンで叩いて気を失わせる。
あまり狩っても持ち運びが面倒なので、食べられる部分や魔石があっても基本放置だ。
階層主部屋が近くなってから食事の分取ればいい。
スパンスパンと叩きながら進み、階層主部屋へと続く階段近くでビッグスネークを倒して夕食と朝食の肉を手に入れる。
そして階段を降りてすぐの広場では、なぜか男たちによって話し合いが行われていた。
「お!追加で降りてきたぞ!」
「これで楽に倒せるように……子供が1人か?パーティメンバーは?」
「あれじゃないか。魔石狩り。見習いよりも小さな女の子が1人でスライムの出る階層を攻略してるってやつ」
「あの通った後には気を失った魔物やフラフラした魔物が残されるって話の?」
「そうそう。狩りの道標《みちしるべ》」
話していた全員の目がウチに向き、その後ヒソヒソと言葉が交わされる。
どうやらウチのことをちゃんと知っている人はおらず、噂を聞いたことがある程度のようだ。
それにしても狩りの道標《みちしるべ》は聞いたことがない。
内容からすると、ハリセンで叩くことで魔力を失い気絶した魔物を安全に狩ることができることを表していそうだ。
後をつけるだけで魔石や素材が簡単に手に入るなら噂になっても仕方ないだろう。
それがウチの耳に入らなかったのは組合の中でひっそりと話されているせいなのか、屋台の人たちなどがわかりやすい魔石狩りを使っているからなのかはわからない。
どちらにせよ悪い呼ばれ方ではないので気にしないでおくことにした。
「なんやなんや。みんなしてウチを見て。そんなに可愛いか?」
「まぁ、子供らしい可愛さはあるな」
「ここが迷宮の階層主前じゃなければもっと可愛く見えただろうな」
「せやな!」
可愛いのは否定されなかったから、この請負人たちはわかっている。
女性から聞く可愛いや綺麗を否定するような男はダメだとキュークスやベルデローナから何度も言われているのだ。
休日に普段着で市場をうろつくとおまけをもらえたり、一緒に店番をして一時的な看板娘になるくらいのウチだから当然ではある。
・・・まぁ、看板娘は子供のくせに口が回るところを買ってもらってるねんけどな。後は美味しそうにおまけを食べるところを見た人たちが買うらしいし。ちゃんとした看板娘が原因で売れてるところとは客が違うわ。
「で、どないしたん?」
「あー、実は今ここにいるのは少人数の2パーティなんだが、通ろうとしたところでジャイアントロックスネークが復活してな。それぞれのパーティでも倒せるんだが、消耗を抑えるために合同で挑もうかと話し合っていたんだ」
「そこにウチが降りてきたと」
「そういうことだ」
少人数と言うだけあって、3人パーティが2つの6人だけ。
ジャイアントロックスネーク相手に戦う場合、障害となるのが岩の外皮で、剣などの刃物よりもハンマーのような打撃武器が有効になる。
しかし、その先の蛇の皮や肉には剣が効くというなんとも面倒な魔物なのだ。
さらに階層主のため体が大きく、ウチなんて簡単にぺろりと丸呑みされそうなほど体格差がある。
幸い固有魔法で弾けるから見た目には危ないけれど、むしろ衝撃を返してダメージを与えられる。
「ふむふむ。なら、ウチも手伝うわ」
「大丈夫なのか?」
「戦ったことはあるから問題ないで。うーん、せやなぁ……。ウチがジャイアントロックスネークの動きを止めるから、トドメや攻撃は任せるわ。ウチの攻撃はほとんど通らんから、倒し切ってくれてええで」
「あー、言ってることはわかるし、固有魔法があるのも知っているんだが理解できないな……」
「じゃあ見せたほうが早いな」
固有魔法のおかげで子供がスライム階層で魔石を取っていると噂で聞いても、それがどう言う方法かまでは話されていない。
固有魔法の内容は有名になれば勝手に広まってしまうけれど、ウチはライテ限定な上に生活に密接した素材を採っているわけではないため一部で知られている程度だ。
ウチと一緒に迷宮に潜った人たちも話すのネタにこういう子供がいると話しても、固有魔法は見たままのことしか話せず、攻撃を受けてもケロッとしているぐらいしか言うことがない。
ハリセンのことを知っているのは極一部なのだ。
