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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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112/305

奴隷制度

 

 食事をとりながら話し合って迷宮への挑み方を決めた。

 誰も依頼を受けてない場合は全員で向かい、誰かが依頼を受けた場合、受けていない人がウチを新階層まで背負って運ぶ。

 そのあと一緒にスライムの相手をするか、1人だけ先に帰るかはその人の判断次第となる。

 ウチを除く全員が依頼を受けている場合は、1人で挑むか組合で運んでくれる人を探す。

 運んでもらえそうな人は組合長のベルデローナに相談した上で決めることになった。

 ウチ1人では移動に時間がかかり過ぎることに加えて、何かやらかしそうだということで極力運んでもらうように何度も言われてしまった。

 言われるほど何もしてないはずなのに。

 まだ。


「前回の迷宮では86個の魔石だった。日数は4日だ。十分な成果と言えるだろう」

「階層主の分入れたら87個やな」

「あぁ。だが、あれは別枠だろう。しばらく組合で飾って新階層の周知に使うとも言われたからな」


 階層主の魔石は魔力鍵を付けた箱の中に仕舞われていて、日中は受付の中を除けば見える位置に飾られることになった。

 魔石を見て新階層のことを話し、腕に覚えがある組合員を向かわせようという魂胆らしいが、スライムが相手なのであまり上手くいかないだろうと組合長がこぼしていた。


「もう。今日は休日よ。仕事の話は今度にして、のんびり楽しみましょう。でも、ベアロを見習えとまでは言わないわ……」


 ガドルフと話していたらキュークスに注意された。

 迷宮から帰った翌日の今日は休日にして、それぞれ買い物や飲食を楽しむことになっている。

 話題に上がったベアロは片手にお酒の入った大きなコップを持ち、もう片方の手に肉串を5本持って休日を楽しんでいた。

 流石にそこまで食べられない。


「んーま!やっぱりホーンボアの肉は美味しいわ〜……ん?何あれ」

「どれ」

「あっちの奥にある……人が並んでるところ」


 お気に入りになったホーンボアのステーキを食べていると、市場の奥の方に人が並んでいるのが目に入った。

 買い物客が並んでいるのではなく、通りを進む客に向けて人を並べているのだ。

 何かの芸でも披露しているのかと思ってアンリに聞いてみると、違った答えが返ってきた。


「あれは奴隷商。奴隷を買ったり、人を売ってお金をもらうところ」

「奴隷……」

「場合によっては家の維持管理や素材の売買、荷運びに雇う可能性もあるから説明しておくか」


 遠くに並んだ人たちをじっと見るウチにベアロが説明してくれた。

 奴隷は犯罪奴隷、借金奴隷、身分奴隷の3つの分類があった。

 犯罪奴隷は文字通り犯罪を犯したことで奴隷になった者のことで、国が管理した上で鉱山などの危険が多い場所で働くことになる。

 軽微な犯罪であれば鞭打ちや奉仕刑で済ませることもあるので、奴隷にまでなるのはよっぽど悪いことをした人という証でもある。

 借金奴隷は金銭のやり取りでなる奴隷で、事業に失敗した借金を返済するため自身を身売りした商人や、養えないからと売られた子供がなる。

 街には孤児院があるけれど、村や町にはないか、あっても小さくて余裕がない。

 その場合は孤児院から売られる場合もあるそうだ。

 身分奴隷は奴隷が産んだ子供のことで、奴隷商が売っている場合もあれば、買われた奴隷が産むこともある。

 奴隷商の元で生まれた場合は育児にかかった金額がそのまま借金となるため、いずれは借金奴隷として売られる。

 買われた先で生まれた奴隷は、主人が解放しなければ一生奴隷のままになってしまうが、買われた奴隷と異なり魔道具で制限されていないので逃げることもできるそうだ。


「ややこしくなってきた……」

「難しかったか。そうだな……奴隷商で売ってるのは借金奴隷で、鉱山や荒地の開拓をしている奴隷は犯罪奴隷と覚えておけばいい。身分奴隷は言葉だけ覚えればいいだろう」

「それなら覚えられそうやわ。奴隷を見分ける方法はあるん?」


 せっかく説明してもらっても、奴隷についてはまだよくわかっていない。

 遠目で見ただけでは普通の人たちに見える。

 服がボロボロだとか、靴を履いてないとかもなく、少し痩せている程度だと思う。

 人がたくさんいるとその分食料も必要になり、購入費用がかさんでしまう。

