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プロローグ 魔境の森にて

新作です。よろしければどうぞ

 



 12歳になるとソウルスキルと呼ばれる特別なスキルを手にすることができる。それは魂に刻まれるスキルで、これまでの経験や才能によりその人に合った形で与えられる。

 同じ『剣豪』というスキルでも、一般的に修行して得られるスキルよりソウルスキルの『剣豪』の方が遥かに優れている。


 その差は歴然で、ソウルスキル持ちを越えるためには血の滲むような努力が必要だ。

 その分野の第一線で活躍している天才と呼ばれる者は、皆その分野に関係するソウルスキルを持っている。悲しいかな、これが現実だ。


 つまり、ソウルスキルは才能みたいなもんだ。

 生まれ持った素質だけではなく、それまで積み上げた努力も加味するだけ、才能のない者としてはありがたいことだ。



 僕と幼馴染みは冒険者に憧れた。

 理由は覚えていないけど、きっとカッコいいとかお金が稼げるからだろう。

 小さな村出身の僕たちでも名誉や富を得ることができる。それが冒険者。もちろん死という大きなリスクもある。


 だから僕たちは努力した。

 冒険者に合ったソウルスキルを得れば、そのリスクを大きく減らすことができるから。

 仲の良い姉妹は魔法を、活発な少年はあらゆる武器の使い方を、内気な少年はたくさんの本を読んだ。

 僕はみんなの修行に付き合った。全部を覚えようとした。


 一緒に特訓や修行をして、気づいた。

 どうやら僕の幼馴染みには才能があるらしい。

 それはソウルスキルを見ても明らかだった。



 才能がないのは、僕一人だった。




 僕のソウルスキルは『悪食』。

 食いしん坊な僕にピッタリの、何でも食べることができる能力。

 冒険者にも他の職業にも不向きな能力。




 それでもこうして一緒に冒険を続けられるのは、僕が幼馴染みだからだろう。

 それは嬉しくもあり、同時に申し訳ない気持ちもあった。









「よし、大分地図も埋まってきたね。今日はもう帰ろうか」



 地図を広げた錬金術師アルケミーは文句を言う人物がいた。スミスだ。



「え~、もっと奥まで行こうぜ。まだ素材も全然集まってねえよ」



 鍛冶師の彼は武器を作るための素材が欲しいようだ。

 だけど、僕らがここに来た理由はモンスターの狩りでも素材集めでもない。



「私たちは、あんたのわがままに付き合う気なんてないから。進みたいなら一人で、どうぞ」



 ディメルルは聞き分けのない子どもを諫める口調で、スミスに杖を突きつける。

 収集癖がある彼女も我慢しているのだ。このパーティー最年長者として、良きお手本になろうとしている。

 自分が欲しい物は道中ちゃっかり異次元に保管しているが、それは魔法使いである彼女の能力だから、僕は何も言わない。


 すると、言い負かされたスミスは僕に助けを求めた。



「グラトン、お前はわかるよな。なっ」


「今回はみんなの意見に従おうよ。次、次来たときは思う存分集めればいいから」


「イヤだ、今がいい。今じゃないといけないの」



 腰にしがみついてイヤイヤと叫ぶスミス。振りほどこうにも力が違う。

 苦戦している僕を助けたのは、ディメルルの妹で、付与魔術師のエンチャルトだった。

 彼女は自分よりも大きいスミスミを、片手で軽々持ち上げる。彼女特注の筋力強化が付与された装備のおかげだろう。



「グラトンから離れてください。それにここは人類三大厄災の内のひとつ、魔境の森ですよ。臆病になりすぎる位が、ちょうどいいんです。ねっ、グラトン」


「ああ。そうだね、うんその通りだよ。ここは危ない場所だから、あまりふざけたら駄目だよスミス」



 魔境の森。

 その深層ではお伽噺(とぎばなし)にでてくる伝説上のモンスターが跋扈(ばっこ)しているとされている。とても危険な場所なのだ。

 僕たちがいる場所は、表層と中層の間ぐらいなのでそんな化け物が現れる心配はないが、用心するに越したことはない。


 スミスもそれを理解しているのか、それ以上駄々をこねることはなかった。



「納得したなら、帰るとしよう。グラトンさんの言う通り、長居は禁物だからね」



 アルケミーの言う通り、僕らは帰還することにした。

 来た道を帰る途中、空気が変わった。生き物の気配が辺りから感じない。風も静かで、森から音が消えたような錯覚に陥る。

 違和感を覚えたのか、スミスは神妙な顔つきで辺りを見渡す。



「……空か」



 彼がそう言うと、僕らの頭上を影が通りすぎる。

 通りすぎた影がもう一度僕らを太陽の光を阻んだとき、その姿を捉える。

 真紅(しんく)の鱗で覆われた巨体に漆黒の2本の角。鋭い鉤爪(かぎづめ)と力強い大きな瞳、ドラゴンだ。額に刻まれた7本の柱、それが意味することは目の前の存在が七属性の中の火を司る火竜であることだ。

