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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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114/305

半獣の奴隷ミミ

 

 耳を押さえてぺたんと地面に座る女の子。

 何と声をかければいいかわからず、耳から逸らした結果そのまま全身を眺めてしまった。

 目は薄い桃色でちょこんとした小さな鼻に痩けた頬と乾いた唇。

 ピンクの髪は肩を少し超えるぐらいの長さで、薄汚れている。

 服装は半袖のシャツに長ズボン、ボロボロの革製胸当てを付けている。

 ベルトに素材を入れるための袋を吊るす穴は空いているけれど、袋すらないのは捨てて逃げたからだろう。

 服は全体的に汚れていて、請負人見習いよりも準備不足に見える。

 剣の良し悪しはわからないから断言できないけれど、少なくとも使い古されていてカインが買い替える前の剣よりボロく、ウチでもわかるほどの刃こぼれもしていた。


「あー、ジロジロ見てごめんな……」

「えぅ、あの、叩かない?」

「何でウチが叩くんや。助けただけやで」

「うぅ、ありがとぉ……」


 おかしな返答に首をかしげつつ、女の子が立ち上がるのを待つ。

 立ったらウチより大きく、さらに獣耳があるからもっと大きく見える。

 だけど、全体的にガリガリで頬は痩けて腕も細い。

 その手首や首には黒いベルトが巻かれていた。


「自分奴隷なん?」

「えっ?あ、奴隷だよ……です」

「ほー」

「あの、えっと、ごめんなさい!」


 初めて奴隷を間近に見たから、首や手首のベルトを見ていたら手で隠そうとわたわたし始めた。

 右手で左手首を隠せば右手首が目の前に、左手で右手首を隠せば左手首が目の前に、両手を後ろに回せば首のベルトが見える。


「何で謝るん?」

「え?えっと、不快なものをみせたからだよ……です」

「不快なものって何?え?奴隷って不快なもの扱いなん?」


 人によっては借金するなんてと思うかもしれない。

 あるいは身なりが整っていないから不快と感じるかもしれないけど、見習いになる子の中にはこの子ぐらい汚れている子もいた。

 その子は組合の寮ですぐに洗われて、服も洗濯されていたし、古着をもらってすぐに依頼を受けていた。

 裕福ではない家はそんな感じになるというのも、街で過ごして知っているから、他の人も同じだと勝手に思っている。

 ベアロたちも奴隷に対して嫌悪している様子はなかったし、市場の奥で販売されているとはいえそれなりに盛り上がっている様子もあった。

 なので、奴隷だからといって不快なものにはならないのではと考えていると、女の子がおずおずと口を開く。


「それは……ミミが、半獣だからだよ……です」

「半獣?」

「人と獣人の間にできるどちらでもない子のことだよ……です。知らないの?……ですか?」

「知らんなぁ。獣人を見たのもここ最近やし」


 村には獣人がいなかった。

 ガドルフたちに助けてもらうまで獣人を見たことがなく、ウアームで獣の尻尾亭に宿泊したことでたくさんの獣人と出会い、その種類に驚いたものだ。

 子どもに関してはポコナに誘われて遊んだ子と、ライテやウアームの街で見かける子、後は請負人見習いになっている子ぐらいだけど、その中に獣耳を生やした普通の人間はいなかった。

 獣人か人間のどちらかだ。

 結構な数の子どもを見てきたけれど、その中にいないということは珍しい。

 そして、珍しさは阻害を生むことになると誰かから聞いた気がする。


「何で半獣やとあかんの?」

「中途半端だからだよ……です。人より少なくて獣人よりほんの少し多い魔力に、人よりほんの少しだけ優れた身体能力。生まれる数もすごく少ないから嫌がられるんだよ……です」


 詳しく聞くと魔力と身体能力が少し優れていると言っても、どちらも恵まれた体を持って生まれた者や、しっかりと訓練すれば簡単に覆せるほどらしい。

 半獣が努力しようにも除け者にされるから、成功する試しがない。

 数が少ないのは異なる種族で子どもを作ると母親の種族で生まれてくるのが普通で、父親の種族で生まれてきた場合は漏れなくどこかが優れているそうだ。

 それを狙って異種族との子作りに励む人もいる。

 でも、時たま生まれるのが半獣で、獣人からは身体能力が合わせられないため阻害され、人間からは似た体つきなのに一部が違うせいで排斥されている。

 半獣と子どもを作るとほとんど半獣が生まれるのも避けられる原因の一つになる。


「半獣に生まれたから悪いんだよ……です」

「別に悪くはないやろ……。ただ、生まれもってちょっと違うだけやんか……」

「そう言ってくれる人は初めてなんだよ……です。ありがとうだよ……です」

「無理矢理です言わんでええで。ウチはそんなことで怒らんから」

「わかったんだよ」


 物心つくぐらいの時に奴隷商に売られ、ずっと半獣だからダメだと言われて育ったそうだ。

 それが周囲の認識とはいえ、幼い子どもに否定の言葉をかけ続けるなんてとても酷いことだ。


 ・・・なんかめっちゃムカつくわ。生まれを選べるわけやないのに。生まれたら必死に生きるしかないんやで。それを本人にどうにもできへんことで否定し続けられるなんて……。ウチはウチの好きなように接するからな!なんか言ってきたらハリセンで叩いたるわ!


