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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ライテ小迷宮

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111/305

固有魔法の成長結果と対スライムハリセン

 

 家具や食材を買い終わった翌日、早速迷宮に潜ることにした。

 いつかウチ1人で潜ることになるから、それに対する話し合いを夕食の後にしたからだ。

 結果として過保護なキュークスとガドルフ、怪我をしないのだから自由にさせるべきというベアロとアンリに分かれた。

 面倒になったから一度自分の目で見ればいいと言えば、納得したのかじゃあ行こうとなったわけだ。


「めっちゃスルスルこれたな」

「エルを背負って移動できると速いな!」

「各階の階層主が居ないのも助かった」

「エルの水生みが広まっているのは誤算だったわ」


 1回寝ただけで新階層までくる事ができた。

 ベアロに担がれて進み、階層主が居ない分楽ができたのは良かったけれど、休憩時にたくさん水を求められた。

 出発を邪魔するほどではなかったけれど、美味いと噂の水を飲むためなら頭を下げるとばかりに並ばれたら、おちおち休んでも居られない……はずだ。

 ウチは背中を差し出すだけだったので気にならなかった。

 勢いがありすぎると弾かれるので、みんなそっと付けてくれたからだ。


「エルの水が美味いからな!俺も別パーティだったら頭を下げてでも飲ませてもらいたいぞ!お金を払ってもいい!」

「迷宮だと娯楽が少ないものね。気持ちはわかるわ」


 迷宮での娯楽は取れたての素材を使った料理か睡眠、後は賭博ぐらいしかない。

 料理は肉ばかりで野菜は塩漬けにされた保存食、手持ちの酒を飲み切れば、後は同じメニューの繰り返しだ。

 睡眠は階層主前ぐらいしか安全な場所はない。

 ゆっくり休むと次の狩りに影響するからあまり長くは取れず、かといって休まなければ体が動かず頭も重くなる。

 賭博は帰った時の飲み代を賭けた簡単なものが多い。

 よく見るのは15枚ずつ銅貨を用意して、その中から何枚か握り込んで同時に見せ合うやつだ。

 3回勝負で各回多く出した方が勝ちになり、1枚も握らないのはだめ。

 つまり、1枚、7枚、7枚のように握り、2本先取すれば勝ちになる。

 相手との読み合いが楽しいようで、盛り上がっているのをよく見かける。

 ウチはアンリと魔石転がしをよくしているけれど、これは魔石が余っていないとできない遊びという事で大人はあまりやらないみたい。

 売った方がお酒が飲めるからね。


「さて、まずはエルの固有魔法の効果が変わったのかを確認だな。確か漏れ出す魔力がまとまっているから弾く事ができるか確かめるんだったな」

「そう。恐らくできるはず。でも、まずは道具で試すべき」

「そうだな。なら、道中拾った素材で……ビッグスパイダーの足にしよう。エルを背負ってこれを差し込んでどうなるかだ」


 言いながらウチの軽量袋からビッグスパイダーの足を取り出すガドルフ。

 その間にベアロがしゃがんでウチに背中を向ける。

 ジャイアントスライムの粘液で腕が焼け爛れる経験をしたのに、変わらずウチを背負おうとしてくれるところが嬉しい。

 どうにかしてジャイアントスライムの粘液も、背負った人を含めて弾けるようになりたい。


「じゃあいくぞ」


 ウチを背負ったベアロがビッグスライムに近づいていく。

 ウチよりも大きなビッグスライムの足だけど、ベアロが持つとただの黒い枝に見える。

 ビッグスライムは近づいてきたベアロに向けて溶解液を飛ばすも、サラリと避けられる。

 そして近づいたベアロがビッグスパイダーの足を突き刺したことが腕の動きでわかる。

 結果を確認する前に、ベアロがもう片方の手をビッグスライムに突っ込み、魔石を抜き取った。

 弾く事ができたという事なのはすぐにわかったけど、一言ほしかった。

 いきなりだとびっくりする。


「これがエルのしてることか。慣れたらすごい数のスライムに囲まれても楽しそうだな!」


 絶対にベアロはニヤリと笑っている。

 見ていなくてもわかる。

 周囲を埋め尽くすスライムを前にウチを背負ったベアロが獰猛な笑みを浮かべて、逆にスライムを襲うという想像をしているのだろうか。

 ウチとしてはそんな状況になるのはごめんだが。


「エルを背負えばビッグスライムの魔石を取れるなら、誰か1人がエルと一緒に潜って走り回るのが良さそうか?」

「道中の素材を少なくすれば軽量袋もいらないだろうし、それでいいんじゃないかしら」

「それならエルを送るメンバーで素材を回収して売ればいいだろう。調査の時みたいにな」

「階層主はわたしとガドルフで隙を作り、エルとベアロで強力な一撃を入れる。アンリは魔法で全員のサポート……ありね」

「新階層でどうするかはまだ検討が必要だろうが、道中はそれでいいな」


 ウチとベアロとアンリ抜きで移動方法が決まっていくけど、これに関して異論はない。

 アンリは必要な事があれば発言するし、ウチは運ばれる側なのでおかしいところがなければいい。

 ベアロはどうか知らないけど、聞いてはいるので何か気がつけば言うだろう。

 どこかボケっとしているように見えるけれど、これがベアロだ。


「次はエルのハリセンだ。これは叩くだけだからエル1人で問題ないだろう」

「せやな。見つけるまでが面倒やけど」

「スライムだったら俺たちも似たようなものだぞ。音がほとんどないんだ。戦っている時は溶解液の噴射音や跳ねる音が聞こえるんだがな」


 スライムは呼吸をしていないから呼吸音がない。

 移動する時も基本はゆっくりと這って動くので音がない。

 上から落ちてくる前に湧き出るように出てくる時もだ。

 もっとごぽごぽ泡立つ音が出ていれば探しやすそうだけど、そんな強酸のスライムはもっと危険な場所に生息しているそうだ。


 ・・・いるんやなごぽごぽ泡立つスライム……。泡泡スライムかな?