 火竜は息を大きく吸う動作を見せる。僕は咄嗟に叫ぶ。



「ルル、バリア!!」

「ああ!!」



 愛称を呼ばれたディメルルは眼前に魔法障壁を張る。

 その直後、爆音と衝撃が僕らを襲った。火竜のブレスが明確な殺意を持って放たれた。

 ルルの張ったバリアは何とかブレスを防ぐことに成功したが、衝撃を相殺することはできなかった。

 踏ん張れなかった僕とアルケミーは風圧により、吹き飛ばされる。



「くっ、どうなってるんだい。こんな場所で、火竜が出るなんて聞いてないよ」



 受け身をとりながらアルケミーは愚痴を溢す。

 僕も風と土の初級魔法で、風で衝撃を殺し、土で足場を作ることで体勢を立て直す。

 その間、スミスとエンチャルトは火竜に接近して攻撃を加えていたが、硬い鱗に阻まれて思った通りのダメージを与えれていないようだ。

 火竜はドラゴンの中でも上位の竜の名を冠する。その中でも、飛びっきり好戦的だが、優れた知性もある。

 一国を滅ぼしたことで世間では怒れる竜と呼ばれているが、それだって亡国の王が火竜の卵を盗んだのが発端だ。

 火竜のテリトリーに入ったわけでもない。火竜は移動していた、理由はわからないが、命の危機だということはわかる。



「グラトンちゃん、アルケミー飛びます。近くに」



 ディメルルは即座に転移魔法を唱える。

 彼女の専門は次元に干渉する魔法だ。高位な魔法で使い手は片手で数えるほど、彼女はその内の一人だ。

 発動までに時間を要するが、それはスミスとエンチャルトが稼いでくれる。


 僕は急いで彼女のもとへ向かおうとするが、見えない壁によって阻まれる。



「まさか……」



 僕は他の道からディメルルのもとへ向かおうとするが、四方に囲まれた見えない壁によって邪魔をされる。

 羽を生やした手のひらサイズの女の子が、僕の周りでクスクス笑っている。



「このタイミングで妖精の悪戯かよ」



 人をからかうことが大好きな妖精は、時たま悪戯を仕掛けてくることがある。大半は実害なく、妖精が飽きるまで付き合ってあげれば満足して帰ってくれる。

 普段なら喜んで遊んであげるが、今は一分一秒を争う危険な状況。そんな暇はない。



「力ずくで行かせて貰うよ」



 僕は腰についた短剣を見えない壁に突き立てる。

 短剣によって生じたエネルギーにより、甲高い音をたてて壁は破壊される。短剣もその役割を終えて砕け散る。

 念のためとエンチャルトに貰った付与魔術つきの短剣が役にたった。一度きりの使い捨てだが、その破壊力は折り紙つきさ。


 僕が走る間も、頭の周りを妖精がくるくる翔んでいる。

 正直妖精は嫌いではないが、この状況でも悪戯を止めない彼女らにうんざりする人の気持ちも少しわかる。

 泥にされた足場を飛び越え、迫り来る木の根から逃げるように僕は走る。


 ぶよんぶよんお腹が揺れる。

 それを見て面白そうに笑う妖精。



「グラトンちゃん早く」



 ディメルルの声。転移魔法の準備はできたらしい。

 後は僕があそこに行けば、スミスとエンチャルトも戦線から離脱できる。

 いくら二人が強くたって、火竜相手にそう長く持たない。

 だから僕は走る。こう見えて、運動は得意だ。走るのだって自信はある。


 けれど、僕がいなければ皆は。そう考えてしまう。

 最近特にそう思う回数が多くなった。

 また僕が足を引っ張っている。

 みんなにしか出来ない役割があるのに、僕は僕にしか出来ない役割なんてない。

 器用貧乏、役立たず。広く浅くでやってきたけど、みんなを見ていると自信を失う。

 優しさに甘える自分に腹が立つ。

 このパーティーの仲間だと胸を張って言える自分になりたい。その一心で頑張ってきたけど、もうダメなのかな。


 僕は首を横に振る。弱音は自分を弱くする。臆病にさせる。どんな時でも、心は強く持て僕。

 弱い心に鞭を打って、僕は前を向く。



「なっ!?」



 妖精の顔が大きく見える。前方不注意ぶつかる間近。

 僕は咄嗟に足の向きを横にして、土の初級魔法で土を盛ってブレーキをかける。

 すんでのところで間に合った。



「グラトンさん足元!!」



 アルケミーの叫び声。

 そこで僕はようやく気づく。まだ、悪戯は終わっていないことに。

 足元には馴染みのある魔方陣。ディメルルがよく使う、転移の魔方陣だ。

 僕は声をあげる暇もなく、飛ばされた。



 最後に聞こえたのは妖精の笑い声だった。





一読ありがとうございます


毎日18時投稿を目指して頑張りたいと思います。


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