プロローグ
2022/3/28 心機一転 投稿開始
-関西にあるとある病院 そのどこかの病室-
開いた窓からそよそよと風が吹いている。
レースのカーテンが揺れているはずだけれど、それを自分の目で見ることができなくなってどれくらい経っただろうか。
物心ついた時から病院で生きてきたウチにとっては、目を閉じるだけで簡単に思い出せる風景ではあるけれど、自分の目で見れないのは寂しい。
・・・けど、それももうしまいやな。
目が開き、話せた頃は「あの葉が落ちたらウチも終わりやな……」なんて病院ジョークを口にしては、兄ちゃん、姉ちゃん、妹から「縁起でもない!」って怒られたこともあった。
それを懐かしく思いながらも、同時に何度も夢見た願望が溢れ出す。
自由に色々なところに行ってみたかった。
美味しいものを食べたかった。
人並みに恋をして家族と仲良く暮らしたかった。
たくさんの人と話したかった。
友達を作って、時には喧嘩したり、仲良くなることもあればそのまま別れるような経験もしたかった。
病気になんてなりたくなかった。
痛いことや苦しいことなんて経験したくなかった。
家族との関係は悪いわけではなかったけど、自分との違いで羨ましくなるのは止められない。
全て飲み込めるようになるにはウチは幼すぎて、最後を悟った時にようやく仕方がないと諦めることができた。
・・・次があれば、いいのにな……。
ウチの目尻を伝う涙を感じた時、窓の向こうに生えている木の、最後の葉が落ちた。




