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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【駅】ホラー2020

最終電車と幽霊

作者: 鷹野 進


よくあること。





「お客さーん。起きてくださーい」


 午前零時十三分。

 駅のホームに設置された自動販売機の前に、金髪の若者が座りこんでいた。


「起きてくださーい。上りも下りも、最終電車は行っちゃいましたよ」


 声をかければ、とろんとした焦点が合っていない目。むせ返るアルコール臭。


「駅を閉めるんで、出てもらっていいですか」

「……ああー? うん、うん」


 若者がふらふらと立ち上がる。千鳥足で、出口の階段へと向かう。


「転ばないでくださいねー」

「……ああー? うん、うん」

「首の骨折っても知りませんからねー」

「……ああー? うん、うん」


 階段の手すりに掴まって、ずるずると下っていく。どうか、行き倒れませんように。ゲロるなら、駅の外の道でお願いします。


「さーて。もういないかな」


 ワイシャツの襟を摘まんで、風を送る。

 八月の夜は暑い。

 晴天続きで湿度が高い。シャツは半袖だが、白手袋が蒸れる。暑い。早くシャワーを浴びたい。


 周囲を見渡す。

 ホームの端。


 電燈の光が届かない、古びたベンチに人影があった。


 スーツを着た男性のようだ。

 ぴくりとも動かない。


「もうひと働きかー」

 ぼやきながら近づく。酔っ払いかな。完全に寝ちゃっているのかな。


「お客さーん……」

 ふと、嫌な予感がした。

 客はぴくりとも動かない。


 歩を止める。

 違和感。


 ベンチに座っている、スーツ姿の男。

 その足が、ない。


「うっわ。来たよ、出たよ」


 いつか経験すると思っていた。日付も変わった深夜のホーム。八月の熱帯夜。

 ぴくりとも動かない、スーツの男。


 幽霊。


 ぴちょん、と滴が落ちる。

 足がない代わりに、濡れている。ベンチの下に水たまりができていた。


「お客さーん……」

 声を掛けても無反応。いや、返事されても困るけど。


「幽霊さーん……?」

 ぴちょん、ぴちょん。

 赤い水滴がアスファルトに落ちる。


「成仏してくださーい」

 手を合わせながら、ベンチに近づく。

 確か、般若心経だったよな。田舎のばあちゃんに暗記させられたの。利くのかな。


「カンジザイボサツ、ギョウジンハンニャハラミッタジ」

 スーツ姿の男の幽霊は動かない。

 ぴちょん、と水滴。ない足の部分から滴っている。


「シキフイクウ、クウフイシキ……」

 湿気に混じる、金臭さ。


「うん?」


 ベンチの手前で気づいた。赤い液体。

 ぴくりとも動かない体は、明確に輪郭を持っている。


 幽霊じゃない。

 むっと立ち上る血の臭い。


 両脚を切り取られた男の死体がベンチに置かれていた。




『最終列車と幽霊』



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― 新着の感想 ―
[一言] これがよくあることだったら怖いですね。 幽霊より人間のほうが怖いと言ったものですが、死体はもっと怖い。 どっちにして成仏してくださいってなりますね。
2020/08/28 17:35 退会済み
管理
[一言]  幽霊の方がよかったかも……と読後に思いました。  どちらにしても『お経』は間違ってなかったですね笑  上手い!と感じた作品でした。良い作品をありがとうございます。
[良い点] 怖っ……! ぴちょん、という平仮名が、深夜の静けさの中にその音だけが聞こえてくるようで何故だかとっても怖い。 前書きに、よくあること、って書かれているけれど、いや、ないないって、読後に思わ…
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