表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

珈琲

作者: 清見こうじ

朗読動画を作りました。

https://youtu.be/NZCvO2msTn4

あの人の、こだわり。


飲み物は珈琲、ホットで。


必ず。


真夏でも、アイスコーヒーは頼まない。

冷たいと、味がわからなくなるから。



飲み方は。


まず、ブラックで、一口。

美味しい珈琲なら、二口、三口。


3分の1まで飲む。


一口ですぐ砂糖を入れたなら、あまり美味しくなかったということ。

美味しい珈琲は3分の1まで飲んでから、砂糖をひとさじ入れる。

残り3分の1のところで、ミルクを投入。


一つでもいいけど、できればたっぷり、珈琲よりは少なめに。


ブラックで香りと苦味、砂糖を入れて深い味わいを、ミルクを入れてコクを楽しむ、ということ、らしい。


そうそう、忘れてはいけないのは、出されたら直ぐに一口目を飲むこと。


熱いうちに味わう、それが礼儀。


誰に対して?


「勿論、珈琲によ」


あの人は、当然のように、言っていた。



 ***




「そういう訳で、私はあの人の前ではコーヒーを飲めなくなったのよ」

「どうして?」

「だって、どんなに美味しいコーヒーでも、私、ブラックじゃ無理、苦くて」

「ああ、砂糖3杯は入れてるもんね」

「ミルクをたっぷりは賛成よ。でも、一番失礼になるのが」

「熱いうちに味わう、か。猫舌だもんね、アンタ」


「そう。だから私はあの人と一緒の時には、アイスティーとか、コーヒー以外のものにしてたの。本当はアイスコーヒーが飲みたくても」


「好きなんだね、その人のこと」


「何で?」

「嫌われたくなかったんだろう? コーヒーに失礼なヤツ、なんて思われたくなかったんだ」


「……多分、そうなんだろうなあ」


「それで、結婚するのが面白くないんだ」

「ちょっと違うかな。あんなにこだわっていたくせに、乗り換えたのが腹がたつのよ」

「乗り換えた……って?」


「初めて相手の人に紹介された時ね、アイスコーヒー頼んだの、その人」

「?」

「オマケに、ガムシロもミルクもたっぷり入れて、ガシガシかきまぜてから飲んだのよ」

「……まんま、アンタの飲み方じゃん」


「そうよ! 私が今まで、散々ガマンしてきたことを、ソイツは何の気なしに、当たり前のようにやっているのよ!」


「……わかった。その人がそれを許しているのが、気に入らない訳ね」

「そうよ! 私のガマンは一体何だったの!」


「まあ、同じなんだろうね、アンタと」

「……」

「アイスコーヒーガマンしても一緒に過ごしたかったアンタみたいに、自分のこだわり引っ込めても、その人といたいんだろ」

「正論聞きたい訳じゃないー!」


「まあまあ。もう時間だろ? 式場まで送って行くから」

「……うん、ありがと」


「……実は俺、熱いもの、大好きなんだ、甘いものは苦手で」


「え?」

「でも、アンタが旨そうにケーキとかパフェ食べるとこ見ると、結構楽しくてさ、幸せそうで、嬉しくて」

「ゴメン」

「謝らないで。再確認しただけ。俺、考えてたより、アンタが好きみたいだなって」


「今度は私が付き合うよ。鍋でも焼肉でも。……冷ましてから食べるかも知れないけど」

「楽しみにしてます。ほら、早く。大好きな従姉の結婚式だろ」

「うん!」




 ブーケ貰えたらいいな、というのはちょっと図々しい気がしたので、心の中でそっと呟いた。




 同時に、どうしたら猫舌を治せるか、本気で考えてしまった。




 あの人の時よりも、もっと、ずっと、真剣に。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