閻魔庁はパンク寸前(貝人)
閻魔大王は増え過ぎた魂の転生先の選び方を思案していた。生前、善行を行い徳が高い人間はより良き人生を送れるよう輪廻の輪に戻し転生させる、これは非常に簡単で楽な作業だ。
だが生前罪を犯した人間は、犯した罪に合わせた地獄に送り魂を浄化した後に輪廻の輪に戻し転生させるのだ。この工程がある為、地獄は転生待ちの魂で飽和状態になりパンク寸前になっていた。
「はあ〜何か良い案はないかねえ。これじゃあ裁ききれないよ。一度罪を犯した魂って何故か再犯するんだよねえ。何か良い案はないかなあ」
「閻魔様、進言しても宜しいでしょうか?」
「司命君何か良い案ある? 連日長蛇の列でさあ、ここはテーマパークかよって言いたくなるんだよねえ。そしたらワシミッ○ーかな? 」
司命と言われた痩せ型の男はニヤリと笑い
「いえ、精々ドブネズミ役かと。現世のクイズ番組を参考に、ルーレットで決めてはいかがでしょうか? ルーレット盤を作成し、当たりが出た物に転生させるのです」
「ドブネズミってきつい事言うなあ。司命君さあそれだと救いがなくない? クレーム来ちゃうんじゃない?」
「きつい事? はて何の事やら。ルーレットの中に一つ人間に転生し幸福な人生を送れる場所を作って置くのです、当たれば救われますまあ当たればですがね」
醜悪な笑みを浮かべる司命
「司命よ! 人の命はそんな簡単に扱って良い物ではないぞ! 我等が何故亡者達の記録を行なっているか忘れたか!」
閻魔大王の横に控えていた恰幅の良い男、司録が怒り出す。
「いやーぶっちゃけ、現世の犯罪が多様化し過ぎて罪の読み上げが異常に面倒くさくて。司録さんも言ってたじゃないですが、マジ腱鞘炎がヤバい、労災でないかなって」
「えっ閻魔様違いますぞ、私は決してブラック企業だなんて思っていませんからね!」
「ああ〜ごめんね、ブラック企業だよね。二人共いつも苦労かけちゃってるよねえ。先ずは生前、第一級の罪を犯した亡者で試してみよう。上手く行けば採用で」
「あの閻魔様? 他の十王様達が怒りませんかね?」
「内密にやろう、バレたらワシまた怒られちゃうから。この前なんて針山地獄で24時間耐久正座だよ? ワシ痔だから本当にきつくてさ」
「十王様方はしっかりしていますからね。では閻魔様、私は地下の一室を借りてルーレット場にして来ますんで、司録さんは一級の罪人連れて来て下さいね〜」
地下室に走り去って行く司命
「あっおい! 閻魔様私は、警官殺しの男を連れてまいりますので、先にモニター室へ」
「わかったよ。ありがとうね、ワシ何だか閻魔やって初めて、ワクワクしてきたよ」
♢地下室
「おい! 何だ此処は⁉︎ 俺をどうするつもりだ! ぶっ殺すぞ! 」
鎖に繋がれた男、彼は生前警官を殺し、更には逃走中に民間人を殺した地獄でも一級の罪人である。
一級の罪人だけあって肝が座ってるなあと閻魔はモニターを眺めながら感心していた。
「君地獄にいるのに元気だねえ。このルーレットを良く見てごらん。君の転生先が書いてある、どれになるかはお楽しみの運次第だよ」
「はあ? ルーレットだあ、猿、ゴリラ、髪の毛(田中さんの最後の一本)、猿、ゴリラ(同性にしか好かれない)、猿、人間っておい! 人間一個しかねえじゃねえか! しかも田中の髪の毛って何だおい! 説明しろ!」
「人間が一つ入ってるだけでも泣いて喜んで感謝して欲しいんだけど? 素晴らしい救いじゃない?」
「大半が猿かゴリラじゃねえか!」
「君、猿顔だから良いかなと思って」
「てってめえ! 喧嘩売ってんのか! 糞鎖を離しやがれ!」
「あー怖い怖い猿山の猿だね君。因みに髪の毛一本だって人間だよ? 田中さんのオマケみたいなもんだし、田中さん髪はないけど社長だよ? 」
「ふざけんな! 絶対ぶっ殺してる!」
男は顔を真っ赤にしながら司録に向かい唾を吐きながら吠えまくっていた。
「閻魔様もモニター越しに見ているんだからさ、少しはその薄汚い口を慎めよ」
司命がパチンと指を鳴らすと、鎖は生き物の様に動き彼の口まで塞いでしまう。
「むう! うう! むー!(殺す! 殺してやる!)」
「さあ、ルーレットの時間だ。何が当たるかは運次第。ルーレットスタート!」
司命が高らかに宣言すると、ルーレットが回り始める。
「ストップ宣言は君にさせてあげよう、さあ自分の運命を掴み取るんだ!」
「(もうだめだ、賽は投げられちまったこうなったら人間を引き当てるしかねえ!! )」
「くっそおお、人間、人間、人間、人間、人間、人間」
男は食い入る様にルーレットを見つめる。
「ストップだ!」
男がストップを宣言し、ルーレットがゆっくりと動きを止める、それと同時に辺りが暗くなりルーレットが見えなくなる。
「さー! 君の転生先は何とラッキーゴリラ(同性にしかもてない)だ! いやーレアなゴリラになれて良かったじゃないか」
辺りが明るくなり、男はルーレットが示した場所を見ると確かにゴリラの場所が点滅している。
「何がラッキーだ! 人間ですらないじゃねえか!チクショオオオ、ゴリラに犯されるなんていやだああああ」
男の絶叫が響く
「はいはーい、負け惜しみ乙〜ではゴリラとして頑張ってねえ」
司命は凶悪な笑みを浮かべながら手を振り、ゴリラを見送っている。
「これ、ワシ人選間違えたんじゃないかな、司録君胃薬ある?」