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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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122/305

スライムの種類多ない?

 

 自称魔導士見習いとは遭遇する事なくしばらく経った。

 ジャイアントスライムを2回討伐する間に特に動きがなかったのは不思議だけど、自分で迷宮に潜っているのか誰かを雇おうとしているのだろう。

 残念ながら帰ったという情報はなく、他の請負人たちからも失礼な物言いをする変人と噂されていた。

 そんな話を思い出しながらミミと一緒にこなした清掃の依頼に対する完了報告を終えたら、受付の人に呼び止められた。


「エルさん。組合長がお呼びですので、組合長室へ向かってください」

「ん?わかったー」


 いつもは日付と大まかな時間を指定して呼び出す組合長が、依頼を終え次第来るように指示を出しているのは珍しい。

 よほど急ぎの要件があるのだろうか。

 ここ最近は大人しく迷宮と依頼を繰り返しているので怒られることはないはずだ。

 パッと浮かぶのは魔導士見習いの件だから、もしも指名依頼だったら断る気持ちで挑もうと思う。

 組合長に口で勝てないからひたすら嫌と嫌いを言って逃げるつもりだ。


「組合長ー。ウチウチ、エルが来たでー」

「入りな」


 ノックしながら名乗るとすぐに返事があった。

 何度か呼ばれて仕事具合を聞かれているので入るのに緊張はしない。

 それどころか水生みのコップを出して水を用意するぐらいだ。

 もちろん組合長の魔道具も借りて入れるのも忘れない。

 組合長のベルデローナはウチから取れる水が口に合ったため、毎回入れるようにしている。


「ありがとう。今日も美味しいね。どうだい?組合の食堂で働かないかい?」

「お水目的で?」

「そうだ。後は変わった料理を思いつけば儲けもんだね」

「う〜ん。あんま楽しそうやないなぁ」

「まぁ、普通の給仕と変わらないからね。残念だ。美味しい水がいつでも飲めると思ったんだが」


 椅子に座って水を飲みながらのんびりと話す。

 急ぎでなければすぐに本題から入らず、世間話から始めることが円滑な会話に繋がるからと組合長と話す時はいつも雑談から始まる。

 ガドルフたちとの出会いから、寡黙なアンリとの居心地の良さ。

 バーガーやドレッシングについて好みの味を話したり、カツをより美味しくするために何が必要か、どういった魔道具が欲しいのかなど色々話している。

 そして年の功が成せる技なのか、的確に注文する方法など色々教えてくれるのだ。

 実践できるかは別として。


「さて、そろそろ本題といこうかね。ちょっと聞きたいことがあって呼んだんだ」

「聞きたいこと?やって欲しいことやなくて?」

「あぁ。聞くだけで特に依頼するつもりはないよ」

「そうなんや」


 これで魔導士見習いのためにジャイアントスライムの魔石を取ってこいと言われることはなくなったはずだ。

 かといって何か聞かれるようなことをした覚えもないから、ただの質問なのだろうと予想する。


「最近もスライム階層に潜っているだろう?」

「それが依頼やしな。1人で行くのはやっぱ寂しいけど」

「その悩みはソロには付き物さ。隠密に特化した者だとあんたの倍は1人で活動することもある。じゃあ、話しを聞きたいことに戻すけど、あれから変わったスライムに出会ったかい?」

「あれっていうとミスリルスライムやんな?それ以外のカラフルなスライムはいつも出会うし。そやったら見つけてへんで」

「ふむ。通る道はいつも一緒かい?」

「うん。ウチらで作った地図で最短の道しか通ってへん」

「ミスリルスライムに出会ったのは?」

「色々調べながらやったけどたしか……ここら辺やったかな」


 地図を取り出しておおよその場所を示す。

 そこはウチがジャイアントスライムを倒しに行く時に通る道から結構離れている。

 初回以降は無駄な道を通らないよう地図を見ながら進んでいるため、ミスリルスライムが出現した場所には近づいていない。

 そのためうろ覚えだった。


「なるほどねぇ」

「もしかしてまた出たん?それにしては組合が盛り上がったりしてへんけど」


 ミスリルスライムから取れた液体ミスリルは買い取られずウチの宝箱の中に入っている。

 そんな物が見つかると公表されたら無茶して突っ込む人が絶対に出てくる。

 今でも近接戦闘で挑んでいる人がいるくらいだから、自分もと名乗りをあげる人ぐらいいるだろう。


「いや、ミスリルスライムは出てないね」

「ミスリルスライムはってことは他のスライムが出たん?」

「そうだ。ブロンズスライムにアイアンスライム。ニードルスライムにバウンドスライム。グレープスライムにライムスライムなんかの報告もあるね。サイズはどれもビッグさ」

「いやいやいや!ちょい待って!ブロンズとアイアンはまだわかる。銅と鉄やろ。ニードルにバウンドも何となくはわかるからええ。でも、グレープとライムはなんなん!魔物やろ!なんで美味しそうやねん!もしかしてスライムはグミなんか?!」

「ぐみ?」

「あー……なんかグニグニした食べ物……かなぁ……。何となく頭に浮かんだんやけど」

「ぐにぐにした食べ物は美味しそうじゃないね。噛みきれなくて疲れそうだよ」


 食感を想像して眉間に皺を寄せるベルデローナ。

 ウチとしては食べたことないのに嫌悪感は全くなく、むしろその食感が良いのではと思ってしまう。

 相変わらず不思議なことが起こるけれど、害はないというよりむしろ助かっているので放っておく。

 今はスライムについて知ることが先だ。


「ライムスライムとグレープスライムのことなんやけど……」

「あぁ、そうだったね。エルはスライムが変質することは……知らなさそうだね。簡単にまとめるとスライムは吸収した物で特性が変わるんだ。鉄を吸収し続ければアイアンスライムに、銅ならブロンズスライムという具合にね」

