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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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10/305

子爵領都に到着

 スライムについては、全員が起きて朝食を取った後、怒られた。

 ガドルフはあきれ半分の注意だったけれど、キュークスには無茶をするなとしっかり怒られた。

 ちなみに、ベアロはスライムを無傷で倒し、消耗していない魔石を取り出せた事を褒めてくれた。

 今回のことを踏まえてウチの固有魔法を早めに調べたほうがいいということになり、休憩の時にウチの固有魔法を少しだけ調べることになった。


 その結果、やっぱりウチが大丈夫と感じる事では傷つくことはなく、その効果は持っているものや着ているものにも反映されるから壊れることはない。

 正確には攻撃を受けるギリギリのところで影響を受けない空間ができているという、少々分かりづらいものなのだが、近づいてしっかり見ないと隙間はわからない。

 加えてウチが認識していなくても、ウチにとって邪魔になるような事をされると、弾かれることもわかった。

 ウチがスライムに近づいた時や手を突っ込もうとした時に、ガドルフが後ろから掴もうとしても体に触れる事ができなくて、声をかけるしかなかったからだ。

 逆に考えると邪魔や危害を加えようとしない限り、普通に触れるので抱き上げたり手を繋いだりも出来る。


 ・・・全く知らん人に手を繋がれるのは無理で、繋ごうとした人はウチの手に触れられへんかった。あの護衛の人はめっちゃ驚いてたけど固有魔法なら仕方ないと納得してたわ。そんなもんなんや。便利やな固有魔法。


 他には固有魔法の効果はウチにしかなく、仮に手を繋いでいたり抱き上げられていても、一緒にいる人には効果はなかった。

 もしも効果があれば、ウチを背負って戦闘することで、一方的に攻撃できるのではないかと考えていたガドルフは少し残念そうだった。


 ・・・戦闘する人に背負われるウチの身にもなってほしいわ。振り回されるし戦闘近いしで絶対怖いやん!下手したら乙女の恥を晒すことになるわ!


 そんな検証を行いつつ、何日もの移動を経て、開拓村が属している子爵領の領都が目の前に迫るところまできた。

 道中の村は木の柵や、大人の腰ぐらいの高さがある石の壁で囲まれていたけど、領地の中心地ともなると、しっかりとした大人数人分の高い壁がある。

 お昼過ぎにもかかわらず、道の先には開かれた両開きの門が見え、馬車と人の列ができている。


「ここまでくればもう魔物が出ることは稀だ。途中の村でも結界付近は出なかっただろう?近づけないことを知っているからだと言われている」

「へー。じゃあもう護衛は終わりなん?」

「いや、全員が領都に入り、依頼終了のサインをもらうまでは気が抜けないし、何が起こるかわからないから警戒も続ける」

「大変やな〜」


 前に並んでいる全員が領都に入らないとウチらの順番にはならない。

 のんびりと周囲を見回しつつ、道中何度も話し合った今後について再確認する。


「ほんまにしばらくウチの面倒見るん?活動の邪魔にならへんの?」

「大丈夫よエルちゃん。私たちの拠点はここだし、お世話になっている宿もとてもいいところだから。請負人見習いの宿舎より過ごしやすいわよ」

「それに、俺たちの目の届くところにしばらくいてほしいんだ。場合によっては開拓村の話しを聞かせてもらうこともあるからな」

「わかった。しばらくお世話になります」

「任せて。お世話するわ」


 話していたのは、領都についてからウチがどこで生活するかという内容についてだ。

 近隣の請負人組合に農村の子や孤児、商人や請負人に推薦を受けた人がやってくるので、見習い用の宿舎がある。

 ウチはそこで良いと言ったのだが、キュークスがよしとしなかった。

 宿舎は4人1部屋に割り振られたら上等で、普通は20人程が雑魚寝する部屋になる。

 個室や2人部屋などもあるが、職員の寮や仮眠室として使われているので、見習いが使うことはない。

 更に食事や生活費などが見習いとして得た報酬から引かれるので、個人で使うことができるお金がなかなか貯まらない。

 自らの意思で来れる他の見習い志望とは違い、着替えや雑貨などを持っていないウチには生活が厳しいことになると言われている。


 ・・・道中追加でスライムを3匹倒したから、魔石のを売れば結構な額になるとベランから言われてるねんなぁ。まぁ、ウチとしてもここまで一緒に旅したキュークス達の方が気心も知れてるし、見ず知らずの他の子と生活するより楽しいやろ。どこかで恩返しできればええんやけど、稼いだお金で美味しいご飯とかご馳走したいなぁ。今はまだお店も知らんから何もできへんけど。


「中に入ったらどうするん?」

「ベランの商会まで護衛して、そこで解散だ。荷物の整理は商会の人がやるからな。解散したら宿に移動して休憩だな」

「流石にこれだけの期間護衛したからね。数日は休むのよ。エルちゃんも宿に着いたらすぐ寝ちゃうわよ」

「そうなるやろな〜。しばらく馬車には乗りたくないわ」


 馬車に乗っている間はお喋り、休憩の時は固有魔法の検証か休憩という日々は疲れが溜まる。

 請負人や魔物の話を聞いても、見たことがないのでなかなか覚えられないし、毒には気をつけろだとか動きが早いとかばかりだった。


 ・・・教えてくれたことも大事やねんけどな。とりあえず全部気をつけながら観察して、固有魔法で大丈夫か判断して、ダメなら逃げるんや!


