陥れられた精霊士、加護精霊と共に村を出る
短編書いてみました。
「アルノア君。協議の結果、君をこの村から追放する事になった」
「えっと…… 状況が全く読めないのですが、どう言う事でしょうか?」
「あれだけの事を計画しておいてしらばっくれるとはな……」
いつも通り、村の神殿内部にある精霊の祠の清掃と魔力のお供え、祀られている自然の精霊リーネの話し相手をしていた。
その時に珍しく村長からの呼び出しを受けた僕は、その事を不思議に思いながら彼の家について行き、とある部屋に入る。
すると、前村長や現長老と言った村の重鎮を始め、同期の精霊士や他の村民代表と言った総勢30人の人たちが、とある7人の男を縛り上げて尋問していた。
その尋問されていた内の1人、ラゴルと名乗る男は僕を見るなりこう言い始めた。
「済まんなぁ、我が友でリーダーのアルノア。お前の考えた現村長の暗殺計画、漏れちまったよ……」
どういう訳か、僕は知らぬ間に村長暗殺を計画したリーダーと言う事にさせられていたみたいで、村長から珍しく呼び出されたのも僕を問い詰める為だったようだ。
ただ、僕としてはそんな計画を考えた事など無いので、その為の仲間を集めたり準備を整えたりもしていない。
いったい何故こんな事になっているのかが分からないが、このままとんでもない汚名を着せられてしまうのを回避する為、反論する。
「え!? いや、僕そんな計画考えた事なんか無いです。それに、ラゴルさんでしたっけ? 貴方と会ったことなんて無いので友達ではありませんし、リーダーでもありません。今日が初対面です」
「そうか、アルノア。この期に及んでまだしらばっくれるか。お前がワシを暗殺しようとした者たちのリーダーだと言うことはもう確定している。証拠もあるんだぞ」
そう言って村長は、僕にとって見覚えのある物を目の前に置いた。
それは、数日前に自身の不注意によって落としてしまった、今は亡き父の形見の腕輪だった。
「何故これがここに……」
「こやつらを警備が捕らえ、尋問していた時にラゴルが『もう1人、この計画の首謀者が居るんだ……』と言って渡してきた物がそれだ。お前の父の形見だった」
思わず僕は周りを見回しながら、必死に弁明した。
そして、同期の精霊士たちの方を見た時にその中の1人、いつも何かと突っかかって来て暴力や暴言を吐いてくるバルティがほくそ笑んでいたのを見た。
きっとアイツが僕を嵌めたのだろうが、いかんせんアイツがやったと言う証拠が1つもない。
どちらにせよ、やってもいない事で嵌めて来るような人が居る村から出ていくのは決定事項だが、せめて汚名を晴らしてから出ていきたい。
さてどうするかと考えていると、轟音を立てて家の入り口の壁ごと扉が吹き飛んで行き、そこから水色を更に薄くしたような髪と金色の瞳を持った、僕と同じ位の女の子が止めようとしてすがり付く村人を引きずりながら入って来た。
「何で無実のノアにぃを、唯一の話し相手を奪おうとするの! 私は知ってるんだからね! バルティって奴が拾った腕輪使って陥れようと画策してたのも、それに精霊士と村長も一緒に乗っかって居たのも!」
「その声はリーネ!? 遂に実体化出来たんだね!」
「うん! ノアにぃの供えてくれた魔力のお陰で私もこの通り、遂に実体化出来るようになったの!」
まさか、実体化出来るようになったしたリーネが来るとは思っていなかった僕は少し驚いた。
それにしてもバルティが画策したこの出来事に、同期の精霊士や村長までもが乗っかっていたとリーネは言っていたが、どういう事なのだろうか。
「ねえリーネ。バルティが僕を陥れるのに、同期の精霊士や村長も乗っかってたってどういう事?」
「それはね……」
リーネによると、同期の精霊士たちは逆らう事によるバルティのむごい暴力を恐れて自主的に、村長は国に対して納める税金を誤魔化して私服を肥やしていた事を、偶然知った僕に報告されたことによる制裁を受けた恨みからだと言う。
(税金を誤魔化しをした上にそれがバレたら逆恨み…… 駄目だこの村長。てか今さら思ったけど、そんな問題抱えてる生徒を追い出さない精霊学園も駄目じゃん)
そんな事を思っていると、村長がこの場に乱入してきたリーネに対して驚き、叫びながら言葉を発する。
「そんなバカな! 全てを見られていたなんて……と言うか召喚無しで精霊が実体化だと? そんな事があり得るのか、バルティ!」
「……普通では考えられねぇ。恐らくアルノアの野郎は『精霊実体化を使った後に従属魔法でも使って無理やり――」
バルティが何かを全て言い切る前に、リーネがすかさず横槍を入れる。
「それ違うよ? さっきも言ったけど、ノアにぃが魔力を毎日少しずつお供えしてくれたの。それによって私の中で魔力が生成出来るようになった事に伴って実体化出来るようになったと言う訳」
精霊たちの力の源である『精霊力』では実体化が不可能で、彼ら彼女ら以外の魔力を持つ者による『召喚』と言う形で魔力を一時的に貰う事でのみ実体化が可能と言うのが一般的だ。
バルティの言ったような魔法で精霊を無理やり実体化させる事も出来るが、それだと負担が掛かって消滅してしまうことがある。
今まではそう教わっていたが、とある日にリーネから魔力を少しずつ上手く供えれば精霊でも魔力を生成出来るようになり、実体化を精霊自身の意思で出来るようになることを知らされた。
そこから1ヶ月もの間彼女の頼みもあって、加減を間違えないように気をつけながら魔力を供えていた。
そして、その努力が今やっと実ったと言う事実に僕は心の中で歓喜に打ち震えていると……
「本当はね、こんな村早々に見切りをつけて出ていくつもりだったの。でもノアにぃがこの村で暮らしている以上、暮らしにくくなったら主にあんたたちのせいで困ることになるって思ったから仕方なく加護を与えてた」
一呼吸おいて更にリーネが続ける。
「ただそれは、私がこの世に生を受けてから今までで1番の間違いだった! この村が豊かになり、食料だってお金だって沢山得られるようになった。なのに何でノアにぃの分をよってたかって取ろうとするの? 何で悪く言うの? それだけに飽きたらず、挙げ句の果てに虚偽の罪で全財産を奪って追放するとか何でなの!」
内に秘めた思いを思い切りぶちまけた後、落ち着きを取り戻したリーネは村長たちに対して宣告する。
「ふぅ……ノアにぃを追い出すと言うのなら、私も一緒に出ていきます。もうこの村に加護を与えに戻る事は無いでしょう。それでもこの土地なら普通の生活を送れるくらいの自然はあるので後は自分たちの力で頑張ってください。では、さようなら」
そう言い終わった後、僕の方に振り向いてこう言ってきた。
「ノアにぃ、早く行こう!」
そう言ってリーネは足早にこの場を去る。
「ちょっと待ってよリーネ!」
僕もリーネの後を追い、この村を去ることにした。
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