売れる前の奴隷の仕事
「ふぅ〜」
「疲れたよ……」
「休憩しよか」
「うん」
なんとかミミを連れて地下5階まで来ることができた。
ウチ1人ならば固有魔法任せに突っ込めるのだけど、2人だとそうはいかない。
ウチを背負ってもらおうにも、そうすると軽量袋を持ち運べなくなる。
魔石をセットするタイプではないので、持つためにはミミに魔力を流してもらう必要があり、そうすると魔力量に不安が出たのだ。
獣人より少し多い程度では迷宮内で軽量袋を持ちながら歩き回れない。
軽量袋を持った荷運び専門の人たちに普通の人か足が速い獣人しかいない理由らしい。
あと、ミミが戦うのを怖がるため、戦闘に時間がかかったのも疲れた原因の一つだ。
ウチが気絶させた魔物ならトドメをさせるけれど、動いていると途端に及び腰になっていた。
痛い思いをするのが嫌で、気づいたらこうなっていたそうだ。
今までどうやって迷宮に潜っていたのだろうか。
「じゃあ休憩しながら話そか」
「うん。あ、お水ありがとうだよ」
階層主の部屋が見えるところに座って水を飲みながら話すことにした。
理由は単純で色々な人の戦いが見れるのが面白いからだ。
これがベアロなら水ではなくてお酒になるんだろう。
ちなみに一緒に進むからと固有魔法や背中の魔力漏れ、それを利用した水については説明している。
「んじゃ、まずはウチの疑問から。何で戦われへんのに迷宮におったん?」
「えっと、奴隷は奴隷商にいるだけで借金が増えるのは知ってる?」
「いや知らん。何それ酷ない?」
自分を売ったお金に奴隷商の儲け分が加わるのはわかるけど、居るだけで増えるとしたらどんどん値段が上がってしまう。
そうすると高すぎて売れなくなる人も出てくるのではと考えていると、ミミが説明してくれた。
身売りした奴隷には買い取り代金に加えて奴隷商の儲けが加算された値段で売られる。
これに奴隷商にいる期間分の管理費を加える。
奴隷の健康を維持することや、食事、衣服、寝所などにかかるお金だ。
体調を崩せば薬代、飢えているなら食事代、毛服を汚せば衣装代とどんどん増えていく。
奴隷商によっては売れるようにするため色々な教育を施し、教育代を上乗せすることもあるそうだ。
「それやとどんどん高くなるやん。時間が経ったら買われへん値段になりそうやな」
「高額過ぎて売れなくなったら奴隷商で死ぬだけなんだよ。そうならないように働いてミミもここにいるんだよ」
「戦えないのに迷宮に入ることが仕事なんか……」
「ミミにできる仕事がなかったから仕方なくなんだよ……」
奴隷の仕事について詳しく聞くと、ほとんど請負人だった。
ただし、依頼を張り出さず依頼人が直接奴隷商のところへ行き、条件に合った奴隷を一定期間借り受けるというものだ。
例えば食事処が繁忙期に料理補助ができる人を借りたり、建築のお店が力のある奴隷を借りたりだ。
請負人組合に依頼を出しても受けてもらえるかわからないから、自分で人を探しに行ける奴隷を借りる。
長期間なら近隣住民を雇うこともできるけれど、短期の場合人が集まらないか、雇えても時間がかかる。
人伝に紹介してもらうこともあるけれど、奴隷商なら何かしらの経験者がいることが多いので、貸し出し業でお金を稼ぐそうだ。
そこで稼いだ金額分自身の販売金額から減るため、日々増加する金額より稼げれば売れる可能性が上がる。
しかし、借りてもらえない奴隷もいる、というか借りてもらえない奴隷の方が多いそうだ。
能力や経験があれば借りてもらえるが、そういった人はごく一部だし、売れるのも早い。
借りてもらえなかった人はどうなるかというと、今度は本当に請負人になり、自分で依頼を選んで片付けていくしかない。
それをしなければ借金が加算されて売値が上がるのだからやるしかないのだ。
「ほんで迷宮に挑んだ結果こうなったと」
「この街に来た時は人気のない依頼を受けてたんだよ。それもひと段落して仕方なく奴隷をパーティ分けして挑んだんだよ……」
「ちゅうことは、あのすれ違ったのがパーティの奴隷か」
「たぶんそうなんだよ」
「仲間を見捨てるなんて酷い奴やな」
「奴隷同士だから連帯感なんてないんだよ。半獣を囮にして逃げれたらいいと思ってそうだよ」
「それもムカつくな。それに大事な商品を放って帰っても大丈夫なん?」
「ミミは迷宮初めてだから合ってるかわからないけど、たぶん狩りと同じで死んじゃったら仕方ないと諦めると思うんだよ。奴隷商さんもそれをわかって迷宮に送り出しているはずだよ」
「なら、今回の件は全滅せずに戻ってきたからまだマシってこと?」
「そうだよ」
