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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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魔道具の基礎

 

 開店祝いを届けに行ったはずなのに、なぜかウチも魔道具を作ることになった翌日。

 昨日掃除をしたからリーゼも来ないので、朝食を終えたらすぐに家を出てドレアスの魔道具工房へ向かった。

 魔石の入った皮袋を手に持って、迷宮へと向かう請負人を見送りながらゆっくり向かった。


 ・・・寝る前にミミを連れて行こうかと考えてたけど、一晩明けたらその考えは無くなったわ。そもそもどんなことするかわからんし、ミミを連れて行っても仕事ないかも知れへん。身体強化が必要な力仕事があれば別やけど、仕事があると分かってからでええわ。


「おはようさーん」

「おはようエルさん。どうぞこっちへ。この奥が僕の作業場所で、今日からエルさんの作業場所になるよ」


 絶賛開店準備中なため裏口から入るよう言われていた。

 そこから入るとすぐに作業場所があり、その一角がランディの場所で机と椅子が2つ用意されていた。

 その隣2つの机と比べると少し道具が少ないのは見習いだからだろう。

 作業机に向き合って背中側には加工をするためのよく分からない道具や釜戸など、大きな物が置かれている。

 さすがにウチが大きな道具を使うことはないはずだが、その佇まいを見るだけで不思議とテンションが上がってくる。

 そんな風に工房内を見回していると、ランディから落ち着いてくださいと言われて椅子をすすめられた。

 ウチより大きいとは言ってもランディも子供だから、机と椅子は大人二人と比べて低い。

 そのため、ウチでも難なく座れた。


「エルさんが欲しい魔道具は自分で直接聞けと言われたんだけど、何が欲しいの?難しすぎると作れないんだけど。僕まだ見習いだし」

「お湯の魔道具が欲しいねん。お風呂のお湯を簡単に入れたいから。あと、迷宮の中で体を拭くためのお湯も出せるようにしたいな。ドレアスさんが言うには魔道具を別々にしたらできるらしいけど」

「うーん。お湯の出る量を変えればいいだけかな?それなら別々に作るほうがいいかも」

「あ、お湯の温度は変えれるようにもしてほしいな。ウチは熱いお湯でサッと済ましたい派やねんけど、キュークスは温いお湯で長く入りたい派やねん」


 アンリも温いお湯でのんびり派だったが、お湯に浸かる時間はそこまで長くない。


「お湯の温度調整……。魔石の数を増やせば切り替えることはできるかなぁ。でも、微妙な調整をするにはどうすればいいんだろ。流す魔力を変えればできるけど、最低でも2つの魔石を使うから魔力の操作が難しくなりそう……」


 ランディはぶつぶつと独り言を言いながら難しい顔で考えている。

 口に出した方が整理しやすいと言っていたのが誰だったか思い出せないけど、下手に声をかけて邪魔をするのは良くないので考えがまとまるのを待つ。

 漏れ出ていた言葉から推測すると、流す魔力でお湯の温度を変えるか、熱いお湯と温いお湯が出る魔道具にするかといったところだろう。

 ウチの場合背中から魔力を流すことになるので量を調整できない。

 むしろ使いやすさを考えたらお湯の温度で魔道具を分けた方がいいかもしれない。

 ウチが結論を出せてうんうんと頷いていると、ランディも考えがまとまったみたいで、難しい顔をやめてこちらを向いた。


「とりあえず何とかなりそうだけど……頷いてどうしたの?何かあった?」

「色々考えたら温度調節よりも熱いお湯と温いお湯の2つ作る方がいい気がしてん」

「どうして?」


 不思議そうに首を傾げるランディに、ウチの固有魔法と背中から魔力が漏れていることを説明した。

 その際水生みで出した水が美味しいと伝えたところ、魔道具を持って来られて確かめられた。

 それで盛り上がっているところにドレアスもやって来て、一緒に盛り上がってしまった。

 そんなドレアスをマリアスが呼びに来たから同じく水を味合わせたけど、驚きつつも同じように盛り上がりはしなかった。

 この3人の中で1番冷静なのはマリアスだということがわかる。


「師匠も作業に入ったから魔道具の話に戻ろう。師匠から僕への課題としては温度調節できる物を作らせたいんだと思う。たしか、貴族に収めているお湯の魔道具は水の魔道具と併用して温度調節してるはずだし」

