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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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アンリの魔法講座

 

 ハリセンの検証が終わったら、パーティを2つに分けてそれぞれ依頼をこなす。

 ガドルフ、ベアロ、キュークスの獣人組は数日かけて森へ狩りに。

 ウチとアンリは近くの草原でウサギ狩りと、ウチを指名した清掃依頼をこなす。

 ウサギ狩りは二つ名の維持が目的ではなく、ハリセンの実戦投入で、アンリがトドメ役。

 清掃のときは重い物を動かしてもらう補助役だ。

 流石にウサギ狩りで獣人組は不要なので、しっかり稼いでくるように送り出した。


「いい仕事したわ〜」

「ウサギに対して?」

「どっちもやな」


 草原ウサギはハリセンで叩くと吹っ飛び、急激に魔力を失った影響で気絶していた。

 すかさずアンリが首にナイフの刃を入れてトドメを刺し、血抜きしながら次のウサギを探す。

 というのを繰り返した。

 その結果一日で20羽を超える量を組合に納品することができた。

 これだけ集めても生態系に影響しないのだから、魔物はすごいと思う。

 指名依頼は見習いを卒業した日に数件あると受付で呼び止められ、以前指名してくれた人の紹介で依頼が来ていると教えてもらった。

 断る理由もないので快く引き受け、家具や部屋の清掃に勤しんだ。

 固有魔法のおかげでとても綺麗になった部屋を眺めるのはとても気持ちがいいもので、依頼人も確認の際にとても感謝してくれるから、また受けたいと思える。

 そんな日々を過ごしていると、ふと気になったことがあった。


「アンリさんはどういった魔法が使えるん?」

「どういった……。難しい……」


 魔法は魔力を流した形に沿うものになる。

 その場に止めれば球状や四角いものを、動かせば包囲するものを、放てば矢のようなものができる。

 それに属性の魔石を通すことで火の玉や水の玉といった、属性を帯びた魔法になるため、どういった魔法が使えるのかという問いに答えるのは難しい。

 魔法使いによっては得意な魔法もあるようだが、あいにくアンリにはそこまで得意なものはない。

 かといって不得意なものもないため、自分でも何を言えばいいのかわからないそうだ。


「なんでもできるん?」

「なんでもではない。魔力を流せる範囲ならば」

「見えるからわかりやすいんやろなぁ」

「そう」


 放つのも見るのも左目からだけど、普通の目に見える現象と、魔力を見たときでは映る光景が違うので、右目で現象を見つつ内部の魔力の流れを左目で見ていると教えてくれた。

 実際には左目自体が空洞なので、魔力を通したイメージだそうだが、うちに見えるものではないので想像するだけで終わった。

 水自体が流れているのに、その中でさらに流れている魔力なんてイメージできない。


「何かしてほしいことがあるの?」

「この間のハリセン検証の時に出てきた水の玉を大きくしてお湯にできへんかなって」

「大きいお湯……もしかしてお風呂?」

「お風呂あるん?」

「貴族や豪商の家、北にある魔導国にはある。第迷宮や中迷宮のある迷宮都市には公衆浴場があると聞いた。小迷宮はあるところとないところがある。ライテはない」

「ないんかー」


 お風呂はあるところにはある、ということがわかった。

 お風呂がない場合はお湯で拭くか、川で水浴びをするのが通例で、ウアームでは近くに川がないのでお湯で拭くだけになっている。

 なぜお風呂が気になったかというと、水の玉を見た時に頭に思い浮かんだのだ。

 広くて明るい湯船、髪や顔、体を洗うための何か、お湯の出る筒状のものなどが浮かんだけれど、わかるのはお風呂だけだった。


「お風呂に入りたい?」

「入れるん?」

「お湯に浸かるだけなら。大きな樽にお湯を入れるだけでいい」

「たしかに!」


 ウチなら大きな樽でも十分。

 大きさによっては溺れるだろうが。

 それでも、暖かいお湯に浸かれるなら用意することに躊躇いはない。

 レシピ代や魔石代でお金に余裕はあるからだ。


「それに、上手くやればエルでもお風呂のお湯を作れると思う」

「ほんまに?!」

「案しかない」

「全然大丈夫!教えて!」


 アンリの考えはシンプルだった。

 ウチの背中に水の魔石を付けて水を出し、出した水を温めてお湯にするというものだった。

 問題は温める方法なのだが、石を熱して水に入れるか、ウチが水に入って背中に火の魔石を付けるかしか思い浮かばないそうだ。