そうなると口で説明するよりもウチ1人でジャイアントロックスネークに向かっていき、どうなるか見てもらったほうが早い。
「じゃあよう見といてな」
「あ、あぁ……」
「本当に大丈夫か?」
「問題ないで〜」
心配そうな顔を浮かべる請負人のおじさん達を置いて階層主の部屋へと入る。
すると、ウチを感知したのかジャイアントロックスネークが動き出し、纏った岩と床が擦れる音が響く。
音の発生する方を向いてハリセンを出し、いつでも叩けるように準備する。
しかし、ウチが動くよりも早くジャイアントロックスネークが高速で迫り、正面からではなく降ってくるように頭上から飛びかかってきた。
なんとか目で追うことはできても身体強化ができないウチ。
大きく開いた口が降ってくるのを見上げることしかできない。
そんな光景を入り口から見ていたおじさんたちから悲鳴など色々な声が上がっているけど、焦ることなく動かない。
動けないだけだが。
「おいー!ってなんでジャイアントロックスネークが苦しんでるんだ?!」
「口が裂けてるぞ!」
「どうしてだ?!」
ジャイアントロックスネークはウチを口に含もうと、地面に顔が当たる前に方向を変えてぱくんとしようとした。
だけど固有魔法で下側が引っかかり、地面に沿って真っ直ぐ動こうとしたせいで顎が外れるようなことになった。
方や動かない下側、方や前に進もうとする上側。
その結果口が裂けていき、のたうち回ることになってしまった。
これが頭を使った体当たりであれば跳ね返った勢いで気絶したかもしれないのに上手くいかないものだ。
暴れ狂うジャイアントロックスネークにはおじさんたちも近付けず、武器を片手に様子を見ることしかできない。
「とりあえずハリセンで叩いたら魔力が散って大人しなるやろ!」
頭を振るだけでなく痛みにのたうち回るジャイアントロックスネークに近づく。
できれば頭を叩きたかったけど上下だけでなく左右にも動いているのでウチには無理だ。
そして体や尻尾なら叩けるのかというとそれも無理で、グネグネと動く大きな体はジャイアントロックスネークにとっては少しの移動でも、ウチにとってはすぐに詰められる距離ではない。
岩のある部分はガンガンと硬いものがぶつかる音が、岩がない部分はドスンドスンと重いものが叩きつけられる音が響く。
近くに体が降ってきてもすぐに対応できないウチは、諦めて闇雲にハリセンを振り回すことにした。
「おりゃー!えーい!くぬぅー!」
叩けそうな部分が近くに来たら振るということを始めてから結構経った気がする。
入口のおじさんたちから何度も声をかけられていたから、たぶん間違っていないはず。
そのおじさんたちは暴れるジャイアントロックスネークに近づくことができないため、今も様子見していた。
「しゃー!やっと当たった!……あれ?あんま変わらん……なんで?」
のたうち回るジャイアントロックスネークの体の中程が、ウチでも走れば間に合う距離に降ってきた。
急いで駆け寄り、勢いそのままスパンと叩くことに成功した。
だけど、叩かれた体は少しズレたぐらい他の部分に引っ張られるように動き、すぐにウチの手の届かないところへ移動してしまう。
よく見るとくねくねしなくなっているので何かしらの効果はあったようだが、それも時間経過で徐々にくねりだす。
どうやら体が大きいため、ハリセン一回あたりの効果があまりないようだ。
「こうなったら叩き続けるだけや!!」
そう決意したウチの奮闘虚しく、ウチが追加で叩くよりもジャイアントロックスネークの回復と痛みへの慣れが早かった。
のたうち回ることを止めてこちらを見る目は、元からの赤い目がより一層強く輝き、ウチを睨みつけているように見える。
ウチとしては攻撃したという認識はあまりないのだけど、ジャイアントロックスネークからするとウチを食べようとした時に食べられず怪我を負ったのだから同じだろう。
しかし、これはウチにとってもチャンスということになる。
正面からくるのか、横から薙ぎ払われるのかはわからないけど、攻撃してきたところをハリセンで叩けばいい。
反応できるかはおいといて。
「シャアアアアアアアア!!」
「かかってこーい!!」
剣を持って戦う人たちの見様見真似でハリセンを正面に構える。
先端が膨らんでるせいでちょっと違和感があるけれど、どうせ叩く時に動かすから気にしない。