「そうなんや」

「うん。すごく熱いお湯を出す方が簡単なんだ。そっか、そこから説明しないとダメだね」


 そう言ってランディが取り出したのはライトスティックだった。

 ボタンを押すと棒自体が光る迷宮を探索するには欠かせない魔道具。

 隣にはさっき使った水生みのコップが置かれている。


「この2つの魔道具だけど、違いはわかる?」

「形」

「まぁ、確かに……」


 片や棒、片やコップなので即答したけど、反応からすると違うようだ。


「色?」

「色も違うけど……」

「あー、素材?」

「素材も違うね」

「わかった!使こてる魔石!」

「確かにライトスティックは無属性の魔石で、水生みは水属性の魔石だから違う。でも、正解じゃないよ。惜しいところまできたけど」

「魔石が惜しいんか……魔石の大きさ?水生みはともかくライトスティックは見えへんから分からんし……あ!使い方や!使い方がちゃう!」

「正解!」

「よっしゃあ!」


 思わず握った拳を高く上げた。

 ライトスティックはボタン部分を押し込むだけで光るからウチの魔力は流していない。

 対して水生みのコップにはボタンなどなく、コップの外側に出っぱっている魔石を押しても水は出ず、その魔石に向かって魔力を集中させるようにして魔力を流すことで初めて水が出てくる。


「ライトスティックは魔光石(まこうせき)という名前の、魔力を流すと光る石に魔石の魔力を流しているんだ。だから、魔石の魔力がなくなると光らなくなる。魔石を交換するか、取り出した魔石に魔力を込めればもう一度使えるようになるけど」

「魔石って再利用できるんや」

「無属性の魔石だけできるんだ。僕たちが込められる魔力は無属性だから、他の属性の魔石に魔力を流しても、その属性が減って無属性が増えるだけ。だから無属性の魔石は多く出回っているぶん大きくても買取価格は属性付きと比べると値段も安い」

「ほうほう」


 水生みのコップは水属性の魔石をつけている。

 その魔石に魔力を流すと、押し出された水の魔力が水になって出てきて、押し出すのに使った魔力が魔石に溜まる。

 人や獣人が持つ魔力はほとんどが無属性なので、水の魔石は徐々に無属性の魔石になっていくというわけだ。

 そしてその無属性の魔石はライトスティックなどの別の魔道具に使われる。


「水の魔力を溜める方法はないん?」

「水属性の魔力を持った人に魔力を流してもらえば溜められるよ」

「たしかに。他の方法はある?」


 無属性の魔力を流すことで無属性の魔石になるのだから、水属性の魔力を流せば属性の魔石になる。

 ウチがほしい情報はそれではなく、無属性の魔力を持った人でもできる方法だ。

 ちなみに水属性の魔力を持った人は、水場に住む動物の獣人や、澄んだ水が流れる場所で生まれた人に多いらしい。

 火の属性は熱い場所ではなく火山と言われているたまに火を吹く山の近くで、風の属性は絶えず強い風が吹き荒れる谷や山の近く。

 土は鉱山の近くで生まれることがあるらしいけど、雷の属性を持った人は見つかっていないそうだ。


 ・・・雷が落ち続ける場所なんかあるんやろか?あっても生活できる場所やないやろな。危ないしうるさそうや。


「人が流さない場合は、今言った場所に魔力がなくなった魔石を置いておけばいいと言われているけど……」

「けど?」

「魔物に食べられるかいつの間にかなくなっているらしい」

「へー。じゃあ確実なのは人か」

「そうなるね」

「なるほどなー。じゃあ無属性の魔石がどんどん増えていくっちゅう訳やな」

「うん。他の魔道具の魔石として使うか、砕いて魔道具の素材にするかで消費してるけどね」

「素材にもなるんやな」

「うん。じゃあ次は素材の話をしようか」


 そう言ってランディはライトスティックを分解しだす。

 魔光石(まこうせき)を外して持ち手からいくつかの部品を取り出す。

 外す時に使った道具は先端が平らな金属の棒で、魔光石(まこうせき)と持ち手の間に突き刺す形で取り外していた。

 元に戻らないように見えるけど大丈夫なのだろうか。

 そんなことを考えつつも、ウチが使っている道具がどう作られているのか知れることにワクワクしてきた。

 色々知って早くお湯の魔道具を作りたい。


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