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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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108/305

ライテからの依頼

 

 獣人組が討伐依頼、ウチとアンリがウサギとニワトリ狩りに清掃の指名依頼を受けてしばらく過ごしていると、組合から呼び出しを受けた。

 いつものように依頼完了報告をしたらハロルドに呼び止められたのだ。

 ちなみにハロルドの左腕に巻かれた封魔の包帯はまだ外れていない。


「ライテからウチへの指名依頼?」

「あぁ。小迷宮伯直々の指名だな」

「内容はスライムの魔石?」

「正解だ。安定供給できるようにしたいらしい」

「ウチだけで決められへんから、ちょっと待ってもらってもええ?」

「すぐに回答する必要はないから、しっかり話し合ってくれ。活動拠点を移す事になるからな」

「わかった」


 その日の夕方、ちょうど帰ってきた獣人組とアンリを交えて、獣の尻尾亭で夕食を摂りながら話し合う。


「俺はいいぞ。迷宮に潜るか周囲の狩り依頼を受けるかは決めてないが」

「わたしもいいわよ。どうせこうなるってわかってたもの」

「俺もいいぞ!そろそろ暑くなるからな!迷宮の中は涼しいらしいし、丁度いい!」

「そうなんか」

「エルは季節のこと知ってるかしら?」

「知ってるで。芽吹き、育み、収穫、休息の4つやろ。育みが暑なって休息が寒なるねん。寒なったら雪降るし」


 芽吹きで草花が芽を出して花開き、育みで大きく育つ。

 収穫で実った物を集めて、休息で農地を休ませる。

 もちろん季節ごとに取れる物もあるので、一概にこの季節通りとは言えないが、古くから伝わるもので、それぞれ90日ずつある。

 今は芽吹きの季節の終わりぐらいで、組合に張り出されていたのは80日ちょっとだったはず。

 最近、徐々に陽が出てる時間が長くなり、気温も上がってきている。

 日付を指定して動くことがないので気にしたことがなかった。


「正解よ。迷宮王国は4つの季節がしっかりと感じられるから、準備さえきちんとしていれば過ごしやすいのよ」

「それに、季節で違いがあると美味いものが増える!そして酒が進むってもんよ!」

「お酒はわからんけど、美味いもん増えるのはええな!」


 芽吹きはベリーやハチミツに山菜、育みは野菜、収穫は麦や木の実やキノコ、休息は芋や根菜に魚とベアロが食べ物の種類を上げていく。

 食べたばかりなのに色々な食べ物が頭に浮かんでしまう。


 ・・・芽吹きはジャムで柔らかいパン、山菜の天ぷらもええなぁ。育みは焼き野菜。収穫はキノコスープに木の実のクッキー。休息は鍋やな。


「エル、よだれ」

「おぉ……アンリさんおおきに。ほんで、いつ移動するん?」

「そうだな……。あと4日で芽吹きが終わる。それに合わせるか」


 ガドルフの提案に反対はなく、4日後に移動することが決まった。

 それを女将さんに伝えると売上から払うと言われていたレシピ代を受け取り、ポコナを呼んでくるから自分で伝えなと言われた。

 せっかく仲良くなれたのにと寂しく思いつつも、自由に色々なものを見るためには、いつか別れることになるのだから仕方ないと納得しているウチもいた。


「どうしたのエルちゃん」

「あと4日でライテに移動することになってん。だからお別れやねん……」

「そっか……寂しくなるけど、エルちゃんに教えてもらった料理を美味しくすることをがんばるよ!」

「おおきに!また何かできたら手紙に書くわ!」

「それだとレシピ代払えるかわからないよ?」

「お友達価格で安くするから大丈夫やで!」

「それなら、楽しみにしてる……。まだ4日あるなら一緒に遊ぼう?」

「指名依頼もないしええで!……ええよね?」


 勝手に予定を決めたら悪いと思い、ガドルフたちに確認する。

 全員問題ないと2日休みをくれた。

 組合への移動連絡はガドルフが行うことになり、その時に指名依頼を受けられなくなることも伝わる。

 移動の準備は大人で行い、育みの季節で使用する服や道具はライテで購入することになった。

 そして翌日、ポコナに連れられて街にある広場にやってきた。

 所々土が見えている背の低い草が生えた広場には、ウチやポコナと同じぐらいの子供や、備え付けられたベンチで日向ぼっこしているおじいちゃんおばあちゃんがいる。


「それじゃあ遊ぼう!」

「ええで!何するん?」

「騎士と盗賊しよ!」

「なにそれ?」

「え?したことないの?えっとね」


 ポコナの説明は簡単だった。

 参加者の2/3が騎士となり残りの1/3が盗賊となる。

 騎士側は宝を用意して自分達の領地内に置き、その間に盗賊は拠点を決めると準備完了。

 宝と拠点は布を使うことが多く、木の上や箱の下に隠すのが定石だ。

 そして宝の奪い合いになるのだが、ここにもルールがある。

 まず、騎士は宝を奪われるまで盗賊を捕まえることも拠点を探すこともできない。