「なんやそれ……。う〜ん、奴隷の世界はウチにはわからんわ」
奴隷が死んでしまうとせっかく買い取ったお金が無駄になる。
そう考えると全部が無くならずにほとんど戻ってきたら良しになるのかもしれない。
それでも失った命は戻らないのだから、見捨てた事を叱るべきだと思う。
そうしないと見捨ててもいいという考えになりそうだからだ。
もしかしたら奴隷商も半獣はいなくなってほしいと思っているかもしれないけど。
「死んでも諦められるなら、ミミを助けたけどどうなるん?よく戻ったと褒められるん?」
「う〜ん……ミミは解体と警戒ぐらいしか役に立たないから、あんまりいい顔はされないかもだよ」
「それができるのでも十分やけどな。どっちもウチにはできへんし、身体強化も無理やからリトルボアも軽量袋に入れられへん」
「でも、固有魔法があるんだよ。ミミも固有魔法があれば売れたかもしれないんだよ……。や、もっと高値が付くように奴隷商を転々とした後に珍しいものが好きな人に買われて変なことされそうな気もするんだよ……。今のミミでいいんだよ」
希少な存在ほど高値で売れる。
遠方の村を回る奴隷商より、王都や大迷宮のある奴隷商の方がそういった者を取り扱うことの長けている。
地方で手に入れた場合、かかった費用に色をつけてもっと上位の奴隷商に売ることで儲けることもできるのだ。
固有魔法持ちは非常に珍しく、それが奴隷になったら喉から手が出るほど欲しがる人もいるだろう。
それが固有魔法の有効利用か、ただのコレクションなのかは置いといて。
・・・有効利用ならまだしもコレクション目的とか、ウチは絶対に奴隷になりたくないわ。まぁ、拐おうとしても固有魔法で弾けるし、お金借りへんかったらええだけや。今のところ貯まる一方やし大丈夫やな!
「食べ物やお金を持ち帰ったらミミの価値が上がるんやんな?」
「そうだよ。それにミミの管理費も払えるんだよ」
「じゃあさっきまでのリトルボアとかの素材持って帰る?ウチはこれから深く潜るから腐らせてまうねん」
「え?!それはとても魅力的な提案だけど……ミミが倒したわけじゃないんだよ……。だからダメなんだよ」
「でも、ウチだけやったらここまで持って来られへんかったし、それにどうせ腐るんやから有効利用した方が色々お得やろ」
「腐らせるよりはお得なんだよ……。でも、ミミじゃあ狩れないからどうやったか聞かれたら困るんだよ」
「そんなん通りがかりの請負人に助けてもらったって言えばええねん。強い人やったらリトルボア放置して進むし問題ないやろ。見習いとか連れて倒した魔物を換金させる人もおったし」
「うーん……それならいいかもだよ」
「よし決まりや!」
時間をかけるとまた悩み出しそうなので、即断即決即行動だ。
下ろしていた軽量袋を開き、どどんと存在感のあるリトルボアをミミに取り出してもらう。
その間に持ち帰り用の皮袋を2つ広げる。
肉と皮を入れる用で、解体はミミに任せる。
・・・ウチは支えるぐらいしかできへんからなー。ミミの稼ぎになるから解体してもらってもええやろ。流石に全部解体せずに持って帰るのは無理やしな。
チラチラとホーンボアに挑戦する人を見つつ、解体されるリトルボアを支えて過ごす。
解体できると自分で言えるほどミミは解体上手で、テキパキと部位ごとに肉を切り、皮を傷つけることなく剥がしていく。
通り抜ける人たちはその腕前に関心したような表情をするも、ミミが半獣だとわかると微妙な顔になる。
半獣が嫌がられているとはいえ見るだけでこうなるとミミは生きづらそうだ。
「それにしても解体上手いなぁ」
「ありがとうだよ。戦えないから事後処理として解体ばかりやらされていたからできるようになったんだよ。本当は料理したいけど皿洗いぐらいしかできないんだよ……」
「料理ができたら解体した物を食べられるもんな」
「そうなんだよ」
そこからはウチのドレッシングやバーガー、カツについて話しながら解体を続けた。
一度並んでた請負人からどこで食べられるのか聞かれたけど、ドレッシングはともかく他の物はレシピを買うしかないと分かったら諦められた。
もっとも、店を出すときは組合に掲示してくれと頼まれたけど。
「ありがとうだよー!」
「またなー!」
今度バーガーを作って持っていくと約束して魔法陣のところで別れる。
ミミの手にはパンパンに膨らんだ皮袋が2つ。
魔石と皮と大半の肉を売って、残りを持ち帰るそうだ。
ウチはこのままどんどん進んでいき、1人でジャイアントスライムを討伐する。
ハリセンがあれば問題はないけど、やっぱ1人は寂しいわ。