「ウチはエル」

「え?」

「ウチの名前はエル!奴隷なんて関係ない!友達になろう!」

「えっと……でも……」

「嫌なら断ってくれてええで!」

「嫌じゃ……ないんだよ。ミミはミミって言うんだよ」

「よろしくミミ!」

「よろしくだよエル!」


 ウチが伸ばした手におずおずと手を重ねたミミ。

 浮かべる表情はとても嬉しそうな笑顔だった。

 そして鳴り響くお腹の音。

 発生源はミミだ。


「お腹空いてるん?まだ朝やで?」

「うぅ……。お店で出てくる食事は1日1回だからお腹は空いてるんだよ……」

「そうか。ちょっと待っとき。あ、周りのリトルボアにトドメ刺しといてくれへん?気絶してるだけやから」

「任せてだよ」


 恥ずかしそうにお腹を押さえるミミ。

 耳もペタンとなっていて、思わず撫でてしまいそうになるぐらい可愛い。

 ウチが撫でたら綺麗な色になるのではないかと思いつつ、軽量袋を下ろして中から多めに持たされた干し肉と硬いパンを取り出す。

 逃げる時にコップを捨ててきているようなので、予備として入れていた普通のコップとウチの水生みのコップも出す。

 その間にミミがリトルボアにトドメを刺したようで首から血が流れていき、少し床に広がってから消えていっている。

 血を回収する場合は床に触れさせずに瓶に入れる必要がある。


「だいぶ多く持たされてるからこれ食べてええで。水もすぐ用意するわ」

「え、でも……」

「進むにしろ戻るにしろ、お腹が空いてたら力も出んやろ。安全に進むためにも食べて」

「ありがとうだよ」


 空腹で動くことに危機感を覚えたばかりだからか、すぐにパンと干し肉に手を伸ばしてくれた。

 ウチには硬くてスープでふやかさないと食べられないパンと、ナイフで割かなくては食べられない干し肉にそのままかぶり付くミミ。

 顎の力は獣譲りなのかパンをバリバリと噛み締め、干し肉は噛みついて引き裂く。

 見ている間に背中に回して入れた水生みの水を予備のコップに入れて渡すと、ぐびぐびと気持ちよく飲み干す。

 よほどお腹が空いていたのだろう。

 凄い勢いで食べると、満足そうにお腹を撫でながら口の周りをぺろぺろと舐めている。

 その背後では同じくピンク色のふさふさした尻尾が揺れていた。


 ・・・リトルボアに注目していたとはいえ尻尾に気づかないとは不覚!キュークスとは違うちょっとふわふわした毛並みっぽいな!


「はふぅ〜。お腹いっぱいだよ〜」

「それはよかった。なんならもうちょっと持っていく?まだ余分にあるねん」


 数日遅れても大丈夫なように余裕を持った数に加えて、予備として追加で持たされたのだ。

 合計すると1.5人分を超えていると思う。

 毎日パンと干し肉にスープばかり続くのは嫌だけど、解決策がないので仕方ない。


 ・・・手軽に料理できる何かがあればええんやけどなぁ。今のところ外で料理するには焚火か石を組んで釜戸を作るかしかあらへん。迷宮でそれをするのは材料がなくて難しいからなぁ。


「ううん。もう大丈夫だよ。それに、持って帰っても取られちゃうんだよ」

「何やそれ!ウチからミミにあげてもあかんの?」

「半獣は1番身分が低いんだよ。だから、殴られないように渡すしかないんだよ……」

「はぁー?!ありえんわ!ウチからミミにあげてるのに渡さんかったら殴られるんか?!めちゃくちゃやな!」


 聞くところによると奴隷の中でも色々と階級があるそうだ。

 まずは大人と子どもに分けて、その中で戦闘力の高い者、戦闘以外の仕事ができる者、まだ仕事ができないほど幼い者になり、それぞれの中で半獣は1番下に置かれる。

 戦闘力がある半獣ならば反撃を恐れて遠巻きにされる程度だけど、戦闘以外になると物を奪われたり殴られたりするのは日常茶飯事。

 奴隷商が見たら商品を傷つけるなと止めてくれるそうだが、ずっと見ているわけにもいかないため、食べ物を奪われたり殴られる。

 ミミは戦闘力がないというより戦うのは怖いから、よく食べ物や採集物を取られてしまう。


「やりすぎると奴隷商さんが他の奴隷を怒ってくれるんだよ。でも、そうするとしばらくしてから強く殴られたりするから、食べ物を渡した方がいいんだよ……」

「全然良くないやん!どうにかできへんの?!」


 ぷんすこ怒るウチをびっくりした顔で見るミミ。

 反応を見るに今までこんな事を言われたことがないのだろう。

 しばらく口をぱくぱくした後、言うことがまとまったようで話してくれた。


「対策はミミが強くなるか、十分な食べ物かお金を手に入れられれば良いんだよ。そうすれば奴隷商さんが守ってくれるんだよ」

「なるほど。価値があるから大切にしてくれるっちゅうわけやな」

「そういうことだよ」


 ミミを強くするのは簡単じゃない。

 本人が戦いたくないのに無理矢理戦わせるのもよくないし、そもそもウチが誰かを強くするのは向いてない。

 ウチ自身固有魔法頼りだからだ。

 そうなると食べ物やお金を手に入れる方法になるが、そのためにはもっと奴隷について知る必要がある。

 とりあえずリトルボアの死体を軽量袋に入れてもらって、移動をしながら話すことにした。

 向かうは地下5階だ。

 そこでならゆっくり話もできるだろう。


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