18世紀〜19世紀のドレスの変遷や舞踏会に関する備忘録
ここのところ、ヒストリカル風といいますか、近世〜近代ヨーロッパ風貴族社会物を書く上で、参考になりそうなものを探してうろうろしていたので、適宜まとめてちょっと公開してみます。
人生1作目の「不穏なデビュタント」で、現代のデビュタントの動画や画像を参考に、肩のない(ベアトップの)マーメイドラインのドレスが流行ってるとか書いてしまったのですが、公開してから「肩がないドレスって19世紀にもあったの?」と調べたら普通にないっぽい!
※オフショルダーのドレスは19世紀前半の「ド・ブロイ公爵夫人の肖像画」(アングル)など、普通にあります(三羽高明先生のコメントを頂戴して、2021.9.6追記)
ついでにいうと、マーメイド型も20世紀に入ってからなのかなぁ……となってしまいました。
アバウトヨーロッパだからまあいいかとも思うのですが、そもそもドレス=ワンピースと思い込んでいたとか、色々誤解していたことに気がついたのです。
連載中の2作目も、普段は20世紀後半以降?の制服を着ている謎の貴族学院(共学・魔法アリ)が舞台なので、そもそも考証をする必要があるのかと言われたら、ほぼほぼなかったりもするのですが、こんな調べ物をしてみると、舞踏会シーンへのモチベが高まるかも!ということで…
作者素人につき、色々誤解しているかもしれません。
「そこは違うやろ」とか「こんなんもあるで」とかありましたら、感想欄にいただけますと幸いです。
=舞踏会シーン=
■Luchino Visconti’s 1963 classic “Il Gattopardo” (The Leopard)
https://www.youtube.com/watch?v=qb0IlSBFVt0
ヴィスコンティの映画「山猫」の舞踏会シーンのハイライト。
原作はランペドゥーザ(公爵)が自分の祖先(公爵)の生涯を描いた歴史小説、監督がミラノ公爵家の傍流出身(父親は公爵)、めちゃめちゃ長い舞踏会シーン(1時間くらいあったはず)のエキストラの1/3がシチリア貴族の末裔で、これより貴族度が高い作品は二度と撮れない予感です。
自然光とロウソクの灯りで撮影したので、暑くてみんな扇で扇ぎまくってます。
そのへん含めて、かなり忠実に再現されてるはず(たぶん)。
舞台はイタリア統一運動の後半くらいのシチリアで、だいたい1860年代。
本編は大昔に観たのでうろ覚えですが、シチリアなので相当暑いのに、首元まできっちり留めた長袖のドレスをしっかり着込んで外に出ていたりして、当時の人々&女優さん達乙…ってなった記憶があります。
この動画の2:13あたりからちょいちょい映される茶髪で半泣きの子(画面右側)は公爵令嬢なのですが、結婚したかった従兄弟(冒頭に出てくる細い口ひげ生やしてる人)を、白いドレスでワルツを踊る子(金持ちの平民の娘)にかっさらわれてもうたという、いわば悪役令嬢ポジの人なのですが、なんとがっつり縦ロール!
彼女が平民娘をいじめるわけではないですが、この動画で見直した時に、そうか悪役令嬢=縦ロールは「山猫」からなのか!と一瞬テンションが上がりました。
たぶん絶対違いますが…
それにしても電気がない時代、どうやって縦ロール作ってたんですかね…
コテを炭火などで熱して、濡れ布巾などで温度調節して巻く、くらいしか思いつかないよと調べてみたら、日本の大正時代では火箸を使い、欧米だと、火ばさみみたいな専用器具をガスとか火で炙って使っていた模様です。
そんなん、ちょっと油断したら、顔とか首とか火傷待ったなしじゃないですか!!