 スライムについて話しつつ地図に書いていない道を進む。

 今持っている地図は調査依頼で書かれたものの複製で、書かれていない部分を記載して報告すれば報酬が出る。

 1番綺麗に描けるのはアンリだから、地図作成はお任せしている。

 ウチが描いたら線がガタガタになるし、ガドルフとベアロは縮尺がめちゃくちゃになるそうだ。

 キュークスは暇になると余白に落書きするので提出物には向いていない。

 アンリは必要なことを淡々と描き込むだけなので、組合側が欲しがる綺麗なものを納品できる。


「お。スライムがいたぞ。エル」

「行ってくるわ!」


 駆け出しながらハリセンを出す。

 ウチに気づいたスライムも触手を伸ばしてきたけれど、それを無視して突っ込んでハリセンを横に振る。

 スパンと気持ちいい音の後、ビチャビチャとスライムが飛び散る音がして、何か硬いものが跳ね返る音も響いた。

 ハリセンを振り抜いた姿で呆然と目の前を見ると、ウチを呑み込めるほど大きなスライムの体がほとんど残っていなかった。

 しかも、残った部分は魔石を失っているせいで徐々に溶け出し、やがて地面に吸い込まれるように消えてしまう。


「えっと……」

「凄い。スライムの魔力が爆散した。体もそれに引っ張られていた。人とスライムでは魔力の流れが違うから、叩かれた時の衝撃に耐えられなかったのだと推測する」

「そうなんや……あ、魔石おおきに」


 少し興奮したアンリから魔石を受け取る。

 ウチには追えなかったけれど、みんなどこに飛んだのか追う事ができていたようだ。

 身体能力の差に驚きつつも、次はもっと手加減して叩こうと決意する。

 しかし、ウチにできる調整ではあまり効果がなく、何体ものスライムが弾け飛んだ。

 尊い犠牲のおかげでウチもある程度は飛んでいく魔石を追えるようになったけど、みんなのように最後までは無理だ。


「もう諦めてふっとばそうぜ!魔石は拾えばいいんだし、調整するより抜き取った方が早いだろ」

「せやな〜。ベアロの言う通りやわ」


 ゆっくり振っても弾け飛び、片手で振ってもダメだった。

 魔石がどこかに飛んでいくのを防ぎたいだけだから、大人しく手を突っ込んで魔石を抜き取る方法に変える。

 スライムの数が多い時はハリセンで弾け飛ばし、魔石の回収は他の人に任せればいい。

 そう結論が出たので、地図を埋めつつ階層主の部屋へと向かう。

 調査組は復活したジャイアントスライムとの戦闘は行わなかったのか、前に見た通りの姿で鎮座していた。


「どうする?また投げるか?」

「まずはエルのハリセンだ。効かなければ投げることになるだろう」

「その時はベアロの安全策も考えないとダメよ」

「もちろんだ」

「ウチを背負ってジャイアントスライムの攻撃が弾けるかは確認せんでええの?」

「ダメだった時の怪我が酷いからやめておこう。攻撃がもっと大人しければ試せたんだが、あの太さの触手だと防げなかった時に危ない」


 ウチを丸々飲み込めるほどの太さがある触手だ。

 防ぐための盾もないから上手く当てないと怪我をしてしまうだろう。


「確かにそうやな。じゃあハリセン試してくる!」


 みんなを階層主部屋の入り口に置いて、ジャイアントスライムに向かって駆け出す。