 見た目が悪いと売れないから服装などには気をつけれても、食事までは手が回らないのか、節約のために削っているのかはわからない。


「奴隷を見分ける方法は簡単だ。首と手首と足首に黒い皮のような物が巻き付けられている」

「首輪と……手首輪と足首輪か。言いづら……」

「通称は知らないな。少なくともエルのようには言わないはずだが……」

「隷属の枷」

「ん?アンリさんもう一回」

「隷属の枷。対になる主人の指示棒もある」

「へー。確かに命令する側も何か必要そうやもんな」


 5つの輪っかに対して1本の棒がセットになる。

 ただ、指示棒とは名前がついているが、棒を握って念じたら通じるとか、棒を振りながら命令するというものではなく、棒についている魔石を押し込むと連動して枷が締め付けられるというものだった。

 つまり、罰を与えるための物だ。

 しかも、奴隷1人に対して1本存在するので、複数の奴隷を従えればそれだけ本数が増える。

 奴隷商人としてやり手な人は、専用の棒運び人を連れ歩くほどと言われて想像できなかった。


 ・・・腰に棒をいっぱい挿してるんか?それともマントの裏に挿してる?箱からずらっと出てくるんやろか?


「そういえば、なんでここで奴隷売るん?前に来た時はなかったと思うねんけど……」

「それは店を構えないのかという意味か?それともなぜ今の時期にという意味なのか?」

「う〜ん。せっかくやからどっちもかな」


 ウチとしてはなんで前に来た時に無かったのかが気になるけれど、店ではなく市場なのも言われたら気になった。

 店を構えた方が部屋を割り当てたりして生活しやすそうだ。

 料理が得意な者がいれば食事を作らせるだけで食費が浮くだろう。

 しかし、ウチの推測を聞いたガドルフは苦笑していた。


「その通りなんだが、隣が奴隷商だと普通の店が構えづらくなるだろう。それに、訳ありな人が訪れるから、表通りや人通りの多い場所に構えるのは難しい」

「評判は大事やな」

「そうよ。隣が奴隷商の食事処や服屋に入るのは嫌だわ」

「なるほどな〜」


 店が構えづらいというのはわかった。

 もっと大きな街なら裏街に店を構えているところもあるそうだが、あいにくライテはそれなりに大きいのだが、あまり奴隷の需要がない。

 買う人があまりいないのだ。

 むしろ国政貴族の治める街の方が需要はあるらしい。

 組合員が迷宮のある街に比べて大幅に少ないため、格安で働かせられる借金奴隷で面倒な仕事を片付けるそうだ。

 ライテにも裏街と呼ばれる場所はあるらしいけど、ウチには場所を教えてくれなかった。

 お酒が飲めるようになってからでもダメだと言われたら大人しく引き下がるしかない。


「なぜ今なのかは……恐らくだが農村を回ったりしたんだろうな」

「んー?」

「あー……要は口減らしの人間を安く買ったんだろう」

「なんで安なるん?」

「普通口減らしは収穫の見込みがたって、今のままだと休息の季節を越えられないとなった時が多いんだ。冷害や魔物が暴れたことによって収穫できなくなったりな。だからその時は奴隷商も越せるように多めに出す」

「多めに出すんや。そこで厳しく締めると思ったわ」


 お金がないと越せないなら、ぎりぎりまで安くしても買えそうだからだ。

 商人としては村人から恨まれるかもしれないけど。


「農家が減ると食料も減るからな。それに買い取った金は本人の売値に加算されるから返済が長引くだけだ」

「ほうほう」

「芽吹きの季節になると、あまり高く買わなくても生活ができるから、奴隷商も足元を見てそこまで高い金は出さなくなる。安く仕入れて高く売るに越したことはないからな」

「せやな。じゃああそこに並んでるのは安く買われた人たちってこと?」

「あるいは売れ残りだったりな」

「はー。なんでガドルフはそんなに詳しいん?」

「俺の住んでた村も口減らしで買い取ってもらってたからな」

「そうなんか……。嫌なこと聞いてもうたな。ごめん」

「気にすんな。そうしなければ村が滅んでただけさ。それに、俺が売られたわけじゃないからな」


 そう言いながらもガドルフは奴隷商の方を見ていて、その横顔はどこか寂しそうにも見える。

 もしかして知り合いが売られたんだろうか。

 何となくしんみりした空気だったけど、ベアロのおかわりという声でいつも通りになり、そのまま市場をぶらつきながら休日を満喫した。

 奴隷は今のウチらには関係がないため、奴隷商には近づくことはなかった。


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