中世異世界冒険譚
「はー…来るんじゃなかったかな…来るにしても時間を間違えたなぁ…」
フレイは後悔しながら頭を軽く振った。通路の片隅に座り込んだ彼の淡い金茶色の髪に、遥か高い天井にある小さな明かり取りの窓から差し込む星々のかすかな光が降り注いでいた。
辺りには他に明かりもなく闇に包まれていたが、ひんやりとした石の床の感触が思いがけなく心地よいものだった。
そもそも夕暮れ時に王城の塔に忍び込むなど確かに無謀だったのだ。
小さいとはいえ一国の王の居城だ。その作りは侵入者を惑わせるよう複雑に入り組み、あちらこちらに袋小路が作られ、あたかも巨大迷路のごとくであった。加えてひどく暗い。もともと罪人を閉じ込める為の建物であるから、窓は手の届かぬ位置に小さなものが僅かにあるだけだし、壁の燭台も数メートルおきにポツポツとあるだけだ。
彼は自分の準備不足を悔やんだ。
「姉上からの情報が正しければ、ソイツはこの辺りにいるのだけれど…」
軽く頭を傾げながらフレイは双子の姉フレイアからの手紙を思い出していた。
『親愛なる弟へ
私が宮廷に行儀見習いに上がってから二ヶ月になりますね。父上共々大過なくお過ごしのことと思 います。さて、こちらは万事順調と言いたいところですが、どうも不穏なことが起こっているようです。実は先頃女官たちが噂していたのですが、宮城の東の外れにある塔から怪しい物音がするようなのです。これは素晴らしい好機です。』