構えたのはただ格好いいと思ったからで、実際に構えるととても気の抜ける姿になっていると嘆くしかなかった。
そんなことを考えている間にも、ジャイアントロックスネークは地を張ってウチへと迫り来る。
裂けた口の横はピンクや白の薄い肉でかろうじて繋がっている程度で、まだ痛みはあるはずなのに気にした様子もない。
そして構えていたウチへの攻撃は前でも横でもなく、また上からだった。
ただし、今度は口を開けることなく顎で押しつぶす方法で、顎下にある岩を使うことで威力を上げるつもりだろう。
目の前でいきなり上へと動かれたことで目で追うしかできなかったウチは、ハリセンを動かすことなく潰される。
「おいぃぃぃ!!」
「せめて動けよ!!」
ベキバキドシンとジャイアントロックスネークがたてた音と周囲に立ち込める土煙の向こうから、請負人たちの声が聞こえる。
もちろんウチは無傷で、周囲には砕けた岩の破片が転がっている。
その奥には顎を強打したことで意識を失ったジャイアントロックスネークの頭があった。
「まさか気を失うとは思ってなかったけど、とりあえずはええかな。念のため頭をハリセンで叩いておこ」
・・・ハリセンで気を失わせるはずやったのに向こうの自爆か〜。なんかしっくりけぇへんわ。向こうからしたら自爆やないんやろうけど……。顎で叩き潰そうとした相手が自分より硬いなんてウチでも想像せんわ。もしかしたら魔力を感じ取って強さを測れるかもしれんけど、ウチの場合漏れ出とるだけやし。
考え事をしながらジャイアントロックスネークの頭をハリセンで叩く。
最初は叩いた瞬間にビクンとしていたが、5回を超えたあたりから全く反応がなくなっている。
それでも念のために叩き続けていると、ジャイアントロックスネークが動かなくなったからか請負人たちがやってきた。
「仕留めたのか?」
「気絶してるだけやで」
「じゃあトドメを刺さないとな。それにしても聞いただけじゃ信じられない光景だったぞ」
「でも、無事やろ?」
「まぁな。こっちの方は気が気じゃなかったが……。うおっ?!刃がスルッと入るぞ!なんだこれ?!」
「こっちもだ!解体が楽に……少し下がると硬くなっていくな……」
話しながらも頭に剣を突き立ててトドメを刺していくおじさんたち。
硬い鱗のはずなのに少し力を入れただけでスッと入る刃に全員が驚いていて、それを見た残りの人たちも次々に刃を差し込んでいた。
その結果、ウチが執拗に叩いたところの近くは刃が入りやすく、遠くになるにつれて硬くなっているようだ。
・・・うーん?ウチがハリセンで叩くと魔力が散るから……鱗とかに溜まってた魔力がなくなって切りやすくなった?首から下は叩いてへんから硬いまんまっちゅうことか?よし!試してみよ!
「ここから下が硬いんやんな?」
「あぁ、そうだ」
「とうっ!これでどない?」
「え?あ、あぁ。やってみる。……おぉ!柔らかくなったぞ!」
「ほな、これで解体しやすくなるな」
「そうだなぁ。だが、素材としては使えなくなってるぞ」
「え?なんで?」
「ジャイアントロックスネークの皮は硬いから防具に使えるんだ。だが、こんなに易々と切れる防具はダメだろう。普通のナイフで……ほら。見かけだけの防具ならまぁいいかもしれないけどな」
ウチでも持てそうなナイフを切り落とされた肉の鱗に突き立てると、剣より抵抗はあったものの刃が中程まで入った。
確かにこんな簡単に切れる革鎧はダメだろう。
この素材を持ち帰って防具を作られたら、気づかなかった請負人が死んでしまうかもしれない。
ハリセン片手にどうするか迷っていると、魔力がなくなった鱗は別の袋に入れて持ち帰ることになった。
ハリセンで叩いた場所の素材はどれも同じようになっていたので、しっかり説明して組合に収めてくれるそうだ。
ついでに過去の気絶して見つかった魔物の素材についても注意喚起することになった。
・・・知らんかったとはいえウチも戻ったら謝らんとなぁ。
そんなことを考えながら捕れたてのヘビ肉を豪快に焼き、塩で味付けしたステーキを勝利の宴として堪能した。
今すぐどうにもならないことは戻ってから考えるべきだと全員から言われたから、全力で同意しておいた。




