表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/305

見捨てられた子を助ける

 

「お!今日は1人か魔石狩り!」

「せやで!」

「気をつけろよ!」

「おおきに!」

「忘れ物はないか!」

「ばっちりやで!むしろ余分に持たされてるわ!」

「1人だとそうなるわな!」


 今日もウチは小迷宮へ潜る。

 奴隷商を見かけた日から3回潜ったので、今日はライテに来てから5回目の挑戦で、調査を入れると6回目になる。

 今日も元気な請負人や屋台の人たちに見送られながら、1人で迷宮の入り口をくぐる。

 獣人組は少し遠くに発生した魔物の群れを討伐しに、アンリは組合長の依頼で魔力を見る仕事をしている。

 ウチを運んでくれる人は組合長に紹介して貰っているんだけど、今回は予定が合わなかったので1人で潜ることになった。

 ジャイアントスライムが復活する周期で倒しているので、日数を開けるともったいない気がするからだ。


「それにしても荷物多すぎやろ……。軽量袋なかったら潰れてるでウチが」


 1人で潜ることには合意してくれたけれど、食料やいざという時のためにとロープや傷薬、予備のナイフや調理器具、各種魔法薬を2本ずつ箱に入れてと過剰に持たされた。

 これを持って行かないと許可できないと言われたから、仕方なく持って入っている。

 屋台のおじさんも仕方ないと笑っていたから、それだけ心配なんだろう。

 この迷宮に出る魔物の攻撃は全て弾けるとはいえ、何が起きるかわからないのだから。

 それに、傷薬や魔法薬はウチ用というより怪我した人に使うことを想定されている。

 ベアロが笑うながら「エルは怪我人を見捨てるなんてできそうにないからな!だが、心して使えよ!もっと欲しいと狙われるかもしれないからな!」と言っていたのを思い出す。

 言われたその日は悩んだけれど、目の前で死なれるよりはいいかと納得している。


「ふんふんふ〜ん。ウ〜チは鋭いツッコミガール、ハリセン一振り一網打尽〜♪」


 のんびりと歌いながら地下3階まで魔物に遭遇することなく進んだ。

 3回目の迷宮に挑戦するぐらいから請負人が増えたおかげで、道中の遭遇率は驚くほど下がった。

 その分人と遭遇することが増えたけれど、みんな色んなところに散っているからほんの少しだけですんでいる。

 新しくきた人たちはウチのことを知らないけれど、そこは他の人たちが説明してスライム専門の魔石狩りと広まっている。

 おかげでウサギ狩りから魔石狩りに二つ名が変わったわ。


「お、リトルボアや」


 通路の先からのっしのっしと短い足を動かして歩いてきた。

 向こうもウチを認識したみたいで、勢いよく駆け出す。

 慌てずハリセンを出し、近づいてきたところで横から思いっきり叩く。

 バシンと音をたてた瞬間ドスンと重い音が響く。

 リトルボアが壁に激突した音だ。

 ハリセンで吹っ飛んだ魔力に引っ張られて壁にぶつかるから、息の根が止まることはないけれど、魔力が一時的になくなって気絶する上に激突したダメージもあるので、しばらく起き上がることはできない。