 少なくとも水に入るのは嫌なので、試しに火の魔石を背中につける事にした。


「どない?水を温められそう?」

「難しい。火力が低い」

「そうかー。じゃあお湯を出す魔道具はないん?それやったら水生みみたいに背中につけるだけでできるやん?」

「その手があった。でも、魔道具を作る方法には詳しくない。ライテに行った時に店で相談。もしかしたら貴族の家用で既にあるかも」

「了解や!」


 アンリならば2つの魔石を使って、水の中に火の魔石を通すことでお湯を作り出せる。

 でも、ウチの背中で試したら、それぞれが個別で出るだけで組み合わせることはできなかった。

 ならばということで、元から組み合わさったものがあればいいのではと魔道具を提案すると、アンリのお墨付きをもらえた。

 アンリは魔法について試すことは好きらしいが、魔道具については魔石さえあれば自分でできるのであまり関心がない。

 そこに関してはウチが担当しようと決めた。


「他に便利な魔法の使い方はないん?」

「便利……。例えば?」

「えっと……こう、水をぐるぐる左右交互に回して洗濯するとか、風で髪を乾かすとか、土で一時的にテーブルセットを作るとか?」


 どれもお洗濯と風で乾かすのはお風呂が頭に浮かんだ時に一緒に浮かんだもので、土のテーブルは屋外での食事がし辛いことへの不満だ。

 ガドルフたちはどっかりと地面に座って食べるし、アンリも特に不満はなさそうだった。

 でも、ウチが外で食べるには体勢の維持が難しい上に、座ると痛い。

 パンとスープだけならなんとか食べられるけど、そこに干し肉が増えたら置く場所も欲しくなる。

 木皿があるけど地面に置いていると取りにくいのだ。

 座れる岩があればとても嬉しいけど、休憩場所に運よくそんなものがあるわけがない。

 木箱があれば出してもらっていたから、今後もそれでいいかもしれない。

 でも、やはり食べづらい事に変わりはなかった。

 洗濯と風で髪を乾かすものは、お風呂が浮かんだ時に引っ張られるように出てきたものだ。

 今手作業でしている洗濯が簡単になればいいし、髪を拭って乾かすよりも風で乾かしたほうが楽だから聞いてみた。


「洗濯は難しい。右回りと左回りを交互にするということは魔力の流れを切り替えないとダメ。風で髪を乾かすのは魔力を緩やかに流せばできそう」

「なるほどなー。複雑な動きは難しいんやな」

「そう。あと、そういう事に魔法を使うのは魔石がもったいない。でも、魔道具ならあるかもしれない」


 魔道具は一つの用途に特化している分、出力や使い勝手をしっかり検討して作られるが、魔法は使用者の魔力制御によるところが大半で、自由度が高い分少ない魔力を流すのは術者の技術次第となる。

 一気に流す方がやりやすいので、自然と戦闘に特化した使い方になり、アンリも色々な攻撃魔法を考えることが楽しく、魔石を使って色々試している。


「テーブルセットは長期間旅をする人向けに小さいのがある」

「おぉ!小さいと持ち運びに便利やん!」

「エルのサイズがあるかどうか」

「今度探そ!」

「わかった。あと、便利なのは外で用を足した時に地面に穴を空けたり埋めたりすること。すぐ思いつくのはそれぐらい」

「あぁ、トイレ」


 トイレは溜めておき、決められた場所に捨てる方式だ。

 消臭用の草と、固形化する粉を入れることで臭いも無くなって持ち運ぶ時に溢れることもなくなるが、量によっては重い。

 街ではそれで対応しているけれど、村や移動中は穴を掘ってそこに捨てているため、限界が近い場合困ることもある。

 馬車の中には入れるための壺を用意することもあるけれど、今のところお世話になっているのは外の穴だ。

 ちなみに迷宮では出して放置したら、少しの時間で消えてなくなる。


「穴を掘るってことは土?」

「土の魔石を通すと土が出る。穴を開けるなら魔力だけか風で吹き飛ばす。水だと泥になる」

「動かすだけとかはできへんの?」

「土に自分の魔力を通すことで動かせるけど、魔力を叩きつけた方が早いし楽」

「そういうもんなんか」


 実習でライテに移動する時に休憩場所で作られていたトイレ用の穴は、全部アンリが空けていたらしい。

 見習いが体をほぐしている間にささっとできるぐらい楽にでき、埋める時に周囲の土を吹き飛ばすか土の魔石を使うそうだ。


 ・・・こういうのも魔道具にあるんやろうか。簡単にできるならウチもほしいわ。背中でできるようにしてもらわなあかんけど。



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