「ようこそカルマン子爵領領都ウアームへ」

「こんにちは」

「おや、ベランさん。予定より早いのではありませんか?」

「色々ありまして。後ほど皆さんにも通達があると思います」

「通達があるようなことが?わかりました。ありがとうございます」

「それでは、失礼します」


 話したり、考えている間に門の前まで進んでいた。

 馬車から降りたベランに速度を合わせて進みながら、門番とベランが話をしている。

 特に馬車の中を確認したり、入る人から要件を聞いたりしていないけど、いいのだろうか。

 これでは悪人や危険な物を入れることになる。


「悪事を働いたらそいつが悪いだろ?門番が対処することじゃないぞ」

「え?じゃあ門番の仕事って何なん?」

「門の開閉と外から魔物が来ないか監視、中で何かが起きた時に外へ出さないようにするってところだな」

「悪いことしたら?」

「普通はその場で捕まえるし、逃げたとしたら追いかける。その間に門を閉めるはずだが、閉めた時の出入りがどうなるかは知らないな」

「そうなんや」


 悪人は捕らえられた後事情を聞かれ、程度によっては労働刑や禁固刑、ほとんどの場合は処刑になるそうだ。

 魔物が現れて人が襲われるのに、害を成す人をわざわざ生かしておく必要はなく、陥れられて悪事を働くしかなかった人達が労働刑や禁固刑になる。

 この場合陥れた人は処刑され、財産は被害者や領地が没収するらしい。


「普通に生活していたら問題ないぞ」

「酔って暴れたくらいだと、壊した物の弁償や傷付けた人の治療費を払って、数日牢屋に入れられるだけね。店や人を襲うような普通じゃないことをしない限り大丈夫よ」

「ウチはそんなことせぇへんから大丈夫やな!」


 ・・・お店や人をウチが襲うとかありえへんやろ。もしかしたら子供同士で喧嘩するかもしれへんけど、それで牢屋に入れられることは多分ないはず。お酒は大きくなってからやし。


 門を通った先は、石畳の道に沿って土が剥き出しになっていて、その土の上に石や木でできた建物があり、たまにある脇道は全て土だった。

 馬車が通るための道を石で作り、それ以外は土のままでも問題ないのでこうなったそうだ。

 お金があれば全て石畳にするのだが、子爵領ではそこにお金をかけるよりも、他のところに使う。


「エルさん。ここが商会です」

「おぉー!デカイなー!何売ってるん?」


 ベランのお店は石畳の大通りに面していて、とても大きかった。

 載ってきた馬車が全部入るぐらい広く、3階建て。

 1階と二階が石でできていて、3階が木で作られている。

 1階と2階が店舗で、3階が居住区となっていて、ベランの家族と住み込みの人が何人かで生活しているそうだ。


「私のお店は生活雑貨と旅をするのに使う物を主に取り扱っています。1階が生活雑貨で、2階が旅用品ですね」

「んー?」

「ははは。これだけだとわかりづらいですよね。生活雑貨はお皿やカップなどの日々の生活で使う物の中で、オーダーメイドではない物を取り扱っています。旅用品はうちのお店で基本の必要物が全て揃うといった内容です」

「ほうほう。つまり、さっと揃えたいならここで買って、何かに特化した物が欲しいなら専門のお店に行けばええってこと?」

「そうです。武器や防具、食料や服などはそのお店で、専門的な物ではなく手軽に買いたい場合は私のお店でという棲み分けです」

「なるほど〜」


 専門品ではなく汎用品を多く取り扱っていて、複数のお店を回らずある程度買い揃えることができるのが売りらしい。

 たくさんの商品があるので、物資を運ぶ際に買い集める必要が少なく、お店にほとんどの商品が揃っているため、領主から開拓村への物資輸送を依頼される。

 物資リストの中で取り扱っていない物を追加で手配するだけなので、専門店に比べて手間が少なくないからだ。

 そして、輸送を行うことで周辺の村と交流も生まれるため、どんどん商会の規模が拡大されていき、専門店の商品も少しだけ取り扱い始めたそうだ。


「では、これで依頼は終了です。素材の売却などの手続きがありますので、リーダーの方々は2日後の朝に私宛で来てください。ガドルフさんは別途説明のために来ていただく可能性もありますので、宿を教えて頂いでもいいでしょうか」

「あぁ。獣のしっぽ亭に泊まっている」

「ありがとうございます。それでは、解散です」


 馬車を商会の裏側に移動した後、ベランがサインを書いた依頼書を、護衛の各リーダーが受け取った。

 素材は請負人組合で買い取って貰い、そのお金を後日分配する。

 ガドルフには、領主かその文官に対して開拓村の説明をしてもらう可能性があるため、宿泊する場所を聞いている。

 獣のしっぽ亭は獣人がよく利用する宿らしく、長期依頼で離れている間も部屋を押さえてもらえる所らしい。


 ・・・尻尾がある獣人がしっぽ亭に泊まるのは、なんかおもろいな。名前から獣人が使いそうなお店やとわかるようにしてるんやろうな。


 キュークスに手を引かれて宿に向かうウチの心は、どんな獣人がいるのか楽しみで弾んでいた。


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