 このリトルボアは放置して先に進む。

 ナイフではトドメを刺すのも一苦労だし、解体もできない。

 1人では軽量袋に入れられないからどうしようもないのだ。

 トドメを刺さなければ迷宮に吸収されることはないので、運がいい請負人が見つけたら簡単に倒せるだろう。


「ふすー……ふすー……。あかん口笛は吹かれへん。吹けたら格好いいのにな〜。お?なんか向こうが騒がしいな」


 口笛の練習をしながら階段に向かっていると、横道の方から騒がしい声が聞こえてきた。

 請負人が揉めているのかと思ったけど、焦った声が聞こえるから違うようだ。

 そもそも初心者向けの地下3階で揉めるほどのことはそうそう起きない。

 リトルボアは探せば見つかるし、軽量袋を持っているのが稀なので1パーティ2、3頭で引き返すことになる。

 そうなると獲物の取り合いなどはほぼ起きないのだ。


「気になるな。行ってみよ」


 時間はあるから様子を見ることにした。

 近づいていくと叫び声が聞こえてきた。

 ただ、襲われているというよりも逃げている感じがする。

「走れ」「荷物は捨てろ」が聞こえてきたからだ。

 声の方に進んでいくと、少し先の曲がり角からボロボロの服を着た少年たちが走ってきた。

 仕切りに後ろを振り返りつつ、何かを言い合いながらこちらに向かってくる。


「あ!おい!お前も逃げろ!リトルボアが4頭追いかけてきてるんだ!」

「あいつはもう無理だ!逃げるぞ!」


 ウチが返事をする間もなく3人の少年が走り抜けていく。

 パッと見た感じカインと同じか歳上くらいだから見習いだろう。

 それよりも誰かを置いて行ったような言葉が気になって、曲がり角の方へ走る。


「やだぁ!来ないで!」


 角を曲がると女の子が1人尻もちをついた状態で剣を振り回していた。

 周囲にはリトルボアが3頭、少し奥に他と比べるとちょっと大きなリトルボアがいる。

 普通のリトルボアでもウチより大きいから、さらに大きいと威圧感がある。


「ジッとしとき!」

「ひぅ!」


 後ろから聞こえたウチの声にビクッと身をすくませる女の子。

 振り回していた剣さえ胸元に引き寄せて抱き締めている。

 頭も下げているのでリトルボアから視線を外してしまってる。

 どうやら戦うのは苦手みたいで、もっと縮こまれば自分の剣で怪我しそう。

 そして、そんな女の子の隙を逃すまいと突進しようとするリトルボア。

 ウチが声を描けたから2頭と奥の1頭の注意は引けたけど、1頭だけ女の子を狙っている。


 ・・・ウチが最初に叩くのはお前や!


 スパン、ドシンと連続した音に女の子がビクッと跳ねる。

 小さく悲鳴も出ていたかもしれない。

 ウチを見ていた3頭は、仲間が吹っ飛ばされたことで一気に臨戦態勢になり、前2頭がほぼ同時に頭を突き上げ、後ろの大きな1頭が突進してくる。


「おりゃぁ!」


 前の2頭の攻撃は固有魔法で受け、突進してくる1頭の頭を振り下ろしたハリセンで叩く。

 上から下に向かって力が働いたから、顎を強打した大きなリトルボア。

 その一撃では突進の勢いを無くすことはできず、ウチにぶつかって跳ね返されてしまった。

 踏んだり蹴ったりとはこのことだろう。

 ちなみに大きなリトルボアはもちろん気絶していた。


「てい!ほい!」


 1人で潜るのは初めてとはいえ、新階層へ向かうために何度もこの階は通っているから、保護者の監視付きで何度も戦っている。

 その時は解体と軽量袋に入れるのは任せていたけど、ハリセンからのナイフでトドメはできる。

 今回も問題なくリトルボア4頭を昏倒させることができた。

 ウチは解体できないから、このまま放置して来た道を戻ることになる。

 ただ、この子をどうするべきかがわからない。

 地下5階まで行って魔法陣で帰る方が早いけれど、出てくる魔物の数は多い。

 戻る時も複数の魔物が出てくるが、リトルボアよりは弱い。

 色々考えたけれど答えは出なかったから、本人に決めてもらうことにした。


「全部倒したで!とは言っても気絶やけどな!」

「あ、ありがとうございますっ!」


 ウチの声に顔を上げた女の子。

 いつの間にか剣を放り出して蹲っていたけど、上げた頭に見覚えのないものがあった。

 いや、普段はよくキュークスで見るのだけど、普通の人間にはないものだ。

 ピンクの髪の上にピョコンと出ているのは獣耳。

 髪と同じくピンクの毛が生えていて、内側は白い。


 ・・・獣人?でも、獣じゃなくて人間やし……。もしかしてアクセサリーや魔道具とか?


 ウチがジッと耳を見ていると、その耳がピクピクと動いた。

 どうやらアクセサリーではないようだ。

 本物そっくりに動く魔道具かも知れないけれど、もしそうだとしたら何のための道具かわからない。

 見られるのが恥ずかしいのか、両手で耳を押さえる女の子。

 その顔は涙目だった。


 ・・・ウチがいじめたみたいやんこれ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