魔法アリヨーロッパ風世界に女性主人公が異世界転生した作品で、主人公がドライヤーを自作するものを2作くらい拝見した記憶がありますが、コテの方も是非なんとかしていただければと思います。
■舞踏会が終わるところからラストシーン
"Quando ti deciderai a darmi un appuntamento meno effimero", dal Gattopardo di Luchino Visconti
https://www.youtube.com/watch?v=jra9IGmoh6s
手をつないでみんなで跳ね回ってるのはなんなんですかね。
他の映画でも見たことがあるような気がする…
■イタリア版予告編
Il gattopardo - Trailer hq ita
https://www.youtube.com/watch?v=_22bCHI_Qvk
=衣装全般=
■京都服飾文化研究財団
https://www.kci.or.jp/archives/digital_archives/
京都服飾文化研究財団 is GOD…と言いたくなる画像アーカイブ。
18世紀以降の洋服の移り変わりが現物写真でわかるという凄いサイト。
あれこれ見ていると時間が溶けまくるので注意です。
紳士物もありますし、コルセットやクリノリン単体の写真もある上、素材も書いてあるので、めっちゃイメージしやすくなります。
ざっくりした流れをまとめると…
□18世紀(ロココ風)の「ローブ・ア・ラ・フランセーズ」(ベルばら的な大きく膨らませたドレス)
-----フランス革命(1789-1799)で、社会・思想が変化-----
□18世紀末〜19世紀初頭(新古典主義):ギリシャ風への回帰。ハイウエスト、すとんとしたシルエットのエンパイアドレス
※ナポレオン時代(1804-1814)。皇妃ジョゼフィーヌの肖像画とかが典型例。
□19世紀なかば〜19世紀末(ヴィクトリア朝時代):再びスカートのシルエットが膨張。後期は後ろだけ膨らませるバッスルスタイルが流行?
みたいな感じでいいんでしょうか。
フランス革命以前にもナチュラル回帰の動きはあったとかとか色々あるようですが。
=着付け=
■Getting Dressed as Christine Daaé — GRWM Victorian Masquerade Dress | Phantom of the Opera
https://www.youtube.com/watch?v=2qv9i0_5Us8
タイトルの通り、「オペラ座の怪人」のヒロイン、クリスティーヌ・ダーエの舞踏会用ドレスをどうやって着ているかというものです。
フープスカート(クリノリンの別名)の上に、コットンのペチコート、シルクのペチコート(見せ裾つき)、スカートと重ねてます。
着る度に、鏡見ながらとんとんして位置を直して着付けていくのがかわいい。
とても素敵な衣装ですが、ボリュームもすごいし、総重量はどれくらいなのかといらんことも気になってしまう…
十二単は20kgくらい!と聞いたことがありますが、このドレスも少なくとも10kgはありそうです。
足元はほぼ見えないので、少しからげるにしても階段とかやばいし、ドアを開けて通るのも大変そうです。
ちなみに「オペラ座の怪人」は1880年のパリが舞台という設定です。
■60 years of Victorian fashions
https://www.youtube.com/watch?v=UgryswsZ1dQ
タイトルの通り、ヴィクトリア朝時代(1837-1901)のファッションの移り変わり。
一口にヴィクトリア朝時代といっても、60年もありますし、シルエットがかなり変わっています。
服の構造(というかスカートの膨らませ方)も変化してて面白い。
最初はそこまで膨らませてなかったのが中期にめっちゃ膨らみ、後ろだけ膨らませる感じになってくようです。
この動画、ちょっとお出かけ着、舞踏会用とか色んな服が出てくるのもよいかんじ。
上下別のと、上下一体(ワンピース型)のとありますが、上下一体型は一人じゃ自力で脱ぎ着するのは無理な気しかしない…
■Getting dressed in the 18th century
https://www.youtube.com/watch?v=UpnwWP3fOSA
服は貴族女性のデイドレス(日中に着る普段着)くらいの感じですかね。
ロココ風の正装だと、横に張り出したパニエが入ったはずです。
※パニエ(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%8B%E3%82%A8
18世紀のドレス(というかロココ風)は、見た目はすごくお姫様っぽくてかわいいのですが、「ストマッカー」(胸当て?)が謎すぎです。
着る度にピンで止めるのですが、安全ピンでもないようだし、うっかり抜けたりしなかったんでしょうか。
舞踏会で事故ってめくれたりすると辛すぎです。
万一、異世界転生したら、こんなのを着たり着付けたりしない立場になりたいと思います。
お掃除メイドは家宝の壺とか絶対割りそうなので、庭掃除係あたりを希望…
それにしてもポケットがめちゃくちゃデカいです。
スカートを膨らませるためでもあるかもですが、ひょっとしたらバッグを持つ習慣がなかったんでしょうか。
あと、コルセットの下、前身頃の中心に入れてる謎の棒はなんなんだ…姿勢矯正とか?
■Getting dressed in the 18th century - working woman
https://www.youtube.com/watch?v=nUmO7rBMdoU
18世紀イギリスの労働者階級の女性の着付け。
労働者階級でも、外からは見えないけどストマッカー的なものをやっぱりつけてて、針で留めてる…
和服でいうと着物の帯板くらいの感覚で入れてるんでしょうかね。
庭掃除係でも女性なら針から逃れられないようです。
なんということ…(震える軽い先端恐怖持ち)
異世界転生するなら、ストマッカーがなくなる19世紀風世界希望です!!!
