【コント】スケーターボーイ
駅前。
ツッコミが舞台中央に立っている。
ツッコミ「なんだよ、待ちに待ったダブルデートだっつーのに。誰も来てねぇじゃん。まずは(ボケの名前)に電話してみよ。ピポパ……」
スケートボードを滑らせ、ツッコミからの着信音を響かせながら、ボケが下手からやってくる。
ツッコミは、タンクトップにショートパンツという出で立ちで、サングラスを身につけている。
ツッコミの前を通り抜けるボケ。
ツッコミ「なんだよ、全然出ねぇじゃん。さては寝てんな。うし、このまま鳴らし続けてやる」
今度は上手から、ツッコミからの着信音を響かせやって来るボケ。
ツッコミの前を通り過ぎる。
ツッコミ「(携帯を切って)ダメだ、全然出ねぇ。どうすんだよ、もう映画始まっちゃうじゃんかよぉ……」
下手からやって来て、ツッコミの背後に近づくボケ。
ボケ「ヘロー」
ツッコミ「うわ!」
ボケ「ヘロヘロー。ホワイ? ホワイノーティスミー?」
ツッコミ「……え? あ、あの、どちら様ですか?」
ボケ「(サングラスを取り)イッツミー!」
ツッコミ「お、お前だったのかよ! 何やってんだよ、んな格好で!」
ボケ「アイウォントゥビケイムアメリカン」
ツッコミ「は?」
ボケ「アイウォントゥビケイムアメリカン!」
ツッコミ「え?」
ボケ「ドゥユハバドリィ?」
ツッコミ「え? ゆ、夢があるかって、聞いてんの?」
ボケ「イエース」
ツッコミ「特に、ないけど……」
ボケ「オーウ! ボアリン! ツマラナイジンセイ、フーッ!」
ツッコミ「うるせぇよ」
ボケ「バット! アイハバ、ドリィンム! アイウォントゥビケイム―――」
ツッコミ「うるせぇな、それはもういいよ!」
ボケ「オーウ! ソーリーソーリー」
ツッコミ「なんなんだよお前、さっきからずーっとうるせぇな! 見た目もやってることも全っ部やかましい! いい加減にしねぇとな、しっかりめに殴るぞ!」
ボケ「ごめんなさい、やめます」
ツッコミ「おう、わかればいいんだ」
ボケ「あのですね、これには、深い深い訳がありまして……」
ツッコミ「うるせぇ、深いかどうか決めるのは俺だ」
ボケ「そうですよね。あの、実はですね? 昨晩、ゆみこちゃんから電話があって……」
ツッコミ「ゆみこちゃんって、お前の彼女の?」
ボケ「うん、そう」
ツッコミ「で? そのゆみこちゃんがどうしたんだよ?」
ボケ「実は―――」
ツッコミ「ああ、フラれたのか?」
ボケ「ドキ!」
ツッコミ「そんで、ゆみこちゃんにはもう新しい彼氏がいて、そいつがアメリカ人とか、せいぜんそんなことだろ?」
ボケ「そ、その通りです……『ワイルドなアメリカの風に吹かれてしまって、もうあの人にメロメロ。さようなら』と、言われましたあぁぁああ」
ツッコミ「それで、そんな格好してんのか」
ボケ「はい、そうです……」
ツッコミ「バカかお前は!」
ボケ「うぅっ!」
ツッコミ「上辺だけアメリカ人気取ったって、なんの意味もねぇだろ」
ボケ「ううう!」
ツッコミ「いいか? 俺に言わせりゃな、お前のいいとこもわからない子なんて、こっちから願い下げだっつーんだよ」」
ボケ「い、いいところ……? 例えば、どんなところだよ?」
ツッコミ「もちろんすぐには出てこない」
ボケ「うわあああ!」
ツッコミ「とにかく! お前がそんなことする必要なんてまったくない。お前はお前のままで十分なんだ。確かにお前はバカだ。だけど、いいやつだ」
ボケ「(相方の名前)……」
ツッコミ「よし。今日のデートはやめにしよう」
ボケ「え」
ツッコミ「こんな状態のお前をほっとけないだろ? 二人でカラオケでも行って、ワーッと盛り上がろうぜ?」
ボケ「(相方の名前)……あり、ありがとう!」
ツッコミ「いいってことよ、俺とお前の仲だろ? あすかちゃんもわかってくれるさ」
ボケ「なんだか悪いな」
ツッコミ「大丈夫だ、早速連絡してみるよ。あれ、ちょうどあすかちゃんから電話だ」
電話に出るツッコミ。
ツッコミ「あ、あすかちゃん? ごめん、今日のデートなんだけど……え? 行けなくなった? え、なんで―――ぐ、『偶然出会ったアメリカ人に肩を押されて、恋の沼に落ちてしまった? もうどうにも止まらないから……別れて、ください』? え、ちょ、あすかちゃん? あすかちゃん!」
電話切れる。ボケとツッコミ、視線を交わす。
暗転。
明転。
明転前と同じ格好をしたボケと、サングラスをかけ、スケートボードを抱えたツッコミが、肩を組んで立っている。
かすかに揺れている二人の肩。