 被害があって初めて動けるからだ。

 そして盗賊は宝を奪うまでは一般人扱いとなるため騎士には捕まらないが、誰か1人でも宝に手をかけた時点で捕まえられてしまう。

 宝が動いたら本格的にスタートで、騎士は盗賊全員を捕 まえるか、宝を取り返すか、盗賊の拠点を押さえると勝利となり、盗賊は宝を拠点に持ち帰れば勝利する。

 騎士は盗賊に背後から触られると暗殺されたということで退場、盗賊は騎士に組み付かれると捕まえられて殺されたということで退場する。

 騎士も盗賊も連携が大事になる頭も使うし体も使う遊びだった。


「できるかな?」

「大丈夫。みんなでやれば楽しいよ!」


 そう言ったポコナは広場の子供を集めて騎士と盗賊に割り振っていく。

 ウチの心配はそこではなく、固有魔法で弾かれないかということなのだが、実際にやってみた結果やはりダメだった。

 騎士で背後から触られる時は、勢いをつけていると弾き、盗賊の時は組み伏せられない圧倒的な盗賊となる。

 その結果。


「親分!これを拠点に!」

「任せとき!」

「させるかー!騎士は数人で囲めー!」


 なぜかウチは盗賊の親分固定になり、仲間の盗賊が取ってきた宝を受け取って拠点に運ぶ役割になった。

 そんなウチを止める方法は3人の騎士で周囲を囲むことで、身体能力のないウチなら頑張れば囲めるのでいい感じにバランス良く遊ぶことができた。

 ウチを警戒しすぎると他の盗賊が拠点に行くし、拠点が狙われた時は布の上に陣取れば奪われないという、ほぼ反則なことことも起きたけど、普段とは違う展開が楽しかったそうだ。

 もちろんウチも楽しんだ。

 走り回った後は男女で分かれて花を摘んだりして、翌日も騎士と盗賊の後はウチが持ってきた魔石転がしで盛り上がった。

 まさかポコナ以外からはずっと親分と呼ばれることになるとは思わなかったけど、楽しかった記念に魔石を1人1個ずつプレゼントした。

 みんなとても喜んでくれて嬉しかった。

 そんな2日を過ごした次の日からは、ガドルフたちとライテへ向かう準備に精を出し、あっという間に出発日を迎えた。


「聞いたぞ嬢ちゃん。ウサギ狩りから親分になったそうじゃないか」

「せやで!ハロルドさんも子分になる?」

「それも悪くねぇな。はっはっは」


 依頼を受けると返答したら、組合がライテまでの馬車を用意してくれることになった。

 費用はライテ迷宮伯持ちで。

 馬車に乗るために組合へ向かうと、開口一番ハロルドに親分と呼ばれていることでからかわれてしまったから、勧誘してみると笑われる。

 噂を聞いた他の請負人たちが「ハロルドさんが入らないなら俺が入ろっかな〜」などと盛り上がる。

 それを尻目に解体でお世話になった人や受付の人に挨拶をして馬車に乗り込み、出発を待つ。

 ハンス金物店のビンスや、アリオス商会のベランには準備を進める中で挨拶をしている。

 レルヒッポは獣王国に向けて出発していたため、ポコナに手紙を預けておいた。

 レルヒッポは都合が合えばライテで再会するだろう。


「アンリさんはサージェさんと挨拶せんの?」


 窓枠から見えるところに見送りはいない。

 ポコナや他の子供たちとは昨日改めて挨拶しているし、女将さんには出る時にお礼を伝えた。

 サージェにも診察やアンリを連れて行く挨拶をするつもりだったのだが、黒い球体の魔物に関して忙しいのか会えなかった。


「いい。請負人は自己責任。一度認めたのだから十分」

「え?もしかしてあれから話してないん?」

「活動時間が違う」


 アンリは普段通り生活していたが、サージェは朝早くに出て夜遅くに帰ってきており、家では寝るだけの生活になっているそうだ。

 黒い球体の魔物や、それの対応するための魔石の算出、古い文献の調査、魔法使い仲間への協力要請などやる事が多岐に渡っている。

 お抱え魔法使いになって落ち着いた生活になるはずだったのにとボヤいていたらしい。


「それに、魔石を送れば十分」

「せやな」


 アンリなりに親孝行の仕方は考えていたようだ。

 迷宮調査の報酬を全て魔石に変えたアンリは、その半分をサージェに渡していて、その日は使い方の話で盛り上がったと聞いている。

 その時にウチと一緒に行きたいと話しているので、別れは済んでいるともいえる。


「出発していいか?」

「ええで。ウチの宝箱もバッチリや」

「豪華な椅子だな!」

「座り心地は良くないけどな!」

「それじゃあライテまでお願いするわ」


 キュークスの合図で馬車が動き出す。

 早朝に街を発つ人たちと同じ流れでライテへ向かう。

 馬車や台車の列に、馬に乗った数人のグループもある。

 乗合馬車や品物を満載した馬車は速度が出ないので、早々に街道の横へとずれて速い馬車や馬に道を譲る。

 ウチらは荷物も少なく、組合が用意した比較的頑丈な馬車だから、他の馬車よりも速度を上げて進む。

 休憩の回数は決まっているけれど、これならライテには夜ではなく日暮れに着くかも知れない。

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