 走りながらハリセンを出すと、ジャイアントスライムから触手が伸びてくる。

 以前の戦いで当たっても弾けるのはわかっている。

 でも、今回はハリセンで叩いてみる。

 その方が格好いいから。


「はぁ!」


 ウチとしては格好良く振ったつもりだけど、タイミングが少し早かった。

 ただ、振る速度が遅いおかげでいいタイミングで当てる事ができた。

 触手の先端を横から叩くことになったから、横に飛び散るのはわかる。

 だけど、触手の根元まで弾け飛ぶなんて予想外だ。

 恐らく先端から魔力が横にずれたせいだと思うけど、いきなり開けた視界と降りしきる溶解液の雨には驚く。

 そんな中を気を取り直したウチはジャイアントスライムに向けて走り、迫り来る触手を全てハリセンで叩き返す。

 ジャイアントスライムが少し小さくなったかと感じたぐらいで、ハリセンの届く位置まで来ることができた。


「どっせーい!!」


 振りかぶって全力で叩きつけた。

 バシンと重い音がしたと思ったら、目の前に広い道ができた。

 馬車2台が余裕で通れるほど大きな道の左右にはジャイアントスライムの壁ができている。

 上が凹んで下が出っぱっているので山という表現の方が合っているかもしれないけれど。

 そんな山の右側に魔石が残っていたからか、左側は形を保てず徐々に溶け出してくる。

 溶けるのは魔石を抜き取られたスライムと同じだけど、量が桁違いで溶解液が押し寄せてくる。

 固有魔法がなければ押し流される勢いを見て身震いしながら、ベアロはこれに呑まれたのかと考えてしまい、ゾッとした。


「すぅ〜はぁ〜……よし!いくで!」


 深呼吸して気持ちを落ち着け、残ったジャイアントスライムに向き合う。

 1/3ぐらいになっても、ウチを飲み込めるほど大きなビッグスライムの何倍も大きいジャイアントスライム(1/3)。

 その中をぐるぐると高速で移動している魔石は、いきなり消えた体に戸惑っているようにも見える。

 ウチが深呼吸していても触手が伸びてこないのだ。

 そんなジャイアントスライム(1/3)に向けて、今度は勢いを抑えてハリセンで叩く。

 ビッグスライム分ほど体が飛び散ったけれど、魔石まではまだ遠い。


「ほい!ほい!ほーい!……取ったー!」


 逃げ惑っているように見える魔石のないところを少し力を込めて叩く。

 どんどん削れていく体に成す術もなく追い詰められて、ウチが掴めるところまで来たらハリセンを消して両手で取った。

 それにより残った部分も溶け出して、やがて空っぽの階層主部屋になった。


「1人で倒せたな……」

「そうね……」

「ハリセンのおかげやな!」

「すげぇじゃねぇか!」

「すごい」


 戦いを見ていたガドルフとキュークスは少し呆けていたけど、ベアロとアンリは褒めてくれた。

 素材回収がないから魔石を軽量袋に入れてもらい、魔法陣を使って小迷宮から出る。

 今回の挑戦でどれだけ魔石が取れたかの確認と、今後の挑み方を考えるためだ。


 ・・・まずは綺麗にして荷物を置いてから美味しいもん食べるけどな!話し合いは落ち着いてからでええねん!


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