「じゃあライムとグレープ食べさせたらそのスライムになるんか……」

「そうさ。まぁ、普通にやるなら木2、3本分ぐらいの果実を与えなきゃダメらしいが、迷宮ならそういったスライムが出現するんだろう」

「なるほどなー」


 さらに詳しく聞くとスライムはそういった特性から数えきれないほどの種類がいて、果物や食べ物の場合香りや見た目がその食べ物に似た形になったり、魔石の形が食べ物の形になったりと色々な変化があるらしい。

 他にも食べ物だけでなく体の特性が岩のように硬くなったり、羽が生えて空を飛ぶスライムもいるらしく、一部の研究者は変わったスライムを集めて特性を調べているそうだ。

 他の魔物と比べて種類も多く、上手く活用すれば良い素材が撮れることもあるので、研究には王国からも支援が入っているとか。

 研究の一環で一つの野菜だけを食べさせて、どれだけ食べれば変質するかなど色々調べて発表しているようで、一部の農村では実際に野菜のスライムを作ったりもしている。


「そのスライムから何か取れるん?ブロンズとかアイアンは銅や鉄やろ?」

「銅や鉄は魔力で固まる液体のだね。フルーツや野菜系のスライムからは濃縮された味の濃い果汁が取れる。それを水で薄めて飲んだり、煮詰めて濃厚なスープにするのさ」

「食べるん?!危なくないん?溶けたりせぇへん?」

「あぁ、食べ物関連に変質したスライムはその食べ物しか溶かさなくなる上に、魔石を抜き取ったら溶解能力がなくなって、ただの果汁になるのさ」

「ほー。そうなんや。ウチも探してみよかな」

「良いんじゃないかい。まぁ、奥まったところや人があまり来ない場所にしか出てこないみたいだけどね」


 今回ウチを呼んだのは変わったスライムの遭遇確認だった。

 少し前にあった各階層の人があまり行かない場所への魔物討伐でさっきのスライムが見つかっている。

 ウチの場合、毎回同じ道をスライムを倒しながら通っているから周辺に魔力が溜まらず、基本的なスライムしか出て来ないのではと、ベルデローナは考えを示した。

 各階層も奥まったところに行けば体が大きな魔物や、簡単な魔法を使う個体が多く出てきており、スライムの場合は変わった種類が出現するという予想だった。

 正解は分からずとも周囲の状況で判断するしかないため、今のところこういった結論で各地の組合へと報告するらしい。

 もしかするとそれを見たスライム研究家がやってくるかもしれない。


「これが今のところ迷宮で出てきたスライムと、それの素材。あと簡単な利用方法だ。スライム討伐を主にする請負人みは渡すように受付にも言ってるからエルも持っていきな」

「おおきに。って種類多いな!」


 ベルデローナから1枚の羊皮紙を受け取り書かれている内容をさっと見た。

 基本のスライムはウチがよく見る属性系。

 形状変化でニードル、バウンド、ストーン、ガスなどなど。

 野菜系と果物系でもそれぞれ5種類以上書かれていた。

 それ以外にも報告のあった宝箱から出てきた物も載っていて、これを発表することで請負人を集めようとでもしているのだろうか。


 ・・・魔法薬も何個か出てるな。他にも宝石の原石がいくつかと、魔法のかかった武具。乾きの壺?入れた物が早く乾くとかか?重し石なんて石も宝物になるんか。直りの板なんて物もあるんか。色々手に入るんやなぁ。


「あぁ。もしも変わったスライムを見つけたら、形状変化系なら倒した後に残る素材を、野菜系や果実系なら濃縮された果汁を提出しておくれ。もちろん一部でいいし、ちょっとした発見料は出るよ。夕食が少し豪華になるぐらいだがね」

「発見料なくても別に素材は出すやろうけど、まぁ貰えるもんは貰うわ」

「あぁ。仕事にはしっかりとした報酬が払われるべきさ。聞きたいことは以上だ。潜る時に余裕があったら探してみることだね」

「了解や!果物系は美味しそうやから欲しいわ!」

「取れたら少し分けておくれ」

「ええで!」


 濃い果物の果汁をウチから取れた水で薄めて飲むことを想像すると、口の中が涎でいっぱいになった。

 それを見たベルデローナから分けて欲しいと言われたら、もちろんと答える。

 美味しいものは皆んなで楽しむべきなのだ。

 どこが美味しかったかを語り合い、その部分を意識しながら2口目を楽しむのが美食の入り口だと聞いた気がする。


「じゃあ今度潜った時探してみるな!」

「無理はしないように」

「はーい」


 話が終わったので組合長室を後にした。

 ひとりぼっちのスライム階層を進むやる気が出てきたところだけど、ジャイアントスライムが復活するのは少し先なので、掃除の依頼をこなして過ごそうと思う。

 ミミがスライム階層まで来れるようになると寂しさは無くなるのだが、一気に強くなる方法は知らない。

 何かないかと考えつつ、家に帰ってベルデローナから貰ったスライム一覧を眺めた。



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