それにしても、18世紀も19世紀もひたすら紐で結んでで、和服みたいですね。
ボタンやホックもありますけど、重ね着しまくるので下に着るものにボタンやホックをつけるとどうしてもゴロゴロしてしまうし、紐の方が調節しやすいからでしょうか。
ファスナーが発明されたのは19世紀終わりの1895年ですが、服飾技術を決定的に変えた発明なんだと改めて思いました。
あと、「スカートを膨らませる物体」の名称が色々あって不可解…
・ベルチュガダン(16世紀スペイン):これがフランスに渡ってパニエになる。ベラスケスの「ラス・メニーナス」(1656)では当時5歳のマルガリータ王女もめっちゃ横に張り出したドレスを着ています。
・パニエ(18世紀くらいから?):クジラのヒゲなどの枠を縫い込んだ布製のハリボテ的なアレ
・クリノリン(英:19世紀半ば〜):クジラのヒゲや針金などを輪にしてカゴ状にしたり、テープで留めたもの。テープの方が畳みやすそう。
・バッスル(英:19世紀後半):後ろだけ膨らませるタイプ。シャーロック・ホームズとか鹿鳴館のアレ。
・フープスカート(英:英語版Wikipediaの解説だと、スカートを膨らませるもの全般という意味の英語なのかな…)
もしフランス風の人名・地名が多い作品であれば、パニエと表記してもいいのかなと思いますが、現代のパニエはバレエのチュチュ的な、張りの強い生地を重ねてスカートをふくらませるものになっているので、枠が入ってますということを伝えたい場合はクリノリン、特に後ろだけ膨らませるならバッスルが通りがよいのかなと思います。
また参考になりそうなことを見つけたら、適宜追記していきたいと思います。
=おまけ・18世紀男性の着付け=
■Getting Dressed in the 18th Century - Men
https://www.youtube.com/watch?v=fpS4B5oMhgo
18世紀の男性衣装は、シャツやジャケット(ジュストコール)が華やかなところは好きなのですが、カツラと薄手の膝下白ストッキングが個人的にはしっくりこないというかなんというか。
19世紀前半くらいだと、前身頃が短いテールコート+織模様のベスト(ジレ)とか華やかさを残しつつ、下がに今と同じく長ズボンになります。
個人的にはヒストリカル系を書くなら、政体や技術レベルはとにかく、衣装は19世紀あたりをベースにするのが楽なのかなぁと思います。
実際、ファッションは19世紀あたりの感じで書かれている作品が多いですしね。
西洋文化史ガチ勢の、ローブ・ア・ラ・フランセーズやジュストコールがバンバン出てくる作品も読みたいです。
=追記=
■イギリス名門貴族「ブリジャートン家」のドレスを専門家が検証!| VOGUE JAPAN
19世紀初頭のイギリスを舞台にしたネトフリドラマの衣装解説動画。
いわゆるエンパイアドレス(シュミーズドレス)が流行ってる時期です。
男女ともに、下着からバッグなど小物の解説もがっつりあるので、おすすめです!
https://www.youtube.com/watch?v=f1tioGrVMaY
=さらに追記=
■「古代や中世の「服」は自動車並みの価格で取引されていた」
https://gigazine.net/news/20220213-ancient-clothe-cost/
西暦301年のローマ帝国における標準的なチュニックの価格は、労働者の6~12日間分の収入に相当→現代のアメリカの賃金に換算すると標準的なチュニックは500ドル~1500ドル(約5万8000円~17万4000円)で、高級なチュニックは約7000ドル~2万1000ドル(約81万1000円~243万円)」
ヘンリー8世(16世紀前半)の使用人のシャツの価格が14~21ペンス→使用人の3日~10日分の収入に相当→現代の通貨に換算すると240ドル~800ドル(約2万7000円~約9万3000円)に相当
なにしろ
1771年にアークライトが水力紡績機を発明するまで、全部手紡ぎ
1785年にカーライトが機械式織機(力織機)を発明するまで、全部手織り
ですもんね…
ミシンについては、1755年、1790年に発明はされたのですが量産に至らず、19世紀に入ってからとのことです(ウィキペディア情報)
中世から近世にかけて、どんどんドレスが巨大化していったのは、わかりやすく「富」を見せるためだったんだなぁと改めて思いました!
ご覧いただきありがとうございました!