サーファー イン ザ レイン
揺らめく光に身を任せ、今日も波と遊ぶ。
あの日出逢った彼女はきっと人魚だったのだと思う。
彼女に助けられた俺はただのサーファーで、おとぎ話に出てくるような王子様じゃない。
けれど、あの時見た彼女はまるでお話の中に出てくるお姫様のようで…ふんわりと笑った顔が忘れられなかった。
「どこにいるんだ?もう一度だけでいい。逢いたい…。」
今日も波を待ちながら彼女の姿を探している。
あれから毎日夢に見るんだ。
…あの雨の日。
冷たく体に打ち付ける雨と強くなる風。
良い波を待ち続けて無茶をした俺は突然の高波に飲まれた。
上も下もなくなる程に波は容赦なく俺をいたぶり、自分が今どんな状態かわからぬまま体を引き裂かれそうな痛みで気が遠くなる。
「…あぁ、俺はこのまま死ぬんだろうな。」
己の死を覚悟したその時。
「つかまって…こっちよ。」
細い腕がスルリと伸びて俺を引き上げた。
「ゲホッゲホッ……うっ…はぁっはぁっ。」
俺をボードに掴まらせた彼女はスルスルと波間を抜け海岸まで送り届けてくれた。
「私は岸には上がれないからここまでね。」
そう少し困った顔で言う。
「あ、ありがとう…あの、君は?」
さっきまで死を覚悟していたはずなのに…余りの美しさに俺は目が離せなかった。
「ふふっ…内緒。もう無茶したら駄目よ?次は助けてあげないから。」
冗談ぽく言って彼女はふんわりと笑った。
その瞬間…俺は恋に落ちた。
「それじゃあね。」
ヒラヒラと手を振り彼女は潜った。
「えっ!?ま、待って!」
俺は後を追い、潜る。
しかし、そこに彼女の姿はなく沢山の細かい泡と共に消えてしまったのだった。
微かに聞こえた声。
「またきっと逢いに来て…」
聞き間違いだったのだろうか?
その日から取り憑かれたように俺は彼女を探しているのだった。
その日は突然訪れた。
「今日の波は穏やかだな…。」
暖かい日差しを浴び、波に揺られながら彼女を探しているとポツッポツッと波紋が広がった。
「えっ…雨?」
見上げた空には黒い雲がジワジワと広がり、青空をみるみるうちに隠していった。
あっという間にどしゃ降りになった辺りの様子に既視感を覚えた。
「…来ちゃったのね。」
突然後ろから声がした。
「あ!き、君は!」
驚いた俺はボードから落ちる。
彼女はスルスルッとそばに来て、突然俺に口づけた。
チュッという甘い響きに体から力が抜ける。
次の瞬間…俺の体はシュワシュワと溶けて泡になっていった。
「…これでずっと一緒にいられる。」